面会交流を拒否したいが、可能なのだろうか……。
「子どもが父親に会うのを嫌がる」
「再婚したので、子どもと新しい父親との関係を大切にしたい」
「元夫のモラハラで離婚したので、接点を持ちたくない」
さまざまな事情で、元配偶者と子どもとの面会交流を拒否したい場合があると思います。
面会交流は、子どもの健全な成長にとって大切なものなので、親権者の一存で拒否することはできません。
しかし、子どもにとってよくないと認められる場合には、拒否できることもあります。
面会交流を拒否する場合、一方的な意思で「会わせない」という対応をとったのでは、元配偶者との間で深刻なトラブルに発展する恐れがあり、注意したいところです。
そこで今回は、
・どのような場合に面会交流を拒否できるのか
・面会交流を拒否するリスク
・面会交流を拒否する方法
について解説していきます。
また、元配偶者との関係性を修復する方法や、子どもに適切なサポートを提供する方法についても触れていきます。
「子どもを元配偶者と会わせたくない」「会わせたいけれど子どもが父親に会うのを嫌がる」「離婚した夫とはもう接点を持ちたくない」といった状況でお困りの方にとって、本記事が示す情報が有益なものとなることを願っております。
目次
1、面会交流は拒否できる?|面会交流について
まずは、面会交流を拒否できるのかどうかという点について、具体的にご説明します。
その前に、そもそも面会交流とはどのようのものなのかについて確認しておきましょう。
(1)面会交流とは
未成年の子供がいる夫婦が離婚するときには、どちらかを子供の親権者に決めなければなりません。
親権者にならなかった方の元配偶者が、子供と継続的に会って親子の交流を図ることを「面会交流」といいます。
離婚して親権がなくなった方の親も、子供との親子関係は一生続きます。
人にもよりますが、離婚後も「子供に会いたい」「子供の成長を見たい」「子育てに参加したい」と考えるのは親として当然のことです。
このような親の願いを実現するのが「面会交流権」であり、民法にも定められている権利です。
第766条
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
面会交流権は親が持つ権利ではありますが、民法第766条にも書かれているように、「子の利益を最も優先して」行使しなければなりません。
つまり、権利とはいっても親が自由に行使できるものではなく、子供の健全な成長のために適切に行使しなければならないということを念頭に置いておく必要があります。
(2)面会交流は原則拒否できない
面会交流は、原則として拒否することはできません。
なぜなら、子供はできる限り両親が揃った状態で育てられることが望ましいと考えられるからです。
子供にとっては、両親が離婚しても2人とも親であることに変わりはありません。
離婚後、子供が父親と離れて暮らすことになったとしても、定期的に父親に会って愛情を受けることは、子供の健全な成長にとって大切なことです。
ただ、場合によっては面会交流をすることによって、かえって子供の健全な成長が阻害されてしまうことも注意しなければなりません。
そのような正当な理由がある場合には、面会交流を拒否することができます。
2、面会交流を拒否できるケース
次に、どのような場合に面会交流を拒否できるのかについて、詳しく説明します。
面会交流を拒否できるケースは、ひとことで言うと、「面会交流を認めることが子供の福祉に反する場合」です。
子供の福祉に反する場合というのは「子の利益」に反する場合のことを意味します。
具体的には、子供の健全な成長のためによくないと判断される場合です。
どのような観点から子供の福祉に反するかどうかを判断するのかというと、家庭裁判所では主に次の7点が重視されています。
- 子供の生活環境に対する影響
- 親権者による養育(監護)に対する影響
- 親権者の意見
- 子供の意見
- 両親が離婚した経緯
- 離婚後の両親の状況
- 同居していない親に関する問題点
以上の7点のなかには、面会交流が子供の生活に及ぼす影響が考慮されるのはもちろんのこと、親に及ぼす影響も考慮されている点もあります。
特に、同居している方の親(親権者)の状態によって、精神的に未成熟な子供の成長に影響が及ぶと考えられるためです。
面会交流を拒否できるかどうかは、個別具体的に事案において、上記の7点を総合的に考慮した上で判断することになります。
具体例として、面会交流を拒否できるケースでよくあるのは次のような場合です。
(1)面会交流の内容を守らない
両親の間で取り決めた面会交流の内容を相手方が守らず、無理な要求をしてくるような場合は、面会交流を拒否できます。
例えば、次のようなケースです。
- 面会交流の約束をしていない日なのに、勝手に突然会いに来る
- 毎週土日には子供を自分の家に泊まらせようとする
- 子供との同居を迫る
以上のように、子供の都合を考えずに面会交流権を行使することは許されることではありませんので、面会交流の拒否が許されます。
(2)子供が面会交流を拒否している
子供が面会交流を拒否しているときにも、場合によっては面会交流の拒否が可能です。
面会交流は子供の福祉を図るためのものである以上、子供が拒否するものを強制するわけにはいきません。
しかし、単に子供が面会交流を嫌がっているというだけでは、面会交流の拒否が必ずしも認められるわけではないことに注意が必要です。
最新の判例でも、単に子供が面会交流を嫌がっているだけでは、面会交流の拒否が認められなかった事例があります。
子供の意見は尊重されるものの、15歳未満の幼い子供の場合は、単に気分だけで「会いたくない」と言うだけの場合もあるのです。
また、本当は会いたいのに、同居する親(親権者)の気持ちを察して「会いたくない」と言って本心を隠していることも考えられます。
子供が面会交流を嫌がる場合には、子供の年齢や背景事情などを総合的に考慮して、真意を慎重に探りましょう。
そのうえで、子供の福祉に反すると判断される場合には、面会交流を拒否できます。
おおむね15歳以上の子供の場合には、基本的に子供の意見のみで判断してかまいません。15歳以上になると、自己の成長にとって何が望ましいのかを自分で判断できる能力が備わっていると考えられるからです。
(3)面会交流によって子供の発育に悪影響がある
面会交流させることによって子供の発育に悪影響がある場合は、子供の福祉に反することが明らかですので、面会交流を拒否できます。
よくあるケースは、面会交流の際に相手方が子供に対して親権者の悪口ばかり言ったり、子供の教育によくない場所に連れて行ったりするような場合です。
子供に犯罪的な行為や危険な行為をさせるような場合にも、面会交流を拒否すべきです。
相手方が重度のアルコール依存症やギャンブル依存症の場合にも、子供の福祉に反するといえるので面会交流の拒否が認められます。
ただ、これらのリスクを持つ相手方にも面会交流権はあることを忘れないでください。
リスクのある相手方であっても、子供への悪影響を排除できる場合には、面会交流を認めるべき場合もあります。
例えば、面会交流の際に適切な第三者を立ち会わせるなどの対応をとれる場合です。
(4)子供を虐待する・連れ去る可能性がある
子供を虐待したり、連れ去ったりする可能性がある場合にも、基本的に子供の福祉に反します。
その可能性が具体的に考えられる場合には、面会交流を拒否できます。
面会交流の際に虐待や連れ去りが行われるおそれがある場合はもちろん、離婚前に相手方が子供を虐待していたことも面会交流を拒否できる理由です。
ただし、過去に虐待の事実があったからといっても、今後の面会交流を一切拒否できるとは限りません。
相手方の変化によっては、面会交流を認めることが子供の福祉にかなうと判断されるようになることもあります。
それでも心配なときは、(3)のケースと同様に、適切な第三者の立ち会いの下に面会交流を実施させるとよいでしょう。
(5)子供が親権者の再婚相手を親として慕っている
親権者が再婚すると、通常は再婚相手方と子供との間で新たな親子関係を築いていくことになります。
再婚後の家庭で子供が平穏に暮らしており、再婚相手を実の親として慕っているということも多いでしょう。
このような場合に面会交流をさせると、子供が混乱してしまい、精神的負担となってしまうおそれがあります。
子供に精神的負担のリスクがあれば、子供の福祉に資するとはいえないため、面会交流の拒否が可能です。
ただし、あくまでも面会交流を認めることが子供の健全な成長にどのような影響を及ぼすかを慎重に考慮して判断する必要があります。
子供自身は元の親にも会いたがっているのに、再婚相手方に配慮して面会交流を認めないということは許されません。
3、面会交流を拒否できないケース
一方で、面会交流を拒否できないのはどのようなケースなのでしょうか。
ここまで説明したように、面会交流を拒否できるのは、相手方に会わせることが子供の福祉に反する場合でした。
ということは、相手方に会わせても子供の福祉に反しない場合には、面会交流を拒否することは認められないことになります。
親の都合によるもので、子供と直接関係のない理由が考えられます。具体的には、以下のような場合です。
(1)養育費を払っていない
養育費を支払うことは、面会交流実施の条件ではありません。
そのため、相手方が養育費を支払わないからといって面会交流を拒否することはできません。
逆にいえば、他の正当な理由で面会交流を拒否している場合に、相手方がそれを理由に養育費の支払いを拒むことも許されません。
養育費の支払いと面会交流をさせるかどうかは、全く別の問題として考える必要があります。
(2)面会相手方が有責配偶者だった
両親がどのような原因で離婚したのかは、子供には直接関係のないことです。
そのため、相手方が有責配偶者であったとしても、面会交流を拒否することはできません。
相手方の不倫やモラハラ、浪費などによって離婚した場合でも、相手方には自分の子供と面会交流をする権利があります。
面会交流の拒否が許されるのは、あくまでもそのような相手方と面会交流をさせることによって子供の福祉に反するような具体的なおそれが認められる場合のみです。
ご自身が有責配偶者であった場合にも、面会交流が子供の福祉に反する具体的なおそれがある場合には、面会交流を拒否することができます。
どちらが有責配偶者であったかということも、面会交流とは全く別の問題です。
(3)面会相手方が親権者にモラハラをする
離婚後も、元夫婦が面会交流などの用件で連絡を取り合う際に、相手方が親権者に暴言を吐くなどのモラハラをするケースが考えられます。
しかし、当事者間のモラハラも基本的には子供には直接関係のないことであり、両親の間でのモラハラがあるだけでは面会交流を拒否することはできません。
両親の間でモラハラがある場合でも、特に両親が激しく対立しているような場合には、面会交流に対して親権者自身の精神的負担が大きいといえます。
モラハラが原因で親権者の精神が不安定になってしまうことで、子供の養育に悪影響を及ぼすことも考えられます。
また、相手方が親権者を傷つける場面を子供が見聞きすることで、子供の精神状態に悪影響を及ぼすこともあるでしょう。
モラハラが原因で子供の福祉に反する程度に影響が大きいと判断される場合には、面会交流を拒否することも許されます。
4、一方的に面会交流を拒否した場合のリスク
ここまで、面会交流は正当な理由がなければ拒否できないことを説明してきました。
では、正当な理由がないにもかかわらず、一方的に面会交流を拒否した場合にはどのようなリスクがあるのでしょうか。
一方的な拒否は、相手方の面会交流権を不当に侵害するという点で違法となり、相手方から以下のような訴えを起こされる可能性があります。
(1)履行勧告
「履行勧告」とは、調停や審判で面会交流が認められている場合に、その内容を守らない当事者に対して家庭裁判所から指導や説得が行われることです。
相手方から履行勧告の申し立てが行われると、家庭裁判所から「面会交流を実施するように」との連絡が来ます。
もっとも、履行勧告は強制的なものではないので、応じなくてもペナルティがあるわけではありません。
(2)強制執行
履行勧告を無視していると、相手方から強制執行を申し立てられる可能性があります。
もっとも、強制執行とはいっても、子供が強制的に連れ出されて相手方と会わせられるわけではありません。
面会交流に応じなければ金銭の支払いを命じられるという形で、面会交流が強制されるのです。
このような強制執行のことを「間接強制」といいます。
支払いを命じられる金額は、収入やその他の事情を考慮して家庭裁判所が決めます。
面会交流の拒否1回につき、5万円~10万円程度が相場的です。
裁判所の決定ですので、子の金銭も支払わない場合には給料などの財産が差し押さえられるおそれがあります。
(3)損害賠償請求
一方的に面会交流を拒否することは、相手方の面会交流権を不当に侵害する不法行為であり、約束を守らない債務不履行です。
そのため、相手方から不法行為あるいは債務不履行に基づく損害賠償として、慰謝料を請求されるおそれもあります。
裁判例でも、このような損害賠償請求が認められた事例がいくつもあります。
慰謝料の相場は数十万円程度ですが、事情によってはさらに高額の慰謝料に支払いを命じられることもあるので注意しましょう。
5、面会交流を拒否するための方法
一方的に面会交流を拒否することには大きなリスクがありますので、拒否するとしても正しい方法をとる必要があります。
ここでは、面会交流を拒否するための正しい方法をご紹介します。
(1)話し合い
まずは、相手方と納得するまで話し合うことが大切です。
なぜ面会交流を拒否しなければならないのかという理由をしっかりと伝えて、相手方の理解を求めることです。
話し合いの結果、相手方が問題点を認識して改善し、拒否する正当な理由がなくなった場合は、面会交流をさせる方向で話し合う必要があります。
(2)面会交流調停
当事者だけで話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所へ「面会交流調停」を申し立てることになります。
面会交流調停は、面会を求めるためだけでなく、面会の拒絶や制限を求めるためにも申し立てることが可能です。
調停では、専門的な知見を有する調停委員2名が間に入って、話し合いを進めます。
ケースによっては、家庭裁判所の調査官が双方の家庭訪問や身辺調査、子供との面談などによって詳細な調査をします。
調査した事実に基づいて、子供の福祉を第一に考えて話し合いが進められるので、適切な解決が期待できるでしょう。
(3)面会交流審判
あくまでも調停は話し合いの手続きですので、解決に至らない場合もあります。
調停で話し合いがまとまらない場合は調停不成立となり、審判の手続きへ移行します。
審判では、調査官による調査結果や、当事者などの意見を踏まえて審判官(裁判官)が面会交流を認めるかどうかの判断と、認める場合には面会の方法を決定します。
子供の福祉を第一に考えた決定が行われますが、必ずしもあなたの希望どおりの内容になるとは限らないことにご注意ください。
6、面会交流の拒否を検討中なら弁護士に相談しましょう
正当な理由があれば、面会交流を拒否することは可能です。
しかし、正当な理由があるかどうかを判断するにはさまざまな事情を考慮する必要があり、専門家でなければ適切に判断するのは難しいでしょう。
面会交流を拒否したいとお考えの場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
以下のように、弁護士に相談すれば専門的なアドバイスが得られますし、弁護士に依頼すれば安心して相手方との対応が可能になります。
(1)面会交流を拒否できるか適切に判断してくれる
面会交流を拒否できる正当な理由があるかどうかについて、弁護士が専門家としての見地から適切に判断してくれます。
ご自身の考えている理由が面会交流を拒否できる理由に該当するかがわかりますので、リスクを気にせず自信を持って対応できるようになるでしょう。
(2)相手方方とのやり取りで代理人となってくれる
面会交流を拒否する場合、相手方と話し合いをしなければなりません。
離婚し相手方との話し合いはただでさえ気が重いものですが、相手方がモラハラ気味だったり、嫌な別れ方をしたりした場合、できれば直接話したくないという場合も多いことでしょう。
どのようなケースでも、弁護士に依頼すれば弁護士が代理人として相手方と話し合ってくれます。
相手方と直接やりとりする必要がなくなるので、精神的負担が軽くなります。
(3)面会交流調停や審判などでプロの観点から主張してくれる
面会交流調停や審判は、家庭裁判所が中立公平な立場で進める手続きですが、前提となるのは当事者の主張です。
ご自身で対応する場合、裁判所でご自身の言い分を漏れなく、説得的に話すことはなかなか難しいものです。
また、弁護士は代理人として調停や審判にも出頭します。
あなたの正当な言い分を専門家としての立場で十分に主張してくれるので、手続きを有利に進めることが期待できます。
面会交流の拒否に関するQ&A
Q1.面会交流は拒否できる?
面会交流は、原則として拒否することはできません。
なぜなら、子供はできる限り両親が揃った状態で育てられることが望ましいと考えられるからです。
Q2.面会交流を拒否できるケースは?
面会交流を拒否できるケースは、ひとことで言うと、「面会交流を認めることが子供の福祉に反する場合」です。
子供の福祉に反する場合というのは「子の利益」に反する場合のことを意味します。
具体的には、子供の健全な成長のためによくないと判断される場合です。
Q3.面会交流を拒否するための方法は?
- 話し合い
- 面会交流調停
- 面会交流審判
まとめ
今回は、面会交流を拒否できるかどうかについて解説しました。
面会交流は、応じるにせよ拒否するにせよ、子供の心に重要な影響を与える可能性があります。
そのため、親同士の「会いたい」「会わせたくない」といった感情は横に置いて、子供のためにどうするのがベストなのかを話し合って決めるべきです。
とはいえ、どちらかが感情的になっていると適切に話し合うのが難しいことも否定できません。
面会交流の問題でお困りのときは、離婚問題に強い弁護士に相談してみましょう。
豊富な経験に基づいて、適切な解決方法が見つかるはずです。