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【内部通報制度】内部通報する方法と通報すべき内容とは

内部通報

会社で内部通報をしたい。
しかし、会社にバレるのではないか、本人にバレてしまうのではないか、通報したら防止されてしまうのではないか、と様々な不安があるのではないでしょうか。

内部通報をするには、様々な注意点があります。

今回は、

  • 内部通報の仕方
  • 通報したら制裁を受けるのか

について弁護士が分かりやすく解説いたします。

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1、内部通報制度とは

内部通報とは、企業などの組織内で社会的な倫理違反やコンプライアンス違反の発生またはそのおそれがあると知った人が、そのことを組織内部または組織の指定した窓口に通報することを言います。

(1)内部告発との違い

会社組織等で定められた窓口ではなく、行政機関やマスコミなど外部の機関等に通報する場合を「内部告発」と呼んで「内部通報」と分ける場合もありますが、ここでは、会社組織内の窓口や外部機関への通報も含めて解説します。

このような外部への通報(告発)も、後述のとおり、一定の要件で公益通報者保護法の保護対象になります。

(2)制度の趣旨

①制度の趣旨

会社組織内のコンプライアンス違反行為や不祥事等による被害を未然に防いだり、被害の拡散を最小限に食い止めたりするのが狙いです。

②導入の現状

相次ぐ企業不祥事やコンプライアンスに対する社会的関心の高まりを受け、内部通報制度を導入する企業・団体が増えています。
消費者庁の平成28年度調査では、内部通報制度を「導入している」事業者は全体の46.3%、従業員1,000人を超える事業者では9割超が「導入している」と報告されています。

(3)根拠法はあるのか?

上記のとおり、「内部通報制度」設置する企業も増えてきましたが、実は会社に設置を義務付ける法律はありません。
内部通報自体は、労働者などにより自然発生的に生まれたものと考えて良いでしょう。

しかし、労働者が内部通報をしたことを理由として、解雇や減給等の不利益な取扱いを受けることがあってはなりません。

そこで、2004年に公益通報者保護法が定められ、主に、内部通報者(公益通報者)に対する不利益な扱い(解雇、契約打切り、降格、減給、退職金の減額・没収、給与上の差別、訓告、自宅待機命令、退職の強要、専ら雑務に従事させることなど)を無効、禁止とすることについて定められています。

さらに、同法を受けて消費者庁で「民間事業者向けガイドライン」*が公表され、内部通報の運用指針などが示されています。

*正式名称:「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」

①公益通報者保護法とは

公益通報者保護法は、労働者が、公益のために通報を行っても解雇等の不利益な取扱いを受けないように保護するための法律です。
どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのかというルールを定めています。

なお、公益通報者保護法では、保護の対象になる通報の内容について一定の制約があります。
内部通報が保護の対象になるのは、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律に違反する犯罪行為又は最終的に刑罰につながる行為が生じ、 又はまさに生じようとしている」旨を内容とする場合に限られます。

「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律」の対象となる法律として、460ほどの法律が規定されています。

1 前三条の規定は、通報対象事実に係る通報をしたことを理由として労働者又は派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止する他の法令(法律及び法律に基づく命令をいう。第十条第一項において同じ。)の規定の適用を妨げるものではない。

2 第三条の規定は、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十六条の規定の適用を妨げるものではない。

3 前条第一項の規定は、労働契約法第十四条及び第十五条の規定の適用を妨げるものではない。

2、内部通報の方法

(1)会社に内部通報マニュアル等がある場合

通報にあたっては、マニュアルをしっかり読んで手順に従いましょう。
ルール違反などの揚げ足を取られないように気をつける必要があります。

①通報対象事実に該当するかのチェック

前述の通報対象事実の範囲に該当するかどうかには、特に注意しましょう。
通報対象事実の範囲を、公益通報者保護法よりも狭めていたり、不明確な基準があったりすれば慎重に対応する必要があります。

②通報の窓口・通報方法の確認

社内外など複数窓口を設けている会社では、どの窓口を選択すべきか検討してください。

メールで通報する場合、上司などがモニターできる仕組みを取っている会社が多いようです。
上司の違反行為を人事部など本部に通報しようとして、当該上司に真っ先にばれてしまって、結局証拠隠滅などのもみ消しが図られてしまうということもあり得ます。

会社の顧問弁護士を窓口にしている会社では、経営者の不正等の通報が経営者に筒抜けになりかねません(内部通報に詳しい専門家などからは、外部窓口を会社顧問弁護士とするのはふさわしくないと指摘されています。顧問弁護士以外の弁護士など会社経営陣と独立した窓口が推奨されています。)。

このように、誰が、何を通報したのかが明らかになってしまいそうな方法には注意しましょう。

また、通報は匿名通報でも受け付けられるか、通報方法は文書・メール・電話のいずれが認められるかなどを確認してください。その中で、もっとも安全な方法を選択すべきです。

③犯人探しされないための対応

内部通報規程等では犯人探しの禁止を明記していることも多いようですが、「誰が通報したのか」と犯人探しが始まることがしばしばあります。
このようなことをされないために、どのような通報方法が安心かも検討すべきでしょう。

(2)会社に内部通報に関する規程がない場合

会社に内部通報に関する規程がない場合、会社の体制が整っていない可能性があります。
むやみに会社に通報しても適切に対応されず、良い結果がなんら生じないということにもなりかねません。

とはいえ、行政機関や外部機関へ通報するには、保護要件(保護対象となる法律に該当するか、通報対象事実があると信じるに足る相当な理由があるか、等の一定の要件を満たすか)を満たしているか検討しなければなりませんので、慎重に行う必要があります。

リスクを負わないためにも、会社に内部通報の規程がなく、取扱いが不明な場合は、弁護士等との相談を強くお勧めします。

3、内部通報内容〜「通報」に値する内容とは?

そもそも、どのような通報が内部通報に値するのでしょうか?
消費者庁の平成28年度の調査から多くの企業で通報の対象とされている事実が次のとおり明らかにされています。

(1)「通報」に相当するもの

消費者庁の前述の調査では、次の事実を通報対象事実として規定している企業が多いようです。

  • 「会社のルールに違反する行為(就業規則等に違反する行為)」(68.9%)
  • 「法令違反行為(公益通報者保護法の対象となる法令違反行為に限定していない)」(68.4%)、
  • 「職場環境を害する行為(パワハラ、セクハラなど)」(65.7%)
  • 「その他の不正行為」(51.2%)。

なお、特に限定していないという会社も24.5%あります。
公益通報者保護法が保護対象とする通報内容よりも、広範に通報を受け付けている企業が多いようです。

(2)「通報」に適さないもの

とはいえ、何でも通報してよいとは言えないでしょう。
通報に適さないものの代表的なものを取り上げてみました。
内部通報を考えているなら、社内規則や社内手引きなどで通報が受け付けられる事実の要件や範囲など確認しておくことは最低限必要です。  

①単なる不満や悩み事

前記調査でも、運用する会社の悩みとして「通報というより不満や悩みの窓口となっている」が35.7%もありました。
職場の単純な不満や悩みなら、上司やさらにその上の上司に相談する方が、適切な解決が得られることが多いでしょう。

とはいえ、会社がよろず相談窓口と割り切って受け付けているかもしれません。
企業の中には、ハラスメントなどの問題を早い段階で拾い上げるために通報しやすくしている、という考えの会社もあるようです。

②業務上のルールなどの疑問

業務上のルールが不適切・非効率だ、といった問題なら、通常は業務所管部署に相談するのが適切でしょう。
内部通報窓口の担当者が個別業務について詳しいわけではなく、結局は「当該部署と相談してください」と言われてしまうなど単なる回り道になりかねません。

とはいえ、当該部署では問題にしていなかったが、他部署の人が見て疑問に感じ、内部通報で判明することもあり得ます。

例えば、長年、品質偽装を行っている企業において、品質偽装を行うための業務上のルールが存在していたとします。
そのルールにについて、当該部署の人は疑問に思っていなかったが、他部署の人が気になって通報し、そのルールの存在に会社が気づき調査したところ、品質偽装が行われていたことが判明する、といったことがあり得るでしょう。

また、不当だと思われる業務ルールの疑問については、業務ルールに関することでも内部通報に値する場合があると言えます。

③噂話・誹謗中傷

会社によっては「単なる噂話や他人を誹謗中傷するような通報は受け付けられません。」といったルールを設けているところも見られます。

但し、これも会社が通報を排除したり通報者を処分したりする理由に使われている可能性も考えられます。
対応についての注意は後述します。

4、内部通報の通報先〜どこに通報するの?

通報先は、以下の3つです。

  • 会社
  • 行政機関(監督官公庁)→ 具体的な機関は、こちらで検索することができます
  • 外部機関(報道機関、消費者団体、事業者団体、労働組合など)→ ライバル企業など「労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害する恐れがある者」は除かれます

この3つから通報先を選ぶことができます(通報先に順番はありません)が、通報先を誤ると、公益通報者保護法で定める通報による不利益な取扱いの禁止の保護を受けられないことになりかねません。

というのも、企業の利益の保護の観点から、ケースごとに、保護されるとする通報先が法定されているからです。

つまり、たとえば、「会社の脱税について外部に通報した、しかし全くの勘違いだった」という場合、会社が被る被害は相当なものです。
このような軽々しい通報まで保護することは難しいということはお分かりいただけるでしょう。

では、どのような場合にどこに通報すれば公益通報者保護法の保護の対象になるのかを見てみましょう。

(1)通報対象事実がある、又は、まさに生じようとしていると信じるに足る相当な理由があり、これに加えて一定の要件を満たす場合

①通報対象事実がある、又は、まさに生じようとしていると信じるに足る相当な理由とは

単なる憶測や伝聞等では足りません。
通報内容が真実であることを裏付ける証拠や関係者による信用性の高い供述など、相当の根拠が必要とされています。

②一定の要件とは

「一定の要件」とは次のようなものです。

  • 会社や行政機関に通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受ける可能性が高い
    (例)以前、同僚が内部通報したが、それを理由に解雇された。
  • 会社に通報をすれば証拠隠滅・偽造・変造等される可能性が高い。
    (例)事業者ぐるみで法令違反が行われている。
  • 会社から会社や行政機関に公益通報しないように要求されたが、正当な理由がない場合
    (例)誰にも言わないように上司から口止めされた。
  • 書面(紙文書、電子メールなど電子媒体含む)で会社に公益通報をしてから20日経っても会社から調査を行う旨の通知がなかったり、正当な理由なく調査を行わなかったりした場合
    (例)勤務先に書面で通報して20日経っても何の連絡もない。
  • 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険がある可能性が高い。
    (例)健康被害が発生する危険な食品が消費者に販売されている。 

③保護される通報先

この場合は最も保護に値するケースです。
そのため、3つの通報先のうち、どこに通報しても保護されます。

(2)通報対象事実があると信じるに足る相当な理由がある場合

これは前(1)の「一定の要件」がないケースです。
この場合は外部機関へ通報してしまうと保護対象になりませんので、注意が必要です。

もっとも、会社、または行政機関に通報すると保護対象となります。

(3)通報対象事実があると思われる場合

これは「相当な理由」がないケースです。
相当な理由はないのだけれど、事実があると思えば良いのです。

そのため、このような場合は外部機関のみならず行政機関への通報も保護されません。ご注意ください。
保護されるのは、会社への通報のみです。

5、内部通報者に制裁はあるのか〜内部通報する際の注意点とは

(1)一定の不利益な取扱いは法律で禁止されているが限界も

①禁止される不利益取扱い

禁止される不利益取扱いとは、解雇や契約の打切り、降格、減給、訓告、自宅待機命令、給与上の差別、退職の強要、専ら雑務に従事させること、退職金の減額・没収等です。

派遣労働者については、公益通報を理由にされた派遣先の派遣契約の解除は無効になります。
また派遣先が派遣元に派遣労働者の交代を求めること等も禁止されています。

②問題は人事異動

しかし、よく問題が起こるのは、配置転換や出向、転籍です。

これらの異動を会社から発せられる可能性があります。一般に、報復人事などといわれたりもします。

通報者に不当な異動が発せられれば、住所の変更を強いられたり、能力に見合わない職場への異動を命じられ退職に追い込もうとされたりするなど様々な不利益を被る可能性があります。
不当な人事異動は権利濫用と認められれば無効となりますが、会社側が自主的に報復人事であることを認めることは考え難いため、報復人事であることを立証することは相当に困難を伴います。

報復人事についてはこちらの記事もご覧ください。

(2)人間関係への影響

内部通報により、上司・同僚あるいは会社の経営者から疎まれることはしばしばあります。
いたたまれなくなって退職する事例も後を絶たないようです。

(3)内部通報するにあたっての注意点

これまで述べてきたように、内部通報には様々なリスクがあります。
注意点はここまででも述べてきましたが、それ以外の一般的な注意をご説明します。

①証拠をしっかり集める。

メール、ドキュメントの写し、会話の録音、動画、画像など可能な限り、客観的な証拠を収集します。
単なる噂話ではないか、といった疑いをもたれないためです。

本人へのハラスメント行為等でも、加害者は教育的指導だったとか単なる戯れで本人も気にしていなかった等と言い訳する場合もあり、客観的証拠が役に立ちます。

②誹謗中傷と取られる言動は避ける

たとえ、公正・適切な通報であったとしても、口頭や書面の表現ぶりなどに細心の注意を払いましょう。
正義感に駆られて過激な表現をすると、それだけで誹謗中傷と疑われかねません。

まずは書面に一度書いてみて、冷静に見直すことをお勧めします。

③組織的な不正や経営者による不正の場合、社内窓口への通報は避けたほうがよい

組織的な不正や経営者による不正の場合、社内窓口への通報をしてしまうと社内で揉み消されかねません。

前述4(2)の大王製紙事件のように、社内の所定の通報先が信頼できないとして、信頼できる別部署(関連事業部)に通報して、発覚した、というのも参考になりますが、通報先を慎重に検討しましょう。

ただ、行政機関、報道機関他の外部への通報を検討する場合、保護要件との関係もあります。
このようなケースでは、弁護士に相談することが必須です。

6、内部通報の前に弁護士へ相談を

通報の内容が公益法通報者保護法の要件に該当するかを判断すること、また、内部通報の内容に合わせて通報先を慎重に選ぶことが大切であることがお分かりいただけたことと思います。

通報先を会社にすれば法律上の保護は受けられますが、果たして会社に通報して変化が期待できるのか、その観点からの想像力も非常に重要です。
先に申しあげたように実質的な報復人事などで対応されかねません。

1人で行動することはお勧めできませんが、社内の人間で話し合うことが難しいデリケートな問題であることも多いでしょう。
「お前は上司を売るつもりなのか」といわれかねませんし、そもそも同僚たちが不正の共犯者であった、といったことも現実にはあるのです。
いわんや、組織全体にわたる不正の場合には、会社全体を敵に回す、ということにもなりかねません。

そんなときは、どうぞ弁護士までご相談ください。

あなたにとってのリスクを回避することはもちろん、会社にとってどのように対応することがベストなのか、法的な観点から弁護士がともに考えます。
社外の専門家として、社内のしがらみにとらわれずに冷静で客観的な判断もできます。

「どのように行動するにしても、まず社外専門家の意見も聴いてみよう」そう考えてみてはいかがでしょうか。
ご自身では思いもかけなかった様々なアドバイスが得られるでしょうし、会社との紛争になったときには適切にサポートしてくれます。

あなたの正義感は、とても貴重なものです。
しかし、正義感だけで行動するのは、取り返しのつかないリスクも生みかねません。

弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする専門家です(弁護士法1条1項)。
不正をただす最強の味方となるでしょう。

内部通報に関するまとめ

内部通報は会社の違法行為などの問題を速やかに察知して、適切な対応を図る有効な手段です。
勇気を持って通報する労働者を保護することが、会社のためになり、社会・公益のためになるのです。

不幸にして、このような趣旨を理解していない経営者もいます。
自らを守り、会社を守り、さらに顧客・取引先・広く社会を守るためにも、この記事が適切な通報の一助となることを切に望みます。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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