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退職後に労災請求できる?知っておきたい4つのこと

退職 労災

労災の給付は退職したらもらえないのかな?

労働災害にあって休業給付や療養給付を受けているけれど、さすがに休みが長いので退職した方がいいのかな・・・

そんな心配をしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

心配無用です。労災の給付は退職しても継続しますので利用すべきです(労働基準法第83条、労災保険法第12条の5)。

今回は、

  • 退職後労災給付(休業(補償)給付)はいつまでもらえるのか
  • 退職後も労災請求することができるのか

の内容について弁護士がわかりやすく解説します。
安心して療養に専念していただくためにも、ぜひご一読ください。

労災の請求に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。

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1、労災給付は退職しても継続する

退職後でも労災請求できるの?退職したら労災給付は終わるの?退職時に知っておきたい労災知識まとめ

労災給付は退職しても継続します。退職したら権利がなくなるわけではありません。このことをまず確認しておきましょう。

(1)労災給付は退職しても継続する

労災保険については、会社が保険料を支払っていること、休業(補償)給付が休業中の給料の補填として支給されるものであることなどから、「会社を退職したら労災給付は終了する」と思われる方は少なくないと思います。

しかし、労災によって働くことができなくなってしまったために退職せざるをえなくなってしまったようなケースにおいて、「退職したから労災給付は打ち切り」となったのでは、被災した労働者の「迅速かつ公正な保護」という労災保険の目的が果たされません(労働者災害補償保険法第1条)。

そのため、療養(補償)給付、休業(補償)給付に限らず、全ての労災保険の給付に関し、退職をした場合はもちろん、休業中に定年退職を迎えた、会社が倒産したなどにより会社を離れることになった場合でも、会社を離れたことを理由として労災給付が終了するということはありません。

(2)法律上の根拠

法律上も次の通り「退職しても保険給付を受ける権利は変更されない」と明記されています。

労働基準法第83条

「補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」

労災保険法第12条の5

「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」

(3)労災の休業(補償)

給付はいつまで継続するのか 労災の休業給付は、いわゆる「支給事由」が存する限り支給され続けます。

「支給事由」とは、以下の3点です。

  • 業務災害や通勤災害で療養が必要であり、かつ実際に療養をしていること
  • 働くことができない状態であること
  • 会社から賃金が支給されていないこと

この3条件から、いつまで給付が継続するかが判断されます。

① 業務災害や通勤災害で療養が必要であり、かつ実際に療養をしていること

病気やケガで療養していることが必要です。

労働基準監督において、「これ以上の療養の必要なし」と判断されてしまえば、休業(補償)給付及び療養(補償)給付の支給はストップします。

なお、病気やケガが治癒した場合には職場に復帰すればよいわけですが、症状が固定してこれ以上治療しても良くならないという場合に一定の障害が残っている場合には、休業給付と療養給付が終了し、「障害(補償)給付」の支給が検討されることになります。

② 働くことができない状態であること

この「働くことができない状態」というのは、必ずしも「もとの仕事ができない」という意味ではなく、「一般的に働けない状態」をいいます。
つまり、もとの仕事が現場のハードワークであった人が現場に復帰できなくても、「清掃などの軽作業ならできる」という状態に回復すれば、「働ける」と判断されることがあります。

もっとも、このあたりの判断は難しいところであり、職場の状況にもよるでしょうし、簡単な軽作業ができる程度で「一般的に働ける」と判断すべきかどうかは悩ましいところです。

なお、休業(補償)給付に関する労働基準監督署の支給の可否の判断においては、普段から被災者の身体の状態を見ている主治医の診断も重要視されます。

そのため、普段からしっかりと主治医に身体の状態を伝えておくことが重要です。

休業(補償)給付の請求書には、主治医が「働ける状態ではなかった」と判断した期間が記載されますが、そこに記載のある期間については、原則としては休業(補償)給付がなされると考えていいと思います。

いずれにせよ、働こうと思えば働けるのにブラブラしているというのでは休業(補償)給付は支給されませんのでご注意ください。

③ 会社から賃金が支給されていないこと

たとえば、有給休暇を取って休んでいたり、労災における休業中も一定の賃金が支給される制度が導入されている会社である場合などは、その期間の休業給付は受けられません。

(4)休業給付は1年半で打ち切りになる?

本稿をご覧になっている方の中に、労災の休業給付が1年半で打ち切になるとお思いの方がいらっしゃるとすれば、それはもしかしたら健康保険の傷病手当金と混同しているのかもしれません。

健康保険の傷病手当金は私傷病(労働災害以外)で療養・休業する場合に支給されますが、どんな事情であっても、支給開始後、最長で1年半で強制的に打ち切られます。

退職などで健康保険の資格を喪失しても引き続き給付を受けられることもありますが、これも最長1年半までです。
この「1年半」という期間が、労災の傷病(補償)年金への切替えの判定時期と同じなので、労災の休業給付も1年半で終了する、と誤解される場合があるようです。
しかし、労災の場合は、1年半を経過しても、傷病(補償)年金の要件を満たさないような場合には、休業(補償)給付が継続されることもありますので、「絶対に1年半で打ち切り」ということはなく、この点でも労災保険は健康保険による補償よりも手厚くなっているといえます。

2、労災による長期休業を理由に解雇されることってあるの?

退職後でも労災請求できるの?退職したら労災給付は終わるの?退職時に知っておきたい労災知識まとめ

会社の規模の問題などにより、長期休業している労働者の雇用を継続することが難しい企業もあるでしょう。

それでは、労災による長期休業を理由として、一方的に解雇されるということはあるのでしょうか?

(1)業務災害で長期休業中の労働者に対する解雇は無効

①業務災害の場合の解雇制限

業務災害による休業中の労働者に対する解雇には制限があります。
すなわち、労働者が業務上災害によって負傷したり、疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後の30日間は解雇が許されません(労働基準法第19条第1項)。
要するに、原則として業務災害による休業中にクビになるということはないわけです。

②解雇制限の例外(3年経過後の打切補償による解雇)

ただし、業務災害による解雇制限については、次の例外があります。

療養開始後3年を経過しても治らない場合には、会社は平均賃金の1,200日分の打切補償を支払うことで解雇が可能とされます(労働基準法19条、81条参照)。

(2)通勤災害については解雇制限の適用なし

ここで注意しなくてはならないのは、通勤災害については、業務災害のような解雇制限の規定は適用されないということです。

とはいえ、解雇には厳しい規制があり、会社が簡単にクビにできるものではありません。

仮に会社が一方的に解雇とし、それを労働者側が裁判所において争った場合には、「これまでの仕事ができなくても、別の仕事が可能であれば、できる限り配置転換等で対応することで解雇を回避すべきである」といった観点から、厳しく解雇の有効性が判断されるのが通例です。

(3)退職勧奨はされるおそれはある?

退職推奨・退職勧告は、それ自体違法なものではありません。
会社は会社として経営の自由がありますので、合理的な理由のもと、社員の数を決定することは当然のことといえます。

ただ、退職推奨・退職勧告に応ずるかどうかは、労働者側に決定権があります。
一方的な解雇、「辞めなければ異動、減俸」などの言葉が使われた場合、また短い期間に数度の打診がなされたりする場合は違法性を帯びてきますので、このような対応に泣き寝入りする必要はありません。

会社との建設的な話し合いの上決めることが必要ですので、不利なく話を進めたい場合は、どうぞ弁護士にご相談されることをお勧めします。

3、労災は退職しても請求できる

退職後でも労災請求できるの?退職したら労災給付は終わるの?退職時に知っておきたい労災知識まとめ

では次に、退職後も労災請求できるのかについて説明していきます。

(1)退職後も労災の請求はできる

① 退職後でも労災請求可能

労災の保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはありません(前述労災保険法第12条の5)。
したがって、退職前に労災の請求をしていなくても、退職後でも請求は可能です。

労災の療養給付や休業給付の請求書には「事業主の証明欄」がありますが、会社を退職しており、事業主が証明をしてくれないという趣旨の文書を添付することで労基署は請求書を受け付てくれます。
書式は決まっていないので労基署で相談すればよいでしょう。
実務的には「○年○月○日A社退職」という記載だけで受け付けてくれる場合もあるようです。

② 療養給付・休業給付を受けている最中に退職しても、退職後に別の給付を受けることも可能

退職前に療養給付や休業給付が始まっており、その後に退職した場合でも、前述の2(3)の表のように、1年半経過して症状が固定せず1級から3級の重い傷病の状態であれば、休業給付から傷病年金に切り替わります。

これは労基署が認定してくれます。

また、退職後に症状が固定し、1級~14級の障害の状況であれば障害給付の請求が可能ですし、介護給付や不幸にして亡くなった場合の遺族給付などももちろん可能です。

むしろ、労災のダメージが大きいために後日になって「後遺障害」が生じるなど、問題が後になってから現れることも少なくありません。このため退職後に労災請求することもよくあることです。

③ 会社が倒産しても労災請求は可能

労災請求は労働者が国家から給付を受ける権利です。
会社から保険給付があるわけではありませんので、会社が倒産していても労災請求は可能です。

会社が倒産している事実を証明する書類を添付する、といった手続きは必要ですが、これも労基署で教えてくれます。

④ 健康保険で対応していた場合も労災請求可能

労災請求しても認定に時間がかかると言われて申請を躊躇したり、そもそも労災のことを知らなかったなどで、健康保険で療養を受けていたり、健康保険の傷病手当金を受給していることもあると思います。

この場合も、退職後でも労災請求は可能です。健康保険で受給した分を返還する必要はありますし、手続きも面倒ですが、労災給付のほうが健康保険よりも圧倒的に有利ですし、そもそも労働災害は労災保険で対応すべきもので、健康保険の対象ではありません。

労災が使えることがわかった段階で、早めに労災の請求をすべきです。

(2)退職後の請求で気をつけるべきは「時効」

労災の請求には時効があります。厚生労働省の資料で整理されています。
退職後でも請求できるということで放置していると、時効にかかってしまうことがあります。
できるだけ早めに労働基準監督署や専門家に相談して手続を進めることをお勧めします。

(参考)厚生労働省
労災保険に関するQ&A7-5 労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。

給付金時効(いつから起算し、いつ時効が完成するのか)
①療養(補償)給付療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生。 その翌日から2年
②休業(補償)給付賃金を受けない日ごとに請求権が発生。 その翌日から2年
③遺族(補償)年金・一時金被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
④葬祭料(葬祭給付)被災労働者が亡くなった日の翌日から2年
⑤未支給の保険給付・特別支給金それぞれの保険給付と同じ
⑥傷病(補償)年金監督署長の職権により移行される。請求時効はない。
⑦障害(補償)給付傷病が治癒した日の翌日から5年
⑧介護(補償)給付介護を受けた月の翌月の1日から2年
⑨二次健康診断等給付金一次健康診断の受診日から3ヶ月以内

(3)何年も労災請求をせずに放置してしまった場合でも諦めてはいけない理由とは

労災発生から2年経ったから時効で権利が消滅している」と思い込まないでください。
たとえば、療養(補償)給付や休業(補償)給付は「療養の費用を支出した日ごと」あるいは、「賃金の支給を受けない日」ごとに、時効が進行します。
「2年以上前に労災で負ったケガ」であるといっても、治療を受けたり、休んで賃金をもらえなかった日が2年以内なら、その分の給付の請求はできます。

また、労災の発生に関して会社に責任がある場合には、会社に対する損害賠償請求権の時効はまだ完成していないこともありえますので、あきらめずに労基署や専門家に相談してみてください。

4、労災に関する相談先

退職後でも労災請求できるの?退職したら労災給付は終わるの?退職時に知っておきたい労災知識まとめ

以上、退職後の労災の取り扱いについてご説明してきましたが、いかがでしょうか。

労災が生じた場合、まず労働者は会社(事業主)へ相談すべきです。
会社は労災保険の給付手続をする労働者に助力したり、必要な証明を行う義務があるからです。
この点は法令で明記されています。

しかし、労災の手続きや仕組みは複雑で、しかも頻繁に起こることでもないため、会社の担当者も手馴れていないという場合もあるでしょう。
また、退職後に手続きをとる場合には会社に相談しづらいということもあるでしょうし、会社が倒産してしまった場合などにおいては、会社の他にも相談先は必要です。

以下、労災に関する主な相談先をご紹介していきます。

(参考) 労働者災害補償保険法施行規則 (事業主の助力等)

第二十三条 保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。

2 事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。

(1)労働基準監督署

労災の請求書を受け付けて実際の認定をする機関です。

所在地などはこちらで確認してください。

(厚生労働省)全国労働基準監督署の所在案内

会社が協力してくれないが労災請求を進めたいというときには、最初に相談する先は労基署が最もふさわしいでしょう。

実際の手続きの流れは次のようになります。

① 労基署で請求書をもらって提出する

会社が労災請求に協力してくれず、事業主証明がもらえなかったことを伝えて請求書を提出します。
前述の通り会社の協力が得られない旨の説明書を添えますが、これも労基署に書き方などを相談すればよいでしょう。

② 労基署は会社に「証明拒否理由書」の提出を求める

労基署は、事業主証明のない請求書を受け取ると、会社に対して「証明拒否理由書」という文書の提出を求めます。
これは、たとえば労働者は労災だと考えているが会社はそうではないと考えている場合に、会社が自身の見解を述べるためのものです。

③ 労基署による調査、事情聴取

事業主証明のない労災請求がされた場合、労基署は、会社に対する事情聴取を行います。
労災認定は労基署の権限です。
会社の証明拒否理由書や会社への事情聴取なども元に、労基署が労災認定するかしないかを決定します。

(2)都道府県労働局・労働基準監督署の総合労働相談コーナー

職場のトラブルに関する相談や、解決のための情報提供をワンストップで行っています。

具体的に手続きを進めるべくいきなり労基署に行くことについて敷居が高いと感じるなら、まず総合労働相談コーナーに相談するのも一つの手です。

労災の問題だけでなく、たとえばハラスメントや過重労働など様々な問題が同時に起こっている場合などは、総合労働相談コーナーの方がはじめの相談先としては適切でしょう。

(3)東京都労働相談情報センター「働く人たちのための窓口」

東京都の方ならば東京都の労働相談情報センターが労働問題全体の相談に乗ってくれます。

(4)社会保険労務士(社労士)

労災保険の手続きを代行してくれます。
労災の手続きは場合によっては非常に複雑になるため、会社に顧問の社会保険労務士がいれば、労災手続きはその社労士が行うことが通例です。

会社が協力してくれないなら、都道府県の社会保険労務士会などに相談して、電話や対面で相談にのってもらったり、労災に詳しい社労士を紹介してもらうこともできますし、各社労士が開設しているホームページを検索して信頼できそうなところに相談してみてもいいでしょう。

(5)弁護士

全般的な相談について頼りになるのは弁護士です。

もっとも、労災請求の代行業務については社労士の方が専門でしょう。
弁護士が専門とするのは、「相手方に対する権利の請求」ですので、例えば、「労災でケガをしたが、その原因は会社にあるので、会社に対して賠償請求をしたい」であるとか、「現場で作業中に、他の作業員のミスでケガをさせられたため、労災の申請と共に、その作業員と会社の責任を追及したい」といったような相談については、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

まとめ

労災については、様々な誤解が横行しているように思われます。
「退職したら労災の給付が打ち切られる」というのもその代表例です。インターネットなどでもその手の相談が溢れているようです。

誤解から、受けられるべき労災給付を受けそこなっている方が少なからずいらっしゃるようです。
今回の記事に限らず、リーガルモールでは、労災についてもよくある誤解を解消する記事を提供して参りますので、ぜひご活用ください。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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