パワハラに関するどのような処置を行うにしても証拠が重要です。どんな物が証拠になり、どのように証拠を集めるべきなのでしょうか?
ここでは、
- パワハラを立証するために有効となる証拠
- 証拠を集める際の注意点
などについて解説していきます。
パワハラに遭って慰謝料請求を考えている方は以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、なぜパワハラの証拠集めが重要なのか?
会社で実際にパワハラを受けている場合でも、証拠がなければパワハラの事実関係を確認できないため、パワハラの存在を他人に信じてもらえないかもしれません。
そのため証拠集めは非常に重要です。
パワハラの証拠を集めることで、次のような処置を有利に進めることができます。
(1)会社に相談することができる
パワハラを会社に相談することで、加害者への注意や異動などの対処を行ってもらえる可能性があります。
しかし、加害者がパワハラを否定してくることもあるため、会社を説得するためにはパワハラの証拠が必要といえます。
会社に相談する場合には、
- 上司
- 人事
- 社内の相談窓口
などが相談先として挙げられます。
(2)労働局等に相談できる
会社に相談することが難しい場合や、会社へ相談しても真摯に対応してもらえないような場合には、労働局に相談することができます。
労働局は厚生労働省が設置した相談窓口で、相談することで問題解決のための指導だけではなく、パワハラの実態調査をして会社へ働きかけてくれることもあります。直属の上司からのパワハラは会社へ相談しにくいと考える方も多いため、会社へ相談できない場合は労働局へ相談してみましょう。
また、労働局や、労働局の下部組織である労働基準監督署に設置されている総合労働相談コーナーでは、パワハラを含め、幅広い労働問題の相談を聞いてもらえるので、こちらへ相談するのも手です。
(3)加害者に対して慰謝料請求することができる
パワハラが不法行為に該当する場合、民法第709条で、不法行為の加害者は損害を賠償する責任を負うことが定められています。パワハラの証拠があれば、加害者に対する慰謝料請求が認められる可能性が高まります。
加害者に対する慰謝料請求は、当事者同士の交渉で行うことが可能です。交渉で合意が得られない場合には、基本的には裁判で慰謝料請求を行うことになります。
(4)会社に対して慰謝料請求することができる
会社でパワハラが行われていた場合、使用者である会社に対しても損害賠償を請求できる可能性があります。
加害者に対する請求と同様に、会社に対する交渉・労働審判・裁判といった手続きで請求することになります。
ここで、労働審判について説明しますと、労働審判とは、労働者と事業主の労働に関するトラブルを解決するための手続きであり、地方裁判所に申立てを行います。
労働審判官と労働審判員によって審理や判断が行われ、迅速な解決が期待できる制度ですが、そこでもパワハラを立証するための証拠は欠かすことができません。
2、パワハラと認められやすい証拠のポイント
パワハラは証拠がないと認められにくいため、証拠集めは非常に重要だと言えます。
しかし、どのような物が証拠になるのか自身では判断が難しいものです。
証拠集めを始める前に、まずはパワハラと認められやすい証拠のポイントを押さえておきましょう。
(1)必要性を超えた過度な指導
パワハラの言い訳として、「業務上の指導だった」という加害者も少なくありません。
しかし、業務上の指導でも必要性を超えた過度な指導はパワハラです。
例えば
- 必要性がないにも関わらず執拗に厳しい指導がある場合
- 必要なケースでも暴言や暴力を伴う指導がある場合
であればパワハラに該当します。
必要性を超えた過度な指導であることが立証できる証拠を集めましょう。
(2)人格や名誉を毀損する発言
いかなる場合でも人格や名誉を毀損するような発言は人格権を侵害するものであり、違法になる可能性があります。
たとえ指導目的であったとしても、どのような言葉を使ってもよいというわけではありません。
そのため、人格や名誉を毀損するような発言があったことを示す文書のような証拠はパワハラの証拠として有効だと言えます。
(3)脅迫するような発言
脅迫するような発言や文書もパワハラを立証する有効な証拠です。
「今度ミスすればクビにする」などといった脅迫するような発言が繰り返される場合もパワハラに該当します。
「退職」や「解雇」などと執拗に脅される行為は雇用への不安を生じさせ、心理的ストレスを過度に与えることになり、不法行為であると判断されます。
また、
- 「死ね」
- 「殺す」
といった発言は、パワハラだけではなく脅迫罪が成立する可能性があります。
(4)他の同僚との扱いが異なる
他の同僚と異なる扱いを受け、人間関係からの切り離しをされている場合もパワハラに該当します。
他の同僚と同じ条件にもかかわらず、自分だけが会議や打ち合わせから外されたり、自分だけが仕事を割り振られないことはパワハラの可能性があります。
また、
- 自分だけが懇親会に呼ばれない
- 隔離された部屋で仕事を与えられる
など、対人関係を阻害されることもパワハラの一種です。
他の同僚と扱いが異なることが分かるような証拠は集めておきましょう。
(5)指導の回数や時間、場所
パワハラの証拠集めでは、指導の回数や時間、場所などが分かる証拠を集めることも重要です。
一度の指導だけを見れば違法と言えないような場合でも、
- 指導期間が過剰に長いような場合
- 必要以上に繰り返し行われていた場合
などにはパワハラだと認められやすくなります。
また、指導が行われていた場所が同僚やクライアントの前であれば、本人を辱める行為としてパワハラだと認められる可能性があります。
指導の回数や時間、場所はパワハラを認められやすくするために必要であり、パワハラの程度を判断するための材料にもなります。
3、パワハラを立証できる証拠の具体例
パワハラを立証できる証拠にはさまざまなものがあります。
具体的にどのようなものがパワハラの証拠として扱われるのかご紹介します。
(1)録音データ
暴言や脅迫、人格権を侵害するような発言などのパワハラがある場合には、スマホやボイスレコーダーを使用して音声を録音しましょう。
とくにボイスレコーダーは小さいサイズのものや、ペン型のタイプのものなどもあるので、相手にバレることなく音声を録音しやすくなっています。
加害者の名前を呼んで録音しておくと、誰の発言であるのか明確にさせることができます。
また、パワハラを受けている時だけではなく、会社にパワハラ被害について掛け合った時にもやり取りを残しておくことをおすすめします。
もし会社が適切な措置を取らなかった場合には、これも有利な証拠になります。
(2)メールの文章
社内メールやLINEなどのSNSでパワハラを受ける場合もあります。
これらは記録として残っていることが多いため、証拠を集めやすいでしょう。
メールなどの文章を証拠として残す方法には、
- パワハラ発言のある文章の印刷
- スマホでパソコン画面を撮影する
などの方法が挙げられます。
日付や、文章の発信者が誰なのかを分かるように証拠を残すことが大切です。
(3)写真や動画
写真や動画はパワハラを立証できる有力な証拠になります。
パワハラを受けている場面を録画できれば極めて重要な証拠になりますが、動画の撮影は簡単ではありません。
また、パワハラによって暴力を受けた場合には、負傷箇所を撮影しておきましょう。
日時や場所等をわかるようにして撮影しておくと証拠の有用性が高まります。
(4)同僚の証言
同僚の証言も証拠になるので、協力をお願いしましょう。
物的証拠よりもパワハラを立証する力は低いですが、証拠が少ない場合には証言も大事な証拠になります。
同僚だけではなく、友人などにパワハラの内容をLINEやメールで話している場合には、それらの文章も証拠として使用することができます。
(5)被害者の日記や業務日報など
パワハラを受けた被害者の日記やメモ、業務日報なども証拠になる可能性があります。
- パワハラを受けた日時
- 場所
- 目撃者
- 具体的な内容
などを、その他の情報も交えて5W1Hを意識して日常的に記録しておくことで、証拠としての有用性が高まります。
(6)業務命令、部署異動の通達など
会社から過少な要求や過大な要求によるパワハラを受けている場合には、業務命令や部署異動の通達なども証拠になります。
業務命令や部署異動の通達は、印刷したり写真を撮ったりして証拠として保管しておきましょう。
(7)医師の診断書
パワハラが原因で負傷した場合や、精神疾患などで通院している場合には、医師の診断書が証拠になります。
医師にどのようなパワハラがあったのか詳しく状況を説明し、カルテに記載してもらうようにしましょう。
カルテは、パワハラを受けたことを立証する間接的な証拠になると言えます。
4、パワハラの証拠集めにおける注意点とポイント
パワハラの証拠集めを行う際には、いくつか注意しておきたいことがあります。
証拠集めで失敗してしまわないようにするためにも、
- 証拠集めの注意点
- ポイント
について知っておきましょう。
(1)加害者にバレないようにする
パワハラの証拠集めを行う際には、加害者にバレないように証拠を集めましょう。
証拠集めをしていることに加害者が気付けば、証拠隠滅や破棄を行ってくるかもしれません。
また、相手が逆上してパワハラがひどくなるパターンもあれば、証拠が残りにくいパワハラへと陰湿化するパターンもあります。
とくに録音や録画をする際には細心の注意を払うようにしましょう。
(2)退職後は証拠集めが難しくなる
パワハラが原因で退職を考えている場合には、証拠集めは退職前に行うことをおすすめします。
退職してからでは社内メールの確認やパワハラの録音など証拠集めが難しくなってしまいます。
退職するまでにできる限り多くの証拠を集めておくようにしましょう。
(3)客観的に立証できる証拠を集める
パワハラの証拠集めでは、客観的にパワハラを立証できるような証拠を集めましょう。
嘘か本当かわからないような証拠ではなく、誰が見てもパワハラだと分かる証拠が重要です。
明確な証拠がない場合でも、複数の証拠を組み合わせることで有用性が高まることもあるので、小さな証拠でも残しておくことをおすすめします。
5、パワハラの証拠集めで録音や録画することは違法にならないのか?
パワハラの証拠集めで録音や録画をすることに違法性はないのか不安に考えている方もいるでしょう。
パワハラの証拠集めのための録音や録画は、パワハラの証拠保全という正当な理由で行われる限り違法になる可能性は少ないといえます。
もっとも、会社では就業規則によって職場での録音や録画を禁止している場合があります。
そのため、パワハラの録音や録画をしていることが会社にバレた場合には懲戒処分に問われることがあります。
しかし、懲戒処分は労働者が企業秩序を乱した時にのみ適用されるものであり、パワハラが存在して救済のための証拠集めを行っているのであれば、企業秩序を乱す行為だとはいえません。
そのため、もしパワハラの証拠集めで懲戒処分を受けるようなことがあれば、不当な処分であると考えられます。
もっとも、会社にも就業規則や業務上必要な場合は録音や録画を禁止する権限もありますので、どのような場合でも懲戒処分に当たらないとまでは言い切れません。
自分の録音や録画が懲戒処分に当たるのかどうかご不安な場合は、専門家のアドバイスを求めるべきでしょう。
6、パワハラ問題を弁護士に相談するメリット
パワハラ問題はご自身で会社や労働局等に相談するだけではなく、弁護士に相談することもできます。
パワハラ問題を弁護士に相談するメリットとして次のことが挙げられます。
(1)代理交渉をしてもらうことができる
パワハラを受けて精神的につらい状況になっている中で、ご自身で加害者や会社と交渉を行うことは更なるストレスを受けることになりかねません。
弁護士に依頼すれば、代理人として全ての交渉を任せることができるため、ストレスを大幅に軽減させられるでしょう。
ご自身ではうまく主張できない場合でも、高い交渉力を持つ弁護士が、代理人として加害者や会社へ適切な通知や主張を行ってくれます。
(2)パワハラの損害賠償請求ができる
パワハラで精神的苦痛を受けた場合には慰謝料を請求することができますが、弁護士に依頼すれば、その損害賠償請求の手続きや交渉も任せられます。
法的な知識と交渉力があるため、ご自身で請求するよりも、より精神的苦痛に見合った適切な損害賠償請求が期待できます。
(3)労働審判や裁判を任せられる
直接交渉で解決しない場合には、労働審判や民事裁判を行うことになります。
その場合、
- 裁判や審判の申立て
- 裁判や審判に対する書面等の準備
- 裁判や審判期日での活動
などが必要になります。
弁護士に依頼すればこうした工程の大部分を任せることができ、心強いサポートを受けられます。
まとめ
パワハラの証拠があれば、加害者への慰謝料請求が認められ、会社も適切な措置をとってくれる可能性が高まります。
パワハラでどのような処置をとるにしても証拠は重要であるため、証拠集めをしっかりと行いましょう。
パワハラ問題は精神的負担が大きくなってしまうことも多いため、一人で抱え込まずに弁護士に相談してサポートを受けることを検討してみてください。