弁護士が負う守秘義務とは、「職務を行う過程」で知った「秘密」に守秘義務があるということです。
トラブルを抱えて弁護士に何らかの相談や依頼をしたいと思っている方の中には、弁護士に話してしまったことで個人の情報や秘匿しておきたい内容が外部に流出してしまうことを懸念されている方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、今回は、
- 弁護士の負う守秘義務を負う事実はどのような範囲か?
- 弁護士が守秘義務を負う相手はどのような範囲か?
について解説していきます。
その他、弁護士の守秘義務に関する各種問題についても具体例を挙げて解説していきますので、この記事で弁護士の守秘義務について理解を深めていただければ幸いです。
目次
1、弁護士の負う守秘義務とは
(1)「職務を行う過程」で知った「秘密」に守秘義務がある
弁護士の守秘義務は、法律によって規定されている法的な義務です。弁護士の守秘義務については、「弁護士法」と「弁護士職務基本規程」に規定されています。
弁護士法第23条には、
「弁護士又は弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」
と規定されています。
そして、弁護士職務基本規程23条には、
「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。」
と規定しています。
このように、弁護士には「職務上知り得た秘密」に対して守秘義務が発生します。
(2)「職務上知り得た」とは
「職務上知り得た」とは、弁護士が職務を行う過程で知り得たことをいいます。
弁護士の職務に関連しては、弁護士法3条には、
「弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。」
と規定しています。
裁判を起こしてその手続の中で知った秘密のみならず、「その他一般の法律事務」も弁護士の職務に含まれていますので、法律事務所で相談を受けた場合や受任した事件について弁護士が依頼者から聞いた秘密についても守秘義務が発生します。
しかし一方で、弁護士であることを信頼されてマンションの管理組合の理事長になったり、PTA会長になったりした場合に知り得た秘密は、職務を行う過程で知り得たとは言えませんので、「職務上知り得た」秘密とはいえません。
(3)「秘密」とは
次に、ここでいう「秘密」とはどのような意味でしょうか。
「秘密」とは、一般に知られていない事実であって、本人が特に秘匿しておきたいと考える性質の事項に限らず、一般人の立場から見ても秘匿しておきたいと考える性質をもつ事項も指すといわれています。
このような意味で「秘密」には「主観的意味の秘密」のみならず、「客観的意味の秘密」も含まれると表現されたりします。
具体的には、過去の犯罪行為、反倫理的行為、疾病、身分、親族関係、財産関係、居所などはもちろん、社会通念上一般に知られたくないと思われる内容の事柄は全て含まれます。
第三者が何らかの方法で知られ公表された秘密や報道された秘密、裁判記録中に含まれる秘密についても秘密性は喪失しておらず、いまだ社会一般に確認されていないような場合は依頼者の承諾なく開示することは許されません。
(4)「漏ら」すとは
①漏らすとは〜依頼者の家族へも秘密は漏らさない?
「漏らす」とは、第三者に開示することをいいます。
不特定多数の第三者に対する開示のみならず、特定かつ少数の第三者に対して開示する場合も含まれます。
依頼者の家族も依頼者以外の第三者であることには変わりありませんので、依頼者の許可なく依頼者の家族に秘密を開示することはできません。
②依頼者の氏名等を伏せ字にすればOK?
依頼者の氏名等を伏せ字にした場合であっても、事案の経過、処理状況等を詳細にインターネット上のブログに記載した場合に、守秘義務違反が認められた例があります。
(2)「利用」とは
①利用とは
「利用」とは、秘密をもとに一定の効果を得ることを企図して行為することをいいます。
秘密の開示だけではなく、利用することも禁じられています。
②利用例
「利用」の例としては、依頼者の秘密を利用して、特定の時期に自己が保有する株式を売却して利益を得たり、損失を免れたりすることが挙げられます。
2、弁護士の守秘義務の範囲〜具体例でご紹介
(1)依頼者が自発的に話した場合(受任事件と直接関係のない事項)
受任事件とは直接関係ない事項についても、「職務上知り得た秘密」に該当する場合には守秘義務の範囲に含まれます。
例えば、受任事件とは異なる犯罪事実の告白や反倫理的な行為の開示などについても弁護士は外部に漏らすことはできません。なぜなら、依頼者は、依頼事件についてよく知ってもらおうという思いから事件とは直接関係がない事項まで打ち明けることが多いですし、紛争解決のために必要な事実かどうかは依頼者判断でできるとは限らないからです。
(2)電車の中や宴席の相談を受けた場合(私生活上で知った秘密)
例えば、友人から電車の中や宴席で知った依頼者の秘密はどうでしょうか。
まず、私生活上で偶然知った依頼者の秘密などは含まれません。
そのため、偶然電車や宴席で知った秘密には守秘義務は生じないと考えられるでしょう。
しかし、上記のような場合でも、相談の内容やその状況等を考慮した場合に「職務上知り得た」と判断できる場合には守秘義務が及ぶと考えることができます。
例えば、明らかにプライベートとは切り離された状態で弁護士の職務として相談を受けたような場合には守秘義務が認められる可能性もあります。
(3)依頼者が弁護士を解任した事実
依頼者が弁護士を解任した事実も「秘密」に含まれると考えられています。
例えば、紹介者を通じて弁護士に交通事故に基づく損害賠償訴訟を依頼した者がその後弁護士を解任した事案がありました。弁護士を解任した事実は一般に知られていない事実といえます。
そして、弁護士を解任したという事実は、依頼者と弁護士との間の委任契約の存否に関する事実ですので、弁護士が紹介者にその事実を告げたことは、弁護士が依頼者に対して負う守秘義務に違反し不法行為に該当すると判断された事例があります。
(4)弁護士会の会務活動で知った秘密
弁護士会の会務活動で知った秘密は、弁護士法3条に定める弁護士の職務とは無関係なので「職務上知り得た秘密」にはあたらないと考えられています。
ただし、この場合であっても当該委員会にかかる会規等に秘密保持義務が定められている可能性もあります。当該会規等の違反にあたりそれが弁護士の非行にあたるとされた場合には懲戒処分の対象となりえます。
(5)相手方の秘密や情報
依頼者ではない「相手方」の秘密や情報も守秘義務の対象となるのでしょうか。
弁護士職務基本規程23条「依頼者について」職務上知り得た秘密とありますが、弁護士法23条には「その職務上知り得た秘密」とあり、依頼者の秘密に限定していません。
この秘密の主体については大きく3つの見解があります。
①非限定説:依頼者の秘密に限定されてない
依頼者の秘密に限定されないという非限定説は、弁護士法23条の文言が依頼者に限定していないこと、依頼者以外であっても弁護士であることを信頼して秘密を開示することがあること、刑事訴訟法や民事訴訟法に規定する証言拒絶権や刑法の秘密漏示罪は依頼者の秘密に限定していないことを理由としています。
この見解では、相手方の秘密であっても守秘義務の対象になると考えることができます。
②限定説:依頼者の秘密に限定する
他方、依頼者の秘密に限定する非限定説は、守秘義務の本質は依頼者の弁護士に対する信頼を保護することにあると考え、プライバシーの保護と守秘義務を切り離して考えます。
このような見解では、相手方の秘密や情報は守秘義務の範囲とはならないことになります。
③折衷説:依頼者のほか依頼者に準ずる者の秘密を対象とする
依頼者のほか依頼者に準ずる者の秘密を対象とする折衷説は、弁護士法23条の2に規定する弁護士会照会制度により弁護士が知り得た第三者の秘密もこれに含まれると考えます。
折衷説は照会制度ができた経緯などを根拠とします。
3、弁護士の守秘義務に守られる人〜「依頼者」とは
「依頼者」とは、
- 個別事件を依頼した者
- 受任に至らなかった相談者や顧問先
- 事件が終了した過去の依頼者
- 組織内弁護士の雇用主
などが含まれます。
4、守秘義務が解除される例外的な場合
(1)法律に別段の定めがある場合
法律に特別の定めがある場合とは、民事訴訟法197条2項や、刑事訴訟法105条但し書きや149条但し書きなどがあてはまります。
これらには秘密保持の権利義務を解除する旨が規定されています。
(2)正当な理由がある場合〜犯罪調査や税務調査への協力
犯罪捜査や税務調査に協力することも正当な理由となる場合があります。
公共の利益のために必要がある場合には秘密の開示が許されると考えられています。
①犯罪捜査への協力
例えば、依頼者が殺人や重大な傷害を犯そうとするなどの人命にかかわるものについて防止する義務がありますので、殺人や重大な傷害事件を防止するために捜査に協力する場合には秘密の開示が許されると考えられています。
②税務調査に応じる場合も守秘義務が解除される?
それでは、依頼者に関する税務調査に協力する場合には守秘義務が解除されるのでしょうか。
税務職員は税務調査について、納税義務者から金銭の給付を受ける権利があった者に対して質問検査権を有しています。(国税通則法74条の2、128条)
そのため、税務職員の質問検査に応じることは、正当な理由にあたると考えられます。
しかし、税務調査の範囲は弁護士報酬等の金銭の授受に関することに限られるためそれ以外の依頼者の相談内容や事件内容について守秘義務が解除されているわけではありません。
5、弁護士が守秘義務違反したら負うペナルティ
(1)刑事罰
正当な理由がないのに、業務上取り扱ったことについて知り得た他人の秘密を漏らしたときは秘密漏示罪という犯罪にあたります。(刑法第134条1項)
秘密漏示罪とされた場合には、6か月以下に懲役又は10万円以下の罰金に科せられます。
(2)民事上の損害賠償責任
弁護士が正当な理由なく依頼人の秘密を第三者に開示する行為は、弁護士と依頼人との間の委任契約に違反する行為です。
したがって、これにより損害が生じた場合は、弁護士には債務不履行に基づく損害賠償義務が課せられる可能性があります。
また、依頼者のみならず第三者について、弁護士の守秘義務違反により損害を被ったときにも、損害賠償を請求できる可能性があります。
(3)弁護士会による懲戒処分
弁護士の守秘義務違反は、弁護士職務規程違反・弁護士法違反に該当する行為です。
そのため、弁護士に守秘義務の違反があった場合には懲戒処分が課される可能性があります。
懲戒処分には、「戒告処分」、「業務停止処分」、「退会命令」、「除名」の4種類があります。
まとめ
今回は弁護士の守秘義務について解説してきました。
どんな簡単な相談であっても依頼者からの相談内容は守秘義務によって守られているということがお分かりにいただけたと思います。
また、守秘義務に違反した場合には、刑事責任・民事責任に伴い弁護士会からの懲戒処分という重いペナルティが課されています。
このような厳格な仕組みにより、依頼者や相談者の秘密は守られているのです。
したがって、安心して弁護士にお悩みを相談できるしくみが構築されているといえます。
弁護士に悩みを聞いてもらいたいと思っている方は、是非安心して相談・依頼してください。