以前、テレビ番組『マツコ&有吉の怒り新党』のなかで、公衆浴場の脱衣所など人が裸になる場所での、スマートフォンをはじめとした携帯電話の使用の是非が、議題として取り上げられました。
最近では、ほとんどの携帯電話にカメラ機能が付いています。撮影しているか否かにかかわらず、携帯電話を脱衣所などで取り出すだけでも、周囲を警戒させる迷惑行為では?という主張が番組上で展開されていました。
しかし番組でおこなった調査によると、53%の人が脱衣所での携帯電話の使用を「問題ない」ととらえており、意見が真っ二つに別れる結果に……ここに法的な論点は存在するのでしょうか。
ベリーベスト法律事務所の弁護士が説明します。
1、公衆浴場へのスマホ持ち込みはまだ法律で禁止できない
番組内での調査結果が仮に公平なものとして、このように世論が割れる場合、法整備が進むことは考えにくいでしょう。今後、脱衣所でのスマホ利用にまつわる事件が大きく報じられた場合は、問題に無関心な状態だった人も被害者目線に変化するため、法整備がなされる可能性はあります。
それでは、脱衣所などで携帯電話を使っている人に出くわしたときに、現行法の下ではどのような対応が可能なのでしょうか。
番組内で20ヶ所の公衆浴場に対しておこなわれた調査では、すべての浴場で「スマートフォンの使用を禁じている」旨の回答を得たということでした。施設の利用規約に反する行為に対しては、違反行為をやめるように注意することができます。
このとき、利用客同士のトラブルに発展する可能性もあるため、施設の管理者から注意してもらうほうが安全です。
施設管理者からの注意を無視して携帯電話の使用を続ける人に対しては、施設管理者は退去を求めることができます。施設の利用規約や掲示に、携帯電話の使用禁止にとどまらず「違反した場合は退去させる」ことまで記されていれば、違反者に退去を促す際の根拠にできます。
また、違反者が退去に応じなかった場合は、不退去罪(刑法130条)が成立する可能性もあります。
現状においては、一般の利用者としては、退去についても明記されているような公衆浴場を選ぶようにするのが比較的安全です。もっとも、施設に赴く前に利用規約を手軽に確認できる方法が用意されていないことがほとんどですから、その場合は施設へ電話をして確認しましょう。
携帯電話の使用についての対応や規約に関する問い合わせが増えると、施設管理者も利用規約掲示の整備や違反者への働きかけの強化といった対応を意識するはずです。
2、もし「撮影されているのでは?」と感じたら
撮影されていたことが疑われる場合は、使用の中止や退去にとどまらず、撮影データを消去させたり、警察に連絡するといった対応を取りたいとお思いになるでしょう。その場合の対処方法について説明します。
被害者が撮影したと疑われる人に対して直接問い詰めると、トラブルに発展するおそれがあるため注意が必要です。施設管理者を通して対応ができるなら、これに越したことはありません。
しかしながら、施設管理者が対応に消極的な場合もあります。その場合は、自分で警察を呼び、到着するまでのあいだ、撮影したと疑われる人に逃げられないようにしなければなりません。
撮影していたことが明らかなど、一定の要件を満たせば、迷惑防止条例違反を理由に「現行犯逮捕」(刑事訴訟法213条)として、一般人でも犯人を逮捕することができます。
なお、撮影していたかどうか明らかではない場合に、撮影したと疑われる人の身柄を拘束すると、「逮捕罪」(刑法220条)に問われるおそれがあります。
問い詰める際に、「相手の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知」すると、「脅迫罪」(刑法222条)に問われることもありますので、問い詰める際の言葉には注意してください。
もし盗撮されていたデータが見つかった場合、自分の裸が撮影されたものをそのままにされるのに耐えられない気持ちもあり、その場で消去したいという気持ちになるかと思います。
しかし、映像データは、捜査や裁判の際の重要な証拠となりますので、自分では消さずに、警察で証拠化されてから、消してもらうのがよいでしょう。