仮処分とはどのような手続きなのか?通常の裁判との違いや手続きの流れを解説

仮処分とはどのような手続きなのか?通常の裁判との違いや手続きの流れを解説

仮処分という言葉は耳にしたことがあったとしても、詳しい手続きの内容についてはご存じない方も多いでしょう。

そこで今回は、

  • 仮処分の手続き内容や流れ

などについて詳しく解説していきます。

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1、仮処分とは

仮処分とは、民事保全法に基づく手続きの1つです。

民事保全には大きく分けると「仮処分」と「仮差押」があります。

仮処分について知るためにも、民事保全がどのような手続きであり、仮差押とはどのように違うのか知っておきましょう。

(1)民事保全手続き

民事保全手続きとは、民事訴訟の結論が出るまでの期間を待たずに暫定的措置を行うための手続きです。

一般的な民事訴訟では、結論が出るまでに数カ月~数年という時間がかかってしまいます。

しかし、判決を待っていては、相手が財産を隠してしまうなどの不利益が生じる可能性があります。

そのような場合には、民事保全手続きによる暫定的な処分や差押えを行うことができる可能性がります。

例えば、債権トラブルにおける訴訟などを行ったとしても、訴訟の結果を待っている間に相手が所得隠しをした場合、勝訴したとしても回収ができない可能性があります。

そのため、財産の処分を禁止するなど、訴訟が無駄にならないように民事保全手続きを行うのです。

(2)仮処分と仮差押の違い

民事保全には大きく分けると「仮処分」と「仮差押」の手続きがあり、それぞれ異なるものです。

仮差押は、金銭債権を保全する目的とする場合に利用されます。

金銭の支払いを目的とする債権の場合、訴訟の結果を待っていれば相手が財産を処分してしまう可能性があります。

そうすれば、強制執行による差押えが出来なくなってしまうため、財産や不動産を訴訟の結論を待たずに仮の差押えを行うことができます。

一方で、仮処分は金銭以外の権利を保全する目的で利用されます。

訴訟結果を待っていれば金銭以外の権利で何らかの不利益が生じるような場合、仮処分によって権利を譲渡・移転などできないようにすることができます。

2、仮処分の種類

仮処分にはいくつかの種類があり、目的や態様によって分けられます。

大きく分けると「係争物に関する仮処分」と「仮の地位を定める仮処分」の2種類になりますが、この2種類から更に細かく処分が分けられています。

(1)係争物に関する仮処分

係争物に関する仮処分とは、金銭債権以外の権利執行を保全するために「現状維持」を命じる手続きです。

係争物に関する仮処分には、「占有移転禁止の仮処分」と「処分禁止の仮処分」の2種類が存在します。

①占有移転禁止の仮処分

占有移転禁止の仮処分とは、不動産などの占有を他人に移転することを禁ずつことで明渡請求権を保全するための手続きです。

例えば、賃貸契約の修了などで建物の明け渡しを求める訴訟を行う場合、訴訟中に相手が第三者を住まわせるなどして建物を占有してしまう可能性があります。

そうすると、新たに建物を占有した第三者は債務者とは異なるので明け渡しの強制執行は行えず、裁判で勝訴したとしても目的を達成出来なくなります。

そこで、第三者に占有を移すような恐れがある時に占有移転禁止の仮処分の手続きを行い、相手が第三者に占有を移転出来ないように措置を講じます。

②処分禁止の仮処分

処分禁止の仮処分とは、不動産の登記名義の移転や抵当権設定などを行って不動産を処分することを禁止する手続きです。

例えば、自分の所有する不当産の登記が他人名義になっているので抹消登記を求める裁判を行っている場合、訴訟中に第三者に登記が移転されるなど不動産が処分されてしまう可能性があります。

そうすると、抹消登記請求の目的を達することが出来なくなる可能性があるため、処分禁止の仮処分手続きを行うことがあります。

(2)仮の地位を定める仮処分

仮の地位を定める仮処分とは、争いのある権利関係で生じる損害や危険から現権利者を守るために、訴訟開始前に法的な地位を仮に認めることで権利を保全する手続きです。

仮の地位を定める仮処分は、仮差押と係争物に関する仮処分以外のものが含まれるため、仮処分の範囲が広くなっています。

仮の地位を定める仮処分は、主に次のようなケースで利用されます。

①金員仮払い

金員仮払いとは、相手に仮に金銭を支払わせることを指します。

訴訟の結果を待っていれば被害者が生活に困窮してしまう可能性や、支払いが受けられなくなるような恐れがある場合に仮処分が認められ、相手に仮に金銭を支払わせることができるのです。

労働者が会社に対して不当解雇などを訴える労働裁判において利用されることが多くなっています。

未払の給料が得られずに労働者が困窮する可能性がある場合に仮処分が認められる可能性があります。

また、交通事故の被害を受けた場合などにも利用されることがあります。

②建築工事禁止の仮処分

建物などの建築工事を禁止する場合にも、仮の地位を定める仮処分が利用されます。

裁判の結果を待っていれば建築物などが建ってしまい、何らかの権利や利益が侵害されるような恐れがある場合には建築続行を禁止する仮処分が命じられます。

例えば、所有する土地に勝手に壁などを作られてしまいそうな場合や、隣に建築物が建つことで何らかの被害が発生する場合などに認められます。

③名誉棄損やプライバシー権侵害

名誉棄損やプライバシー権侵害が危惧されるような場合には、仮の地位を定める仮処分により権利を守ることができます。

近年ではインターネット上の誹謗中傷記事へ手続きが行われることが多く、仮の地位を定める仮処分が命じられれば記事の削除を求めることができます。

また、名誉棄損やプライバシー権侵害の恐れがある出版物に関しては、出版差し止めの請求を行うことができます。

3、仮処分手続きを利用するための要件

仮処分手続きを利用するには、一定の要件を満たしている必要があります。

仮処分手続きの要件は、「被保全権利」と「保全の必要性」です。

これらの要件を満たしていなければ仮処分手続きを利用することは出来ません。

(1)被保全権利の存在

被保全権利とは、仮処分手続きにより保全されるべき権利のことを指します。

仮処分手続きを行うのであれば、権利が侵害されている、もしくは侵害される恐れがある権利があることが前提になります。

(2)保全の必要性

保全の必要性とは、権利の侵害や危険を避けるために緊急の措置が必要かどうかということを指します。

仮処分が認められれば相手は権利が制限されて大きな影響を受けることになるため、保全の必要性も考慮されます。

保全の必要性の判断基準には、債務者の財産や収入、職業、地位などが挙げられます。

、仮処分手続きの流れ

仮処分手続きは、訴訟の結果を待つことができないような状態の場合に利用します。

仮処分手続きを利用した場合、どのような流れで手続きが進むのか見ていきましょう。

(1)裁判所に申し立てをする

仮処分手続きを利用するには、「仮処分申立書」を作成して地方裁判所に提出します。

申立てを行うには、「被保全権利」と「保全の必要性」を疎明する必要があります。

また、証拠書類も一緒に提出する必要があるため、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。

(2)裁判所による審理

申立書が受理されると、審問期日が決められます。

そして、審問期日には裁判所にて審問が開かれます。

答弁書を提出して互いの主張に反論を行いますが、弁護士に依頼している場合には当事者が裁判所へ出廷する必要はありません。

(3)担保金の支払い

審理を経て裁判所が仮処分の申立てを認めた場合、裁判所が決定した担保金を供託しなければならないケースがあります。

担保金とは、違法もしくは不当な仮処分が執行されることで債務者に損害が生じた場合の損害賠償を担保するものです。

担保金は目的物の価格の15~30%が相場となり、通常は裁判の結果が出た後に手続きを行うことで還付を受けられます。

担保金の有無や金額は、裁判所の裁量にて決定されます。

(4)仮処分命令の発令

裁判官が仮処分命令を出す要件を満たしていると判断すれば、仮処分命令が発令されます。

担保金の支払いが命じられている場合には、担保を供託することで仮処分命令の発令手続きが行われるようになります。

しかし、担保提供期間内に担保が立てられなければ申立てが却下されてしまうので注意が必要です。

、仮処分と通常の裁判の関係性

仮処分とは、通常の裁判の結果を待っていれば損害や危険が生じる恐れがあるために行われる手続きです。

仮処分と通常の裁判の違いや、仮処分から本訴(通常の裁判)を行うタイミングなど関係性について解説します。

(1)仮処分と通常の裁判の違い

仮処分はあくまでも仮の処分であり、暫定的な措置です。

そのため、通常の裁判が行われて結果次第では仮処分の判断が覆されてしまう可能性もあります。

一方で、本訴の結果は絶対的な決定事項です。

そのため、仮処分のように結果が覆るようなことは基本的にはありません。

また、仮処分は仮の処分になるので早く結論が出ますが、本訴は数カ月~数年という時間がかかるという違いもあります。

(2)仮処分から本訴を行うタイミング

本訴の結果を待つと不利益や損害が生じることを防ぐために仮処分手続きが利用されます。

そのため、一般的には仮処分手続きを行ってから本訴が行われます。

しかし、本訴前に仮処分を行わなければならないという規定はないため、仮処分と本訴を同時に申請することも可能です。

(3)仮処分だけで本訴を行わないこともできる

仮処分は本訴を行うことを前提に申立てが行われますが、仮処分だけで本訴を行わないという選択も可能です。

仮処分だけで目的が達成できるようなケースでは、本訴を行わないようなケースもあります。

しかし、本訴を行わない場合には債務者から「起訴命令の申立」が行われる可能性があります。

起訴命令とは、債権者に対して裁判所が本訴を提起するように命令することです。

起訴命令が出た場合には本訴を提起しなければならず、本訴を提起しなければ債務者は仮処分命令を取り消すことができるようになります。

6、仮処分の申立てにかかる費用

仮処分の申立てを行う場合、かかる費用は「実費」と「担保金」と「弁護士費用」です。

裁判所に申立てを行うには手数料として数千円~数万円の収入印紙や、数千円の予納郵便切手が必要です。

また、仮処分命令が発令されることになれば、前述しているように担保金を供託しなければなりません。

そして、仮処分の申立てを行うには知識が必要となるため弁護士への依頼を行うことが大半ですが、弁護士費用として着手金や報酬金が発生します。
具体的な金額については、法律事務所へお問い合わせください。

まとめ

仮処分手続きについて解説してきましたが、仮処分手続きは専門性が高く複雑な手続きであると言えます。

しかし、裁判の結果を待っていては何かしらの損害や危険を被る恐れがある場合には、権利を保全するためにも仮処分手続きを行う必要があります。

裁判の結果を待っていると不都合が生じるような場合には、早急に弁護士に相談して仮処分手続きを行うようにしましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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