民法改正は120年ぶり!押さえたい5つのポイントを弁護士が解説

民法改正

民法改正が行われ、その改正内容について知りたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし「どういった部分が自分たちの生活に大きく影響するか」が分からないとお困りのこともあるかと思います。

そこで今回は、

  • 民法改正が行われた目的
  • 改正前の問題点
  • 具体的な改正内容

等について、ご説明したいと思います。ご参考になれば幸いです。

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1、民法改正|目的は現代社会に対応するため

民法改正|目的は現代社会に対応するため

120年前に作成された法律では、実情に合わない部分がいくつも出てきます。
今まで民法に明記されていない部分については、民法学者や法曹実務家が解釈で補ったり、判決が有力な先例として取引を規律したり、特定分野について特別法が制定されたりと様々な形でカバーされてきました。

しかし今回、実情に合わない部分は現代に適応する内容に修正され、存在しなかったルールも明文化するような改正が行われました。

2、法定利率はひとまず3%|3年ごとに見直しへ

法定利率はひとまず3%|3年ごとに見直しへ

改正民法404条(法定利率)

利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。

2 法定利率は、年三パーセントとする。

3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。

(1)高すぎた法定利率

「実情に合わない部分」の改正の典型といえるのが法定利率の改正です。

お金を支払わなければならない人が支払いを遅らせてしまった場合、ペナルティとなる利率は、改正前民法404条においては「年五分」…1年にあたり5%…と規定されています(ペナルティについて当事者間で特別に定めている場合はその利率に従います。定めていない場合に適用される利率です)。

一方、バブル崩壊以降、預金をした場合の利率の下落は止まらず、今では年利1%も下回って手数料で消えてしまうとお嘆きの方も多いのではないでしょうか。

そのような実情では、標準となる法定利率を年利5%とするのはあまりにも高すぎて支払いが遅れた人に酷なことです(たとえ遅れずに支払っていたとしても、お金を受け取った人は1年あたり5%も増やせなかったはずだ、という発想です)。

(2)今後は3%に

そこで、改正民法においては、この法定利率をひとまず年5%から3%に変更されました。

この法定利率はずっと固定されるものではありません。
年利3%が実情に合わない場合、再び同じ問題が生じてしまいますから、あらかじめ利率の改定を想定し3年ごとに見直す条項も設けられました。

3、時効制度が大きく変わります

時効制度が大きく変わります

(1)権利を主張できなくなる「消滅時効」制度に様々な変化が

権利を一定期間行使していなかった場合に、権利主張ができなくなる「消滅時効」についても「どの段階で時効が完成したことにするか」という時効期間を中心に多くの改正が行われています。

今回は「消滅時効期間」にスポットを当ててご説明します。

(2)主観的起算点(知った時)の新設

改正民法166条(債権等の消滅時効)

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。  

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。  

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。

消滅時効の完成について原則的なルールが変更されています。

改正前民法においては「債権」(人が人に対して、何かすること/しないことを求める権利)についての消滅時効期間は、原則として10年とされていました。
これは債権を持つ「債権者」(たとえばお金の貸し借りなら、貸したお金を返しなさいといえる貸主)が権利について知っていても・知らなくても10年で時効が完成する、ということです。

改正民法においてもこの原則は据え置きですが、「債権者が権利を行使できることを知った時から五年間」という形で、より短い時効期間も加えられました。
そのため、権利を主張できることを知っていたけれど放置してしまった、という場合には半分の5年間で時効にかかりますので注意が必要です。

一部例外はあると思いますが、たいていの場合は権利を行使できる時に権利を主張できることを知るものです。
そのため、たいていのケースでは5年となることが予想されます。

(3)人の生命又は身体の侵害についての損害賠償請求権の時効期間

誰かの不手際で怪我をしてしまった又は命を落としてしまった場合、その「誰か」に対して損害賠償を請求できる権利の時効期間について、被害者保護の観点から重要な改正が行われています。

改正民法724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。

二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。

まず、他者から故意または過失によって被害を受けた場合に損害賠償を請求する権利については(これを「不法行為」といいます。)、従前の「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間」という短期の消滅時効期間が維持されており、これが原則となります。

改正民法724条の2(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号(編注:724条1号)の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。

しかし、故意又は過失によって「生命又は身体」に被害を受けた方は、損害賠償請求権の時効期間を「損害及び加害者を知った時から」「五年間」となっており、改正民法724条の規定する「三年間」よりも2年分長くなっています。

改正民法167条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号(編注:166条1項2号)の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。    

先ほどご説明した改正民法166条1項2号の定める「権利を行使することができる時から十年間」という消滅時効期間についても、改正民法167条は「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権」の場合には、例外的に時効が完成するまで権利を行使することができる時から20年必要になるよう特別の定めを設けています。  

これは、(交通事故などの不法行為ではなく)「債務不履行」(課せられた義務を果たさなかったこと)によって生じる損害賠償責任(たとえば、合意どおりに治療しなかった医療過誤、職場における監督者の安全配慮義務違反など)を追及する場合に重要な意味を持ちます。

医療過誤や職場の事故で亡くなってしまった場合、亡くなってすぐには第三者の不手際があったことが判明しないことも多いため、ご遺族が損害賠償請求を行う場合には特に重要な改正といえるでしょう。

4、個人根保証契約では極度額を定める必要があります

個人根保証契約では極度額を定める必要があります

改正民法465条の2(個人根保証契約の保証人の責任等)

一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。

2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

3 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。

(1)そもそも個人根保証契約とは

「個人根保証契約」と言われても、耳慣れない・あまりイメージができない方も多いのではないでしょうか。

「根保証」とは、継続的な取引関係の中で発生する様々な債務について保証するものです。  
改正前民法465条の2では、個人が「貸金等債務」について根保証を行う場合には、「極度額」(限度額)の定めがなければ無効、と規定していました。
際限なく借金が膨らむ可能性があることから、保証した人の責任を限定する形で保護するための規定です。

(2)個人根保証全体への拡大

改正民法では、上記の「個人が根保証する際には限度額を定めなさい」という制限を、貸金等の債務だけでなく根保証契約全体に拡大しています。

この影響が最も大きいと考えられるのが、不動産業界です。
不動産を借りるときには通常、賃料等を確保するため保証が求められますが、その際、保証の内容としては「連帯保証人は借主と連帯して、本契約が存続する限り、本契約から生じる借主の一切の債務を負担する」等と規定されているのが通例です。
このような文言の保証契約も、まさしく根保証契約ですから、保証会社等の法人ではなく個人(借りる人の親戚など)が保証する際には、限度額を定めなければ無効になります。

身近な契約…という意味では多くの人に影響のある改正といえますが、実際に気を付けなければならないのは不動産を貸す・賃貸を仲介する方々でしょう。

5、相殺禁止の緩和

相殺禁止の緩和

改正民法第509条(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)

次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。

一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務

二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)

(1)物損事故の解決にも変化が

最後に、われわれにとって最も身近な紛争のひとつである交通事故に関わる改正について、もう1点触れておきます。

改正民法においても、たとえば出会い頭の事故でお互いに過失がある形でどちらの自動車も壊れてしまった場合、運転していた当事者たちは、互いに相手に対して過失によって人に損害を与える「不法行為」を行ったことになり、自動車の修理代等の損害を賠償する責任を負います。

(2)改正前民法における「相殺禁止」

過失によって人から損害を与えられた場合、その賠償を求めることができる権利については、改正前民法においては相殺することが禁じられていました。
理由としては、「不法行為」を受けた人が、たまたま加害者に借金があったりした場合に現実にお金を受け取れないことが酷である、相殺が可能だと報復を誘発してしまう(50万円の物を壊した相手の物であれば、50万円までならタダで壊せることになってしまいます)、といったことが挙げられます。

不法行為といっても、故意に大けがをさせたような刑事罰まで科される悪質なものから、非常に軽微なもの(たとえば飲食店でコップを落として割ってしまった場合も厳密にいえば不法行為が成立しえます)まで様々です。

(3)一部のケースを除いて相殺が許されるように

そこで、改正民法509条においては、「悪意による不法行為に基づく損害賠償」、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償」以外のケースでは、不法行為によって生じた損害賠償請求権であっても他の権利と相殺することが許されるようになりました。

(4)物損事故における相殺

たとえば、交通事故でお互いの過失が同じ(50対50)で互いに修理代の半分を負担しなければならず、Aさんの自動車の修理費用が100万円、Bさんの自動車の修理費用が50万円というケースで考えてみましょう。

AさんはBさんの車の修理費用のうち50%の25万円分の賠償義務を負い、また、Bさんに対して修理費用のうち50%の50万円を請求できることになります。
この場合に、Aさんとしては、Bさんから「修理代25万円払え」と請求された場合に「Bさんも50万円支払う責任がある。そのうちの25万円分を、支払わなければならない25万円分と相殺する」と反論して、支払いを免れることができるのです。

まとめ

今回は民法改正について、重要かつイメージしやすい改正点を中心にご案内しました。

不動産賃貸と根保証契約についての改正のように、改正前と同じように契約をしてしまうと大変なことになるケースが多々あります。
改正内容を網羅的に把握するというのはなかなか大変なことです。
自分の身の周り、あるいは経営する会社の取引関係への影響が心配な場合は、ぜひお早めに、弁護士など専門家に相談してみてください。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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