「工事遅延により、建築を依頼していた住宅が約束の期日までに引き渡されない!損害賠償は請求できるのだろうか?」
このような状況でお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
個人で注文住宅の建築を依頼した場合、引き渡しが遅れると仮住まい費用などで余分な支出が増えるという損害を受けることがあるでしょう。
住宅販売を手がける不動産会社が施工業者に依頼した場合は、予定どおりに買主に対して住宅を引き渡せず、やはり損害が生じることがあると思います。
いずれにせよ、住宅建築の工事が遅延した場合、施主は施工業者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
今回は、
- 工事遅延で損害賠償請求できるケースとできないケース
- 工事遅延で賠償請求できる損害の範囲
- 契約書や約款に違約金の定めがある場合の注意点
などについて、弁護士が分かりやすく解説していきます。
個人で依頼した方も、企業として依頼した場合の担当者の方も、工事遅延の損害賠償問題をお困りの方は、この記事を参考にしていただけると幸いです。
目次
1、損賠賠償の対象となる「工事遅延」とは?
損害賠償の対象となる「工事遅延」とは、契約で予定された引き渡し期日までに工事が完了せず、引き渡されない場合のことをいいます。
そもそも工事遅延で損害賠償請求が可能となるのは、施工業者に債務不履行があった場合です。
施工業者に住宅の建築を依頼する契約のことを、法律上、「請負契約」といいます。
住宅建築の請負契約においては、建築工事を完成させ、完成した住宅を施主に引き渡すことまでが、施工業者が負う「債務」となります(民法第632条、第633条)。
したがって、引き渡し期日に間に合ったかどうかが、債務不履行に当たるかどうかの判断基準となります。
建築工事においては、最終の引き渡し期日だけでなく、工程ごとにスケジュールがある程度細かく決められていることが多いものです。
しかし、途中で一時期的な遅れが生じても、最終の引き渡し期日までに工事が完了し、予定どおりに引き渡された場合は損害賠償の対象にはなりません。
引き渡し予定日は契約書に記載されているはずなので、しっかりと確認しましょう。
2、工事遅延で損害賠償請求できるケースとできないケース
引き渡し期日までに建築工事が間に合わなかった場合は債務不履行となり、損害賠償を請求できる可能性があります。
ただ、損害賠償請求ができるかどうかは、施工業者に遅延の原因があるかどうかによって異なってきます。以下で詳しくみていきましょう。
(1)施工業者に遅延の原因がある場合
債務不履行とは、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないことを意味します。債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができます(民法第415条1項本文)。
住宅の建築工事を請け負った施工業者が引き渡し期日までに住宅を引き渡さなければ、債務の本旨に従った履行をしなかったことになりますので、施主は損害賠償請求が可能となります。
ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、債務者は損害賠償責任を負わないものとされています(同項ただし書き)。
施工業者に遅延の原因がある場合は、原則どおり施主は損害賠償請求が可能です。
施工業者が責任を負うべき遅延の原因としては、様々なことが考えられますが、主に以下のような事由が挙げられます。
- 発注ミスにより資材の搬入が遅れた
- 人手不足で職人を確保できなかった
- 職人のミスや技術不足
- 工程管理上の不手際
- 不必要な追加工事や変更工事を行った
- 工事をまったく進めようとしない(経営の行き詰まりで工事を放置する等)
その他にも施工業者の責任となるケースがあり得ますが、判断が難しい場合には弁護士に相談して確認した方がよいでしょう。
(2)施主に遅延の原因がある場合
施主に遅延の原因がある場合には、施工業者に遅延の責めを負わせることはできませんので、施主の損害賠償請求は認められません。
施主が作る原因にも様々なものが考えられますが、主に以下のような事由が挙げられます。
- 当初の請負契約になかった追加工事や変更工事を指示した
- 調達困難な特殊な資材を使用するよう指示した
ただ、施主の指示によって工事が遅延したかのように思える場合でも、施工業者が設計図書とは異なる工事を進めていたため、施主が変更を求めたというようなケースも考えられます。
やはり、どちらに遅延の原因があるかについては、慎重に判断する必要があります。
(3)不可抗力で工事が遅延した場合
不可抗力で工事が遅延した場合も、施工業者の責めに帰することはできないため、施主は損害賠償請求ができません。
一般的に以下のような事由は不可抗力に当たると考えられています。
- 大型の台風や地震などの自然災害で工事に支障をきたした
- 災害によって物流が麻痺し、資材などの搬入が遅れた
- 敷地から埋設物が出てきた
なお、通常想定される範囲内の「悪天候」は不可抗力となりませんが、異常気象により想定外の大雨が続いたような場合には不可抗力と認められることもあります。
判断が難しい場合には、施工業者の言い分を鵜呑みにするのではなく、弁護士に相談することをおすすめします。
3、工事遅延で賠償請求できる損害の範囲
施工業者に原因がある工事遅延で賠償請求できる損害の範囲は、債務不履行によって通常生ずべき損害となるのが原則です(民法第416条1項)。
主に問題となる損害項目は、以下のとおりです。
(1)仮住まい費用
工事が遅延したために仮住まい費用が余分にかかった場合は、その費用を損害として賠償請求できます。
請求できる金額は、1日あたりの損害額を割り出した上で、これに遅延した日数をかけて算出します。
例えば、家賃が月10万円の賃貸住宅に仮住まいしていたところ、依頼した住宅の引き渡しが1ヶ月半遅れ、その間、仮住まいの家賃が余分にかかったとすれば、賠償額は次の計算式により15万円となります。
(計算式)
1ヶ月分の仮住まい費用10万円÷30日(日割り)×45日(遅延日数)=15万円
(2)引越し費用
工事が遅延したことが原因で仮住まいのために引越しが必要となった場合は、その引越し費用についても賠償請求が可能です。
例えば、もともと仮住まいしていた賃貸住宅について、引き渡し予定日に合わせて解約を申し入れていたところ、引き渡し予定日以降はそこを引き払わざるを得ず、別の賃貸住宅に移ることを余儀なくされたような場合が考えられます。
(3)営業利益
工事が遅延したために得られなくなった営業利益についても、通常想定されるものは賠償請求できます。
例えば、不動産賃貸を営んでいる場合であれば、物件の引き渡しを受けるまでは人に貸すことができませんので、賃料収入が入ってきません。
したがって、遅延した期間に応じて見込まれる賃料収入に相当する金額について賠償請求が可能です。
住宅販売を手がけている企業であれば、買主への引き渡しが遅れることで仮住まい費用や引越し費用などの補償を求められることがあるでしょう。
これらの費用に相当する金額について、施工業者に損害賠償請求をすることができます。
なお、民法上、特別の事情によって生じた損害(特別損害)については、当事者がその事情を予見すべきであったときに限り、債権者からの損害賠償請求が可能とされています(同法第416条2項)。
例えば、引き渡し予定日までにその物件が引き渡されていれば9,000万円で売れたところ、3ヶ月遅れたために3,000万円でしか売れなかったというような場合が考えられます。
仮に、施主が請負契約時にこのような見通しを説明して具体的な時期までに施工することを依頼し、施工業者も了解して工期を設定していたような場合には、差額の6,000万円について施主による損害賠償請求が認められる可能性があります。
(4)慰謝料
場合によっては慰謝料請求ができる可能性もありますが、認められるケースは少ないのが実情です。
慰謝料とは、他人の不法行為によって受けた精神的損害に対して支払われる損害賠償金のことです。
したがって、慰謝料請求が認められるのは、工事遅延に関する施工業者の故意・過失が不法行為と認められるほどに悪質な場合に限られます。
認められたとしても、金額は数万円から多くても数十万円程度にとどまるでしょう。
裁判例では、慰謝料200万円が認められた事例(仙台高裁平成13年11月28日判決)があります。
ただし、この事案では施工業者が施主との打ち合わせに十分な意を注がなかった上に、打ち合せ等で合意した内容を工事に的確に反映させず、完成遅延についても工期遵守の姿勢に乏しいのみならず、施主への対応も不誠実なものであったなど、相当悪質な事情があったとされています。
加えて、完成した物件には様々な欠陥があったことも認められており、これらの事情を総合的に考慮して慰謝料200万円が認められたのです。
一般的な工事遅延のみで100万円~200万円といった高額の慰謝料請求が認められることは、あまり考えがたいといえます。
慰謝料請求が認められるケースを特定することは不可能ですが、例えば、新築注文住宅で施工に伴う健康被害が伴った場合や生活上の不便さが長引いた場合などは、そのことを立証できるのであれば、認められる可能性があるかもしれません。
4、契約書や約款に違約金の定めがある場合の注意点
前項でご説明した損害賠償請求の内容は、民法の原則として認められるものですが、実際には契約書や約款に「違約金」の定めがある場合が多いことに注意が必要です。
違約金とは、法律上は「損害賠償額の予定」と呼ばれているものです(民法第420条3項)。
違約金の定めがあると、債務不履行があった場合に具体的な損害額を立証することなく所定の金額を受け取れますが、その反面で、実際の損害額が違約金を上回る場合でも、違約金の額を超える損害賠償の請求はできないという問題があります。
そして、住宅建築の請負契約において、違約金の1日あたりの金額は請負代金額の1万分の1~1万分の4程度とされているのが相場です。
しかも、出来高部分相当額は控除して計算されるため、実際には1日あたり数千円程度しかもらえないことが多くなっています。
施主は、基本的にこの金額で全ての損害を賄わなければなりません。
違約金の定めが施主にとってあまりにも不利な内容となっている場合は、理論的には公序良俗違反(民法第90条)や信義則違反(同法第1条2項)、あるいは消費者契約法第10条に基づき無効を主張することもできます。
ただ、実際の損害額が違約金の額を超えるというだけではこれらの主張は認められません。
施工業者の対応が悪質である場合には、施工業者が違約金の定めを適用することは権利の濫用(民法第1条3項)に当たり認められないという主張をすることも考えられます。
前項「3」(4)でご紹介した裁判例の事案でも「1万分の1」という違約金の定めがありました。
しかし、裁判所は施工業者の対応の悪質さや完成した物件に欠陥があったことなどから、施主には「違約金では償いきれない精神的損害がある」と認め、違約金を超える慰謝料額の支払いを命じています。
このように、違約金の額を超える損害賠償請求が認められるケースもありますので、困ったときは弁護士に相談してみることをおすすめします。
5、引き渡し予定日までに引き渡されたものの工事が不十分であるときの対処法
施工業者によっては、引き渡し期日を守るために突貫工事を行い、予定どおりに引き渡すという仕事をすることもあります。
しかし、引き渡しを受けた物件の工事が不十分であれば、施主としては「工事が完了していないから引き渡し期日が守られていない」という主張をしたくもなることでしょう。
この問題についても、裁判例(東京高裁昭和36年12月20日判決)に基づいて解説していきます。
(1)予定された工程が終了していない場合は工事遅延
この裁判例では、建築工事の請負契約において仕事が完成したかどうかの判断基準として、「工事が予定された最後の工程まで一応終了」したかどうかという点を掲げています。
つまり、予定された最後の行程を終えずに工事が中断された場合には、工事未完成ということになります。
この場合、施工業者に対しては当然ながら工事を完成させるように請求できますが、引き渡し期日を過ぎた後は工事遅延となるため、前記「3」でご紹介した各損害の賠償請求も可能となります。
(2)予定された工程が終了している場合は施工不良
一方で、とにもかくにも工事が予定された最後の工程まで一応終了している場合は、仕事を完成したことになるため、工事遅延の問題とはなりません。
工事が不完全であり、補修しなければ完全なものにならないという場合は施工不良の問題となりますので、履行の追完(民法第559条、第562条)や、請負代金の減額(同法第559条、第562条、第563条)を施工業者に請求できます。
6、マイホームの工事遅延で損害賠償請求をお考えなら弁護士に相談を
マイホームの工事遅延で損害賠償請求をしても、施工業者が誠意のある対応をしてくれないケースが少なくありません。
明らかに施工業者に遅延の原因がある場合でも、「素人には分からないだろう」との考えから不可抗力を主張してくることがよくあります。
施工業者が非を認めたとしても、多くの場合は違約金を超える賠償金を支払おうとはしないものです。
施工業者との交渉がスムーズにいかない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
相談するだけでも、損害賠償請求の可否や請求できる場合の金額、具体的な解決方法などについてアドバイスが受けられます。
損害賠償請求をする場合には、弁護士に依頼すれば施工業者の交渉も裁判手続きも代行してくれます。そのために必要な証拠の収集もサポートしてもらえます。
弁護士の力を借りて、適切に損害賠償請求を行うようにしましょう。
まとめ
せっかくマイホームの建築を依頼したにもかかわらず、工事遅延により引き渡しが遅れると損害賠償を求めたくなるのは当然のことです。
ただ、損害賠償請求が可能かどうか、請求できるとしても金額を的確に算出するためには、法律の専門的な知識が要求されます。
また、建築の素人が施工業者と対等に交渉したり、裁判で争ったりすることは難しいのが実情です。
お困りのときは、一人で悩まず弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。