取得した新築住宅に施工不良の箇所があった場合、損害賠償を請求できるケースもありますが、できないケースもあります。
注文住宅にせよ建売住宅にせよ、施工不良による欠陥が発覚した場合には施工業者や売主に対して補修することを請求できます。保険に入っている場合には、補修費用を保険でまかなうことも可能な場合もあります。
しかし、施工不良が原因で何らかの財産的損害が発生していることもあるでしょうし、精神的につらい思いを余儀なくされることもあるでしょう。そんな場合には、無償で補修してもらうだけでは納得できず、損害賠償を請求したいと考えるのも当然のことです。
そこで今回は、
- 施工不良で損害賠償を請求できるケース
- 施工不良の損害賠償として請求できるもの
- 施工不良の損賠賠償請求をする方法
などについて、建築紛争の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
この記事が、せっかく新築住宅を取得したにもかかわらず、施工不良による欠陥でお悩みの方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、施工不良で損害賠償を請求できるケース
新築住宅に施工不良があったとしても、すべてのケースで損害賠償請求ができるわけではありません。
損害賠償請求が可能となる法的根拠としては、「契約不適合責任」と「不法行為責任」の2つがあります。以下で、それぞれについてご説明します。
(1)建物に欠陥がある場合(契約不適合責任)
引き渡しを受けた新築住宅に欠陥がある場合には、施工業者や売主の「契約不適合責任」を問うことにより、損害賠償請求ができる可能性があります。
契約不適合責任とは、売買契約や請負契約の目的物が、種類又は品質の面で契約の内容に適合しない場合に、売主・請負人が負う責任のことです。施工不良による欠陥のために損害が発生した場合には、
- 建売住宅を購入した場合は売主に対して
- 注文住宅を建築した場合は請負人に対して
それぞれ、損害賠償請求ができます。
ただし、欠陥が軽微で財産的損害が発生していない場合は、損害賠償請求はできません。
なお、契約不適合責任は、以前は「瑕疵担保責任」というものでしたが、2020年4月1日から施行された改正民法で「契約不適合責任」に変更されました。
ただし、特別法では現在でも「瑕疵担保責任」という言葉が使われています。住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)では、住宅に欠陥がある場合のうち、
- 構造耐力上主要な部分
- 雨水の浸入を防止する部分
のどちらかに瑕疵(欠陥)がある場合には、施工業者および売主が一定期間責任を負うことが強制されています。品確法では、現在でも、この責任は「瑕疵担保責任」と呼ばれています。
契約不適合や瑕疵とは、契約の目的物が、契約上予定されていた種類や品質を満たしていない状態であることを指します。
(2)不法行為が行われた場合(不法行為責任)
不法行為責任とは、故意または過失によって、他人の権利や法律上保護される利益を侵害したときに、相手に損害が発生した場合に行為者が負わなければならない責任のことです(民法第709条、第710条)。
施工業者の不法行為としては、意図的あるいは不注意による施工不良によって、生命、身体、財産に危険を及ぼすような、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵ある建物を施工してしまった場合が考えられます。
売主の場合は、売主自身が、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵のある建物の設計・施工に携わっていたのであれば、不法行為責任を負います。また、設計や施工に携わっていなかったとしても、売主が、売却した住宅に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があることを知りながら買主に告げなかった場合には、不法行為責任が発生する可能性もあります。
施工業者や売主に不法行為責任が認められる場合は、契約不適合責任・瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求とは別に、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。
2、施工不良の損害賠償として請求できるもの
次に、施工不良を原因とする損害賠償請求が可能な場合に、どのような賠償を求めることができるのかを解説します。
(1)契約不適合責任の場合
契約不適合責任に基づく責任追及には、修補請求や代金減額請求などもありますが、損害賠償請求も可能です。
損害賠償請求ができる費用は、具体的には、
- 瑕疵の補修費用
- 補修工事中の仮住まい費用や引越費用
- 必要がある範囲内での適正な調査費用
などの支払いを請求できます。
また、建物の瑕疵は、基本的に財産的損害であり、それが賠償されれば損害は填補されると考えられますが、住宅などの場合は、一生に一度のマイホームという特性がありますので、財産的損害の賠償だけでは填補されない精神的苦痛を被ったということを立証できれば、慰謝料請求が認められるケースもあります。
弁護士費用も、建築訴訟は専門的で専門家の助力が必要と考えられるので、訴訟では請求が認容された額の1割程度の弁護士費用が認められることが多いです。
また、瑕疵により、居住者等の生命・身体・財産まで侵害されたような場合には、そうした拡大損害も瑕疵により生じたものであると考えるのが、社会的に相当であると考えられる場合には、
- 治療費や休業損害
- 葬儀費用
- 生命・身体が損なわれたことによる慰謝料
- 損壊した財産の相当額
などについても請求できる場合があります。
(2)不法行為責任の場合
住宅の施工不良について不法行為責任を問う場合には、修補請求といったことはできず、金銭的な支払を求める損害賠償請求ができるだけになります。
損害賠償できる範囲は、契約不適合責任と同じです。
3、施工不良の損害賠償はいつまで請求できる?
住宅の施工不良に基づく損害賠償請求が認められる場合でも、いつまでも請求可能なわけではありません。請求権の法的根拠に応じて、期間制限が法律で定められているからです。
以下で、それぞれ別に解説していきます。
(1)民法上の契約不適合責任の期間制限
民法上の契約不適合責任を根拠とする損害賠償請求権は、買主(建売住宅の場合)・注文者(注文住宅の場合)が、契約の内容に適合しない欠陥があることを知ってから1年以内に、契約不適合の事実を相手方に通知しなければなりません(買主について同法第566条、注文者について同法第637条1項)。
この通知は、裁判外の通知で足り、通知を行っておけば契約不適合責任にもとづく損害賠償請求権が保存され、5年間の時効期間内、権利が存続することになります。
ただし、1年が経過してしまっても、一定の重大な瑕疵については、その後も次の品確法上の瑕疵担保責任を根拠とする損害賠償を請求できる可能性があります。
(2)品確法上の瑕疵担保責任の期間制限
住宅のうち構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分に瑕疵がある場合には、引き渡しを受けてから10年間、施工業者や売主に対して損害賠償請求をすることができます(施工業者について同法第94条1項、売主について同法第95条1項)。
これらの規定は、住宅取得者を保護するために制定されたものです。安全かつ快適に居住するために、重要な部分に瑕疵がある場合には、施工業者・売主は瑕疵担保責任を10年間負わなければならないこととして、民法上の契約不適合責任よりも責任が加重されています。
そのため、住宅の施工不良を理由として損害賠償請求をするためには、住宅のどの部分にどのような欠陥があるのかという点も重要となってきます。
(3)不法行為に基づく損害賠償請求権の時効期間
不法行為に基づく損害賠償請求権には、民法で時効期間が定められています。時効期間は、
- 損害および加害者を知ったときから3年
- 不法行為のときから20年
です(同法第724条)。
ただし、居住者等の生命または身体が侵害された場合には、「損害および加害者を知ったときから5年」となります(同法第724条の2)。
「損害および加害者を知ったとき」というのは、欠陥住宅の問題に関しては、基本的に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵を知ったときが、損害を知ったときとなります。
時効期間が経過しても損害賠償請求権が自動的に消滅するわけではありませんが、相手方が時効を援用すれば支払いを強制することができなくなります(同法第145条)。
交渉が長引いている場合などには、時効の完成を猶予したり、更新したりする措置をとることが必要な場合もあります。
こちらの記事は不倫問題に関するものですが、慰謝料請求権の時効を止める方法について詳しく解説しています。ぜひ併せてご参照ください。
4、施工不良で損害賠償請求をする方法
住宅の施工不良で施工業者や売主に対して損害賠償請求をするには、具体的にどうすればいいのでしょうか。手順に沿って解説していきます。
(1)任意に交渉する
まずは、相手方に対して直接、施工不良による欠陥のために損害を受けた事実を通知し、賠償を求めて交渉します。
多くの場合は欠陥の補修についても話し合うことになりますので、その際に損害賠償についても併せて話し合うことになるでしょう。ただし、早急に補修してもらいたい場合には、損害賠償の交渉は後回しにした方がいいこともあります。
交渉の結果、当事者が一定の内容で合意すれば示談が成立し、約束した賠償金の支払いを待つことになります。穏便かつ早期に解決するためには、ある程度は譲歩することも必要となってきます。
安易に譲歩すると一方的に不利な示談となってしまいますので、譲れない最低ラインの金額はあらかじめ検討しておくべきです。
なお、素人が「施工不良だ」と主張しても、建設業者や宅建業者は否認して賠償金の支払いを拒否する可能性が高いです。そのため、交渉前に建築士に依頼して欠陥の調査をしておくことも大切です。
(2)調停を申し立てる
当事者間の話し合いで合意ができない場合には、簡易裁判所の民事調停を利用することもできます。
調停とは、第三者である調停委員が間に入り、話し合いによる解決を図る手続きのことです。調停委員が公平・中立の立場で助言や説得をするので、当事者だけで話し合うよりも合意できる可能性が高まります。
調停も話し合いの手続きである以上、自分の主張を全面的に通すことは、あまり期待できません。ただ、裁判(訴訟)よりは手続きが簡便なので、
- 手間
- 時間
- 費用
をさほどかけずに解決を図れるというメリットがあります。
(3)裁判外紛争処理手続(ADR)を利用する
簡易な解決手段として、裁判外紛争処理手続(ADR)を利用するという方法もあります。
裁判外紛争処理手続とは、民事上のトラブルについて、裁判によらずに中立公正な第三者が関与して、調停やあっせんなどによる自主的な解決を図る手続きです。
この手続きにも強制力はありませんが、早期かつ柔軟な解決が期待できるというメリットがあります。
代表的な裁判外紛争処理手続機関は、以下のとおりです。
- 建設工事紛争審査会
- 日本不動産仲裁機構
- 弁護士会の住宅紛争審査会
弁護士会の住宅紛争審査会では、調停やあっせんを申請する前に、弁護士と建築士による相談(住宅専門家相談)を無料で利用できるというメリットもあります。
利用したい場合は、下記を参考にして下さい。
参考:住まいるダイヤル
(4)裁判を起こす
示談交渉や調停、裁判外紛争処理手続でも解決できない場合は、裁判(損害賠償請求訴訟)を起こすことになります。
裁判では、原告・被告の双方が主張と証拠を出し合い、最終的に判決によって白黒がつけられます。
勝訴判決を得るためには、
- 施工不良の箇所
- 欠陥の度合い
- どのような損害を受けたのか
等を証拠で証明する必要があります。
このような建築紛争に関する裁判では、建築に関する高度な専門知識と、裁判手続きに関する知識も要求されます。そのため、個人で対応することは難しいのが実情です。
裁判が必要となった場合は、当初から弁護士に依頼した方がよいでしょう。
5、施工不良の損害賠償請求を弁護士に依頼するメリット
建築紛争に関する裁判は、事実上、弁護士に依頼しなければ適切に進めることは困難といえます。
できれば、住宅の施工不良による損害賠償請求問題については、当初から弁護士に対応を依頼することをおすすめします。弁護士への依頼によって、以下のメリットが得られます。
(1)損害賠償請求の可否についてアドバイスが受けられる
住宅の施工不良で損害賠償請求が可能なケースは前記「1」でご説明しましたが、実際には判断が難しいケースも少なくありません。もし、請求できないケースにおいて知識不足のために損害賠償請求にこだわっていると、時間や費用が無駄になってしまいます。
弁護士に詳しい事情を話せば、法的観点から損害賠償請求の可否を判断してもらえます。請求可能と思われる場合には、請求方法や最終的に得られる金額についての見通しなどについてもアドバイスが受けられます。
(2)証拠の収集をサポートしてもらえる
損害賠償請求をすることに決めたら、まずは証拠を確保する必要があります。弁護士がついていれば、証拠の収集もサポートしてもらえます。
欠陥住宅に関するトラブルでは、住宅の調査の結果をまとめた報告書なども必要となります。建築紛争の取り扱い経験が豊富な弁護士がついている場合には、提携している建築士に調査を依頼してもらえることもあります。
(3)業者との交渉を任せることができる
建設業者や宅建業者と一般の方では、建築に関する専門知識や交渉力において雲泥の差があります。そのため、個人で対等に交渉することは困難です。
しかし、弁護士に依頼した場合には、弁護士が本人に代わって業者との交渉を行います。豊富な専門知識と経験に基づく交渉力で対応してもらえますので、適切な条件での示談成立が期待できます。
(4)調停や裁判を有利に進めることができる
裁判に発展した場合も、複雑な手続きはすべて弁護士に任せることができます。
調停の手続きは裁判よりも簡易なものではありますが、それでも一定の手続きが必要です。また、話し合いの手続きですので、かけひきも必要となってきます。やはり、弁護士についていてもらった方が有利な結果を得ることが期待できます。
通常、建設業者や宅建業者は調停や裁判になると顧問弁護士などを立ててきます。そのため、こちらも弁護士を立てなければ対等に応戦することは難しいのが実情です。
示談交渉や調停・裁判を有利に進めるためには、弁護士への依頼が必須だといっても過言ではありません。
まとめ
取得した新築住宅に施工不良による欠陥が見つかった場合は、一般的には補修の請求と併せて損害賠償請求を検討することになります。
損害賠償請求については、請求できるのか、できるとしてどのような賠償を請求可能なのか、請求方法はどうすればいいのか、といったことが問題となります。請求する前提として、証拠を収集することも必須です。
何から手を付ければいいのかが分からない、業者との交渉が進まない、といったことでお困りの場合は、ひとりで抱え込まず弁護士に相談することをおすすめします。