懲戒権が廃止?|日本の懲戒権について知っておくべき5つのこと

懲戒権

「懲戒権」は、児童虐待が社会問題となる今の日本で大きな注目を集めつつあります。
懲戒権とは、親が子に対して行使できる権利で、子育て、しつけなどの課題とも切っても切り離せない関係にあります。

そこで、この記事では、前半部分で

  • 懲戒権や現在行われている懲戒権の議論

について解説した上で、後半部分で

  • 懲戒権からみる子育て、しつけの在り方

について解説したいと思います。
この記事が子育てやしつけでお悩みの皆さまにとってお役に立つものであれば幸いです。

教育虐待に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご利用ください。

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1、懲戒権とは

懲戒権の「懲戒」とは、一般に、子の問題行動に対して、監護教育の観点から、これを矯正するために、必要な範囲で実力を行使することをいいます。

懲戒権の法的根拠は民法822条、民法820条に求めることができます。

民法822条

「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲でその子を懲戒することができる。」

民法820条

「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」

なお、民法には懲戒の具体的方法については規定されていませんが、これが許容されるのは、あくまでも「必要な範囲」においてのみです。

仮にしつけのためであっても、「必要な範囲」を越えた場合は、親権の濫用であるとして、犯罪行為にもなり得ます。
そして、「必要な範囲」は、時代の健全な社会常識により変化するものです。
児童虐待が大きな社会問題となっている現代、あざができるまで殴ったり、縛り上げたりするといった行為は、「必要な範囲」を越えるとされる場合が多いでしょう。

2、懲戒権がクローズアップされている背景

こうした懲戒権がクローズアップされた背景には何があるのでしょうか?

(1)児童虐待事件の増加

厚生労働省によると、全国の児童相談所が2018年度に児童虐待の相談・通告を受けて対応した件数は15万9850件で、統計を開始した1990年度から連続して増加しているとのことです。

2019年1月、千葉県野田市での小学4年生の児童が児童虐待で亡くなる事件は、記憶に新しいところでしょう。

(2)民法の懲戒権との矛盾が発生

児童虐待事件が増えてくる中、裁判において被告人が、自身の行為は「しつけ」であって、「虐待」ではないと主張するケースも目立つようになりました。
そして「しつけ」についての法律上の定めとして、「懲戒権」が取り上げられました。
法律で「懲戒権」が定められている以上、叩くなどの行為についても「しつけ」であると、形式的には説明できてしまうのです。

ましてや家庭内、親子間で行われる行為ですから、どういう気持ちで行ったのかといった親の気持ちは一概にはわかりません。
そのため、しつけなのか虐待なのか、その判別が大変難しいという問題が生じ得るのです。
現に、前記の野田市での事件でも、逮捕された親が「しつけのためだった」などと話しています。
このような背景から、懲戒権について改めて見直す必要が出てきた、というわけです。

(3)児童虐待防止法と児童福祉法の改正

児童虐待の流れを受け、2019年6月19日、児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律(以下、法律)が参議院本会議で可決、成立しました。

法律では、親権者による体罰の禁止が明文で定められました。

施行後2年を目途として(施行が2020年4月1日ですから、およそ2022年4月頃を目途として)、懲戒権の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする、との検討条項が設けられています。

3、懲戒権は削除すべき?形を変えて存続させるべき?

法律成立後、法務大臣は法務省の法制審議会に懲戒権の見直しを諮問(=その道の有識者に意見を求めること)しました。
これ以降、懲戒権の規定を巡って議論が活発化してきています。

議論では、懲戒権の規定の削除に積極的な意見と削除に慎重な意見とに分かれています。

(1)削除に積極的な意見

削除に積極的な意見は、

①懲戒権を口実に児童虐待が行われる
②体罰禁止の明文化と相俟って児童虐待を防止する明確なメッセージとなる
③懲戒権の規定を削除したとしても、親権者は民法820条の「監護及び教育」の一環として懲戒と同様の行為をすることができる  

を理由としてとして挙げています。

(2)削除を慎重に考える意見

これに対して、削除を慎重に考える立場からは、

①懲戒権の規定を削除すると、親権者による正当なしつけができなくなるおそれがある

②民法822条は「第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲」で懲戒権を行使できるとしており、その民法820条は監護及び教育について「子の利益のため」と目的を限定していることから、懲戒権は「子の利益のため」に行使しなければならないことは明らかであり、法律によって体罰禁止が明文化された以上、わざわざ削除する必要はない

との意見があります。

また、規定自体は維持しつつ、強い印象を与える「懲戒」に代わる言葉(例えば「しつけ」など)を新たに考えるべきではないかとの意見もあります。

しかし、この意見に対しては、今度は「懲戒」に代わる言葉を口実に児童虐待が行われるおそれがあるとの指摘もあります(実際に「しつけ」を口実に児童虐待が行われているのが現実です)。

4、子どもの「しつけ」はどうあるべきか

懲戒権について見直しが検討されているとはいえ、親が子を監督、教育する義務を負うことは今後も変わることはありません。
親として、必要なときにしつけをしなければならないことも同様でしょう。

では、親が子に対して行う「しつけ」とはいかにあるべきでしょうか?

(1)感情的な言動はNG

子どもとコミュニケーションが取れない、子どもが言うことを聞いてくれないといったとき、ついイライラして感情的になってしまいますよね。

しかし、その感情的な思いを子どもにぶつけると、子どもは心の中で「自分は愛されていないのではないか?嫌われているのではないか?」と感じ、ますます親との距離を取ろうとします。

感情的になる前に、なぜコミュニケーションが取れないのか、子どもが言うことを聞いてくれないのか、その原因についてまずは親の方から見直しましょう。

その上で、具体的にどうすればよいのか考えてみましょう。

(2)子どもの個性を尊重し、子どもの性格や特性を知る

子どもも個性を持った一人の人間です。
そして、その個性はたとえ家族といえども同じではありません。
親が勉強が好きだ、得意だ、といっても必ずしも子どもがそうとは限らないのです。

まずは、子どもを一人の人間として、個の存在として尊重しましょう。
子どもは決して親の所有物ではありませんし、意のままに動かせる動物でもありません。
親の理想を子どもに押し付けてもいけません。

とはいえ、これらは簡単なことではありません。
「自分の子なのに」「自分の失敗を繰り返させたくない」といった感情で、見えているのに見えない、ということが起こってしまいます。

そういうときは、少し距離をおいて子どもを観察する気持ちも必要です。
少し遠くから子どもを観察し、子どもの性格、個性、特性をみてみましょう。

また、親の視野を広げていくことも大切です。
そうすることで、子どもに対する接し方、アプローチの仕方も見えてくるはず。

個性を発見できたなら、思い切り伸ばしてあげましょう。

(3)適切なしつけのやり方を身に着ける

子どもの個性を尊重するといっても、それがすなわち「子どものいうことを何でも聞き入れる」、「子どもを甘やかす」ということではありません。
親としてしつけをすべきときはしつけをすべきです。

まずは、どういう「場合」にしつけをすべきなのか、見極められる能力を身に着ける必要があります。
そして、しつけをする「方法」を身に着ける必要もあります。
特に子どもが幼いときは、なるべくその場でしつけをしましょう。
時間を空けると、子どもは何のことでしつけを受けているのかわからなくなってしまいます。

ただ、理由を言わない頭ごなしのしつけはNGです。
理由を言わなければ、子どもは何でしつけを受けているのか分からず親の意図が通じません。

大声で怒鳴ったり、人前でしつけをするのもNGです。
子どもは自尊心を傷つけられ、自尊心が傷つけられた子どもには親の意図が通じません。

5、子どもにつらくあたってしまいそうな場合は児童相談所へ

子育てがつらい、子供につらくあたってしまいそうだなどと子育てに不安がある場合は、迷わず児童相談所に相談しましょう。

まずは一人で悩まないことが大切です。
同じ悩み、抱えている人は世の中にたくさんいます。
そうした方々と悩み、問題を共有できるだけでも気持ちがすっきりして子育てに前向きな気持ちになれます。
相談することは決して恥ずかしいことではありません。

子育ての悩み、問題は誰にでも起こりえるものです。
はやめはやめの段階から相談しておくことがあなたにとっても、子どもにとってもきっとよい解決へと繋がることでしょう。

児童相談所は「189(いちはやく)」の専用ダイヤルを設けており、ここに電話すればお住いの近くの児童相談所へ自動的に電話が繋がる仕組みとなっています。是非、ご活用ください。

まとめ

以上、懲戒権について解説してまいりました。
これからますます懲戒権について議論が活発化されることでしょう。

しかし、これからも変わらず大切なことは「いかに愛情を持って子どもと接することができるか?」ということではないでしょうか? 
そして、その愛情は親本位ではなく、子ども本位の愛情であるとより良いでしょう。

そうした愛情を持って接することができれば、懲戒権の議論はさておき、誤った子育て、しつけとはならないのではないでしょうか。
子育て、しつけは難しい課題ですが、きっとよい方向へとつながるはずです。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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