メディアを都合よくコントロールする行為のうち、特に政府・政党によるものを「情報統制」と言います。平時から統制を行う国では、非常事態になるとますます強く締め付けられ、国民に正しい情報が行き届いていません。
インターネットで世界と繋がるようになった今では、自国に何も知らされていない人々から、事実と大きくズレのある認識を知らされることもあります。
世界と日本の状況を押さえ、外部から入ってくる情報との向き合い方を考えてみましょう。
1、情報統制とは~メディア言論規制の意味と目的
情報統制とは、政治権力が市民に対し、意見を述べたり表現したりする活動を制限することを指します。規制の対象となる活動・媒体は種類を問わず、方法自体もさまざまです。
書籍などでは「言論統制」と呼ばれることが多く、その場合は新聞・テレビ・雑誌を主な規制対象とした実例を指しています。インターネットで実録ビデオや音声が流れるようになった最近では、ニュース等で「情報統制」と表現される場合が増えています。
(1)政治権力による統制【検閲制度など】
情報統制のやり方としてよく知られるのは、政治権力にとって都合の悪い情報を伏せさせるものです。実際には、意図的に特定の情報を流させる積極的なアプローチも取られます。最終目的は、結論を言ってしまうと「政治で成果を出さずにてっとり早く市民の支持を得ること」です。
▼政治権力による統制の例
- 自国の体制にとって都合の良い情報だけ流布させる
- 対立国にとって都合の悪い情報を流布する
- 国民のネット利用状況を監視する
- 都合の悪いWebサイトへのアクセス遮断を行う
制限の手段としては、出版物等を一般に流通させる前に内容をチェックする「検閲」があり、日本では憲法21条で禁止されています。
(2)メディアの自主規制【有害情報の削除など】
情報統制のもう1つの形は、メディアが政治権力の顔色をうかがって自主規制をかけるものです。国によっては、国営のテレビ局等が事実上国家機関に組み込まれており、自主規制というより政策の実行として情報を制限する場合も見られます。
▼メディアの自主規制の例
- 繋がりのある特定の政党に配慮した情報のみ流す
- 政府に指示された内容しか報道しない
(3)情報統制とはみなされないもの
メディアが意図的に情報を伝えないとして、その全てが「情報統制」にあたるわけではありません。公権力を正しく行使するのを妨げたり、憲法13条で保障される名誉・プライバシー権等を侵害したりする恐れがある時は、伝える内容を制限するのが適切と考えられます。
- 犯罪捜査について一部報道させない
- 犯罪者または犯罪被害者の情報について自主規制する
- デマ等の有害情報を削除する
(4)情報統制の法律上の問題【知る権利とは】
日本国民が情報統制の影響下に置かれるのは、たとえ検閲ではないにせよ、憲法21条で保障される「知る権利」の侵害です。メディア側が公権力に不都合な情報を流せなくなったり、情報開示請求を制限されたりした時は、知る権利につき「報道の自由」あるいは「取材の自由」を通して間接的に侵害されたと考えられます。
国際法に目を移すと、日本も1979年に批准した国連の「自由権規約」(国際人権B規約)があります。その第19条で認められるのは、方法と国境によらず情報や考え方を求め、受ける・伝える自由です。
本規約に法的拘束力はないものの、国連より報告者がやってきて、その時々で問題点を指摘されることもあります。
2、情報統制が厳しい国│メディアの自由がない地域とその現状
海外に目を移してみると、実際に情報統制が厳しく敷かれている国が複数あります。国境なき記者団(リンク)の世界報道自由度ランキングより、順位の低い国の状況を見てみましょう。
(1)ロシア【世界ランキング155位】
2000年にプーチン政権が発足したロシアでは、当時より情報統制に余念のない国です。
三大テレビ局は早々に国有化され、民間放送会社の設立は原則認められていません。独立系メディアは数を減らし、現存する報道機関はチェチェン紛争を調査していた記者が2009年に射殺される等、不穏な状況が続いています。
▼ネットに対する情報統制の例
- 主権インターネット法(利用監視および検閲の根拠法)
- ヤロヴァヤ法(ネット事業者のユーザーデータ保存義務+検閲)
(2)中国【世界ランキング175位】
中国の主要報道機関は全て国有化されており、日々のニュースは当局が直接管理しています。しかし、1990年代には「検閲すれすれの記事を書く記者」が現れ、2003年のSARS情報隠ぺいによる信用失墜を受けて情報公開体制を整え始める等、国民の権利を重んじる動きもありました。
インターネット大国とも呼ばれる中国は、国民のネット利用を重点的に取り締まっています。2012年に習近平政権が発足した翌年には、一部の反動的な知識人がネットを使って党や社会主義体制を攻撃しているとして、統制強化に舵が切られています。
▼ネットに対する情報統制の例
- グレートファイアウォール(利用監視および検閲システム)
- SNS、検索エンジン等のアクセス遮断
- 民間企業のメディア経営禁止
(3)キューバ【世界ランキング173位】
ロシアや中国と親密なキューバでは、報道の自由と呼べるものがほとんどありません。
一般市民の携帯電話の利用解禁は2008年3月であり、インターネットに至っては、2009年になってようやく利用が解禁された国です(カード購入が必要)。個人宅での利用解禁は2019年になってからであり、完全なネット空間の解放はまだ先です。
▼ネットに対する情報統制の例
- 利用制限(2016年頃から段階的に解禁)
- 動乱発生時のSNS遮断(2021年に発生した物資不足に対する抗議デモ等)
(4)ベトナム【世界ランキング174位】
1975年から一党独裁制を取るベトナムでも、政府がメディアをほぼ完全にコントロールしている状態です。報道の自由は憲法で保障されますが、政府に不都合な情報を流通させるのは犯罪として裁かれます。
インターネットの利用では、Facebookが主な情報源として活用されていますが、運営がベトナム政府の検閲を容認している(リンク)ような状況です。
▼ネットに対する情報統制の例
- サイバーセキュリティ法(検閲、ネット事業者に対する個人情報引き渡し義務等)
3、日本国内における情報統制の現状
上記国々から見ると、本邦は情報流通に関して十分に自由と言えそうにも思えます。
しかしながら、2022年の世界報道自由度ランキングを改めて見てみると、日本は71位とされており、前年度から4つも順位を落としています。
低評価の主な理由は立法や報道のならわしで、2016年に来日した国連特別報告者からの指摘にもあります(報告書全文の仮訳より)。
(1)特定秘密保護法の問題点
2013年に成立した特定秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律)は、安全保障に関する情報につき、行政機関の権限を広げて保護しようとするものです。
報告書では、国民の「知る権利」を踏まえた上で、概ね次のように指摘しています。
- 政府職員の権限拡大が、情報アクセスの保護の範囲を狭めた
- 漏えいにかかる罰則規定があることで、ジャーナリストの活動を抑制する
- 特定秘密の定義(指定され得る事項および分類条件)が十分でない
- 情報の秘密指定を適正に行う上で、その監視メカニズムが十分独立していない
(2)自己検閲の問題
日本での取材・報道は、身元のはっきりした記者が独占的に情報にアクセスできる「記者クラブ制度」を採っています。これについて報告書は、排他的であり、政府当局から記者クラブメンバーに対し定期的に交渉することもできると指摘しています。
結果、公の関心(=市民が知りたいと思っている)情報へのアクセスを多大に狭めると警告されました。
4、最新の情報統制の状況
感染症流行等の緊迫した事態が相次ぐ今、特にネット空間で情報統制に踏み切る国がいくつか見られます。これを受けた日本と西欧諸国では、あらためてインターネットの信頼性と安全性に取り組むことを確認しました。
(1)ロシアのウクライナ侵攻を受けた統制強化
2022年2月24日に始まったウクライナ侵攻では、ロシア側で内国の情報を厳しく取り締まっています。3月中だけでも、次のような対応が見られました。
- 主要SNSへの接続を遮断、独立系メディアの放送遮断
- 各メディアに公式発表に基づく報道を要求
- 自国の軍事行動につき「虚偽」の情報を広めた場合に刑罰を科す改正法の制定
参考:ロシアが情報統制急ぐ SNS遮断、報道でも世界と断絶(日経電子版)
(2)未来のインターネットに関する宣言
日本と米国・EU等を含む約60か国は、2022年4月28日に「未来のインターネットに関する宣言」を行っています。内容は下記のようになっており、情報統制を強めるロシアと中国に対するけん制の意味があります。
- 人権と基本的自由、及び全ての個人の幸福を保護、促進する
- アクセスの増加、利用可能性及びデジタルスキルの向上等を通じて、全ての人がどこ
- にいてもインターネットに接続できる
- 個人と企業が、自身が使用するデジタル技術の安全性と機密性について信頼するこ
- とができ、彼らのプライバシーが保護されている
- あらゆる規模の企業が公正で競争的なエコシステムの中で、それぞれの強みによっ
- て革新し、競争し、繁栄することができる。
- インフラが、安全で、相互運用性、信頼性及び持続可能性を持って設計されている。
- 技術が、多元主義、表現の自由、持続可能性、包摂的な経済成長及び地球規模の気
- 候変動に対する闘いを促進するために使用されている。
まとめ
ここまで情報統制について解説してきました。
本記事を参考に昨今の国際情勢や日本の社会の未来について考えるきっかけとなれば幸いです。