地盤沈下に関する賠償責任とは?住宅の被害を受けたときの対処法

地盤沈下 賠償責任

地盤沈下における損害賠償責任とは、どのようなものなのだろう……。

住宅を購入または建築した後に、地盤沈下によって損害が発生する可能性があります。この場合の損害は、誰が責任を負うのでしょうか。

地盤沈下はさまざまな原因によって起こり得ます。地盤沈下が起こる原因によって、誰にどのような責任を問えるかが異なってくることがあります。
しかし、容易に解決できるケースばかりではありません。業者の賠償責任を追及する際に、どのような手段をとればよいのかも知りたいところでしょう。

今回は、

  • 地盤沈下が起こる原因
  • 地盤沈下による住宅被害で業者に問える賠償責任
  • 地盤沈下で業者の責任を追及する方法

などについて、住宅紛争の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。

せっかく住宅を取得したにもかかわらず地盤沈下でお困りの方に、この記事が手助けとなれば幸いです。

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1、地盤沈下での賠償責任について知る前に~地盤沈下の被害で問える業者の責任とは

地盤沈下での賠償責任について知る前に~地盤沈下の被害で問える業者の責任とは

まずは、地盤沈下で住宅に被害が発生した場合に、その住宅の売主や施工業がどのような法的責任を負うのかについて解説します。

(1)品確法の瑕疵担保責任

新築住宅については、それぞれの以下の対象者が、住宅の引渡しのときから10年間、「瑕疵担保責任」を負います(施工業者について品確法第94条1項、売主について同法第95条1項)。

  • 注文住宅など建設工事の請負契約の場合は施工業者
  • 建売住宅など新築住宅の売買契約の場合は売主

ここにいう瑕疵担保責任とは、契約の目的物である新築住宅の、

  • 住宅の構造耐力上主要な部分
  • 雨水の浸入を防止する部分

として政令で定めるものに欠陥があった場合に、業者は過失の有無を問わず、後記「3」で解説する請求を買主・注文者から受けた場合には応じなければならない責任のことです。

地盤沈下は、土地の問題なので、「住宅の構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分」には該当しません。

瑕疵担保責任の規定は適用されないのではないか、という疑問を持たれるかもしれません。

しかし、住宅の設計・施工の前提として、地盤の適切な調査やその調査の結果、地盤の状況に応じた適切な基礎を備えていない場合、品確法の適用があります。

(2)民法の契約不適合責任

中古住宅については、品確法の瑕疵担保責任の規定は適用されませんが、民法の契約不適合責任の規定が適用されます。

契約不適合責任とは、売買契約や請負契約において、引き渡された目的物の種類・品質・数量が契約の内容に適合しないものであるときに、売主・請負人が後記「3」で解説する請求を買主・注文者から受けた場合には応じなければならない責任のことです(売買契約について民法第562条以下、請負契約について民法第559条)。

買主・注文者が契約不適合責任を追及するためには、不適合を知ったときから1年以内に、不適合を売主・請負人へ通知しなければなりません。

ただし、売主が宅建業者である場合は、この期間が最低2年に伸張されています(宅建業法第40条1項)。

民法の契約不適合責任も、以前は瑕疵担保責任という名称でしたが、2020年4月1日から改正民法の施行に伴い、「契約不適合責任」に名称が変更されました。

もっとも、品確法等の特別法では、現在も「瑕疵担保責任」という名称が用いられています。

(3)民法の不法行為に基づく損害賠償責任

住宅の売主や請負人の不法行為によって買主・注文者に損害が発生した場合は、民法の不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります(同法第709条、第710条)。

売主の不法行為としては、地盤沈下の危険があることを知りながら、説明義務に違反して故意に買主に対して告げないような場合が考えられます。

請負人の不法行為としては、重大な施工ミスや手抜き工事などです。

2、地盤沈下の原因と業者に賠償責任を問えるケース

地盤沈下の原因と業者に賠償責任を問えるケース

地盤沈下が起こる主な原因として、次の4つが考えられます。

  • 地盤改良工事が不十分な場合
  • 地盤調査が不十分な場合
  • 近隣工事の影響による場合
  • 自然災害による場合

本章では、上記の原因ごとに、売主や施工業者に賠償責任を問えるケースを紹介します。

(1)地盤改良工事が不十分な場合

住宅の施工業者は、建築する地盤の状況に応じて地盤改良工事を行う必要があります。

また、地盤改良工事が不十分なまま住宅が建築された場合には、地盤の状況に応じた適切な基礎を備えておらず、引渡しの時点で、契約の目的物である土地・建物に欠陥があるといえる可能性があります。

地盤改良工事が不十分であるために地盤沈下が発生し、住宅に被害が生じた場合、買主・注文者は売主・施工業者に対して、以下の賠償責任が発生する可能性があります。

  • 新築住宅の場合…瑕疵担保責任
  • 中古住宅の場合…契約不適合責任
  • 不法行為があった場合…不法行為責任

施工業者が建物のどの程度の水準で基礎工事を行わなければならないかについて、国土交通省がガイドラインを発表しています。

ガイドラインには、法的拘束力がありません。

ですが、裁判では基礎工事の不備の有無を判断する基準として重要視されますので、参考までに紹介いたします。

参考:基礎ぐい工事の適正な施工を確保するために講ずべき措置(告示)概要|国土交通省

https://www.mlit.go.jp/common/001121967.pdf

(2)地盤調査が不十分な場合

地盤改良工事の前提として、地盤調査が不十分であったために地盤沈下が発生することも考えられます。

施工業者は、地盤改良工事を行う前には当然ながら、地盤条件を調査しなければなりません。

不十分な地盤調査が地盤沈下の原因となった場合も、引渡しの時点で契約の目的物である土地・建物に欠陥があったと言える可能性があります。

上記(1)と同様、買主・注文者は売主・施工業者に対して、以下の賠償責任が発生する可能性があります。

  • 新築住宅の場合…瑕疵担保責任
  • 中古住宅の場合…契約不適合責任
  • 不法行為があった場合…不法行為責任

※ただし、注文者が施工業者とは別に設計者に地盤調査を発注し、その設計者が不十分な地盤調査を行い、それに基づいて施行者が基礎の施工を行ったような場合には、民法636条に基づいて施工業者が免責される可能性があります。

地盤の調査力や解析力については業者ごとの差が大きいのが実情で、調査結果が適正でないケースもあるでしょう。
地盤調査業者による“ずさん”な調査が不法行為と認められる場合には、地盤調査業者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を問うことも可能です。

(3)近隣工事の影響による場合

もともとの地盤条件や地盤改良工事に問題がなかった場合でも、近隣の建設工事で隣地を深く掘削したこと等が原因で、地盤沈下が生じることもあります。

この場合は、近隣の工事を行った施工業者に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を検討します。

もっとも、近隣工事の影響で地盤沈下が発生したとしても、その事実や近隣工事との因果関係を立証することが難しいケースが少なくありません。

近隣の工事を行った施工業者の賠償責任を問うには、建築士や弁護士の力を借りて、損害の調査と証拠の確保をすることが特に重要となります。

(4)自然災害による場合

地震などの自然災害によって、地盤沈下が生じることもあります。

地盤改良工事や、地盤条件に応じた建物の耐震性等が一般的な安全基準を満たしていない場合は、引渡しの時点で契約の目的物である土地・建物に欠陥があったことになります。

上記の場合には、上記(1)(2)と同様に、買主・注文者は売主・施工業者に対して、以下の賠償責任を問うことができます。

  • 新築住宅の場合…瑕疵担保責任
  • 中古住宅の場合…契約不適合責任
  • 不法行為があった場合…不法行為責任

しかし、一般的な安全基準を満たしていたもの、想定を超える規模の大地震等で地盤沈下が生じた場合には、引渡しの時点で契約の目的物である土地・建物に欠陥があったことにはなりません。

この場合には、業者に賠償責任を問うことはできません。

3、地盤沈下の被害で業者に請求できる内容

地盤沈下の被害で業者に請求できる内容

本章では、地盤沈下の被害で業者の責任を追及できる場合に、具体的にどのような請求ができるのかについて解説します。

(1)履行の追完(無償での補修請求)

履行の追完とは、契約に適合した目的物を改めて引き渡してもらうことをいいます。

地盤沈下による住宅被害では、買主・注文者は売主・請負人に対して、地盤沈下で損傷した建物の補修工事や、可能であれば地盤改良工事のやり直しなどを請求できます。

(2)代金(報酬)の減額

履行の追完に必要な相当の期間を定めて補修工事などを請求したものの、期間内に履行が追完されなければ、買主・注文者は、不適合の程度に応じて売買代金あるいは請負報酬の減額を請求できます。

履行の追完がそもそも不可能な場合や、売主・請負人側が履行の追完を拒絶したような場合には、買主・注文者は、直ちに売買代金・請負報酬の減額を請求できます。

以上の場合、買主・注文者は、相当な期間を定めて催告する必要はありません。

(3)契約の解除

地盤沈下による住宅の損傷が激しく補修不能な場合には、買主・注文者は直ちに売買契約・請負契約を解除することが可能です。

補修可能な場合であっても、相当な期間を定めて補修等を請求したにもかかわらず、その期間内に補修等が行われない場合にも、契約解除が可能です。

売主・施工業者が補修等を拒絶した場合は、直ちに契約を解除できます。

契約の解除が認められると、契約はなかったことになりますので、売買代金・請負代金の返還も請求できます。

ただし、地盤沈下や建物の損傷の程度が、契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、契約解除が認められないこともあるため注意が必要です。

(4)損害賠償請求

上記(1)~(3)の請求をした場合もしなかった場合も、地盤沈下が原因で買主・注文者に損害が発生した場合には、売主・施工業者に対して損害賠償請求ができます。

賠償請求できる可能性がある損害としては、

  • 補修工事中の仮住まいの費用や引越費用
  • 不動産価値の減少分
  • 破損した家具などの時価
  • (地盤沈下が原因でケガや病気を発症した場合)治療費等
  • (補修工事を拒絶された場合)他の業者に依頼するための費用
  • (契約を解除した場合)登記費用

などが考えられます。

売主・施工業者に不法行為があった場合には、慰謝料の請求が可能な場合もあります。

4、地盤沈下で業者の責任を追及する方法

地盤沈下で業者の責任を追及する方法

地盤沈下による住宅被害で売主・施工業者等の責任を追及するときは、以下の手順で手続きを進めていきましょう。

(1)調査と証拠の確保

まずは、地盤沈下の原因や、地盤沈下によってどれだけの損害が発生したのかを調査し、証拠化しておくことが重要です。

地盤の調査は専門の業者に依頼する必要がありますが、先ほども説明したように、地盤調査業者の実力差には大きなばらつきがあります。

建築紛争の解決実績が豊富な建築士や弁護士に相談し、業者を紹介してもらう方がよいでしょう。

建築士・弁護士に相談することで、どのようなポイントについて調査すればよいのかについてもアドバイスが受けられることが期待できます。

(2)内容証明郵便の送付

調査と証拠の確保ができたら、いよいよ相手方となる業者へ損害賠償等を請求します。

請求する方法に決まりはありませんが、最初に内容証明郵便を送付することが一般的です。

そうすることによって、こちらの本気度を伝えることができ、相手方業者も真剣に対応してくることが期待できるでしょう。

内容証明郵便を送付しておくことで、責任追及の期限内に相手方業者に通知をしたことを証拠化することにもなります。

(3)交渉

相手方が内容証明郵便に反応してきたら、トラブル解決のために交渉を行います。
任意の交渉で合意できれば、示談(和解)によってトラブルは解決します。補修工事については、「新築住宅かし保険」「リフォームかし保険」「中古住宅かし保険」などの保険もありそのような保険を利用することでを前提に交渉による解決も十分に期待できるでしょう。

しかし、損害賠償については売主や施工業者がなかなか応じようとしないケースが少なくありません。
交渉がスムーズに進まない場合は、建築士・弁護士に依頼した方がよいでしょう。弁護士は、依頼者に代わって業者と交渉してくれます。

(4)調停・あっせん・仲裁

業者との交渉がまとまらない場合には、裁判外紛争処理手続き(ADR)を利用することも有効です。
裁判外紛争処理手続き(ADR)とは、裁判によらず、民事上のトラブルを中立・公正な第三者の仲介のもとに話し合うことによって解決を図る手続きのことです。
具体的には、ADR機関による調停・あっせん・仲裁の手続きを利用することで、公正かつ柔軟な解決が期待できます。これらの手続きは、基本的に無料で利用できます。

住宅紛争に関するADR機関としては、主に次の2つのところがあります。

  • 住宅紛争審査会
  • 建設工事紛争審査会

(5)裁判

裁判外紛争処理手続き(ADR)は話し合いの手続きであるため、必ずしも納得のいく解決が得られるとは限りません。業者との対立が厳しい場合には、裁判(訴訟)を起こすことが必要となるでしょう。

裁判では、地盤沈下に関する契約不適合や、業者の不法行為、ご自身が受けた損害などを証拠で立証していく必要があります。住宅紛争に関する裁判手続きは専門性が非常に高く、手続きも複雑ですので、弁護士に依頼することをおすすめします。

5、地盤沈下で住宅の被害を受けたら弁護士に相談を

地盤沈下で住宅の被害を受けたら弁護士に相談を

地盤沈下で住宅の被害を受けたら、これまで解説してきたように、売主・施工業者に対して賠償責任等を追求できる可能性が十分にあります。
ただ、実際に被害に遭った場合には、具体的にどうすればよいのかが分からないことも多いことでしょう。

そんなときは、1人で悩まず弁護士に相談してみましょう。
弁護士に詳しい状況を話せば、誰にどのような責任を追及できるのか、どれくらいの賠償金を受け取れるのか、などについて具体的なアドバイスが得られます。
依頼すれば、調査や証拠集めもサポートしてもらえますし、業者との交渉や裁判など複雑な手続きは全て代行してもらえます。納得のいく解決が期待できることでしょう。

ただし、地盤沈下のケースに限らず、住宅紛争に関する問題は高度に専門的ですので、弁護士選びにも注意が必要です。住宅紛争の解決実績が豊富な弁護士を選ぶことが、何よりも大切です。

まとめ

地盤沈下による住宅被害で業者の責任を追及するときには、期限が問題となることもありますので、被害を受けたら早めに弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所でも地盤沈下を初めとする住宅紛争の解決に力を入れており、経験豊富な弁護士が皆さまからのご相談に対応しています。建築士とも連携していますので、十分な調査をした上で、最適な解決方法を提案することが可能です。全国に対応していますので、お困りの際はぜひ一度、当事務所までお問い合わせください。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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