リベンジポルノの被害が近年増えていると言われています。
リベンジポルノ問題の背景には、スマートフォンの普及や、若者の間での「セクスティング(sexting)」、つまり、性的なメッセージや写真、動画等を携帯電話間で送る行為の流行などがあります。
リベンジポルノの被害者は、インターネット上にプライベートな写真等が掲載されてしまいます。プライベートな写真等を、インターネットという誰もが見ることが出来る状態に置かれてしまうことにより、一生消すことのできない傷を負うことになってしまうかもしれません。
こうした事態を受け、平成26年11月に、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律、いわゆる「リベンジポルノ防止法」が国会で成立しました。
今回は、
- 「リベンジポルノ防止法」の解説
- そもそもリベンジポルノ被害に遭わないための方法
- もしもリベンジポルノ被害に遭ってしまった場合の対処法
等についてお伝えして行きます。ご参考になれば幸いです。
目次
1、リベンジポルノとは
そもそもリベンジポルノとは、元交際相手や元配偶者が、別れた腹いせ等の仕返しとして、被害者となる人の裸の写真や性行為の動画といったプライベートで撮影された性的画像記録を、本人に無断でインターネット等に公開する行為です。具体的には、TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSやブログに無断でアップロードするケースが多いようです。
インターネット上で一度アップロードされてしまうとその画像が世界中から閲覧可能となりますので、そのダメージは計り知れません。あまりにも被害が増えたため、「リベンジポルノ防止法」ができました。
リベンジポルノ防止法では法律上「リベンジポルノ」という表現が使われているわけではありませんが、「私事性的画像の提供等により私生活の平穏を害する行為」としてリベンジポルノを禁止し、処罰の対象としています。
2、リベンジポルノの被害者になるとどうなる?リベンジポルノの被害事例
(1)リベンジポルノの実態
リベンジポルノという言葉は聞いたことがあるけれども、実際にどの程度の被害が生じているのかご存じない方もいらっしゃるかもしれません。警視庁のまとめによれば、警察に対する2015年のリベンジポルノの被害相談は、全国で1143件あり、その被害の9割が女性、未成年も2割近くあります。
リベンジポルノの被害者は、裸の画像や性的な画像等をインターネット上に公開されたわけですから、被害申告をするにも相当の勇気が必要であること、そもそもリベンジポルノを誰に相談したらいいかわからないといった人も多いと思われることを踏まえると、実際の被害はこれ以上に多数にのぼることが推測されます。
インターネット上に裸の写真や性的な画像がアップロードされると、世界中に一気に拡散されてしまい、出回ったデータを削除することは難しくなりますから、一生苦しんでいかなければならないかもしれません。
(2)具体的な被害事例
新聞等で報道されているものに限りますが、リベンジポルノの被害として、以下のようなものがあります。
①交際相手への恨みを理由とする被害事例
2015年、元交際相手の女性の裸の写真をTwitterに投稿したとして鳥取県の男性(39歳)が逮捕されました。男性は、投稿した理由として「別れた後、彼女がLINEの返事をしなくなり、恨みが募った」と報じられています。
②本名や大学名まで動画として公表されてしまった被害事例
2016年、元交際相手の女子大生の裸の動画をネットに投稿したとして、福岡県警は28歳の男性を逮捕しました。女性と男性はSNSを通じて知り合いました。動画には、女性の本名や学校名も記されていたと報じられています。
③甘い言葉に乗せてしまった被害事例
2015年、原宿でモデルになって欲しいと女性をスカウトし、着替え中の様子を盗撮、それを有料動画サイトで配信した疑いで、芸能プロダクションの社員らが逮捕されました。この事例では、そもそもモデルの誘い自体が嘘だったということですが、交際相手以外にも、プライベートな画像等を流出される可能性があります。
以上の事例は、いずれもインターネット上に動画や画像を流出させたというものです。最後の事例は、厳密にいえば「リベンジポルノ」には当たらないかもしれませんが、第三者に自身のプライベートな画像を提供したり、撮影させたりすることがいかに危険な行為であるかがわかると思います。
実際にインターネット上に公開されなかったとしても、元交際相手が以前撮影したプライベートな写真などを公開すると言って、相手を脅し、金銭を要求する、望まない行為をさせるといった事例もあるようです。
3、なぜリベンジポルノの問題が起きるのか?恋人や配偶者に写真・動画を撮らせてしまう心理について
なぜ先ほどご説明したようなリベンジポルノの問題が起きるのでしょうか?
大前提として、スマートフォンの普及により、画質のいい静止画や動画を簡単に撮影できるようになったことがあります。また、TwitterやFacwbook、InstagramなどのSNSを利用する方も増えたこともまた一つの要因です。
さらに、恋人や配偶者に写真・動画を撮らせてしまう心理があります。ここではその心理についていくつか例を挙げて紹介していきます。
(1)好きだから頼まれたら断れない
やはりこの理由が一番多いのではないでしょうか?
相手のことが好きで、嫌われたくないから、「撮りたい」と頼まれたら断れない心理があるでしょう。
(2)二人だけの記念を残したい
プライベートな写真や動画を撮らせてしまう心理として、「二人だけの記念になる写真・動画を残したい」「その写真・動画を二人だけの絆の象徴にしたい」という心理もあります。
(3)相手が写真や動画を第三者に見せるとは思わない
最後に、二人の関係がうまくいっている段階では「相手が写真や動画を第三者に見せたりネット上にアップロードするなんて想像できない」というものがあります。やはりラブラブであるとその後にリベンジポルノ問題が起きるとは想像しづらいでしょう。
確かに、ラブラブの間は「相手がまさかそんなことをするはずはない」と思うでしょう。しかし、多くのリベンジポルノ事件はそのようにラブラブな関係であったものが別れ等をきっかけに相手が恨みを持ち、まさかという行動に出ます。
4、リベンジポルノ防止法とは?リベンジポルノ被害に遭ってしまった場合(プライベート写真が流出してしまった場合)の対処法
次は、先ほどから話に出ている「リベンジポルノ防止法」について説明していきます。
(1)「リベンジポルノ防止法」成立の経緯は?
平成25年10月に発生したいわゆる三鷹ストーカー殺人事件において、加害者の男性が、元恋人である被害女性のプライベートの写真等をインターネット上に掲載していたことが問題となりました。国会での議論の末、平成26年11月に「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(いわゆる、リベンジポルノ防止法)が成立しました。
リベンジポルノ防止法は、私的性的画像記録の提供等による私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、そのような情報が流通することによって、名誉又は私生活の平穏が害された場合におけるプロバイダ責任制限法の特例及び当該提供等による被害者に対する支援体制の整備等について定めることによって、個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生又はその拡大を防止することを目的としています。
つまり、元交際相手などがプライベートな写真をインターネット上に提供する行為を処罰するとともに、提供された場合のプロバイダの責任、被害者の支援体制の整備等について定めることで、被害者の名誉や私生活の平穏を守ることが目的となっています。
(2)「リベンジポルノ防止法」の内容は?
①法律の概要
「リベンジポルノ防止法」は、「私事性的画像記録(※)の提供等を規制しています。つまり、恋人の性行為中等の写真や裸等の写真をインターネット上で不特定多数に公表することを基本的に禁止しているのです。
※私事性的画像とは、次のいずれかにあたる人の姿態が撮影された画像にかかる電磁的記録その他の記録をいいます(ただし、撮影の対象にされた者が、第三者が閲覧をすることに同意して撮影していたものは除かれます。)。
・性交又は性交類似行為に係る人の姿態
・他人が人の性器等を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
・衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部分が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
②処罰の内容
リベンジポルノ防止法は、以下の二つの行為を処罰の対象としています。いずれの犯罪も個人の性的プライバシーを保護法益とするものですから、親告罪(告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪)となっています。
公表罪・・・・・第三者が「撮影対象者を特定することができる方法」で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した場合は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。また、同様の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、または公然と陳列した場合も同様となります。
公表目的提供罪・・・・・公表罪で記載したようなの公表行為をさせる目的で電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、または私事性的画像記録物を提供した場合は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
③その他
リベンジポルノ防止法は、その他にも、私事性的画像記録の拡散を防ぐためのプロバイダ責任制限法の特例や支援体制の整備、教育及び啓発について定めています。
(3)インターネットに公表された画像・動画の削除依頼も可能
リベンジポルノの被害に遭ってしまった場合、その画像や動画を載せているサイト運営者に「削除依頼」をすることになります。複数のサイトに掲載されている場合には、全てのサイトにそれぞれ削除依頼をしなければなりません。また、海外のサイトに掲載されてしまった場合には、海外の法律に基づき、英語等での削除依頼をする必要も出てきます。
(4)被害に遭ったらできるだけ早く最寄りの警察署に相談
一度インターネットで画像・動画が公表されると、時の経過とともに広まってしまう可能性があります。広まると、削除依頼の相手方も増えてしまいますので、一刻も早く専門機関や警察に相談する必要があります。
(5)公表した相手方に対して慰謝料請求も可能
リベンジポルノの被害に遭ってしまった場合、以上のような刑事上の手続きに加えて、慰謝料請求等の民事上の損害賠償請求を行うこともできます。
(6)実際に被害に遭ったら場合の流れは?
実際に被害に遭ってしまったら警察に相談しましょう。
最寄りの警察については「都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口等一覧」をご参照下さい。警察に電話をした際には現在の状況を詳しく説明するようにしましょう。
なお、その他の相談先については「7、リベンジポルノの被害者になってしまった場合の相談先一覧」をご参照下さい。
5、リベンジポルノの被害者にならないために最も重要なことは?
リベンジポルノの被害者にならずに済む、最も重要で、最も簡単な方法は、出回って困るような写真や動画を絶対に「撮らない」「撮らせない」ことです。
プライベートな画像を撮らせてしまう人の心理として、「3、なぜリベンジポルノの問題が起きるのか?恋人や配偶者に写真・動画を撮らせてしまう心理について」で記載したように「彼氏や彼女に嫌われたくない」「好きな人との絆や繋がりを感じたい」など、様々なものがあります。しかし、断ってケンカしてしまうことより、別れてしまったときに悪用されてしまうことの方が遥かに大きなリスクです。また、画像を撮らせることを断ったくらいで嫌われて別れてしまような相手とはそもそもご縁がなかった考えるべきです。
繰り返します。リベンジポルノの被害者とならないために、「撮らせない」ようにしましょう。
6、もしもプライベートな画像を撮らせてしまったら・・・
とはいえ、どうしても断りきれず画像・動画を撮らせてしまったことがある、という方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合にはすぐに消してもらうように相手に伝えましょう。もしかしたら相手は画像・動画を削除することを嫌がるかもしれません。
その場合には、「あなたのことはすごく信頼している。でも私の友達がリベンジポルノの被害に遭って大変な目にあっているのを見て、私自身も怖くなってしまったの。もし私のことが好きなら画像・動画を削除して」などと伝えて何としても削除してもらうようにしましょう。
7、リベンジポルノの被害者になってしまった場合の相談先一覧
(1)警察に相談してみる
警察に相談すれば、ネット上の画像の削除要請の方法などを教えてくれる場合もありますし、リベンジポルノ防止法違反として捜査をしてくれる場合もあります。
また、画像等をもとに金銭を要求されたり、脅迫されたりしている場合などには、恐喝罪、脅迫罪としての捜査も期待できます。
(2)弁護士に相談してみる
弁護士に相談すれば、早急に差し止めや削除依頼の手続を踏んだ上で、刑事告訴や損賠賠償を行うことができる場合もあります。弁護士に相談することで、画像の削除、刑事、民事の全体的な対策をとることができます。
(3)その他の相談先 一般社団法人セーファーインターネット協会(セーフライン)
一般社団法人セーファーインターネット協会(セーフライン)は、インターネット企業有志によって運営されています。
セーフラインは、リベンジポルノなど違法なコンテンツについて、国内・国外を問わず削除依頼の申請を手伝ってくれます。リベンジポルノの被害を受けた本人またはその保護者の方からの通報を受け付けています。
リベンジポルノまとめ
リベンジポルノの被害に遭わないためには、まずは「撮らない」「撮らせない」ことが重要です。万が一リベンジポルノの被害にあってしまった場合には、悩む前に迅速に警察や弁護士等の専門機関へ相談し、画像等の拡散を直ちにとめる必要があるでしょう。