交通事故で車が全損!買い替え費用はどこまで相手に請求できる?

交通事故で車が大破!買い替え費用はどこまで相手に請求できる?

交通事故で車が全損してしまったことをきっかけに、「買い替え」を検討する人もいると思います。「加害者のせいで車が壊れたのだから費用も加害者に全額請求できるはず」と考えている人も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、交通事故をきっかけとする車の買い替え費用と損害賠償請求との関係について、特に知っておきたい重要なポイントについて解説していきます。

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1、交通事故で自動車が全損したときの「車の買い替え費用」は全額加害者に請求できる?

物損事故の場合の損害賠償の仕組みについて、特に重要なポイントを確認しておきましょう。

(1)損害賠償は「原状回復」が基本

交通事故の損害賠償実務において、加害者に対して請求できる損害賠償の範囲は、「実際に発生した損害」に限られているのが現状です。
つまり、実際に生じた損害額が100万円であるときには、加害者から受け取れる損害賠償額も100万円となるのです。

(2)物損事故における「全損」の定義

交通事故の損害賠償実務上、「全損」とは、次の二つの場合を指します。

  • 物理的全損:交通事故によって自動車が「修理不可能」な程度まで損壊した場合
  • 経済的全損:車の修理代金が車の評価額(時価額)に買い替えに必要な諸費用よりも高くなってしまった場合

損害賠償の基本は「実際に発生した損害」に限られるのが原則です。壊れてしまった車の時価額+買替諸費用が、修理費を下回る場合(つまり、経済的全損の場合。)、事故車両の時価額等が「実際に発生した損害」となり、修理費を加害者に請求することは基本的にはできません。「修理するより、同じ程度の車に買い替えてしまった方が合理的」であるからです。

なお、本記事で前提としている、車が「大破」した場合に関していえば、(よほどの高級車でもなければ)基本的には事故車両の時価額等は、修理費用を上回らないと考えられますので、以下でも「全損」であることを前提に解説をしていきます。

(3)全損となった場合の損害額の算出基準

車が交通事故により「全損」となった場合、車を買い替える必要が生じてきます。

その場合、当該車の時価額や、買い替えによって生じる諸費用を加害者に請求することができます。

ここで注意すべきは、「時価額」として加害者に賠償を求めることができるのは、「損壊した自動車の事故時の評価額」であるという点です。

つまり、新車で500万円で購入した自動車であっても、事故当時すでに購入から相当の年月が経っていたり、走行距離が長かったりするために、「事故時の評価額」が200万円しかないという場合、加害者に賠償を求めることができる「時価額」も200万円になるということです。

したがって、同じ車を新車で買うのに500万円かかるからといって、必ずしも加害者に対して500万円を請求できるというわけではないのです。

(4)車の評価額(時価額)の算出方法

加害者側の保険会社と交渉する際、「レッドブック(オートガイド自動車価格月報)」という冊子に記載された価格に基づいて交通事故の損害賠償の基準となる車両の時価額が算出されることがあります。

もっとも、判例は、車両時価額について、「原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離などの自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額」であるとして(最二小判昭和49年4月15日民集28巻3号385頁)、市場価格方式をとっています。

そうなると、「レッドブックが市場価格を適切に反映しているか」という点が問題なります。加害者側の保険会社は、当然のごとくレッドブックで算出した時価額を主張してきますが、レッドブックよりも希望小売価格で設定されている中古車販売サイトにおける価格の方が高額になる傾向にあります。

そのため、加害者側の保険会社が提示する時価額に納得がいかない場合、中古車販売サイト等で同種同等の車の市場価格を調べたうえ、交渉をしてみてもいいでしょう。

また、年式が相当程度古い車両に関しては、加害者側の保険会社によって、過度に減価償却がなされたうえで、時価額を提示されることもあります。

しかしながら、この場合も結局、賠償されるべきは市場価格です。本当に同種同等の車を取得するに当たって、加害者側の保険会社の提示する金額しかかからないのかどうかはよく検討すべきです。そのうえで、市場価格を立証し、交渉をしていくべきです。

加害者側の保険会社からの賠償提示に納得がいかない場合は、対処法がないかどうか、弁護士に相談してみてもいいでしょう。

(5)加害者に賠償してもらえる「買い替え諸費用」の範囲

交通事故が原因で実際に車を買い替えるという場合、車両本体価格のほかに、車庫証明等の買い替え諸費用がかかってきます。

「全損」の場合、この買い替え諸費用も、「実際に発生した損害」として加害者に対して請求していくことができます。

買い替え諸費用のうち、主なものは以下のとおりです。

  • 自動車税環境性能割(以前の自動車取得税に相当するもの)
  • 登録手数料
  • 車庫証明費用
  • 車庫証明手数料
  • 納車手数料
  • 廃車手数料
  • 自動車重量税の未経過分(使用済自動車の再資源化等に関する法律により適正に解体さ れ永久抹消登録されて還付された分は除く)

なお、上記の「時価額」が消費税を含んだ金額ではない場合、消費税も買い替え諸費用として加害者に対して請求することができます。もっとも、新しく取得した車両にかかった消費税を請求できるのではなく、あくまでも「時価額」に対する消費税分の請求ができるにすぎない点には注意が必要です。

他方で、事故車両の自賠責保険料、新しく取得した車両の自動車税や自賠責保険料は、損害として認められないことが多いです(事故車両の未経過分の自賠責保険料や自動車税などについては、手続を取ることで還付を受けることができます)。

どのような費目が請求でき、どのような費目が請求できないのかといった判断は複雑であることが多いため、疑問に思うことがあれば弁護士に相談してみてもいいでしょう。

(6)その他の請求費目

交通事故により車が「全損」となった場合、上記の時価額や買い替え諸費用の他にも、以下の費用を加害者に対して請求することができます。

①レンタカー(代車)費用

買い替え期間中のレンタカー費用を加害者へ請求できます。

もっとも、レンタカー費用を加害者に請求することができるのは、買い替えに通常要する期間分のみで、基本的には2週間から1カ月程度とされています。ただ、あくまでも、買い替えに通常要する期間分の補償を求められるのが原則ですので、1カ月を過ぎたとしても、長期間レンタカーが必要であるという事情を具体的に説明することで、その分のレンタカー費用を加害者に負担させられる場合もあります。

レンタカーの使用期間やグレードなどで加害者側保険会社と揉めそうな場合は、早いうちに弁護士に相談しておきましょう。

②雑費

レンタカー費用の他にも、下記のような費目の賠償も請求できる可能性があります。

  • 車両の引上げ費用、レッカー費用

事故により走行不能になるなどして、事故現場から工場などへ移送する場合にかかってくる費用です。

  • 保管料

廃車にするのか否かを検討する期間が必要であるという場合に、工場などに保管しておいてもらうにあたってかかってくる費用です。

  • 時価算定料、見積費用

「全損」と判断するには、基本的には車両の時価額と修理費の算定が必要になります。そのため、時価算定や修理見積にかかる費用も、「実際に発生した損害」として加害者へ賠償を請求することができます。

  • 廃車料、車両処分費用

「全損」の場合、大破してしまった車両は基本的には廃車することとなります。その場合にかかってくる費用も、加害者に対して請求することができます。

③その他

その他にも、例えば車に積んであった積載物が壊れてしまった場合の当該積載物の時価額や修理費用や、タクシーやバスなどが大破してしまい、当該車両を使えなかったことによって売り上げが下がったという場合の休車損害など、交通事故と相当因果関係がある損害が生じたのであれば、「実際に発生した損害」の範囲で、加害者へ請求することができます。判断に迷うことがあれば弁護士に相談してみてもいいでしょう。

2、交通事故では自分にも過失があると受け取れる賠償額は減る

交通事故においては、加害者だけに落ち度があるのではなく、被害者にも何かしらの落ち度があることが少なくありません。

当事者の双方に落ち度(過失)がある交通事故の場合には、双方に発生した損害をそれぞれの過失割合に応じて負担し合うことになります。

たとえば、加害者の過失割合が70%、被害者の過失割合が30%で、双方全損となったケースにおいて、被害者の時価額や買い替え諸費用等の物損の総額が100万円であるという場合、自己過失分である30%については加害者へ請求することができませんので、結局被害者側が受け取ることができるのは70万円となります。

さらに言えば、被害者も、加害者に対して、30%分の損害賠償をしなければなりません。加害者の時価額や買い替え諸費用等の物損の総額が200万円であるという場合、そのうちの30%である60万円を、加害者から請求されてしまいます。

上記のケースで、もし、被害者が受け取ることができる70万円と、被害者が支払わなければならない60万円を相殺して清算する場合、被害者としては差額の10万円しか受け取ることができないことになります(このような場合は、加害者への60万円の賠償について、対物賠償保険を使った方がよいでしょう)。

過失が絡んでくる場合、示談交渉はより一層複雑になります。下記のとおり、保険の等級が下がってでも自身の保険を使うべきか否かなども検討する必要が出てくるでしょう。そもそも加害者側保険会社が主張する過失割合が正しいのか否かも検討しなければなりません。

過失事故の場合、ご加入の保険会社が示談代行をしてくれることも多いと思いますが、納得のいく結果になるかどうかは担当者の力量次第です。過失がある事案についても、やはり一度は弁護士に相談してみるべきでしょう。

3、交通事故での損害は自分の自動車保険からの保険金でも補填できる

自身の過失割合が大きかったり、加害者車両の時価額が高く加害者へ賠償すべき金額が高額であったりして、加害者からの損害賠償では十分な補填ができないという場合であっても、被害者自身が保険に加入していれば、対物賠償保険で加害者への賠償を賄ったり、車両保険がついているのであれば自分の過失分も含めて被害者車両の損害をカバーしてもらうことができます。

もっとも、自分の保険を使う場合、基本的には等級が下がり、来年度以降の保険料が上がってしまいますし、車両保険を使う場合には、限度額がネックになることも多いでしょう。

保険を使う前に、保険料が上がってしまうデメリットと、保険を使うことによるメリットを十分に比較検討する必要があります。

まとめ

大きな交通事故の場合には、車が「全損」になってしまうことも少なくありません。

「全損」の物損事故では、必ずしも実際に新しい車両を購入するのにかかった費用の全額を請求できるというものではありません。
あくまでも、「時価額」や「買い替え諸費用」等の請求ができるにすぎないのです。

他方で、「時価額」は自動的にその額が決まるようなものではなく、加害者側保険会社と十分な交渉をしなければ、低い金額でまとめられてしまう可能性があります。「買い替え諸費用」についても、請求できる費目とできない費目があり、きちんとした知識がなければ請求漏れになってしまうこともあるでしょう。

「全損」の物損事故において、加害者側保険会社の「言い値」は、弁護士が交渉した場合の金額よりも低い場合がほとんどです。

ご自身が加入されている保険に弁護士費用特約が付帯していれば、仮にケガが生じなかったという純粋な物損事故の場合であったとしても、費用倒れすることなく弁護士に示談交渉を任せることができます。

加害者側保険会社との示談交渉に際して少しでも不安な点があるのであれば、積極的に弁護士に相談してみることをお勧めします。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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