不正転売禁止法(あるいはチケット不正転売禁止法)は、正式名称、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」といいます。
不正転売禁止法という名称自体はご存知の方も多いと思いますが、その具体的な法律の効果までご存知の方は少ないのではないでしょうか?
そこで、
- 不正転売禁止法とはどんな法律なのか?
- どんなものが規制の対象とされるのか?
についてご説明するとともに、最後に、今話題の
- 東京オリンピックの観戦チケットの転売に関する動き、注意点
についてご説明させていただきます。
この記事が、これからチケットを購入すること又は諸事情で購入したチケットを手放すことを検討されている方のお役に立つことができれば幸いです。
1、令和元年6月に不正転売禁止法が施行
不定転売禁止法は、平成30年12月14日に公布され、令和元年6月14日から施行されています。
(1)不正転売禁止法とは
不正転売禁止法第1条には、
特定興行入場券の不正転売を禁止するとともに、その防止等に関する措置等を定めることにより、興行入場券の適正な流通を確保し、もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資することを目的とする
と書かれてあります。
つまり、不正転売防止法は、特定興行入場券(後で記載しますが,ひとまず「チケット」と考えてください。)について
- 不正転売の禁止
- 不正転売の防止等に関する措置等
を定めた法律ということができます。
(2)何が出来なくなるの?
具体的にはどんな行為が禁止されるのでしょうか?
この点、不正転売禁止法は「不正転売」と「不正仕入」の2つの行為を禁止しています。
①不正転売
「不正転売」とは、興行主(興行の主催者。その委託を受けた販売業者を含みます。)の事前の同意を得ないで、特定興行入場券をその販売価格(定価のことです。)を超える金額で有償譲渡することのうち、業として行なっていることをいいます。
「販売価格を超える金額で有償譲渡する」とは、典型的なのは、たとえば定価五千円のチケットを一万円で転売することです。
条文の文言上は,転売価格が販売価格(定価)を1円でも超えていれば「販売価格を超える金額」といえるでしょう。
「業として」とは、「反復継続する意思をもって」という意味です(事業として(仕事として)という意味ではありません)。
あくまで「意思」があればいいわけですから、不正転売を何回行ったかという「回数」だけで判断されるものではありません。
「購入した後すぐに転売している」という事実に加え、「過去に多数回の取引歴がある」、「多くの枚数を購入している」、「転売によって多くの収益を得ている」、「生活がその収益に依存している」などの事情が認められれば「業として」に当たる可能性が高いでしょう。
不正転売の回数が一回だけであっても、その他の事情から「反復する意思」があるとされる可能性もありますので、注意が必要です。
他方、急用が入ったため「たまたま転売した」という場合は「業として」に当たることはないと思われますが、その場合は、定価で販売することができる公式のリセールサイトを利用したほうが安全です。
公式のサイトでは事前に興行主の同意を得ているため転売しても問題はありません。
買い手がつかない場合であっても、定価より高値で売却しようとしただけで、不正転売禁止法違反となります。
②不正仕入
いわゆる「不正仕入」とは、不正転売を目的としてチケットを譲り受けることをいいます。
「不正転売を目的」とすることが要件であるため、不正転売目的ではない購入(譲り受け)であれば(たとえば,自らコンサートに行くつもりの購入など)、不正転売禁止法の規制対象ではないこととなります。
③不正転売禁止法に該当しない場合とは
定価以下での販売や、反復する意思のない1回限りの転売は、不正転売禁止法に該当しません。
あくまでも、「繰り返し利益を得る目的で」転売をする場合に、不正転売禁止法は該当するのです。
(3)なぜ不正転売禁止法が制定されたのか
不正転売防止法第1条にかかれてあるとおり、「興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資すること」を目的として作られた法律です。
すなわち、チケットの不正転売、不正仕入が横行すると、本当にチケットを買いたい人、文化・スポーツを楽しみたいと思っている人にチケットが行き渡らず、その結果、入場客数は落ち込み、ひいては文化・スポーツの発展、心豊かな国民生活の実現に影響を与えかねないことから、こうした事態を防止するために作られたのが不正転売防止法だというわけです。
また、公共の場所等でのチケット転売行為(いわゆるダフ屋行為)は、各都道府県が定める条例で規制されていましたが、ネット上における取引は規制外とされるため不正転売防止法が制定されました。
(4)不正転売禁止法に違反するとどうなるのか?
チケット不正転売禁止法違反となって逮捕された場合、の罰則について気になりますよね。
「不正転売」も「不正仕入」も、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はその両方の罰則が同時に科されます(併科)。
2、何が転売OKで何が転売NG?
不正転売防止法上、転売が禁止されるのは「特定興行入場券(いわゆるチケット,紙媒体に限らず,QRコードやメール記載の入場番号なども含まれます。)」とされています。
「特定興行入場券」とは、「興行入場券」(本法の対象は,日本国内で行われる興行です。)であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ,次の要件をいずれも満たすものをいいます。
① 興行主やその委託を受けた販売業者が、販売時に、(ⅰ)同意のない有償譲渡を禁止し、入場資格者か購入者の氏名・連絡先を確認した上で、(ⅱ)(ⅰ)が券面などに表示されているもの
② 興行の日時・場所のほか、入場資格者か座席が指定されているもの
③ 入場資格者又は座席が指定されている興行入場券の場合,その氏名や連絡先等を確認する措置を講じ,かつ,確認する旨が券面などに表示されているもの
ですから、「特定興行入場券」とは上記アからウの要件を満たした入場券ということになります。
以上を前提に、以下のものが「特定興行入場券」か、すなわち、不正転売防止法の規定の対象かを検討します。
(1)列車の乗車券は?
列車に乗車することは「興行(映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせるもので、日本国内で行われるもの)」には当たらないことから対象外です。
だたし、各都道県が定める迷惑行為防止条例の対象にはなります。
(2)ゲーム機やフィギュア、グッズは?
ゲーム機やフィギュアなグッズは「特定鋼業入場券」ではないことから対象外です(ただし、公安委員会の許可を得ないまま古物営業を営んだ場合は古物営業法の無許可営業罪に問われることがあります)。
(3)サイン会や握手会、写真撮影会の有料参加チケットは?
サイン会などは「芸術・芸能」を見せるものではないため「興行」に当たらない可能性が高いと考えられますが、これらのサイン会等によっては対象になる可能性もあります。
(4)コミックマーケットの出店者用の通行証や駐車券は?
これらも「芸術・芸能」を不特定多数の者に見せるものではないため「興行」には当たらないと思われます。
したがって、対象外となる可能性が高いです。
3、ダフ屋等からの購入行為は別の罪に!
不正転売防止法は、チケットの不正転売、又は不正転売目的の仕入れ行為を処罰する法律ですから、ダフ屋等からの購入については処罰の対象としていません。
しかし,不正転売目的の購入行為は詐欺罪、電子計算機使用詐欺罪に当たる可能性があり、こういった行為をした人から、それが不正転売目的の購入(詐欺行為)によって得られたチケット(盗品等)だとわかりつつ譲り受けた場合は、盗品等有償譲受罪、あるいは盗品等無償譲受罪に問われる可能性があります。
4、東京五輪のチケットも、購入価格を超える高値での転売はできない
最後に、東京五輪のチケット転売に関する動き、注意点をご紹介します。
(1)不正転売防止法はすでに施行されている
冒頭でもご紹介しましたが、不正転売防止法の施行日は令和元年6月14日です。
つまり、施行日以降の「不正転売」、「不正仕入」は処罰の対象となりますから注意が必要です。
(2)転売防止の監視システムは導入されている
東京五輪組織委員会は、すでに、公式サイト上での「異常行動(来場者名が頻繁に変更されるなど)」をしているユーザーを自動的に監視し、その警告を委員会がキャッチするという監視システムを導入しているようです。
そして、そこでキャッチした情報をもとにIDを割り出し警察と連携して対応を図るとのことです。
(3)チケットのオークションでの出品は禁止されている
フリーマーケットオークションサービス事業者では「メルカリ」、「ヤフオク!」、「ラクマ」、チケット仲介サービス事業者では「チケットストリート」、「チケット流通センター」、「チケジャム」ではすでに、チケットの出品を禁止しています。
(4)買う側のリスク~会場に入場できない、チケットが無効とされるおそれ
公式サイトで購入したチケットは、最後まで「購入者名」は変更できないとのこと。
購入者と実際の来場者がの関係が不明確であると認められる場合は、競技会場の入り口で入場を断られる場合があります(ただ、実効性が不透明であることから(3)のシステムが導入されています)。
また、オークションで出品されているチケットは全て無効化されるとのことです。
(5)一定の範囲の人には転売できる、それ以外の人への転売は公式サイトを利用すること
一定の範囲とは「チケット購入者の親族または友人、同僚その他の知人」をいいます。
ただし、チケットの券面額を超えた金銭を受け取ったり、利益を受領してはなりません。
それでも、チケットを譲る相手がいないという場合は、令和2年春に開設される予定の「リセールサイト」で転売しましょう。
まとめ
以上、不正転売防止法の具体的中身やチケットの転売の際の注意点などについてご説明してまいりました。
これから、東京オリンピックのチケットを含め、チケットの転売を検討されている方も多いかと思われます。
ぜひ、この記事を参考にしていただき、思わぬ落とし穴にはまらないよう気を付けていただければと思います。