盗撮は多くの場合都道府県の迷惑防止条例違反になり、刑事事件として取り扱われることになります。
あわせて、被害を受けた被害者から慰謝料を請求されるようなことがあります。
この場合、請求された慰謝料にはどのように対処すべきなのでしょうか?
実は盗撮の慰謝料請求には、早期に適切な対応をすることで不起訴に繋がる可能性が高まります。
そこで今回は、
- 盗撮で慰謝料を請求された場合の対応
- 相場額
についてご紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。
盗撮で逮捕されたときの対応方法については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、盗撮における「慰謝料」の意味
「慰謝料」というと離婚などの民事事件で耳にすることが多い言葉なので、本当に刑事事件で慰謝料は発生するのか疑問に思っている方もいるでしょう。
被害者から慰謝料を請求されたものの、罰金とは別途で支払う必要はないと考える方もいるかもしれません。
そこでまずは盗撮における慰謝料とはどのような意味があるのか解説していきます。
(1)盗撮=不法行為
盗撮は、民法上の「不法行為」になります。
不法行為とは他人の権利を不法に侵害する行為であり、加害者は損害を賠償する責任を負うことが法律上で定められています(民法第709条、710条)。
つまり、刑事事件とは別に民法上の不法行為にも該当するため、刑事上の罰金とは別に被害者より慰謝料を請求されることがあるのです。
加害者は被害者に対して慰謝料を支払う責任があるため、請求されても払わずにいれば裁判所を通して請求される恐れがあります。
(2)刑事上の罰金とは異なる
盗撮は民法上では不法行為になりますが、刑事上では迷惑防止条例違反行為になります。
刑法における犯罪として定められているわけではありませんが、各都道府県が定める迷惑防止条例において盗撮を禁止するとともに罰則が設けられているのです。
そのため、盗撮をすれば刑事罰として「罰金」が科せられることになります。
罰金は国に対して支払うものであり、被害者に対して支払われるものではありません。
つまり、被害者から請求される「慰謝料」とは性質が異なるのです。
刑事上の罰金は初犯の場合に科されやすい刑罰であり、その金額は100万円以下に定められていることが多くなっています(東京都の迷惑防止条例における刑罰の場合)。
盗撮の慰謝料に関する基礎知識を把握したところで、相場額を確認していきましょう。
2、盗撮の慰謝料の相場額
盗撮の慰謝料の金額は法律で具体的に定められているわけではなく、その金額は、各事例の具体的な事情により左右されますので、機械的に決まる基準などがあるわけではありません。
個々の具体的な事例から算定されることになりますが、裁判例上は、数十万円から100万円を超える金額が認められている例もあります。
なお、盗撮しようとしたものの、実際には撮影できずに未遂になったというようなケースもあるでしょう。
未遂であれば犯罪は成立しないと考える方も多いかもしれませんが、各都道府県の迷惑行為防止条例では「写真機その他機器を差し向け、もしくは設置すること」が禁止されています(東京都の迷惑行為防止条例第5条)。
つまり、カメラやビデオで撮影していなくても迷惑行為に該当することになり、被害者は慰謝料を請求することができます。
例を挙げると、次のようなケースでは盗撮未遂ながらも慰謝料が発生することになります。
- カメラを起動して相手にスマホを向けたが、撮影ボタンを押せなかった
- 盗撮しようとカメラを用意していたが、SDカードが挿入されていなかったのでデータが保存できていなかった
未遂であっても被害者が精神的苦痛を伴うことに変わりはないため、実際に盗撮を行なった場合と比較して金額が低くなるということはありません。
3、盗撮の慰謝料を早期に支払うことによるメリットとは?
盗撮の慰謝料を被害者に請求された場合、どのように対処すべきか悩む方も多いでしょう。
盗撮の慰謝料は早期に支払うべきであり、早期対処することにはいくつかのメリットがあります。
盗撮の慰謝料を早期に支払うことによるメリットについてみていきましょう。
(1)刑事事件における「示談」と「慰謝料」の意味
盗撮における慰謝料が関係してくるのは、大きくは、
- 刑事事件上
- 民法上
の二つの手続になります。
刑事事件では起訴処分を回避するために加害者から被害者へ「示談」を持ち掛け、「示談金(慰謝料)」を支払うという流れがあります。
刑事事件における示談とは、示談金を支払う代わりに被害届を取り下げて欲しいという旨を被害者に提案するものです。
示談金には慰謝料や実費(精神的苦痛により通院した場合の通院費用など)が含まれます。
しかし、示談せずに刑事事件を終えてしまえば、民法上の慰謝料の請求が行われることがあります。
刑事事件が終わっても民法上の責任は残っているため、被害者から損害賠償を請求される可能性が残るのです。
そのため、刑事事件中に示談金を支払うことは、民法上の不法行為における「被害者」と「加害者」という関係性を清算するという役割も担います。
不法行為における慰謝料請求の時効は3年になるため、3年間は慰謝料請求される可能性があります。
早期に被害者と加害者という関係性を清算するためにも、示談金(慰謝料)は早めに支払うことが重要です。
(2)示談金(慰謝料)を支払うことによる刑事上のメリット
示談金(慰謝料)を支払うことには、刑事上におけるメリットが2つ挙げられます。
①釈放される可能性が高まる
1つ目は、身柄拘束されていれば釈放される可能性が高まるという点です。
迷惑行為防止条例違反の事件において身柄を長時間拘束されるケースは少ないですが、身柄拘束されているとすれば、被害者と接触して証拠隠滅されることを防ぐという目的であることが多いです。
もし被害者と示談したならば、加害者が被害者に対してこれ以上働きかける必要性がなくなるため身柄拘束する意味がありません。
そのため、釈放されて日常生活に戻ることができる可能性が高まります。
②不起訴もしくは略式起訴の可能性が高まる
2つ目のメリットは、
- 不起訴もしくは
- 略式起訴
の可能性が高まるという点です。
起訴される前に示談が成立して被害届が取り下げれば、不起訴となる可能性が高まります。
不起訴になれば刑事裁判が行われないため、
- 刑事罰を受けること
- 前科がつくこと
を避けられます。
また、不起訴とならない場合でも、示談していることで略式起訴になる可能性が高まります。
略式起訴ならば裁判が簡略化されるため、事件を早期に解決することができます。
盗撮を繰り返し行っている場合であれば起訴は免れない可能性が高いですが、示談金を支払っていることで、判決の際に刑罰を軽減することが期待できます。
刑罰における執行猶予(刑の執行を猶予し一定期間の間刑事事件を起こさずに過ごした場合には刑罰権が消滅するという制度)を狙うことができ、比較的軽い刑罰で済む可能性が高まるでしょう。
4、一括払いは厳しい…盗撮の慰謝料負担を軽くする方法
盗撮の慰謝料の支払いは数十万円になることが多いため、支払いが難しいというケースもあるでしょう。
慰謝料は一括払いが原則になるため、支払いに頭を悩まされる方も多いかもしれません。
少しでも盗撮の慰謝料の負担を軽くするにはどのようにすればいいのでしょうか?
(1)お金を借りる
慰謝料を一括で支払いが難しい場合、お金を借りて慰謝料を支払うという選択肢があります。
家族や親などの親族から承諾を得ることができれば返済を約束し、被害者に一括払いすることができます。
もし家族など親族に相談できない場合には、金融機関から借りることになります。
金融機関へ借りることで被害者に一括払いすることができますが、利息が発生するため慰謝料で支払った金額よりも多くの金額を返済しなければなりません。
分割返済はできますが、返済期間が長引くほど利子によって最終的に支払う金額は大きくなると考えられます。
(2)被害者に分割払い交渉をする
一括払いが難しい場合には、被害者に分割払いを交渉するという手段もあります。
民事裁判の判決で慰謝料が決められた場合には一括払いをしなければなりませんが、裁判の判決外における慰謝料の支払い方法は当事者間で決めることができます。
しかし、一般的に被害者は分割払いを懸念するものです。
なぜならば、分割になれば途中で支払いが滞ってしまう恐れがあるからです。
被害者に分割払いの交渉を行う際には、
- 必ず全額支払うことを約束すること
- 利息も支払うことで総額になれば一括払いよりも多い支払いになること
などを約束することで、分割払いの合意を得られる可能性があります。
また、分割払いが被害者に懸念される理由の1つに、分割払いにすることで加害者との関係性が長期化するということも挙げられます。
被害者としては加害者との関係を早く断ち切りたいと考えることも少なくありません。
この場合には、支払い先を弁護士にするなどして直接の支払いにならないように提案してみましょう。
(3)一括払いに応じるとして減額交渉をする
相手の請求する慰謝料の金額を一括で支払うことが難しい場合には、減額交渉を行いましょう。
経済的に支払いが難しい理由を伝えて、一括払いに応じることを約束することで、相手は減額に応じる可能性があります。
被害者としては
- 加害者と関係が続くこと
- 分割払いで支払いが滞るリスク
よりも、慰謝料の金額が少なくなっても一括払いで終わらせたいと考えるケースもあります。
分割払いで合意を得られない場合には、一括払いに応じるとして減額交渉を行ってみてください。
5、盗撮の慰謝料問題は弁護士にアドバイスをもらおう
盗撮の慰謝料問題はご自身で解決を目指すよりも、専門家である弁護士にアドバイスを受けることをおすすめします。
弁護士というと費用が高いと考えて相談をためらってしまう方も多いかもしれませんが、無料相談を行う弁護士事務所も多くなっています。
そのため、まずは無料相談を利用して状況を説明し、今後のアドバイスを受けてみてください。
弁護士は法律の知識があるだけではなく、交渉のプロでもあります。
盗撮の慰謝料問題は被害者との交渉も必要になってくるので、どのように対処すべきなのか相談してみましょう。
弁護士に相談することで今後の見通しも立てられるようになるので、精神的な不安も軽減されます。
まとめ
盗撮事件は被害者と示談するための慰謝料がポイントになってきます。
不起訴処分や刑の減軽を狙うには、少しでも早い段階で被害者と示談して慰謝料を支払うことが大切です。
しかし、身柄を拘束されていればご自身で示談を進めることは難しいですし、身柄拘束されていない場合でも被害者は加害者と直接交渉には応じない可能性があります。
そのため、弁護士のサポートを受けて示談を目指すことをおすすめします。
弁護士事務所では無料相談も受けられるので、まずは無料相談で相談してみてください。