マタニティハラスメント(マタハラ)という言葉がよく使われるようになりました。
様々な場面で問題点が指摘されているにも関わらず、上司や同僚の心ない一言や会社の体制にまだまだ悲しい思いをされていらっしゃる方は多いようです。
この記事をお読みの方にも今まさに職場でマタニティハラスメントを受けている、これってマタニティハラスメントなのかな?と悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、悩んでいる方がどのように行動すれば良いか、具体的に例をあげてご説明したいと思います。
目次
1、マタニティハラスメント(マタハラ)とは
(1)マタニティハラスメントの定義
マタニティハラスメント(通称マタハラ)とは、働く女性が妊娠したことや出産を理由に、解雇されたり、働くことを強制的に制限されたり、妊娠・出産にあたり精神的・肉体的な嫌がらせを行う行為のことを指すとされています。
そもそも「ハラスメント」とは、発言や行動によって相手を傷つける、脅威をあたえることを言い、そこに加害者の意図は関係ありません。
つまり相手を傷付けようというつもりで行動を起こしていなくても、それを受け取った相手が「嫌だな」「辛いな」と思ったらハラスメントになるのです。
(2)マタニティハラスメントの実態
2015年11月厚生労働省の調査によると正社員の5人に1人、派遣社員の2人に1人の方が被害を受けたことがという結果が出たとのことです。
とても悲しいことですが、マタニティハラスメントは働く女性たちにとって大変身近な問題であることがわかります。
(3)マタニティハラスメントの種類
マタニティハラスメントには大きく分けて3つのタイプが考えられます。
下記の分類をご覧下さい。
①制度等利用者への嫌がらせをするタイプ
妊娠をしている女性には、産前休暇に代表されるような様々な制度が認められています。
例えば、危険を伴わない仕事に変更を希望すること、時間外・休日・深夜残業の制限を希望すること、時短勤務などがあり、出産後も育児休業の取得を求めることができます。
これについて、制度を利用したいと上司に求めた際に、解雇や降格など不利益な扱いを受けたり、請求しないように言われたり、取り下げるように言われたりするということがこのタイプのマタニティハラスメントです。
周りの同僚が同じような発言を繰り返した場合も同様です。
また、この制度を利用している妊婦さんに対して執拗に嫌がらせをするなどということもあります。
「時短は認めない」「妊婦だからって休まれると困る」などこれまでと変わらない勤務をするように強制的な空気を会社全体が作り出して妊婦さんを追いつめることや、出産を経験した女性から「自分のときは休んだりしなかった」という発言も十分にマタニティハラスメントになります。
また、直接的な発言はなくとも、辞めてほしい雰囲気を醸し出すタイプもいます。
「体のためにも辞めた方がいいんじゃない?」「働いていると赤ちゃんに悪い影響があるかもしれないし働いていて平気かな?」などあたかもその人のことを思っているような発言や素振りを見せて、妊婦の側からの退職を言い出すのを待つというタイプも考えられます。
②妊娠や出産状態への嫌がらせをするタイプ
妊娠やつわり等によって労働の能率が下がったことを理由に、上司が解雇に追い込んだり、不利益な取り扱いをしたりして、繰り返し、断続的に嫌がらせをする等というタイプです。
ほかにも同僚から妊娠をきっかけに仲間はずれにされたり、悪口を言われたりするパターンが考えられます。
「妊婦は働かなくてもお金もらえていいね」「あなたのせいでこっちはどれだけ迷惑していると思っているの?」など、明らかに悪意のある発言で妊婦を精神的に追いつめるとても悪質ないじめです。
加害者の中には自身が妊娠を希望している場合や結婚したいと思っている女性が嫉妬心からこういった行動に出る方もいる傾向にあるようです。
③価値観を押し付けるタイプ
主に昭和の男と呼ばれるような価値観を持つ上司による発言が考えられます。
「女は家庭に入るべきじゃないのか」「女は子育てに専念したほうがいいのではないか」など、自分の生きてきた時代の価値観を押し付けるタイプです。
この発言には悪意はなく良かれと思って言っている場合も考えられます。
しかし、キャリアを積んできた女性たちは、生き方を否定された気分になったり、退職するべきなのかと悩んだりしてしまうでしょう。
④その他
その他にも妊娠をする前の女性に対して「妊娠されたら困るから妊娠しないで」や「あと○年は妊娠しないで欲しい」とプレッシャーをかけるというものです。
妊娠は会社の都合によってコントロールされたり、上司や同僚が決めたりすることではありません。
安心して妊娠、出産、子育てができる環境作りは会社の義務です。
このような発言はマタニティハラスメントにあたる可能性があることが十分考えられます。
2、マタニティハラスメントは違法!法律をご紹介します
(1)妊娠や出産をきっかけに不利益な扱いをすることを禁止している
①禁止している法律は?
まず、法律では妊娠や出産をきっかけとして不利益な扱いをすることを禁止しています。
根拠となる条文は下記の通りです。
男女雇用機会均等法
第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
3項 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
育児介護休業法
第10条
事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
②具体的に違法となる可能性がある言動は?
つまり、下記のような言動は違法と言えます。
- 妊娠を申し出たら解雇になった
- 妊娠を申し出たら正社員からパートになれと強要された
- 「うちの会社では産休育休を取得させられる余裕はない」と言われた
- 産休前についていたポジションを無くされて「戻ってきてもやることがない」と言われた
- 保育園も決まって復帰した直後に転勤を伴う異動の辞令が出て、断ると解雇された
などが例として考えられます。
(2)ハラスメントを禁止している
①禁止している法律は?
また事業主には妊娠・出産、育児休業等に関する、上司や同僚からのハラスメントを防止するために対策を講じることが義務付けられています。
男女雇用機会均等法
第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 2項 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする。
育児介護休業法
第25条(子の看護のための休暇の措置)
事業主は、その雇用する労働者のうち、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に関して、 労働者の申出に基づくその子の看護のための休暇(負傷し、又は疾病にかかったその子の世話を行う労働者に対し与えられる休暇(労働基準法第39条の規定による年次有給休暇として与えられるものを除く。)をいう。)を与えるための措置を講ずるよう努めなければならない
②具体的に違法となる可能性がある言動は?
下記のような言動はハラスメントであり違法である可能性があると考えられます。
- 子どもが熱を出して看護休暇を取得したところ「次取ったら解雇する」と言われた
- 「子どもがいるから仕事を任せられない」と言われた
- 「体調がすぐれないときもあるだろうから、赤ちゃんのことを考えて早めに退職を考えたら?」と同僚に言われた
- 「妊婦には荷が重いよね」といって勝手にプロジェクトから外された
- 「仕事が忙しいはずなのに、子供なんて作る暇があって羨ましい」と嫌みを言われた
- 「(プロジェクトなどに参加していたため)空気が読めない」と言われた
- 妊娠をきっかけに仲間はずれにされるなど嫌がらせをされるようになった
会社はこのようなハラスメントが起きないように対策をし、もし起きてしまった場合もすぐに解決できるようにしておかないといけないと法律で決められています。
つまりハラスメントが発生すると、このよう言動を行った者以外に会社にも責任を問われるということになります。
3、企業からマタニティハラスメントをされたらどうしたらいいの?マタニティハラスメントに対する対処法
このように法律では、妊娠、出産、育児休業を取得することで不利益な扱いをすることや、ハラスメント自体を禁止しており、違法とされています。
しかしそれでもマタニティハラスメントは起きてしまっている現状があります。
ではマタニティハラスメントかなと思ったらどのように行動をすれば良いのでしょうか。
(1)嫌と伝える
嫌なことは嫌だとはっきり伝えましょう。我慢する必要はありません。
相手には悪意がなく、気づかずに発している場合もあります。
改善も見込める可能性があることも考えられますので、自分の意思をはっきり伝えましょう。
(2)証拠を集める
あまりに断続して続くようなら、証拠を集めておくことをおすすめいたします。
辛い思いをしているなかで非常に苦しい作業かも知れませんが、後ほどご説明する法的手段を取る場合には役に立つと思います。
具体的には、メール等のやり取りを写真に残しておくことやICレコーダーを持ち込んで録音をしておくことなどが考えられます。
(3)会社のコンプライアンス窓口やパワハラ相談窓口に相談する
大きな会社だと、本社に相談窓口を設けている場合もあります。
改善が見込めない場合、本人には直接言いづらい場合は是非利用しましょう。
(4)労働局へ相談する
会社内で身内には相談し辛い、相談内容が直接本人に漏れてしまうんじゃないかと考えて躊躇されている方は、最寄りの都道府県の労働局雇用環境・均等部へ相談してみましょう。
紛争解決援助制度という制度があります。
これは労働者と会社の間に立って紛争を解決してくれる制度です。
労働局長が会社に対して法律に従って行政指導をしてくれます。
(5)弁護士などの専門家に相談する
労働局に相談するのと同様に、インターネットで「マタハラ 弁護士」などと検索して表示された法律事務所に問い合わせて相談するのも有効な方法です。
4、法的手段を取ることはできる?
マタニティハラスメントを受けた場合に法的手段を取ることは可能なのでしょうか?
マタニティハラスメントはそもそも違法な行為ですので、下記の手段を検討することが可能であると考えられます。
(1)法的手段の種類
マタニティハラスメントを受けた人が採ることができる法的手段には下記のようなものがあります。
①解雇されてしまった場合に・・・解雇の無効を訴える
男女雇用機会均等法第9条によって、妊娠や出産を理由に解雇してはならないと定められているのにも関わらず、解雇された場合は「解雇の無効」を求めて会社を訴えることができると考えられます。
②賃金が支払われていない場合に・・・未払いの賃金の請求
妊娠や出産を理由に不当に降格させられた場合は、降格になった時か判決が下されるまでの降格される前と差額の賃金を支払ってもらえることができる可能性があります。
③慰謝料の請求
精神的な苦痛に対して慰謝料を求めることができる場合も考えられます。
発言や言動などで精神的に追いつめられてしまった場合は検討しましょう。
(2)マタニティハラスメントの裁判例
①解雇の無効が認められた判例
平成26年3月26日に東京地方裁判所でマタニティハラスメントについて解雇を無効とする判決が出ました。
この事件は「ある女性が妊娠を伝えたあとに解雇されたのは無効」だとして社員としての地位の確認を求めた」という事件です。
「会社は妊娠が解雇の理由ではない。協調性がないからだ。」と反論しましたが、裁判所は「その事実は認められない、あるいは有効な解雇理由にはならない」といって解雇は無効になりました。
②未払い賃金、慰謝料請求が認められた判例
平成26年10月23日に最高裁判所でマタニティハラスメントについて未払い賃金と慰謝料を認めた判決が出ました。
この事件は「ある女性が妊娠をきっかけに勤務の軽減を申し出たところ、副主任という立場を降格になり、育児休暇を取得し復帰したあとも副主任には戻れなかった」という事件です。
これについて最高裁判所は、男女雇用機会均等法第9 条第3項に違反するとして、「女性労働者の母性を尊重し、職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失がある」と判断しました。
そして会社に女性に対して慰謝料100万円と降格された後から退職までの間の副主任としての手当の支払うよう判決が下りました。
このように判決の傾向もマタニティハラスメントを厳しく律する傾向にあります。
泣き寝入りせずに、法的手段を取ることも検討しましょう。
法的手段に出たいと考える場合は信頼できる弁護士に相談できるととてもスムーズですね。
妊娠や出産をきっかけに不利益に解雇されたという場合は法的手段を採ることができる場合があります。
労働問題に強い弁護士に相談してみましょう。
いきなり法律事務所に問い合わせるのは敷居が高いと感じてしまう場合は、法テラスに電話をしてみましょう。
法テラスは国が運営している団体で正式名称を「日本司法支援センター」と言います。
一定の条件を満たせば無料で相談に乗ってくれ、問題を解決するための法律の制度や手続のやり方を案内してくれます。
マタニティハラスメント(マタハラ)の対処法と判例の傾向まとめ
相手にそんな意図はなくても自分が「嫌だな」「不快だな」と感じたらそれは立派な「ハラスメント」です。
特に妊娠初期は見た目には妊婦と分からないことが多いにも関わらず、人によっては酷いつわりがあったりや急な体の変化で精神的にも不安定になったりすることがあります。
マタニティハラスメントには泣き寝入りせず、嫌なことは「嫌」と伝えることが大事、それでもダメなら法的手段に出てください。
女性にとって妊娠・出産というのは、人生の輝かしい一大イベントです。
そして出産後にも育児という果てしない道が続いています。
安心して子どもを産んで育てられる社会、そして出産後も働き続けられる社会というのは決して理想であってはならないと思います。