不起訴不当とは
「検察官の不起訴処分には納得できない。もっと詳しく捜査した上で起訴・不起訴の処分をすべきだ。」という判断をした場合の議決です。
出典:裁判所
今回は
- 不起訴不当や検察審査会とは何か
- 不起訴不当になった場合、今後どうなるのか
- 審査申立てがあった時の対処法
について解説します。
目次
1、不起訴不当とは……まずは検察審査会について知っておこう
不起訴不当とは、刑事事件について検察官が不起訴処分とした後に、検察審査会と呼ばれる機関が「公訴を提起しない処分を不当」という議決をすることです。
不起訴不当の議決が行われた場合、検察官は法律により再度捜査して起訴を検討しなければなりません。
(1) 検察審査会とは
検察審査会と呼ばれる機関は、選挙権を有する国民の中から抽選で選ばれた計11人から成り立っています。
各地方裁判所の管轄区域内に最低でも1つは設置され、公訴権の実行に関し民意を反映させて適正を図ることを目的とする組織です(検察審査会法第1条)。
職務は法第2条で規定されており、うち1つは「検察官の不起訴処分の当否の審査」だと定められています。
簡単には、犯罪被害者の泣き寝入りの可能性を考慮し、検察官が判断を誤らないように監視する組織だと言えます。
(2) 審査の流れ
検察審査会が審査を始めるのは、被害者や遺族からの申立てがあった時や、審査員がニュース等で事件を知った時です。審査会議は非公開で進められ、11人中6人(過半数)の意見が一致すれば、議決としてまとめられます(ただし、起訴相当の議決は8人以上の多数が必要です。)。
▼検察審査会での審査の流れ
- 審査申立てor職権審査
- 審査会議の開始(非公開、事件関係者及び審査補助員以外の士業は参加不可)
- 検討材料の収集(捜査記録の確認、検察官からの意見聴取等)
- 過半数による議決(起訴相当は8人以上の多数が必要)
(3)3種類の議決
検察審査会議の議決は、法第39条の5にある3種類のいずれかです。それぞれの議決の内容・意味は以下のとおりで、不起訴相当でない限り、改めて起訴される可能性が浮上します。
議決の種類 | 内容 | 議決の意味 |
起訴相当 | 起訴を相当とする議決(1号) | 刑事裁判を起こすべき |
不起訴不当 | 公訴を提起しない処分を不当とする議決(2号) | さらに詳しく捜査して検討すべき |
不起訴相当 | 公訴を提起しない処分を相当とする議決(3号) | 刑事裁判をしない処分は適当である |
2、不起訴不当になったら、その後はどうなる?
検察審査会議で不起訴不当と議決された場合、検察官は改めて公訴提起すべきか否かを検討する義務を負います(法第41条第2項)。
被疑者は事実上、同じ事件について2度捜査されることになり、刑事裁判になるリスクを再び負うことになるのです。
(1)検察官による再捜査
検察官による再捜査では、最初の不起訴処分までに得られなかった新たな犯罪の証拠も集められます。
例えば、関係者及び被疑者本人に追加で事情聴取がされたり、事件現場でより専門的な検証・鑑定が行われたりすることもあります。
(2) 起訴・不起訴の再決定
不起訴不当の議決によって、検察官には再捜査だけでなく起訴・不起訴を再決定する義務も生じます。
改めて起訴または不起訴の処分を行った後は、検察官から検察審査会へと通知されます(第41条第3項)。
(3) 不起訴となれば事件は終結
不起訴不当の議決は、必ずしも公訴提起に繋がるとは限りません。再捜査しても新事実や新しい犯罪の証拠を掴めなかったとして、検察官が改めて不起訴処分を下すこともあります。
上記のように2度目の不起訴処分が出れば、3度目はありません。事件は終結し、刑事裁判にかけられる可能性はなくなります。
(4)起訴されたら刑事裁判を受ける
再捜査で起訴処分となった場合は、検察審査会を通さずに公訴提起されるケースと同じく、裁判所に起訴状が提出されて刑事裁判が始まります。
裁判で犯罪の有無および量刑を判断する手続きに入り、罪名や事件の内容によっては懲役・禁錮などの刑事罰を受ける可能性が浮上するのです。
(5)起訴率はどれくらい?
検察審査会制度を経た後の起訴率は、毎年ばらつきがありつつも概ね20%よりも少し低い程度で推移しています。5件~6件に1件と考えると、決して低くありません。
令和2年版の犯罪白書では、起訴相当議決事件と不起訴不当議決事件とを合計した数値ですが、再捜査が必要になった事件の起訴率が紹介されています。以下で、平成27年以降5年間の起訴率をご紹介します。
▼起訴率の推移
平成27年:措置済121件のうち20件(16.5%)
平成28年:措置済66件のうち13件(19.7%)
平成29年:措置済85件のうち5件(5.9%)
平成30年:措置済84件のうち21件(25.0%)
令和元年:措置済110件のうち21件(19.1%)
3、不起訴不当と起訴相当はどう違う?
検察審議会議の議決で再度捜査されるもののうち、事実上起訴一択になるのは「起訴相当」です。
不起訴不当と起訴相当との大きな違いは、不起訴不当がなお公訴提起されない可能性を持つのに対し、起訴相当では強制起訴がある点です。
そのため、起訴相当の議決の条件も厳しくなっています。2つの議決の違いをまとめると、下の表のようになります。
比較項目 | 不起訴不当 | 起訴相当 |
議決の条件 | 11人中6人以上の意見一致 | 11人中8人以上の意見一致 |
1回目の議決後 | 再捜査される | 再捜査される |
不起訴処分が再決定された時 | 事件終結 | 2回目の検察審査会議へ |
2回目の議決後 | ― | 起訴相当の議決がもう1度され、指定弁護士が検察官の役割を担って起訴へ |
4、検察審査会に申し立てられたときの対処法
検察審査会で不起訴相当の議決をしてもらいたくても、効果ありとはっきりいえる方法を紹介できないのが現状です。
審査会議の規定により、被疑者からの積極的なアプローチがほとんど不可能であるためです。
加えて、被疑者に対する審査開始の通知義務がないため、申立てがあったことを知るタイミングが遅れがちであることも指摘できます。
被疑者として検察審査会議に働きかけられるとすれば、以下のような方法が挙げられます。
(1) 証人として適切な供述をする
検察審査会には関係者に尋問する権利があり、その中で被疑者も証人として呼び出されることがあります。
呼び出される機会があれば、不起訴処分に繋がる供述を改めて行い、検察審査員の理解を得られるよう努めましょう。
【参考】不起訴処分に繋がる事情
犯罪事実を認めていた場合:本人の反省、示談成立、しょく罪寄附等
犯罪事実を認めていない場合:事件発生時の行動+その証拠等
(2) 意見書・上申書を提出する
検察審査会法で権利として認められているわけではありませんが、被疑者の気持ちや認識をまとめた意見書・上申書を提出する方法もあります。
被疑者が審査会議に関わることは認められませんが、提出しようとする書類があれば、実務上受理されているのです。
ただ、上記書類を審査会議の判断材料としてもらえる保証は全くありません。それでも可能性を拓くため、出来ることはやっておくと良いでしょう。
(3)不起訴となっても被害者への謝罪や示談は大切
検察審査会への申立てが行われるかどうかに関わらず、不起訴処分の後も被害者と和解する試みは続けましょう。
大前提として、刑事責任と民事責任は別物です。
不起訴となっても、故意または過失によって相手に傷害や経済的損失を負わせてしまったのなら、不法行為責任(民法第709条)や債務不履行責任(民法第415条)に基づき、損害賠償義務を負います。
弁償を怠れば、審査申立てに踏み切られる可能性が大きくなるのは当然です。
事実を把握した審査員の心証も損ね、不起訴相当が遠のいてしまうことは否めません。
5、検察審査会に申し立てられたら弁護士に相談を
検察審査会への申立ての動きが見られたなら、なるべくすぐに刑事弁護に強い弁護士に相談しましょう。
審査申立てが行われた後は、最初に不起訴処分を得た時と比べると、被疑者やその家族に出来ることはより限られます。
ケースバイケースで何が出来るのか考え、説得力のある丁寧な活動が必要となり、そのためには弁護士のサポートを受けることが重要です。
▼弁護士に出来ること(一例)
- 検察審査会に関する詳しい説明
- 起訴されないためのアドバイス
- 意見書、上申書の作成サポート
- 不起訴不当が出た時の弁護活動
不起訴不当に関するQ&A
Q1.不起訴不当とは?
不起訴不当とは、刑事事件について検察官が不起訴処分とした後に、検察審査会と呼ばれる機関が「公訴を提起しない処分を不当」という議決をすることです。
不起訴不当の議決が行われた場合、検察官は法律により再度捜査して起訴を検討しなければなりません。
Q2.検察審査会とは?
検察審査会と呼ばれる機関は、選挙権を有する国民の中から抽選で選ばれた計11人から成り立っています。
各地方裁判所の管轄区域内に最低でも1つは設置され、公訴権の実行に関し民意を反映させて適正を図ることを目的とする組織です(検察審査会法第1条)。
職務は法第2条で規定されており、うち1つは「検察官の不起訴処分の当否の審査」だと定められています。
簡単には、犯罪被害者の泣き寝入りの可能性を考慮し、検察官が判断を誤らないように監視する組織だと言えます。
Q3.不起訴不当になったら、その後はどうなる?
検察審査会議で不起訴不当と議決された場合、検察官は改めて公訴提起すべきか否かを検討する義務を負います(法第41条第2項)。
被疑者は事実上、同じ事件について2度捜査されることになり、刑事裁判になるリスクを再び負うことになるのです。
①検察官による再捜査
検察官による再捜査では、最初の不起訴処分までに得られなかった新たな犯罪の証拠も集められます。
例えば、関係者及び被疑者本人に追加で事情聴取がされたり、事件現場でより専門的な検証・鑑定が行われたりすることもあります。
②起訴・不起訴の再決定
不起訴不当の議決によって、検察官には再捜査だけでなく起訴・不起訴を再決定する義務も生じます。
改めて起訴または不起訴の処分を行った後は、検察官から検察審査会へと通知されます(第41条第3項)。
③不起訴となれば事件は終結
不起訴不当の議決は、必ずしも公訴提起に繋がるとは限りません。再捜査しても新事実や新しい犯罪の証拠を掴めなかったとして、検察官が改めて不起訴処分を下すこともあります。
上記のように2度目の不起訴処分が出れば、3度目はありません。事件は終結し、刑事裁判にかけられる可能性はなくなります。
④起訴されたら刑事裁判を受ける
再捜査で起訴処分となった場合は、検察審査会を通さずに公訴提起されるケースと同じく、裁判所に起訴状が提出されて刑事裁判が始まります。
裁判で犯罪の有無および量刑を判断する手続きに入り、罪名や事件の内容によっては懲役・禁錮などの刑事罰を受ける可能性が浮上するのです。
まとめ
刑事事件では、不起訴処分となった後に検察審査会へ申立てがあり、その結果「もう一度捜査して処分を検討すべき」と不起訴不当の判断が下ることがあります。
不起訴不当が出た場合、証拠収集や関係者への事情聴取が改めて行われ、最初の判断が覆って起訴処分が下る恐れがあります。
審査申立ての動きを察知した時は、すぐに弁護士に相談しましょう。
不起訴不当の議決があった後も、改めて刑事裁判を回避するため、専門家による一層慎重な対応が求められます。