具体的にどのようなケースで公証役場を利用(公正証書を作成)すればよいのか、きちんと理解できている人は少ないのではないでしょうか。
今回は、
- 公証役場を利用すべき具体的ケースなどについて重要なポイント
についてまとめてみました。
1、公証役場とは(公証人役場とは)
公証役場とは、公証人が執務を行う事務所のことであり、公証人役場とよぶこともあります。
公証役場は、法務省が所管するので、官公庁の一種ではありますが、独立採算制がとられている(国からの補助金・給与の支給を受けない)点で、一般的な官公庁と異なる点が特徴の1つといえます。
(1)公証人とは
公証人は、国の公務となっている公証事務を担当する公務員で、全国には約500人の公証人がいます。
公証人は、裁判官や検察官などのように、法律事務の経験を積んだ人の中から、法務大臣によって任命された人がなります。
公証人は、国の公務としての公証事務を行う点で、特に、公平性・中立性を強く求められる点で、党派性(依頼人の味方)としての色彩の強い弁護士・司法書士といった在野法曹とは大きく立ち位置が異なるといえます。
(2)最寄りの公証役場を探す方法
公証人は、それぞれの公証事務所を所管する法務局の管轄区域内でのみ、公証事務を行うことができます。
つまり、大阪法務局管内の公証人に、兵庫や京都での仕事を依頼することはできないということです(出張以来の場合には出張地を基準に管轄が決まります)。
ただし、奈良や和歌山に住む人であっても、大阪にある公証役場に出向けば、大阪の公証人に公証事務を依頼することは可能です。公証役場は、全国に約300カ所設置されていますので、それぞれのニーズに合致した公証役場を選択して事務を依頼するとよいでしょう。
公証役場の所在については、下記のリンク先から検索するのが最も便利な方法といえます。
【参考】公証役場一覧(日本公証人連合会ウェブサイト)
2、公証役場を利用する6つのケース
公証役場は、その存在や公正証書を作るところということまでは知っていても、どんな場合に相談・依頼にいったらよいかということを具体的にイメージできている人は少ないのではないかと思います。
そこで以下では、一般の人が公証役場を利用すべき6つの具体例についてまとめてみました。
(1)遺言を作成する場合(公正証書遺言の作成)
一般の人にとって、公証役場を利用する可能性が最も高いのは、遺言を作成する場合といえます。
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの種類がありますが、公正証書遺言と秘密証書遺言を作成する際には、公証人への依頼が必須となります。
また、どのような遺言を作成すべきかわからないという場合には、公証役場で相談を受けてみることも有効な対処方法といえるでしょう。
(2)会社を設立する場合(定款の認証)
株式会社・合同会社などの法人を設立する際には、「定款」を定める必要があります。
この定款は、それぞれの法人における基本的なルールを定めたもので、法人の登録(登記)の手続の際には、公証人によって認証された定款を提出する必要があります。
なお、定款認証が必要なのは、法人を設立する際の定款(いわゆる原始定款)の場合です。
【参照】定款認証(日本公証人連合会ウェブサイト)
(3)事業用融資の保証契約を結ぶ場合(保証意思宣明公正証書の作成)
中小企業や個人事業主が金融機関から事業用の融資を受ける際には、連帯保証人を立てることを求められることが多いといえます。
しかしながら、事業用融資に対する個人保証は、根保証などのように契約条項が複雑なケースが多く、連帯保証人となった人にとっては予測していなかったトラブルとなる場合もあり、さまざまな問題が指摘されてきたところです。
そこで、今年(2020年)の4月1日から施行される新しい民法においては、法人やその事業を直接の関わりのある個人(その法人の役員・共同事業者など)以外を事業用融資の保証人(連帯保証人)とする場合には、事前に「連帯保証人になるという意思を明示した公正証書」を作成しなければならないことになりました。
(公正証書の作成と保証の効力)
改正民法465条の6事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
【参照】2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります(法務省作成パンフレット:PDFファイル)
(4)任意後見契約を行うとき
任意後見契約とは、本人が自らの意思で、自分の希望する任意後見人を選任するための私法上の契約のことをいいます。
本人のイニシアチブによる選任であること、本人が直接受任者(任意後見人)を指名する点で、裁判所による成年後見との違いがあります。
しかし任意後見契約が締結されれば、本人の法律行為の自由は大幅に制約されることになるため、本人を保護する意味でも、契約は慎重に締結されなければなりません。
そこで、任意後見法では、法定の書式にしたがった公正証書による契約が要件とされています(任意後見法3条)
【参考】任意後見契約に関する法律(e-Gov法令検索)
(5)特に履行を確保する必要のある重要な契約をする場合(執行証書の作成)
私たちが生活の中で締結する契約には、あらかじめ履行を確保しておかないと重大な損害が生じてしまうものも少なくありません。
たとえば、離婚の際に支払われる養育費などは、「毎月きめられたタイミングで決められた金額をきちんと支払ってもらえる」ことに大きな意味があります。
このようなケースでは、契約締結の際に、いわゆる「執行証書」を作成しておくと、とても便利です。
執行証書が作成されていれば、相手方が義務を履行しない(養育費をきちんと支払わない)という場合には、裁判所の手続(民事訴訟・支払督促)を経ることなく、公証人に執行文を付与してもらうことで、即時に相手方の給料などを差し押さえることが可能となるからです。
(6)第三者に証明してもらいたい事項がある場合(事実実験公正証書・宣誓認証・確定日付)
公証役場は、上記の5つの場合に加え、次のような方法でも利用することができます。
①事実実験公正証書の作成
事実実験公正証書とは、公証人が目撃・見分・聴取した経緯や内容・結果を公正証書として記載するものです。
たとえば、「ある財産が○月×日にどこに、どの程度存在したのか」といったことなどを第三者が証明してくれることで、トラブルを防止することが可能となります。
事実実験公正証書は、次のようなケースでも用いられることがあるようです。
- 貸金庫で保管されている財産の公証
- 知的財産権の先使用の証明
- 尊厳死の希望を明確に示す場合(本人がそのような意思を述べたことを公証人が聴取したことを公正証書にする)
②宣誓認証(宣誓供述書)
宣誓認証は、当事者が公証人の面前で、あらかじめ作成した文書に記載された内容が真実であることを宣誓した上で、その証書に署名・押印などをしたことを認証するという制度です。
宣誓証書が用いられる典型例は、いわゆるDV保護法による保護命令を受ける場合を挙げることができますが、それ以外の場合には、次のようなケースで用いられることがあります。
- 重要な目撃証言について証言予定者の記憶の鮮明なうちに証拠を残しておきたい場合
- 供述者が高齢又は重病のため、法廷の証言前に死亡する可能性が高い場合
- 証言予定者から、将来、協力を得られなくなる可能性が予想される場合や、相手方からの働きかけなどによって証言を覆される可能性があるとき
- 推定相続人の廃除の遺言を残すときに、廃除の具体的な理由を示す場合
③確定日付
確定日付とは、公証人が認証をした日付(事後に変更することのできない確定の日付)に、その文書が存在したことを証明するという制度です。
たとえば、消滅時効の起算日などをめぐるトラブルなどでは、ある法律行為(文書が作成された日)がいつであるかということが重要となるケースも少なくありません。
確定日付を利用すれば、そのようなトラブルを未然に防ぐことが可能となります。
3、公証役場を利用するときの費用
公証人に公証事務を依頼した場合の費用(手数料)は、「公証人手数料令」という政令によってあらかじめ定められています。
この手数料令では公証事務ごとの手数料額だけでなく、出張を依頼した場合の旅費・日当についての定めがあるので、あらかじめ必要な費用を自分で計算することが可能です。
手数料の支払いは、公証人による公正証書などの交付の際に現金(一括)で支払うことが原則となります。
ただし、資力に余裕がないことを市町村長などの証明書によって明らかにできる場合には、全部または一部の支払いを猶予してもらうことができます。
【参考】手数料(日本公証人連合会ウェブサイト)
まとめ
ひとくちに公正証書といっても、実際には、さまざまな形で利用されています。
たとえば、確定日付の制度などは、文書の内容までは公証してもらえないものの、ある文書の作成(存在日時)が明らかになるだけでも紛争を予防できるケースも多く、費用が高くないことを考えれば、とても便利な制度といえます。
また、公証事務についての相談は無料で受けることができます。
最近では、公証役場で遺言・後見制度などについての無料相談会が催されることも増えていますので、「とりあえずの情報提供」をうける機会としてはとても便利といえます。
ただ、公証人は、中立公平な立場を旨とする公務員ですから、「こうやった方が自分に有利になる」といったような相談には応じてもらえない場合があります。
最近では、日常トラブルについても弁護士の無料相談を受けられるケースも増えていますから、両方の仕組みを上手に使い分けていくとよいでしょう。