交通事故で痛くないのに通院する場合に知っておくべきこと6つ

交通事故で痛くないのに通院する場合に知っておくべきこと6つ

交通事故に遭い、痛くないのに通院を続けることにはどんな影響があるのだろう……。

軽いむちうちで済んだとしても、なんだか首肩の調子がよくない状態が続いていれば、病院に行くということもあるでしょう。しかし、交通事故でケガをした後、痛くないのに通院を続けるためには、いくつか注意が必要です。

今回は、

  • 交通事故で痛くないのに通院した場合のリスク
  • 交通事故後に痛くないのに通院すべきケース

などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

他にも、痛くないのに通院を続けて保険会社への不正請求を疑われないための注意点と疑われた場合の対処法などについても紹介します。この記事が、交通事故によるケガの通院を続けてよいのかどうか迷っている方々の手助けとなれば幸いです。

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1、交通事故後に痛くないのに通院すべきケースとは?

交通事故の後、周囲の人から通院を勧められても「痛くないのに通院していいのか?」と不安になることでしょう。しかし、以下のケースでは特に痛みを感じなくても病院で医師の診察を受け、医学的に治療の必要性がないことがはっきりするまで通院すべきです。

(1)交通事故直後

交通事故で身体に衝撃を受けたときは、すぐに病院へ行って受診しましょう。
交通事故に遭った直後は、ケガをしていても精神的に興奮状態になっているため、神経が昂ぶっていて痛みを感じないことが少なくありません。また、そもそも症状がすぐには現れず、しばらく経ってから異変を感じる負傷もあります。

しかし、事故に遭ってから受診するまでの期間が長く空きすぎると、保険会社から「事故とは関係のないケガで受診したのではないか?」と疑われてしまい、保険金を受け取れなくおそれもあります。

そのため、事故で身体にある程度の衝撃を感じた場合には、念のために医師の診察を受けておくべきです。仕事中などですぐに受診する余裕がないときでも、できる限りその日のうちに受診するようにしましょう。どの科を受診すればいいか分からない場合は、まずは整形外科を受診してみてください。

(2)むちうちの場合

むちうちの場合は特に、事故直後には痛みを感じなくても、翌日や数日後に首肩の痛みやしびれ、体調の異変などを感じるケースが少なくありません。また、一時的に軽快したと思っても、その後にぶり返すことも多々あります。
そのため、むちうちになった場合は早期に医師の診察を受けるとともに、自己判断で通院をやめずに、治癒または症状固定の診断を受けるまで通院を続けるべきです。

(3)医師の指示がある場合

自分では痛くないと思っても症状が潜んでいる場合があるため、医師が経過観察のための通院を指示してくることがあります。その場合には、医師の指示に従って通院を続けましょう。

「痛みがないから、仮にどこかをケガしていたとしても大したことはないだろう」と自己判断をするのは危険です。場合によっては、脳内出血などの重大な負傷が生じていても、すぐには自覚症状が出ないこともあるのです。症状がないからといって通院せずに普段通りに生活していると、容態が急変して命の危険が生じるおそれもあります。

とにかく、交通事故で身体に衝撃を受けたら念のためにでも診察を受け、その後は医師の指示に従うということが重要です。

2、交通事故で痛くないのに通院した場合に負うリスク

自分の身体のために、また保険金を受け取るためにも通院した方がよいことは分かってはいても、「本当に通院してもいいのか?」という不安が拭えない方もいることでしょう。

たしかに、交通事故の被害者にとって、痛くないのに通院することにはリスクもあるのは事実です。そこで、どのようなリスクがあるのかについて具体的に説明します。

(1)治療費が自己負担となるおそれがある

交通事故の被害者のケガの治療にかかる費用は、通常の場合、保険会社から病院へ直接支払われます。そのため、被害者自身が窓口で治療費を支払う必要はありません。

しかし、交通事故と関係のないケガで治療を受けているものと保険会社が判断した場合は、保険会社が治療費の支払いを拒否することがあります。この場合、治療費は被害者の自己負担となるおそれがあります。

交通事故とケガとの間の因果関係を立証できた場合は、後で保険会社へ治療費を請求できますが、その場合でも被害者がいったん窓口で治療費を立て替え払いする必要があります。

(2)慰謝料等の保険金をもらえない可能性がある

保険会社が「交通事故とケガとの間に因果関係はない」と判断した場合には、治療費だけでなく、慰謝料や休業損害などの保険金ももらえなくなる可能性があります。

これらの保険金は、交通事故とケガとの因果関係が立証され、人身事故として扱われたときにのみ受け取れるものです。立証できない場合は、物損事故としての保険金のみしか受け取ることはできません。

(3)不正請求を疑われるおそれがある

場合によっては、保険会社から不正請求をしているのではないかと疑われるおそれもあります。実際にはケガをしていないのに、あるいは別の原因でケガしたことを利用して、保険金をだまし取るために通院したのではないかと疑われる可能性があるのです。

このような行為は、刑法上の詐欺罪に当たります。俗にいうところの「保険金詐欺」です。もし、詐欺罪で有罪になってしまうと10年以下の懲役に処せられます。実際に詐欺罪で立件されるのは、保険金を受け取った後に詐病が発覚したような場合がほとんどですが、注意は必要です。

保険金を請求した際に、「詐病が疑われるので、警察に相談します」という口実で支払いを拒否される可能性は十分にあります。

3、交通事故後の通院で「もう痛くない」と思ったときにやるべきこと

前記「1」でご紹介したようなケースでは、痛くなくても通院することが大切ですが、一方で、治療の必要性がないのに漫然と通院を続けると前項でご紹介したリスクが現実化してしまいます。

そこで、交通事故後の通院で「もう痛くない」と思ったときは、以下のような対処をとりましょう。

(1)医師の診断を仰ぐ

まずは、医師に自分の症状を明確に伝えた上で、通院を続ける必要があるかどうかについて診断を仰ぎましょう。保険会社も、医師の意見に反してまでは「詐病」の主張はしにくいものです。

自己判断で通院をやめてしまうと、正当な保険金を受け取れなくなってしまいますので注意しましょう。

(2)慰謝料額を試算する

もう通院を続ける必要がない状態になったら、慰謝料額を試算してみましょう。このとき試算する慰謝料は、「入通院慰謝料」と呼ばれるものです。
入通院慰謝料とは、交通事故でケガをしたことや、その治療のために入通院を余儀なくされたことによって受けた精神的苦痛を慰謝するために支払われる損害賠償金のことです。慰謝料額は、基本的には入通院期間に応じて計算されます。

そして、入通院慰謝料の計算基準には、「自賠責保険基準」、「任意保険基準」、「弁護士基準」(これは「裁判所基準」とも呼ばれます。)の3種類があります。1か月程度までの通院期間であればどの基準で計算しても大差はありませんが、通院期間が数か月以上に及ぶと、計算基準によって慰謝料額に開きが出てきます。

最も高額になるのは、弁護士基準です。ご自身のケースで慰謝料額を試算してみて、開きが大きいようであれば弁護士基準で慰謝料を請求することを検討した方がよいでしょう。

(3)後遺障害等級認定申請を検討する

ある程度の期間、通院を続けてもケガが完治せず後遺症が残った場合は、「後遺症慰謝料」や「逸失利益」を請求できる可能性があります。

事故後、一度も痛みを感じなかった場合は後遺症が残る可能性は低いですが、むちうちになった場合は後遺症が残存する可能性が十分にあります。後遺症慰謝料や逸失利益を請求するためには、まず医師に「後遺障害診断書」を作成してもらい、その上で「後遺障害等級」の認定を受ける必要があります。

なお、後遺障害等級認定申請をする際は、保険会社に手続きを一任する(「事前認定」と呼ばれる方法です。)こともできますが、自分で手続きを行う(「被害者請求」と呼ばれる方法です。)方が有利な結果を得られやすくなるので、検討してみましょう。

後遺障害等級認定申請の流れについては、こちらの記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

4、交通事故による通院で不正請求を疑われないための注意点

交通事故による通院で、詐病ではないのに不正請求を疑われることは本意ではないでしょう。しかし、保険会社としても、万が一不正請求に応じて保険金を支払ってしまうと重大な損害を受けてしまうので、疑いの目を向けてくることもある程度はやむを得ません。

不正請求を疑われないためには、以下の点に注意しましょう。

(1)事故後すぐに通院する

まずは、前記「1(1)」でもご説明したように、事故後すぐに通院しておくことです。

被害者の身体の状態は被害者本人にしか分かりませんので、事故から通院までの時間が長く空けば空くほど、保険会社としては不正請求の可能性を疑わざるを得なくなります。

交通事故で身体に衝撃を受けたら、痛くなくてもその日のうちに病院で衝撃を受けた箇所の検査を受ける等、診察を受けておくのが理想的です。当日に受診せず、後日に痛みを感じた場合は、ただちに受診しましょう。

(2)適切な頻度で通院する

次に、医師から継続して通院することを指示された場合は、適切な頻度で通院することも重要です。通院頻度が低ければ、保険会社としては「通院する必要性がない」あるいは「実際にケガをしていないのでは?」と判断して不正請求を疑ってくる可能性があります。

適切な通院頻度はケガの部位や程度によって異なりますが、むちうちの場合は一般的に週2、3回のペースで通院するのが望ましいと考えられています。あまり痛くないからといって、何か特別な事情がないにもかかわらず、月に2、3回しか通院しなければ、不正請求を疑われないとしても保険金の支払いを拒否されるおそれがあります。

(3)詳しい検査を受ける

医師の診察を受ける際は、できる限り詳しい検査を受けるようにしましょう。検査によって体調の異変の原因が証明されれば、事故から受診までの時間が空きすぎていない限り、保険会社も不正請求を疑いようがなくなります。

むちうちの場合は自覚症状のみという症例も多いのですが、レントゲン(XP)検査で異常が見つからなくても、CT検査やMRI検査で異常が見つかることも少なくありません。

(4)整骨院への通院は医師の指示に従う

交通事故後、最初に受診するときは、整骨院ではなく病院を選んでください。人身事故として保険金を受け取るためには、医師の診察を受けることが必要だからです。整骨院の施術師は医師ではないので、整骨院にのみ通っても治療として認められない可能性があります。

また、整骨院では必要な検査も受けられませんので、治療や施術の必要性が明らかとならず、不正請求を疑われる原因にもなります。

整骨院へ通う場合は、必ず医師の指示に従うようにしましょう。医師の指示があり、整骨院での施術が治療として有効と認められる場合は、保険会社から施術費が支払われますし、入通院慰謝料の対象にもなります。

5、交通事故による通院で不正請求を疑われたときの対処法

もし、不正請求を疑われた場合は、どうすればいいのでしょうか。まだ示談していない段階で刑事事件として告訴されることは稀ですが、保険会社から治療費の打ち切りを通告されることは少なくありません。つまり、「今までの通院は認めるけれど、今後の通院については治療費を支払いません」と保険会社から打診を受けることがあるのです。

このような場合には、以下のように対処しましょう。

(1)医師に相談する

まずは、医師によく相談すべきです。治療の継続が必要かどうかは、医師が判断すべきです。保険会社が治療費の打ち切りを打診してきても、それだけをもって治療を終了させる義務はありません。

ただ、ケガが交通事故を原因として生じたものかどうかについては、医師の見解をよく聞きましょう。医師も「因果関係なし」と判断するようであれば、治療費を打ち切られることもやむを得ません。

医師の見解が「因果関係あり」というものであれば、保険会社に対しても治療を継続する必要性を主張する必要があります。保険会社の主張を鵜呑みにして治療を打ち切ってしまうと、その後に症状が悪化したとしても治療費や慰謝料などの保険金を受け取れなくなるおそれがあります。

(2)弁護士に相談する

治療の継続が必要という医師の指示を保険会社に伝えても、強引に治療費を打ち切られてしまうケースも少なくありません。そんなときは、弁護士に相談することが有効です。

保険会社が「被害者に強く言えば通院をやめるだろう」と考えていたとしても、弁護士から具体的な根拠を示して説得的に主張すれば、保険会社も応じる可能性があります。

保険会社の担当者は示談交渉のプロなので、被害者が対等に交渉するためには、弁護士に相談する必要性が高いといえます。

6、交通事故で痛くないのに通院したときに弁護士に相談するメリット

痛くないのに通院したことで保険会社とのトラブルが発生した場合は、自己判断で対応するよりも、弁護士に相談する方が得策です。弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。

(1)保険会社との交渉を任せられる

まず、保険会社との交渉する際のポイントについて、専門的な見地からアドバイスを受けられます。交渉を弁護士に依頼すれば、弁護士があなたに代わって保険会社と交渉します。

保険会社との交渉を自分でやる場合には、手間と時間も要しますし、精神的な負担も大きくなります。弁護士に依頼した場合には、自分で保険会社と直接やりとりする必要はなくなります。

弁護士が専門的な知識とノウハウを使って的確に交渉してくれるので、被害者自身は安心して治療に専念できるようになるのです。

(2)裁判に発展した場合もサポートが受けられる

交通事故の損害賠償では、示談交渉が決裂して裁判が必要になることも少なくありません。

しかし、裁判手続きは複雑です。また、裁判で勝つためには有力な証拠を確保しておく必要もあります。一般の方が適切に対応することは難しい場合も少なくありません。

弁護士に依頼していれば、裁判においても全面的なサポートが受けられますので、勝訴して適切な賠償金を受け取れる可能性が高くなります。

(3)慰謝料の増額が期待できる

弁護士に依頼することで、慰謝料の増額も期待できます。なぜなら、「任意保険基準」よりも高額となる「弁護士基準」で慰謝料を請求することが可能となるからです。

保険会社は、示談交渉においては任意保険基準で計算した慰謝料額を提示してくるのが一般的です。しかし、裁判では「弁護士基準」が適用されます。弁護士に依頼して裁判で勝訴すれば、弁護士基準で計算された慰謝料を受け取ることができるのです。

また、早期に弁護士に依頼していれば、裁判をしなくても示談において弁護士基準を適用できる可能性もあります。

被害者が弁護士に依頼している以上、示談交渉が決裂すれば裁判となる可能性が高いことは保険会社も承知しています。そのため、裁判を起こされる前に弁護士基準で計算した慰謝料額にて示談に応じることもあるのです。

まとめ

交通事故で身体に衝撃を受けたら、直後には痛くないとしてもケガをしている可能性があります。そのため、念のためにでも通院して医師の診察を受けましょう。

保険会社も後日のトラブルは避けたいところなので、事故直後の通院を認めないということはほとんどありません。しかし、初診時の診断結果を見て、その後の通院を認めないというケースは多々あります。

痛くないのに通院した場合で、保険会社ともめたときは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。専門的なアドバイスを受けて、適切な金額の保険金を請求するようにしましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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