この記事をお読みになる方のなかには、傷害事件の被害者で、これから示談交渉を行うという方もいらっしゃるかもしれません。傷害事件でケガを負った場合、治療費の必要性や慰謝料などをもらう権利が生じます。
しかし、示談交渉の誤ったアプローチは、本来もらえるはずの示談金を逃す可能性があります。
思わぬ不利益を回避するために、
- 「示談」の意味
- 傷害事件における示談金の一般的な額
などを理解して示談に臨むことが重要です。
そこで今回は、
- 傷害事件における示談と示談金
について、詳しく解説いたします。ぜひ参考にしてください。
目次
1、暴行事件、傷害事件とは
(1)暴行罪とは
暴行罪は、人に対して、暴行をした場合に成立します。
暴行とは、殴る、蹴るといった行為が代表的なものです。もっとも、相手に接触することが必要なわけではなく、包丁を振り回すような行為もここでいう暴行に含まれます。
(2)傷害罪とは
傷害罪は、暴行のうち、相手に何らかの傷害を負わせてしまった場合に成立します。
2、示談とは
そもそも刑事事件における示談とはどういうことでしょうか?
示談とは、裁判によらずに当事者同士で事件を解決することです。
暴行事件、傷害事件の示談では、加害者が被害者に対してお金を支払う代わりに、被害者が被害届や告訴状の提出をしないことや既に提出した被害届等を取り下げることを約束するものが多いです。
3、暴行事件、傷害事件の示談金の相場
実際に示談となると、気になるのは示談金の相場ではないでしょうか。
示談金の相場、示談金はどのように決まるのかを説明していきます。
(1)示談金は当事者同士の話し合い
示談金とは、治療費や慰謝料など、被害者が受け取ることのできるお金のことをいいます。
示談金は一律に決まっているわけでなく、当事者同士の話し合いで金額が決まります。加害者から提示された金額に不満があれば、増額の交渉をすることができます。
(2)示談金の相場
暴行事件の場合、一般的には、示談金の金額は10万円~30万円となる場合が多いようです。もっとも、示談金の金額は、犯罪の態様や交渉の経緯などによって変わるので、あくまでご参考程度でご確認下さい。
傷害事件の場合は、暴行事件の場合と比べて、示談金は高額になります。
特に継続的な通院や入院が必要とならない場合は、20万~50万円となる場合が多いようです。
継続的な通院や入院が必要となる場合は、さらに慰謝料を増額して請求できる可能性があります。一つの例ですが、1カ月程度の通院が必要となる場合は、20万円~30万円程度を増額できる場合もあります。
傷害により、後遺症を生じてしまった場合には、さらに慰謝料などを増額して請求できる可能性があります。
(3)示談の金額に影響する事情
上記の相場に加え、以下のような事情によって示談金が変わることがあります。
- 行為の内容(どのような行為態様だったか。)
- 被害者の処罰感情の強弱
- 被害の程度
- 加害者の経済力や社会的地位
(加害者の社会的地位が大きいほど示談金が高くなる傾向があります。)
4、暴行事件、傷害事件で被害者が示談金を受け取るまでの流れ
示談交渉の多くは以下のような流れで進みます。
(1)被害届を出す
まずは、暴行を受けたことについて、警察署に対し、被害届を出すべきです。
被害届を出さなくても、示談金を受け取ることはできますが、被害届を出さなければ警察官の加害者に対する捜査が始まりません。
捜査が始まらなければ、加害者も積極的に示談金を払おうという姿勢を見せないことが多いです。
より高額な示談金を受け取るためにも、被害届を出すべきだといえます。
(2)加害者側に連絡先を伝える
加害者への捜査が始まり、加害者が示談を望む場合は、加害者側が、警察官や検察官を通して、被害者の連絡先を尋ねてきます。
加害者に連絡先を教えることに抵抗がある人もいるでしょう。しかし、加害者に弁護士が付いている場合には、弁護士限りで加害者本人には連絡先を教えないことを条件とすれば、加害者本人に連絡先を知られることはありません。
連絡先を教えなければ、示談交渉を始められません。示談交渉に応じる意思がある場合には、弁護士限りで連絡先を教えることが良いでしょう。
(3)加害者側から連絡がくる
連絡先を伝えると、加害者の弁護士から電話や手紙で、謝罪の言葉や示談したい旨が伝えられます。電話や手紙で、示談の内容まで伝えられる場合もあれば、会う約束を取り付け、実際に会って示談の内容が伝えられることもあります。
(4)交渉
加害者から提示された示談金や条件で納得できない場合には、交渉を続け、合意に向けて条件をすり合わせていくことになります。
(5)合意
示談の内容につき合意が成立したら、被害者と加害者で示談書を作成します。
加害者はこの示談書を検察庁や裁判所に提出します。示談が成立していると、初犯の場合、多くは不起訴処分で終わり、前科がつきません。また、裁判となった場合にも処分が軽くなることが多いです。
5、より高額な示談金を獲得するための交渉方法
加害者が提示する金額に納得できない場合にはどのような点に気をつけて、交渉すれば良いでしょう。
(1)早い時期に示談を成立させる
加害者が逮捕された場合は、逮捕されてから2~3日後までに起訴されるか否かが決まります。逮捕されなかった場合や、途中から在宅捜査になった場合でも、起訴まで1~2カ月程度です。
起訴前に示談が成立すれば、加害者は不起訴となり、前科がつかない可能性が大きくなります。よって、加害者はなるべくこの起訴前に示談を成立させたいと考えます。
起訴されると、暴行の事実を認めている場合、罰金等の刑に科され、前科がつくことはほぼ確実となります。加害者の示談のメリットは、起訴前より小さくなります。
そこで、起訴前の段階で示談金額の交渉をしたほうが、希望の示談金を引き出せる可能性が高まります。
(2)増額すべき事実を摘示して交渉する
今回の暴行事件、傷害事件で、示談金を高くすべき事情を具体的に説明することも有用です。
被害者はどのような暴行をされたと認識しているのか、どのような精神的苦痛を受けたのかを具体的に主張していくべきです。
(3)弁護士に依頼する
被害者自身で示談の交渉をすると、上記の「早期に示談を成立させること」「増額すべき事実を摘示して交渉すること」は決して簡単ではありません。仕事や家庭があるなか、示談のため日程を調節したり、加害者側の弁護士の説得に対し理路整然と自分の主張をしたりしなければなりません。
法律と交渉のプロである弁護士に依頼することで、被害者側の言い分を説得的に主張し、また、加害者側の主張の弱点を把握した上で交渉を進めることができます。また、被害者自身で交渉するよりも、弁護人同士の方が交渉をスムーズに進めることができ、被害者に有利な早期段階で示談を成立させる可能性が高まります。
6、被害者が弁護士に依頼するメリット
上記のように、より高額な示談金を獲得できる可能性が広がるという以外にも、被害者が弁護士に依頼するメリットはいくつもあります。
(1)加害者側からの連絡が来なくなる
被害者にとって、1日も早く忘れたい事件であるのに、加害者側から連絡があり、自ら交渉するのは非常に大きなストレスです。弁護士をつけることで、弁護士が交渉の窓口となり、加害者側から直接被害者へ連絡がくることを防げます。
(2)事情聴取のサポートが受けられる
被害者の方は警察官や検察庁に呼ばれて事情聴取を受けることがあります。加害者が事実を争っている場合、被害者も具体的事実を詳しく聴取されます。被害者の方の中には、取調官からどのようなことを言われるのか、自分に不利な事実を認めさせられるのではないか、うまく説明できる自信がないなど、事情聴取に不安を抱えている人もいらっしゃると思います。
弁護士に依頼すると、事情聴取に同行したり、事前に話を伺って取調官に伝えるべき事情を整理したり、不当な事情聴取がされている場合には抗議したりと、事情聴取に向けたサポートを受けることができます。
まとめ
今回は暴行事件、傷害事件の被害者の方が示談をする場合についてまとめてきましたが、いかがでしたでしょうか。ご参考にしていただき、納得のいく示談をまとめていただければ幸いです