契約社員でも退職金がもらえる可能性は十分にあります。
この記事では
- 契約社員でも退職金がもらえる可能性はある。
- 「契約社員に退職給は支給されない」という最高裁判決にこだわらなくても良い理由
- 契約社員でも職種によって待遇が変わるのか
- 契約社員として、退職金に限らず待遇に疑問があればどうすればよいか。
等を弁護士がわかりやすく説明します。
あなたが働きがいを持って働くためにこの記事がお役に立てば幸いです。
契約社員とは何か知りたい方は以下の関連記事もご覧ください。
目次
1、契約社員には退職金が出ない?!
(1)契約社員とは
契約社員は一般に有期雇用契約であってフルタイムで働く人を指しています。契約社員の中には、正社員と同じような仕事をする人も少なくありません。
また、無期転換ルールによって無期で勤務することになった元有期契約社員のうち、通常の正社員とは異なる労働条件で勤務する従業員を無期契約社員などと呼ぶことがあります。
契約社員は、厚生労働省の統計では全国で300万人近くいるとされています。
図の出典:「非正規雇用」の現状と課題
(2)契約社員に退職金が出ない現状
これまでは、正社員に退職金が出ても、
- 契約社員などの非正規社員はどれだけ長く勤めても退職金が出ない
- ごくわずかの金額だけ
ということが少なくありませんでした。
(3)2020年4月(中小企業は2021年4月)からは変わる?
「働き方改革」で示されている「同一労働同一賃金」というのは、「正規、非正規の不合理な待遇差を解消しましょう」という政府の大きな方針です。
大企業は2020年4月から、中小企業も2021年4月から関連の法律が既に適用されています。
ただし、契約社員と正社員との間の不合理な差別を禁止するパートタイム有期雇用労働法8条及び9条の規定は、旧労働契約法20条を引き継いで明確化したものですので、契約社員と正社員に関しての取り扱いについて大きな変更があったわけではありません。
2、契約社員にも退職金が出る根拠「同一労働同一賃金」とは
「同一労働同一賃金(不合理な待遇差の解消)」というのは、「正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指す」というものです。
- 基本給
- ボーナス
- 各種手当
といった賃金だけでなく、教育訓練や福利厚生なども含めて不合理な待遇差の解消が求められています。
正社員と非正規社員の不合理な待遇差を解消するため、法律や指針が定められています。
指針の中では、
- 基本給や賞与の基準
- 手当の決め方の妥当性
といった様々な基準が示されています。
退職金については、細かな基準は定められていませんが、次のように明記されています。
「退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。」
引用:厚生労働省
契約社員の退職金についても、正社員と比べて不合理な待遇差は解消していくように、政府は強く求めているのです。
3、契約社員に退職金が出るケース、出ないケースは明確になっていない
とはいえ、このような指針の定め方では、どんな場合に契約社員に退職金を出すことを求められているのか、はっきりとしません。
指針では、あくまで「不合理な待遇差の解消」といっているだけです。
退職金の額や支給の基準はそれぞれの会社の経営上の判断で様々な基準があります。
2020年10月に最高裁が契約社員への退職金を支給しなくても良いという判決を出していますが、これは次の「4、最高裁は「契約社員に退職金を払わなくても良い」と本当に言っているのか?」で説明する通り、どんな場合でも適用できる訳ではありません。
契約社員としては、退職金が必ず出る、絶対出ない、等と思い込まない方が良いでしょう。
退職金が出ないけれども本当に良いのだろうか、そう思ったときにどのように行動すればよいかは「5、契約社員に退職金が出ないといわれたときの退職金支給の求め方」でご説明します。
参考:裁判所
4、最高裁は「契約社員に退職金を払わなくても良い」と本当に言っているのか?
2020年10月にメトロコマース(地下鉄の販売店)の契約社員が退職金の支給を求めた事件で、最高裁の判決がでました。
最高裁は、契約社員への退職不支給は不合理とは言えない、という趣旨の判決を出しました。
この結論だけを見て、最高裁が契約社員に退職金を払わないことを認めた、と思っている人が多いようですがそれは正しい理解ではないかもしれません。
理由は次の3つです。
- この職員の例についての特別な判決とも考えられること
- 裁判所の中でも意見がわかれていること
- 「働き方改革」による新しい法律が出る前の事件であること
(1)最高裁判所はこの会社の退職金制度等の様々な事情を考慮している。
最高裁は正社員に退職金が支払われ、契約社員に退職金が払われないことについて、「不合理と認められるものに当たる場合はあり得る」としつつ、本事例では、次のような理由で「不合理とは言えない」としています。
すなわち「契約社員だから退職金は払わなくて良い」等と単純に決めているのではありません。この会社の様々な事情を考慮しているのです。
- 正社員の退職金は、職務遂行能力や責任の程度を踏まえ、労務の対価の後払いや継続勤務への功労報償の複合的な性質を有している
- 正社員は配置転換があるとか、他の社員が休んだときの代務、売店総括、トラブル処理などを担うなど、契約社員とは業務内容責任の程度の違いがある
- 非正規から正社員への登用制度も設けられている
(2)裁判所の中でも考え方がわかれている。
この事件は、
- 地方裁判所
- 高等裁判所
- 最高裁判所
で争われました。
この事件の原審である東京高等裁判所では、上記の最高裁の判断基準の1つである「継続勤務への功労報償」を元に逆の判断をしています。
- 「この契約社員らの有期労働契約は原則として更新され、定年65歳まで10年前後の長期間にわたって勤務してきた」
- 「少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金すら一切支給しないことは不合理である」
以上のような考えのもと正社員の退職金の4分の1の水準の賠償金を払うように命じたのです。
この東京高等裁判所の判断を、最高裁判所は覆しました。
しかし、最高裁判所の中でも実は意見がわかれています。
5人の裁判官のうち、1人の裁判官は以下のように多数意見に反対しました。
- 「契約社員でも正社員より長期にわたって勤務する事がある。継続勤務への功労報償としての退職金を一切支払わないのはおかしい」
- 「正社員と契約社員とで職務の内容等には大きな違いがない」
これらを考えれば、裁判所がこの事件についても考え方が統一されているとは言えないのです。
(3)「働き方改革」前の事件
この事案は、平成26年、27年(2014年、2015年)に退職した契約社員が、退職時に退職金が支給されなかったために、会社を訴えたという事案です。
つまり、働き方改革の一環として、同一労働同一賃金が推進されるよりも前の事件なのです。
先述のとおり、同一労働同一賃金についての法律の改正それ自体は、従前の規定や考え方を整理し、明確にしたものですので、裁判所の判断に大きく影響を与えるものではありません。しかし、新しい政策を契機に社会全体の価値観が変容し、裁判所の考え方に事実上の影響を与える可能性は否定できないでしょう。
5、契約社員に退職金が出ないといわれたときの退職金支給の求め方
例えば、有期契約を何度も更新して長く働き会社に貢献したと思うにも関わらず、退職金がゼロの場合には納得がいかないことでしょう。
そのような場合どうすればよいかを簡単にご説明します。
(1)会社に説明を求める
今回の同一労働同一賃金に関する法律では、会社に対して非正規社員への待遇の説明義務を定めています。
会社は、契約社員と同様の仕事をしている正社員との待遇の相違があるなら、相違の内容と理由を具体的に説明しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法第14条)。
「就業規則で決まっている」といった通り一遍の説明では、会社は説明義務を尽くしたことにはなりません。
- 実際の勤続状況
- 職務の内容
等を考えて、本当に会社が合理的な説明ができるのか追及してみる必要があります。
しかし、ご自分だけで対応するのは大変なことです。
そこで次の ADRや弁護士に相談するといった方法もぜひ考えてみてください。
(2)裁判外紛争解決手続(ADR)等の利用
働き方改革の中で、行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備が行われています。
相談窓口などは以下のサイトなどでご確認ください。都道府県の労働局などが窓口です。
参考:派遣で働く皆様へ
(3)疑問があれば弁護士に相談
ご自分で労働局などに相談するのもなかなか大変だと思います。会社から白い目で見られるといった心配があるかもしれません。
そのようなときは、ぜひ、労働問題の経験が豊富な弁護士に相談してみてください。弁護士は紛争解決のプロであるとともに、紛争を未然に予防するプロでもあります。きっと適切な解決策を見つけてくれます。
まとめ
退職金は長期勤続した正社員向けというイメージがこれまで強かったかもしれません。
しかし、実際には長期勤続する契約社員が大変増えています。そのような中で、退職金をもらえないのは不合理な待遇差にあたるのではないか、という問題が浮かび上がってきたのです。
退職金が支払われないとお悩みの方は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。