住宅が密集している日本の居住環境においては、生活音や悪臭、共用スペースでのマナーなどを巡る近隣トラブルに巻き込まれることが少なくありません。物件の管理者(大家さんや管理組合・管理会社)に相談して解決できればよいですが、当事者同士で感情が対立し、嫌がらせを受けることもあるでしょう。
場合によっては警察問題や裁判に発展することもあります。近隣トラブルに巻き込まれたときに大切なことは、早めにしかるべき窓口に相談することと、法的解決をも見通して証拠を集めることです。
今回は、
- よくある近隣トラブル7選
- 近隣トラブルで有効な相談窓口
- 近隣トラブルを解決するための具体的な方法
などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
この記事が、近隣トラブルでお悩みの方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、よくある近隣トラブル7選
近隣トラブルには様々な形があり、より状況が深刻だと健康被害に至る場合もあります。ここで挙げる7形態のトラブルの中で、1つでも心当たりがあれば、影響の度合いを見て対処を検討しましょう。
(1)騒音や生活音
集合住宅か戸建かを問わず、最も多いのは騒音トラブルです。ほとんどが住民の生活に伴って生じる音で、平成30年度マンション総合調査では、発生したトラブルの38%が「生活音」との結果が出ています。具体例として「子どもが走り回る音」や「通話時の大声」、その他「扉の開閉音」を指摘できるでしょう。
これら騒音トラブルの原因は、何も近隣住民自身のマナーにあるとは限りません。建物の老朽化や防音工事の内容に問題がある、ということも考えられます。
(2)タバコやペットなどの臭い
次に多いのは、タバコやペットの臭いが漏れ出し、周りの住居にも入り込んでくるトラブルです。
先に上げたマンション調査では、ペット飼育に関するトラブルが18.1%・バルコニー使用方法に関するトラブルが12.9%と高い割合を占めています。後者に関しては、実感として「バルコニーで喫煙する人がおり、その匂いが洗濯物についたり部屋の中に入ってきたりする」とのような集合住宅での悩みが多いように感じられます。
(3)共用部分の使い方
集合住宅の共用部分も、トラブル化しやすいことが否めません。
よくあるのは、住人全体で気持ちよく使うべき場所にも関わらず、特定の居室から出る私物やゴミを置いているケースです。共用部分で喫煙をしたり、溜まり場にしたりするケースもあります。
この場合、賃貸なら大家さん、分譲マンションなら管理組合あるいは管理会社で対処してもらうべきでしょう。
(4)駐車や駐輪に関するマナー
自家用車や自転車の保管に関するマナーも、時として周辺住民を悩ませます。
最もよく見られるのは、許可がないのに自家用車や客人の自動車を止める「違法駐車」や、自転車置き場の外に駐輪する「放置自転車」の問題です。深刻なものとしては、機械式駐車場で駐車するパレットを誤り、一時的に駐車場全体が使用不可となる状態が頻発するトラブルが挙げられます。車や自転車を利用しない人にとっても事故に発展する可能性が否めないため、早めに解決したいところでしょう。
(5)ゴミの出し方のマナー・ポイ捨て
健康や生活品質に繋がる他の問題として、ごみの不適切な場所への放置が挙げられます。
具体例として挙げられるのは「ゴミを出せる日や場所が守られていない」「共用部にそのままゴミが放置されている」といった状況です。
悪臭や害虫の発生等により住民の健康的な生活を脅かす事態にもなり得るため、ゴミ捨て場の管理方法も含めて、どんな対処ができるのか考えていきたいところです。
(6)隣家との境界線
戸建住宅を中心に、隣家との境界線を巡ってトラブルになることがあります。小さなものだと「隣の敷地から植栽物の枝がはみ出してくる」といったものや、より大きなトラブルだと「塀が境界線を越えている」とクレームを入れられるものが挙げられます。
枝について補足すると、本記事時点では、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に枝を切除させることができるとなっており、勝手に所有者に無断で切除することはできないとされています(民法223条1項)。
ただし、2023年4月1日に施行予定の改正では、竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき等の一定の場合に、こちらから枝を切除することが可能とされます。
いずれにしても、これらは、筆界や所有権に基づく法的請求の問題となるため、不動産に詳しい弁護士や司法書士・土地家屋調査士等の相談を必ず仰ぐようにし、自己判断で行動することは慎みましょう。
(7)嫌がらせなどの人間関係
郊外や地方圏の住居を中心に、住民同士の人間関係もトラブル化するケースが挙げられます。虚実ないまぜで噂されたり、子どもがいじめられたりするケースでは、話し合いや法的対処では解決しようがないと頭を抱える人が多いようです。
しかし、度が過ぎて名誉毀損罪や侮辱罪に該当するようであれば、厳正に対処することも検討すべきです。最終手段としては「転居」がありますが、その前に一度、弁護士に相談してみてもよいでしょう。
2、近隣トラブルでは我慢も必要?受忍限度とは
上記で挙げた近隣トラブルは、どうしても改善されない場合、訴訟も含め法的な解決方法を検討していくことになります。その場合、トラブルの被害者もある程度まで我慢する必要があるとする「受忍限度論」が問題になります。
(1)受忍限度論とは
近隣住民のマナーによって生活が妨害される場合、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求や、人格権または所有権に基づく差止請求を行うことが考えられます。ただし、単に「迷惑を受けている」というだけでこれらの請求が認められるわけではなく、「受忍限度」を超えている場合しか許容されません。
ここでいう受忍限度とは「社会生活を営む上で当然受忍、あるいは我慢すべき限度」です。つまり、違法性があるのは我慢の限界が超えるケースである、とするのが受忍限度論の趣旨です。
(2)受忍限度の判断基準
受忍限度は画一的ではなく、個別のケースで事情を総合的に判断するとされています。過去の判例(最高裁平成10年7月16日判決等)からは以下のように基準がとりまとめられ、受忍限度を超えると主張する被害者が立証しなければなりません。
- 侵害行為の態様や程度
- 侵害行為の公益性や公共性
- 侵害される利益の性質・内容
- 規制基準や環境基準との関係
- これまでの交渉の経緯
- その他の事情(建物の構造、被害者側の特殊事情等)
(3)近隣トラブルで受忍限度を超えると認められた判例
住人同士のトラブルで裁判になる例はいくつもありますが、典型的なものを紹介してみましょう。マンション住民が原告となり、上階の幼児のたてる騒音により精神的苦痛を受けたとして損害賠償請求した事件です。
裁判所は、建物の遮音性能基準がやや低いこととファミリー向けマンションであることの両方を認めた上で、事案の経過に注意しました。他に取り上げられた事実は次の3点です。
- 本件での騒音は50db~65d(話し声~目覚ましベルに相当する音)
- 原告側は管理人に相談し、被告の部屋に配慮を求める手紙を投函しましたが乱暴に突っぱねられ、警察にも相談する事態になった
- 被告の家族に不眠等の症状が起きていた
以上に基づき、慰謝料30万円+弁護士費用6万円の支払いが命じられました。この事例を見れば、証拠の必要性や裁判手続の際に重視されるポイントをすっきり理解できるでしょう。
(東京地裁平成19年10月3日判決)
3、受忍限度を超えた近隣トラブルに巻き込まれたときの対処法
受忍限度を超える近隣トラブルに巻き込まれた時は、いきなり自分で解決しようとせず、関係者に相談してみることが大切です。住人自ら何か対処しようとする際の心構えとしては、次の5点が挙げられます。
(1)仕返しはNG
絶対にやってはならないのは「こちらも大きな音を立てる」「隣室の壁を小突く」等の仕返しです。被害を加害で返してしまうと、ますます両者の対立が深まるばかりか、最終的に裁判手続で解決する場合にも不利になります。やりすぎれば、反対に自分が加害者扱いされるかもしれません。
(2)自分に非があれば謝罪し、改善する
管理人や隣人から状況説明を受けた時に「むしろ自分にも非がある」と分かれば、素直に謝って改善に努めましょう。
改善するといっても、その部屋の使用方法によっては限界があるかもしれません。法的な解決を視野に入れて考えると、大切なのは加害をゼロにすることではなく、加害を最小限にする努力をすることです。訴えられた時に「誠実な対応をした」と分かる証拠を出すことで、損害賠償義務等を回避できる可能性が高まります。
(3)相手に非があるときは冷静に改善の要望を伝える
隣人側に非があるのなら当然クレームを入れるべきですが、相手を怖がらせるような態度はいけません。冷静に、相手の事情に理解を示しつつ、それでも「自分の生活に支障がある」と説明するような口調で対応すべきです。この時、わざわざ訪問して苦情を言うよりも、管理者による仲介や書面の郵送等による方法の方が望ましいでしょう。
(4)他の住民に相談してみる
隣近所のお付き合いがある物件なら、同じ被害者だと思われる近隣住民と相談し合ってみるのも良い手です。場合によっては共同で、管理者に対応を促したり一緒に弁護士に相談し、法的措置をとったりすることで実効性のある解決も期待できるでしょう。
一般的に、被害者の人数が増えるほどトラブル説明時の客観性が強まり、クレームや裁判手続によって差し止められる期待が高まります。協力し合えるのなら、これに越したことはありません。
(5)証拠を確保しておく
どうしても近隣トラブルが解決しそうにない場合は、少しずつでも構わないので証拠を集めていきましょう。裁判手続でも有用な証拠品として、次のようなものが挙げられます。
- ゴミ放置現場等の写真
- クレーム対応を録音したICレコーダー
- 警察の相談内容記録の謄写(コピー)
- 騒音や臭気測定の結果
- 医師が作成した診断書(健康被害が出ている場合)
写真や録音音声等の証拠は自力でも確保できますが、その他の証拠に関しては、専門業者の手配や取得方法に関するアドバイスが不可欠となります。同時に、これら獲得に労力を要するものほど、有力な立証手段となるのも事実です。
4、近隣トラブルで相談できる4つの窓口
近隣トラブルの相談先としては、まず物件や土地の管理者が考えられます。管理者に相談しても埒が明かなかったり、工場や建設現場などの事業活動がトラブルの原因だったりする場合は、第三者に相談して法的に対応できないか検討することになるでしょう。
ここで簡単に居住形態別の相談先をまとめておくと、次のようになります。
【居住形態別】優先順位で見る近隣トラブルの相談先
- 賃貸アパート等:①管理会社→②大家→③警察・弁護士等
- 分譲マンション:①管理会社or管理組合→②警察・弁護士等
- 戸建:地域の問題なら①自治体か役場、それ以外なら②警察・弁護士等
(1)管理者(管理会社、大家、自治会)
最初に相談すべき管理者は、トラブルが起きている物件によって異なります。また、管理者によって近隣トラブルにおける法的地位も変わるため、やってくれる対処に微妙な変化が生じます。
①賃貸物件の場合
賃貸物件の場合、相談先は所有者たる大家さんです。
実際には、大家さんに管理を委託されている不動産会社(管理会社)が直接苦情を受け付ける窓口となることも多いです。管理会社が「迷惑行為を繰り返し、改善に努める様子もない」と確認すると、大家さんの判断により、用法順守義務違反を理由とする賃貸借契約の解除および明渡し(民法第541条)を請求してくれる場合があります。
②分譲マンションの場合
マンションの一室を購入して生活している場合、相談先は管理組合および委託された管理会社となります。
実際の流れとしては、管理組合に連絡して状況を確かめてもらい、掲示板や手紙の投函を通じて必要な注意喚起を行ってもらいます。その後の改善が見られなければ、理論上は区分所有法第59条~第60条に基づき、専有部分の使用禁止や引渡し・区分所有権等の競売等に進むことも可能です。
③一戸建の場合
一戸建の場合は自治会と相談し、迷惑行為をやめて町内のルールを守るように勧告してもらえます。
注意したいのは、自治会では多くの場合、公害あるいは地域共有の場所・施設を巡る問題(ゴミ集積所等)しか対応してもらえない点です。その他の騒音や悪臭に関するトラブルは、よほど酷いものでない限り、個人間で起きたトラブルとして別の窓口をあたる他ありません。
(2)自治体の役所
ほとんどの自治体では、住民のさまざまな困りごとに関する相談を無料で受け付けているので、自治体の無料相談を利用してみるのもよいでしょう。
また、近隣トラブルの範疇に収まらない、事業活動等やゴミ集積所の使い方が原因で起きた「公害」にあたるケースでは、自治体の生活課で対応してくれる可能性があります。関連法令や条例を参照し、実際に調査して、問題があれば改善命令を発したり罰則を科したりする手続きに移行してくれるのです。
(3)警察
長期間改善されなかったり、よほど酷い状況になったりしている場合は、最寄りの警察の生活安全課に相談するとよいでしょう。どこに電話していいか分からない場合は、警察相談専用電話(#9110)に掛けると、相談した内容に基づき地域管轄の警察に繋げてくれます。身の危険を感じる、あるいは隣室で事件が起きている可能性がある場合は、迷わず110番に電話して下さい。
警察相談のメリットは、その記録が署に残ることです。後から法的対処する場合に、記録を取り寄せ証拠資料として利用できます。違法駐車のように道路交通法違反に問える場合等では、実際に警察の出番になる可能性もあります。
(4)弁護士
解決への近道や当座の対応を知りたいのなら、最初から弁護士に相談するのも一つの手です。最終的には裁判手続に頼ることも見込み、状況を俯瞰してきめ細かい対応が期待できます。弁護士ができることを簡単に紹介すると、次のようになります。
- 隣人や管理者との交渉
- 証拠の整理、証拠確保の方法に関するアドバイス
- 関連する専門家とのコネクト(土地家屋調査士等)
- 民事調停・訴訟への全対応
5、弁護士に依頼して近隣トラブルを解決する方法
近隣トラブルの解決を前進させたい時は、弁護士への相談がベストです。
相談先や当面の対応につき「いま何をすべきか」「これからどのように解決するか」をケース別に丁寧に教えてもらえるからです。受任契約を結んだ弁護士がやってくれることとしては、トラブル別に次のようにいえます。
(1)騒音トラブルのケース
騒音トラブルを弁護士に任せた場合、まずは騒音を測定し、受忍限度を超えている場合には弁護士が管理者と交渉したり、隣人に内容証明郵便を出したり等の対応をとってもらえます。暗に「法的対処の準備がある」と伝わる点、本人ではなく代理人から接触がある点で、これまでと違う誠実な対応を引き出せるでしょう。
こうして「防音カーペットを敷く」「壁際に防音材や吸音材を貼ってもらう」等の措置を講じてもらうことで、隣人と気まずくなる前に問題が解決する可能性があります。
(2)嫌がらせを受けているケース
嫌がらせだと思われるケースでも、弁護士介入で考えを改めてくれる可能性があります。
ただし、特異な性格のために嫌がらせをやめられず、弁護士を出せばかえってひどくなるケースがないとも限りません。その場合は代理人の手配で民事調停や訴訟に移行し、迷惑防止条例や刑法に違反する場合は警察への相談をフォローする等、法的対処についてしっかりサポートを受けられます。
(3)境界線で争っているケース
境界線を巡って争うケースでは、①現状の境界が外形的に明確かつ登記されているものか、その上で②越境しているか、③越境物をどのように取り払うか……と順に対応する必要があります。その場合、弁護士だけでなく土地家屋調査士や司法書士の協力を得ることも重要となってきます。
手配しなければならない専門家や専門業者を含め、解決に向けた対応の一切は弁護士に任せるか、アドバイスをもらうことができます。
6、近隣トラブルは早期の対処が肝心!困ったときは弁護士に相談を
近隣トラブルは放置していると酷くなっていく傾向が強いものです。そうでなくても、気にしないようにと放置していれば、仕事や家庭生活・そして健康に対する被害へと発展してしまいかねません。加えて、直接対応にあたるべき物件の管理者や自治体は、トラブルの内容や程度によっては相談しても早期解決に至る保証がありません。
騒音・悪臭・ゴミの捨て方等の問題を解決するための近道は、相隣問題(=近隣トラブル)に詳しい弁護士が把握しています。よく「たかが隣人の問題で弁護士に相談するなんて」と二の足を踏む人もいますが、依頼にいたらなくても、まずは相談してみることが大切です。
近隣トラブルに関するQ&A
Q1.よくある近隣トラブル7選とは?
- 騒音や生活音
- タバコやペットなどの臭い
- 共用部分の使い方
- 駐車や駐輪に関するマナー
- ゴミの出し方のマナー・ポイ捨て
- 隣家との境界線
- 嫌がらせなどの人間関係
Q2.受忍限度を超えた近隣トラブルに巻き込まれたときの対処法とは?
- 仕返しはNG
- 自分に非があれば謝罪し、改善する
- 相手に非があるときは冷静に改善の要望を伝える
- 他の住民に相談してみる
- 証拠を確保しておく
Q3.近隣トラブルで相談できる4つの窓口とは?
- 管理者(管理会社、大家、自治会)
- 自治体の役所
- 警察
- 弁護士
まとめ
近隣トラブルには騒音・悪臭・ゴミ捨ての問題・駐車場や駐輪場の不適切な使用……等と様々な形があります。万一の場合は、集合住宅なら建物の管理者、戸建周辺のトラブルなら町内会や自治会にまず相談してみましょう。
改めて基本的な対処方針をまとめると、次のようになります。
- 感情的にならない(仕返しや、いきなりクレームを言いに行く等)
- 状況に耐えかねる時は遠慮なく警察に相談する
- 迅速・確実に解決したい場合は弁護士に相談