牽連犯とは、異なる犯罪が関連性を持つ場合に適用される法律用語です。
具体的には、一つの犯罪が別の事件の手段や原因となる場合、または異なる罪名が同時に適用される場合に、牽連犯として扱われます。 この場合、最も重い刑罰が適用されることになります。
この記事では以下のポイントを解説していきます。
- 牽連犯の意味とは牽連犯と競合罪
- 併合罪の違い典型的な牽連犯
- 競合罪、併合罪の事例
目次
1、牽連犯とは
牽連犯とはどのようなものなのでしょうか。以下では、牽連犯に関する基本事項について説明します。
(1)牽連犯の意義と要件
牽連犯とは、犯罪の手段または結果である行為が他の罪名に触れることをいいます(刑法54条1項後段)。
数個の行為が存在しそれぞれ別の犯罪が成立するものの、各犯罪の間に目的と手段の関係、原因と結果の関係がある場合に牽連犯となります。
例えば、被害者の住居に侵入して被害者を殺害した場合、手段が住居侵入、目的が殺人なので、両罪が成立して牽連犯となります。
(2)牽連犯の効果
牽連犯は、数個の行為がそれぞれ構成要件に該当し、犯罪が成立することになりますが、刑罰を科す場合には、ひとつの犯罪として扱われます。これを「科刑上一罪」といいます。
牽連犯は、複数の犯罪のうち最も重い法定刑が定められている罪によって処断されることになります。
先の例では、両罪のうち最も重い殺人罪の法定刑である死刑または無期もしくは5年以上の懲役で処断されます。
2、牽連犯と観念的競合、併合罪との違い
牽連犯と同様に複数の罪名に触れる場合、「観念的競合」や「併合罪」となることがあります。
以下では、これらと牽連犯との違いについて説明します。
(1)観念的競合との異動
観念的競合とは、1つの行為が2つ以上の罪名に触れる場合をいいます(刑法54条1項前段)。
たとえば、警察官を殴って負傷させた場合には、1つの行為で公務執行妨害罪と傷害罪の2つの罪名に触れることになりますが、これが観念的競合です。
観念的競合は、複数の犯罪の構成要件に該当し同様に科刑上一罪とされますが、行為が1つである点で牽連犯と異なります。
したがって、観念的競合の場合は、最も重い法定刑が定められている罪によって処断されます。
(2)併合罪との違い
併合罪とは、確定裁判を経ていない2つ以上の罪のことをいいます(刑法45条前段)。
たとえば、別の機会にAとBを殺した場合には、2つの殺人罪が成立し、併合罪として扱われます。
両罪が目的・手段の関係になく、行為も1つではない場合は、牽連犯や観念的競合ではなく併合罪となります。
また、併合罪は科刑上も、以下のように牽連犯や観念的競合とは異なります。
- 複数の罪が有期懲役または禁錮となる場合には、最も重い刑の長期に2分の1を加えたものを長期として計算する(刑法47条)。※ただし処断刑の長期は30年を超えることができない(刑法14条)
- 複数の罪が罰金と他の刑になる場合には併科(刑法48条1項)される
- 複数の罪が罰金となる場合には、各罪の罰金の多額の合計が上限になる(刑法48条2項)なお、併科とは、2つ以上の刑を同時に科すことをいい、有期懲役刑と罰金の両方が科される場合が併科の例として挙げられます。
3、牽連犯となる典型的な事例
牽連犯となる典型例としては、以下のものが挙げられます。
(1)住居侵入罪と窃盗罪
窃盗の目的で他人の住居に侵入し、財物を窃取した場合には、住居侵入罪(刑法130条前段)と窃盗罪(刑法235条)の構成要件に該当します。
この場合の住居侵入は、窃盗の目的・手段という関係になりますので、両罪は牽連犯となります。
(2)文書偽造罪と偽造文書行使罪
身分証明書として行使する目的で運転免許証を偽造して、偽造した免許証を提示した場合には、公文書偽造罪(刑法155条)と偽造公文書行使罪(刑法158条)の構成要件に該当します。
この場合の免許証の偽造は原因、偽造免許証の提示は結果の関係にありますので、牽連犯が成立します。
(3)偽造文書行使罪と詐欺罪
他人名義の預金払戻請求書を偽造して銀行の窓口に提出し、他人の預金の払い戻しを受けた場合には、私文書偽造罪(刑法159条)、偽造私文書行使罪(刑法161条)の他に詐欺罪(刑法246条)も成立します。
私文書偽造罪は偽造私文書行使罪と詐欺罪の手段として、偽造私文書行使罪は詐欺罪の手段として、詐欺罪は他2つの犯罪の結果として行われていますので、この3つの犯罪は牽連犯となります。
4、牽連犯ではなく観念的競合となる事例
牽連犯ではなく観念的競合になる典型例としては、以下のものが挙げられます。
(1)無免許運転と酒酔い運転
同一の日時・場所において、無免許でかつ酒に酔った状態で自動車を運転した場合には、道路交通法上の無免許運転罪と酒酔い運転罪の構成要件に該当します。
しかし、無免許運転罪と酒酔い運転罪は、自動車の運転という1つの行為によってなされていますので、観念的競合が成立します。
(2)公務執行妨害罪と傷害罪
警察官に対して暴行を加え負傷させた場合には、公務執行妨害罪(刑法95条1項)と傷害罪(刑法204条)の構成要件に該当します。
この場合、いずれの犯罪も1つの暴行行為によってなされていますので、1つの行為が複数の罪名に触れる場合にあたり、観念的競合となります。
5、牽連犯ではなく併合罪となる事例
牽連犯ではなく併合罪になる典型例としては、以下のものが挙げられます。
(1)殺人罪と死体遺棄罪
人を殺して、その死体を遺棄した場合には、殺人罪(刑法199条)と死体遺棄罪(刑法190条)が成立します。
牽連犯が成立するためには、2つ以上の罪名に触れる行為が手段・結果の関係にあることが必要になりますが、この場合の手段・結果とは、ある犯罪の性質上、手段・結果として通常用いられるべき行為をいいます。
人を殺したとしても、通常死体遺棄に至るとはいえないので、殺人罪と死体遺棄とは手段・結果の関係にはなく、牽連犯は成立せず、併合罪となります。
(2)自動車運転過失致死傷と救護義務違反
自動車を運転して人身事故を起こし、被害者を救護することなくその場を立ち去った場合には、いわゆるひき逃げとして、自動車運転過失致死傷罪と道路交通法上の救護義務違反が成立します。
この場合、人を轢くという行為と人を轢いたにもかかわらず、救護をせずその場を離れる行為は別個の行為ですので観念的競合にはなりません。
また、両罪の行為は手段・結果の関係にはなく、牽連犯にもなりません。
自動車運転過失致死傷罪と道路交通法上の救護義務違反とは併合罪となります。
(3)監禁罪と傷害罪
人を監禁して、日頃の恨みをはらすために殴る蹴るの暴行を加えて怪我を負わせた場合には、監禁罪(刑法220条)と傷害罪(刑法204条)が成立します。
この場合の監禁と傷害行為は、別個の行為ですので観念的競合にはならず、通常傷害の手段として監禁が用いられるとはいえませんので、牽連犯にもなりません。
監禁罪と傷害罪とは併合罪になります。
6、牽連犯より重い罪に問われたときは弁護士に相談を
複数の罪名に触れる行為をした場合には、重い処罰を受ける可能性がありますので、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
(1)被害者との示談によって有利な処分を獲得できる可能性が高くなる
複数の罪名に触れる行為をしてしまった場合には、併合罪が成立し、重い刑罰が科される可能性があります。
また、捜査機関によって身柄拘束をされた場合には、拘束期間が長期に及ぶこともあります。
このような場合には、被害者との間で示談を成立させることができれば、有利な処分を獲得できる可能性が高くなります。
しかし、被害者と示談をしたくても、被疑者本人が被害者の連絡先を知らず、または連絡先を知っていたとしても被害者に接触を拒絶されることがあります。
そのため、被害者との示談交渉をお考えの方は、弁護士に依頼をすることをおすすめします。
弁護士であれば、被害者の承諾を得ることを前提に捜査機関から被害者の連絡先を入手できる可能性があり、被害者と示談交渉を進めることができます。
また、被害者としても加害者と直接交渉するよりも弁護士を介した方が安心できるというメリットもあります。
(2)取り調べに対するアドバイスを受けることができる
捜査機関による被疑者の取調べにおいて、被疑者は圧倒的に弱い立場に立たされ、
捜査機関による取調べによって作成された調書は、その後の刑事裁判で重要な証拠となります。
被疑者は取調べに慣れていないため、精神的な負荷が大きく、捜査機関の誘導に乗って真実と異なる複数の罪名に当たる事実について自白をしてしまうこともあります。
一度作成された調書は、後で撤回することが難しくなりますので、取調べに対しては黙秘権の行使や供述調書の署名・押印拒否権などを行使して対応することが重要となります。
弁護士に相談をすることによって、弁護士から上記のような取調べに対する対処法や注意点についてアドバイスを受けることができますので、初めての取調べを受ける場合であっても安心して臨むことができます。
牽連犯に関するQ&A
Q1.牽連犯とは
牽連犯とは、犯罪の手段または結果である行為が他の罪名に触れることをいいます(刑法54条1項後段)。
数個の行為が存在しそれぞれ別の犯罪が成立するものの、各犯罪の間に目的と手段の関係、原因と結果の関係がある場合に牽連犯となります。
例えば、被害者の住居に侵入して被害者を殺害した場合、手段が住居侵入、目的が殺人なので、両罪が成立して牽連犯となります。
Q2.併合罪との違い
併合罪とは、確定裁判を経ていない2つ以上の罪のことをいいます(刑法45条前段)。
たとえば、別の機会にAとBを殺した場合には、2つの殺人罪が成立し、併合罪として扱われます。
両罪が目的・手段の関係になく、行為も1つではない場合は、牽連犯や観念的競合ではなく併合罪となります。
Q3.牽連犯となる典型的な事例
牽連犯となる典型例としては、以下のものが挙げられます。
①住居侵入罪と窃盗罪
窃盗の目的で他人の住居に侵入し、財物を窃取した場合には、住居侵入罪(刑法130条前段)と窃盗罪(刑法235条)の構成要件に該当します。
この場合の住居侵入は、窃盗の目的・手段という関係になりますので、両罪は牽連犯となります。
②文書偽造罪と偽造文書行使罪
身分証明書として行使する目的で運転免許証を偽造して、偽造した免許証を提示した場合には、公文書偽造罪(刑法155条)と偽造公文書行使罪(刑法158条)の構成要件に該当します。
この場合の免許証の偽造は原因、偽造免許証の提示は結果の関係にありますので、牽連犯が成立します。
③偽造文書行使罪と詐欺罪
他人名義の預金払戻請求書を偽造して銀行の窓口に提出し、他人の預金の払い戻しを受けた場合には、私文書偽造罪(刑法159条)、偽造私文書行使罪(刑法161条)の他に詐欺罪(刑法246条)も成立します。
私文書偽造罪は偽造私文書行使罪と詐欺罪の手段として、偽造私文書行使罪は詐欺罪の手段として、詐欺罪は他2つの犯罪の結果として行われていますので、この3つの犯罪は牽連犯となります。
まとめ
住居侵入と窃盗、文書偽造と偽造文書行使など複数の罪名に触れる行為が手段・結果の関係にある犯罪については、牽連犯として扱われます。
牽連犯とされると、複数の罪名にあたる場合でも科刑上一罪となりますので、併合罪に比べて量刑は軽くなるといえます。
典型的なケースを除き、牽連犯になるか併合罪になるかの判断は難しいケースもありますので、ご自身では判断できないという場合には、弁護士に相談することをおすすめします。