最近、子どもへの虐待に関する痛ましい事件をテレビやインターネットでよく目にします。
近所で虐待かもと思う家庭があるときは、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」へ電話をかけようと思うのではないでしょうか。
しかし、「もしも違ったらどうしよう」という気持ちが大きくなるのも当然です。
そこで、本文では、
- 近所の子供が児童虐待をされているかどうかを見極めるためのポイント
- 子どもへの虐待に気づいたときの対応・支援法と心構え
- 子どもを虐待から守るための5か条
についてご説明したいと思います。この記事が、少しでも皆様のお力添えになれば幸いです。
精神的苦痛に関して詳しく知りたい方は以下のリンクからご覧ください。
目次
1、子どもを虐待から守るために|そもそも児童虐待とは
そもそも、「虐待」とはどんな行為をいうのでしょうか?
(1)児童虐待とは
「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。)について行う次に掲げる行為をいう(児童虐待の防止等に関する法律第2条柱書)、とされています。
そして、次に掲げる行為として1号から4号が規定されています。
1号:児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
2号:児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること
3号:児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前2号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること
4号:児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(略)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
1号は「身体的虐待」、2号は「性的虐待」、3号は「ネグレクト」、4号は「心理的虐待」と呼ばれています。
(2)具体的にどういう行為が該当するのか
では、具体的にどんな行為が児童虐待に当たるのでしょうか?
以下に一例を挙げましたのでご参考ください。
①身体的虐待(1号)
- 殴る
- 蹴る
- 水風呂や熱湯の風呂に沈める
- カッターなどで切る
- アイロンを押しつける
- 首を絞める
- やけどをさせる
- ベランダに逆さづりにする
- 異物を飲み込ませる
- 厳冬期などに戸外に閉め出す
などの暴行をすることを指します。
②性的虐待(2号)
子どもへの性交や、性的な行為の強要・教唆、子どもに性器や性交を見せる、などが上げられます。
③ネグレクト(3号)
ネグレクトは、保護の怠慢、養育の放棄・拒否などと訳されています。
保護者が子どもを家に残して外出する、食事を与えない、衣服を着替えさせない、登校禁止にして家に閉じこめる、無視して子どもの情緒的な欲求に応えない、遺棄するなどを指し、育児知識が不足していてミルクの量が不適切だったり、パチンコに熱中して子どもを自動車内に放置する、などの行為も含みます。
④心理的虐待(4号)
大声や脅しなどで恐怖に陥れる、無視や拒否的な態度をとる、著しく兄弟間差別をする、自尊心を傷つける言葉を繰り返し使って傷つける、子どもがドメスティック・バイオレンスを目撃する、などを指します。
(3)しつけと児童虐待の違い
児童虐待か否か判断する際に、必ず、問題となるのが「しつけ」との違い(線引き) です。
児童虐待が疑われても、多くの親は「それはしつけである」と主張します。
しか し、それは親の一方的な主張でしかありません。
いくら親が「しつけ」と言っても、子 供の身体、心が傷ついていればそれは「虐待」です。
「子どもが耐え難い苦痛を感じることであれば、それは児童虐待である」と指摘する専門家もいます。
* 懲戒権の見直しについて *
先日(令和元年5月27日)、「法務大臣が、民法の懲戒権の規定について、法制審議会に見直しを諮問する方向で検討に入っている」との報道がありました。
懲戒権は、民法822条で「親権を行う者は、第820条の規定(監護及び教育の権利義務)による監護及び教育に必要な範囲でその子を懲戒することができる」と規定されています。
しかし、この懲戒権を盾に児童虐待を正当化する親が後を絶たず、「児童虐待の温床だ」「削除すべきである」などと批判されていました。今回の動きはこうした声を受けてのものだったと考えられます。
2、児童虐待の現状
児童虐待の件数は年々増加傾向にあります。
厚生労働省が公表した速報値によれば、平成29年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数(※相談対応件数とは、平成29年度中に児童相談所が相談を受け、援助方針会議の結果により指導や措置等を行った件数)は「13万3778件」で過去最多でした。
この数字は平成28年度の「12万2757件」より「1万1021件」増加しています。
増加要因としては、心理的虐待に係る相談対応件数が増加したこと、警察等からの通告の増加が挙げられています。
相談内容別にみると、心理的虐待が7万2197件と最も多く、次いで、身体的虐待が3万3223件、ネグレクトが2万6818件、性的虐待が1540件と続いています。
参考 https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000348313.pdf
3、児童虐待かもしれないときの見分けるポイント
もしかしたら、今現在あなたの近くで児童虐待が行われている可能性もあります。
そこで、児童虐待かどうかを見分けるポイントについてご紹介いたします。
(1)生活していて気にかけてあげたほうがよいケース
以下のケースに当てはまる場合は児童虐待のサインかもしれません。
①尋常ではない激しい泣き声が聞こえる、突然の悲鳴のような泣き声が聞こえる、一晩中泣き続けている、ものを壊す音・叩きつける音などといっしょに泣き声が聞こえるといったケース
②子どもの泣き声・悲鳴が周囲に漏れないよう『雨戸が閉めっぱなし』『ずっと閉めっぱなしで不自然に防音している部屋』があるケース
(2)児童虐待かどうか見極めるポイントの一覧
以下は児童虐待を見極めるためのチェックポイントです。
もちろん、チェックポイントの一つにあてはまれば児童虐待にあたると直ちにいえるものではありません。
しかし,チェックポイントにおいて複数にあてはまるようであれば、生活を気にかけてあげたほうがよいケースにあたるといえるでしょう。
①子供の様子に関して
ア 身体に関すること
□ 通常の生活では発生することのない部位への受傷
□ 骨折・アザ・火傷などを繰り返す
□ 不自然な打撲傷、新旧混在するあざがある
□ 性器の外傷がある
□ 外傷に対する説明が不自然であったり、説明を嫌がる
□ ケガや病気にもかかわらず受診していない
□ 脱水症状、栄養障害がみられる
□ 全身に湿疹・かぶれがある
□ 特別な病気がないのに身長・体重の増えが悪い
□ だるさや不調を大げさに訴え、手当をしつこく求める
イ 生活に関すること
□ 衣服や体がいつも不潔である(お風呂に入っていない)
□ 同じ服を何日も着ている・着替えをしていない
□ 給食やおやつの過度の早食いが見られる
□ 食事への極端な執着がある
□ 昼寝時に過度の緊張・興奮が見られる
□ おねしょが頻繁に起こる
□ 昼寝時に先生が近寄る事を拒否したり過度な独占をする
ウ 行動・態度に関すること
□ 警戒心が過度に強く集団に入れない
□ 身体接触を嫌がり、ささいな刺激で身を硬くする
□ 年齢不相応な性的言葉や性的行動が見られる
□ トイレや物置など特定の場所を嫌がる
□ 大きな音や耳慣れない音に過度に反応を示す
□ うるさくないのに「うるさい」ということがある
□ ケガにつながるような行動を平気で行う
□ 人や生き物に対して攻撃的・残忍な態度をとる
□ 自分や他人の性器に異常に関心を持つ
□ 先生への試し行為を繰り返し行う
□ 先生への独占欲が過度に強い
エ 親との関係に関すること
□ 親を過度に怖がり、萎縮している
□ 親がいると安心して遊べなくなる
□ 親と平気ではなれる、誰にでもまとわりついてあまえる
□ 親のいない時に親のことをやたらと口にする
②親の様子に関して
□ 何かしら理由をつけて保育園・幼稚園・学校行事を欠席することが多い
□ 保育園・幼稚園への送迎時間が不安定で、連絡がつかないことがよくある
□ 子どもへの攻撃的・強迫的な態度を示す
□ 子どものケガや病気についての説明に一貫性がなく、つじつまが合わない
□ 行きすぎたしつけ、体罰を肯定している
□ 子どもに年齢・発達上不適切な期待をする
□ 子どもを無視したり、子どもの人格を否定するような関わりをする
□ 子どもの世話をしようとせず、無関心な様子が見られる
□ 予防接種・健康診断が未受診、子どもの疾患への放置が見られる
□ 対人関係が敵対的で、トラブルを起こすことが多い
□ 子育てにストレスを感じている
□ 地域や実家から孤立している状況がある
□ 家庭内に著しい不和や配偶者間暴力がある
□ 家庭内が著しく不衛生である
□ 勤務先が頻繁に変わったり、働く意志が見られなかったりする
□ 先生が話しかけても避ける態度をとったり、サポートを拒んだりする
(3)児童虐待のサインを見つけやすい場所
児童虐待を受けた子供のSOSは、次のような場面で発信されやすいと言われています。
上記チェックポイントと併せて早期発見に努めましょう。
- 集団生活の場(幼稚園、保育園、学校、児童館、学童クラブなど)
- 近隣や地域の場(児童委員、町内会・自治会、保健所・保健センターなど)
- 健康診断、病院(保健所・保健センター、幼稚園・保育園、学校、医療機関など)
4、児童虐待に気づいたときの対応法と心構え
児童虐待だと思ったら、まずどうすべきなのでしょうか?
この項では、その後の取る べき手段についてご紹介いたします。
(1)まずは通告(通報・連絡)しなければならない
児童虐待防止法6条1項は「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。」と規定しています。
また、児童福祉法25条1項は「要保護児童を発見した者は、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。」と規定しています。
「通告しなければならない」と規定されていることからこれらの通告は国民の義務です。
「本当に児童虐待なのか分からない」などと、通告には一定の躊躇いが伴います。
しかし、児童虐待防止法6条1項は「児童虐待を受けた児童」ではなく「児童虐待を受けたと思われる児童」と規定しています。
これは、本当に児童虐待なのか分からないけど、児童虐待である可能性も否定できない」という程度でも通告していいですよ、ということです。
そして、調査の結果、児童虐待ではなかったことが判明したとしてもそれはそれでいいのです。
児童虐待に対して世間の目を光らせ(抑止効果)、早期に児童を保護することが法の目的なのです。
(2)匿名でも通告できる、通告者のプライバシーは守られる
また、「通告したら保護者にばれるのでは?」という疑問、不安を持たれている方も多いかと思われます。
しかし、厚生労働省の「児童相談所全国共通ダイヤルについて」というページには「通告・相談は匿名でも行うことができ、通告・相談した人、その内容に関する秘密は守られます」と記載されていますから、匿名性とプライバシーの保護について安心して通告できます。
(3)児童相談所全国共通ダイヤル
児童虐待を疑った場合は、専用ダイヤル「189(いち・はや・く)」へ電話をかけると近くの児童相談所へ電話が繋がります。24時間対応しています。
5、子供を児童虐待から守るための5か条
最後に子供を児童虐待から守るために気を付けていただきたいことをご紹介いたしま す。
(1)「おかしい」と感じたら迷わず通告
児童虐待だと感じたら、迷わず通告しましょう。先ほどもご紹介したように、通告は 私たちの義務です。
(2)「しつけのつもり…」は言い訳(子供の立場で判断)
児童虐待か否かはあくまで子供の感覚・視点から判断されるものです。
保護者が「し つけ」と称しても、子供が虐待だと感じればそれは児童虐待です。
(3)ひとりで抱え込まない(あなたにできることから即実行)
身近な人や先ほどご紹介した専用ダイヤルに電話するなどして専門のスタッフに相 談し、自分一人で問題を抱え込まないようにしましょう。
(4)親の立場より子供の立場(子供の命が最優先)
児童虐待通告制度の目的は、まず何より子供の安心・安全を保護することにあります。
保護者よりも子供の安心・安全を第一に考えましょう。
(5)児童虐待はあなたの周りでも起こりうる(特別なことではない)
児童相談所の児童虐待相談対応件数が年々伸びてきており、児童虐待はもはや私たちの生活とは無縁ではありません。
児童虐待はあなたの周囲でも起こりえますし、現に起きているかもしれません。
まとめ
以上、児童虐待とは何なのか、児童虐待に気づくためのポイント、気づいた際の対処法などについて説明してきました。
核家族の進行、人と人との繋がりが薄れていく現代社会だからこそ、子どもの安心・安全は社会全体で守っていく必要があるのではないでしょうか?
悲惨な事件を繰り返さないためにも、ぜひ、この記事を参考にして児童虐待についての理解を深めてください。