ネグレクトは罪なこと、絶対やってはいけないこと。
そうわかってはいるものの、子どもに何もしたくない。育児がイヤでたまらない-。
そんな思いを抱えてしまう育児ネグレクト。
テレビやインターネット、ラジオなどで、育児ネグレクトを責める言葉が飛び交います。
母親たちがどんな思いでネグレクトになるのか、わかっていない発言も多いと思われるかもしれません。
でも、あなたが今検索している通り、犯罪になりかねないのです。
今回は、
- ネグレクト、児童虐待がどのように法律上問題となるのか
- どんな刑罰を科される可能性があるのか
- ネグレクト、児童虐待を発見された場合に受ける行政上の措置
についてご紹介した上で
- ネグレクト、児童虐待を止める方法
についてもご紹介したいと思います。ご参考になれば幸いです。
1、ネグレクトと児童虐待防止法
「児童虐待防止法」をご存知でしょうか?
ネグレクトが児童虐待というならば、いかにもネグレクトに刑罰が規定されていそうなネーミングです。
ネグレクトで児童虐待防止法違反に問われることはあるのでしょうか?
本項で はまず、児童虐待防止法がどのような法律でネグレクトが同法上どのような位置づけなのか、児童虐待防止法にはどんな罪、罰則が規定されているのかご紹介いたします。
(1)児童虐待防止法(この項で「法」という)とは
児童虐待防止法は、児童の権利利益を擁護することを目的としています。
法では「児童虐待」の定義を定め、児童虐待の禁止を宣言し、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めており、2000年11月20日に施行され ています。
その後、3回の法改正を経て現在に至っています。
(2)「ネグレクト」は児童虐待に定義されている
法2条では「児童虐待」を「保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,児童を現に監督するものをいう。)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。)に ついて、法2条1号から4号に掲げる行為」としています。
そして、法2条3号で、
- 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置
- 保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること
と定義しており、ネグレクトはこれに当たり、つまりネグレクトは児童虐待に定義されます。
1つめは、保護者自身が何も世話をしない、というものです。
2つめの「保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置」とは、例えば、交際相手が児童に外傷が生じるおそれがある暴行、わいせつ行為、著しい暴言などを加えているのに、それを保護者が放置することです。
なお、平成29年度の児童相談所での虐待相談件数のうち、ネグレクトが占める割合は全体の20%(全体13万3778件,ネグレクト2万6818件)でした。
(3)児童虐待防止法に規定される罪と罰則
法3条には「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない」と規定されていますから、法2条3号に当たるネグレクトは児童虐待防止法に違反します。
しかし、その違反行為に関する罪、罰則に関しては規定されていません。
つまりネグレクトをしたからといって、児童虐待防止法上の罪に問われることはないのです。
もっとも、後記でご紹介するように他の法律に規定される犯罪が成立する可能性は十分あります。
法では、法18条19条で罪・罰則を設けているのみです。
ちなみに、法18条では、児童の身辺をつきまとったり児童の住所・居所,学校などの付近をはいかいしてはならない旨の命令を受けた保護者がその命令に違反した場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処すると規定しています(法19条は保護者に対する罪、罰則ではないため割愛します)。
2、ネグレクトと刑法
先ほど児童虐待防止法のところで(上記「2」(3))、ネグレクトが別の罪で問われる可能性があるとご紹介いたしました。
本項では、刑法上当たり得る保護責任者遺棄罪・不保護罪及び保護責任者遺棄等致死傷罪についてご紹介いたします。
(1)保護責任者遺棄罪・不保護罪(刑法218条)について
保護責任者遺棄罪・不保護罪は、幼年者等を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかった場合に刑事責任を問われる犯罪です。
罰則は「3月以上5年以下の懲役」です。
①幼年者等を保護する責任のある者(保護義務のある人)
保護義務のある人とは、ネグレクトの関係でいえば、幼年者の生命、身体を保護するべき立場のある人という意味です。通常には親権者になるでしょう。
しかし、親権者だけに限らず、親権者と同居する交際相手であっても状況等によっては保護義務のある人に当たり得るでしょう。
②遺棄
遺棄とは、幼年者を現在の安全な場所から保護、助力が得られない危険な場所へ移す行為(例えば2歳時を誰もいない山奥へ連れていき置き去りにする行為)の他、幼年者をそのまま放置して立ち去る行為(例えば0歳時を自宅に置いたまま長期間どこかへ出かける行為)など、幼年者等との場所的離隔を生ぜしめてその生命・身体に危険を生じさせる行為をいうとされています。
また、積極的に危険な場所へ移す行為(作為)なみならず、置き去りにする行為(不作為)もこれに含まれます。
③生存に必要な保護をしない
不保護とは、保護責任者が、幼年者等を場所的に離隔しないで幼年者等の生存に必要な保護をしないことをいいます。
例えば食事を与えない、病気に罹患しても病院に連れていかないことなどが挙げられます。
本罪では「生存に必要な保護をしないこと」が実行行為とされているのに対し、児童虐待防止法2条3号では「保護者としての監護を著しく怠ること」を児童虐待としていることから、両者は同一ではありません。
(2)保護責任者遺棄等致死傷罪(刑法219条)について
保護責任者遺棄等致死罪は、遺棄したこと、あるいは生存に必要な保護をしなかった結果、幼年者等に傷害を負わせ、あるいは幼年者等を死亡させた場合に成立する犯罪です。
本罪は保護責任者遺棄罪・不保護罪の結果的加重犯と呼ばれ、遺棄すること、あるいは生存に必要な保護を欠くことの故意さえあれば、傷害・死亡を発生させる故意(認識・認容)がなくとも成立し得る犯罪です。
罰則は、傷害の場合「3月以上15年以下の懲役」、死亡の場合は「3年以上の有期 懲役(上限20年)」です。
なお、傷害・死亡を発生させる故意がある場合は、傷害罪(刑法204条)、傷害致死罪(刑法205条)、殺人罪(刑法199条)に問われます。
食事を与えない、病院に連れていかないなど、するべきことをしないことを「不作為」といいますが、不作為による傷害罪,殺人罪も十分成立し得ます。
3、ネグレクト以外の児童虐待と刑法
ネグレクトと刑法については以上のとおりです。
ではネグレクト以外の児童虐待、つまり、児童虐待防止法2条1号、2号、4号に規定する行為についてはいかなる罪に当た り得るのでしょうか?
(1)1号(児童の身体に外傷が生じ,又は生じるおそれがある暴行:身体的虐待)
暴行罪(2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)、あるいは傷害が生じた場合は傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)に問われます。
(2)2号(児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること:性的虐待)
強制わいせつ罪(刑法176条:6月以上10年以下の懲役)、監護者わいせつ罪(刑法179条:6月以上10年以下の懲役)などに問われます。
(3)4号(児童に対する著しい暴言(略)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動:心理的虐待)
暴行とは人の身体に対する有形力の行使をいいますから、暴言を吐くだけでは通常は暴行罪には当たらないでしょう。
ただ後半部分については、傷害罪、脅迫罪(刑法222条:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)などに問われる可能性があります。
4、児童虐待を発見されたら受ける行政処分とは?
これまでは、児童虐待をした場合の刑事上問われ得る罪、罰則についてご紹介してきました。
本項では、児童虐待を発見されてしまった場合の行政上の措置について紹介したいと思います。
(1)通告
児童虐待防止法6条1項は、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者」に対し、福祉事務所、児童相談所への通告義務を課しています。
つまり、児童虐待をした場合には、誰からでも、いつでも通告される可能性があります。
(2)児童の安全確認等
通告を受けた児童相談所等は、児童の安全確認や一時保護の要否等を判断するため児童との面会や当該児童の安全の確認を行うための措置等を講じます。
* 一時保護 *
この際、必要がある場合等は、児童相談所長の判断で児童を一時保護されることがあります。
一時保護は、法的には保護者の同意がなくても可能とされています。
保護中の面会は可能ですが、状況により拒否されることがあります。
ただ、一時保護は一種の行政処分ですから、当該処分に対し不服申し立てをすることは可能です。
(3)面会等の制限
児童が一時保護された場合に、児童虐待の防止及び児童虐待を受けた児童の保護のために必要があると認めるときは、児童相談所長等の判断により、当該児童虐待を行った保護者について、当該児童との面会・通信を制限されることがあります。
当該処分も行政処分の一種ですから、処分に対し不服申し立てをすることは可能です。
(4)調査・質問、出頭要求、立入調査等
児童虐待が行われているおそれがあると認められるときは、児童委員などから出頭要求を受けたり、立入り調査を受けたりします。
そして,出頭時や立入り調査時に、児童虐待に関して必要な調査・質問を受けます。
また、正当な理由なく立ち入り調査を拒み、妨げ、忌避した場合において、児童虐待が行われている疑いがあると認められるときは、裁判官が発する令状により臨検(住居等に立ち入ること)を受けたり、捜索(児童の発見を目的として探し出すこと)受けます。
5、児童虐待を止めたい!どうしたらいい?
連日児童虐待に関する報道がされる中、「児童虐待しそうだ」「児童虐待してしまったがどうしていいのか分からない」などとお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?
この項では、児童虐待を止めるにはどうすればいいのかご紹介いたします。
どんな方法を取るにせよ必要なこと。それは、「惰性の中では変化は生まれない」ということです。
子どもが小さく我慢するしかないことに甘え、毎日を送ってはいけません。変化を起こすには、「行動」が必要です。
(1)子供と一時的に離れる
子供と一時的に離れることで児童虐待を予防・防止することができます。
また、自分自身、あるいは子供との関係性を冷静かつ客観的に見つめなおすことができるい い機会となります。
子供と一時的に離れるには、子供は第三者に預けましょう。一番身近な存在としては親や親戚が考えられます。その他、児童養護施設に預ける方法もあります。
(2)周囲に相談する
周囲に相談することで自分の考え方や行いを客観的に見つめなおすきっかけとなります。
相談できる人がいない、事が事なので相談しづらいという方は、専門の相談窓口に相談されてみてはいかがでしょうか?
* 相談先、電話番号 *
①児童相談所全国共通ダイヤル TEL:189(いちはやく)
お近くの児童相談所へ繋がります。
②NPO法人 日本子どもの虐待防止民間ネットワーク
ホームページ(http://www.jcapnet.jp/)からのメール相談を受け付けています。
③チャイルドライン(※18歳までの子供専用)
TEL:0120-99-7777
ホームページ(https://childline.or.jp/)からのメール相談も受け付けています。
(3)心理カウンセリングを受ける
児童虐待してしまう方は、過去に児童虐待を受けるなどしてトラウマを抱えていたり、日頃の育児、子育てなどでストレスを溜め込んでおられる方も多いかと思います。
そのため、病院の精神科ないしは心療内科を受診し、医師から薬の処方を受けるとともに、臨床心理士などのカウンセリングを受けることも一つの方法です。
まとめ
以上、ネグレクト、児童虐待がどんな罪に当たりどんな罰則が設けられているのか、そして児童虐待が発見された場合、どのような行政上の措置が待っているのかについてご紹介させていただきました。
児童虐待でお悩みの方は、まずは児童虐待によりどんな責任が発生するのか、どんな措置がくだされるのか認識していただいた上で、上記「5」をご参考に児童虐待を止めるための方法、手段についてご検討していただければと思います。
子どもが少なくなってきている現代では、子どもの存在が当たり前でなくなっています。
子どもとの生活が自分に染み付いていない場合、子どもがいると大人としてやりたいこと(友達と長時間遊ぶ、夫婦だけで(彼氏と二人で)外泊をする、深酒する、遅くまで寝ている、ずっとテレビを見ている(ゲームをしている)など)が制限されてしまうことに、苛立ちやストレスが伴う方も少なくありません。
さらに子どものわがままな態度を見ていると、「どうして自分ばかりが我慢しなきゃいけないのか」という気持ちにもなるでしょう。
子どもと上手に付き合うには、まずはあなたが大人の階段を昇ることなのかもしれません。
特別なことをしなくても、いつか必ず昇り切れますので安心してください。
もしまだ昇りきっていないのであれば、周囲の大人たちに話してみましょう。きっと手を貸してくれる人がいるはずです。
この記事が児童虐待でお悩みの方のための一助となれば幸いです。
一日でも早く、お子さまとの幸せな日々が訪れることを願っています。