法律上で手続きをして結婚することを「法律婚」と呼びますが、近年では法律上の手続きはしないものの事実上の婚姻生活を送る「事実婚」を選ぶ人も増えています。
もし事実婚のパートナーが浮気をした場合、法律婚と同様に「不倫」と呼ぶことができるのでしょうか?
また、不倫として慰謝料請求や離婚ができるのか気になっているという方も多いと思います。
ここでは、
- 事実婚における不倫の概念
- 事実婚における不倫の対処法
について解説していきます。ご参考になれば幸いです。
事実婚については以下の関連記事をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=LFoUTUfV7VQ&list=PL-Qjwe4g1Mpj0kti3cjbqx78mPS_Ib34z&index=4
目次
1、事実婚での浮気は「不倫」なのか
パートナーが他の異性と肉体関係を持った場合、「浮気」や「不倫」という言葉が使われます。
恋人同士の場合では「浮気」が使われますが、既婚者の場合は「不倫」が使われることが一般的です。それでは、事実婚の場合では、どちらの言葉を使うべきなのでしょうか?
(1)事実婚の貞操義務は法律婚と変わらない
事実婚は「内縁関係」とも呼ばれ、法律上の婚姻手続きは行っていない状態です。
しかし、事実婚は、法律上、法律婚と同じように取り扱われることが多くなっています。
事実婚における法律上の効果の1つとして、「貞操義務」が挙げられます。
法律婚では夫婦は互いに貞操義務があり、配偶者以外の人と肉体関係を持つことを禁じられています。事実婚でも同様に互いに貞操義務があると考えられており、パートナー以外の人と肉体関係を持つことは「不貞行為」であると言えます。
事実婚では法律婚と同様に、貞操義務だけではなく、同居・協力・扶助の義務を負うことも生じます。
また、事実婚でも健康保険の被扶養者になることが可能です。
ただし、事実婚では子供が生まれた場合には父親が認知手続きをしなければ法律上の父子関係を持つことができないことや、相続人の資格がないこと、税制上の優遇を受けられないなどといった法律婚とは異なる点もあります。
(2)事実婚での浮気も「不倫」である
事実婚も法律婚と同様に貞操義務が存在するため、パートナーの浮気は「不倫」であると言えます。
ただし、事実婚の場合は不倫が成立していることを確認する以前に、事実婚が成立しているのか確認する必要があります。
事実婚は法律婚と違い、物理的な証拠(婚姻届)が存在しづらいため立証のハードルは高いです。
ただ同棲しているだけの関係であれば、事実婚とは呼べません。
事実婚が成立する要件としては、次のことが挙げられます。
- 互いに、婚姻届を提出しない以外、法律婚同様に婚姻の意思がある
- 共同生活をしている
- 周囲から夫婦と認知されている
- 公的手続きで事実婚を表明している
こうした要件を満たしており、事実婚が成立している場合に限って「不倫」だと呼べると言えます。
2、事実婚の不倫への制裁方法とは?
法律婚では配偶者の不倫が発覚すれば、離婚や慰謝料請求といった制裁を行うことができます。
事実婚でパートナーの不倫が発覚した場合には、どのような制裁を行うことができるのか疑問に思う方も多いでしょう。
とはいえ、事実婚と法律婚で不倫に対して行える制裁方法は、ほとんど違いがありません。
事実婚の不倫への制裁方法と内容について、詳しく見ていきましょう。
(1)事実婚の解消
事実婚で不倫があった場合、事実婚の解消(離婚)を行うことができます。
法律婚と同様で、事実婚を解消する場合の方法には「協議」「調停」があります。
協議であれば事実婚の解消する理由は関係なく、双方の合意が得られれば事実婚の解消が成立します。
しかし、相手が事実婚の解消を拒否している場合には、事実婚の解消は認められません。
法律婚と同様に一方が事実婚の解消を拒否している場合には、調停(内縁関係解消調停)を行うことになります。
法律婚を解消する場合には養育費や財産分与などの取り決めが行われますが、事実婚でも同様です。事実婚でも財産分与や年金分割を請求する権利が認められています。
ただし、子供の養育費と相続権に関しては、子供を父親が認知していなければ請求することができません。
そのため、事実婚で子供がいる場合、認知手続きの有無は重要なものになると言えます。
(2)慰謝料請求
不倫は法律上では「不貞行為」と呼ばれ、不法行為に該当します。
不法行為を行った場合、被害者に対して損害を賠償する責任が生じることが民法709条に定められています。
事実婚も法律婚同様に貞操義務が生じるため、不貞行為があった場合には民法上の「不法行為」があったとして慰謝料を請求することが可能です。
不貞行為は「共同不法行為」になり、不貞行為を行った二人に共同で責任が発生します。
そのため、慰謝料請求は不貞行為を行ったパートナーだけではなく、不倫相手にも請求することができます。
3、事実婚の不倫慰謝料金額の相場とは?
事実婚で不倫慰謝料を請求する場合、慰謝料の相場額は事前に知っておきたいものです。
事実婚の場合の不倫慰謝料の相場金額や、慰謝料金額の増減を決める要素についてご紹介します。
(1)不倫慰謝料の相場金額
不倫慰謝料の金額は法律で明確に定められているわけではなく、請求相手の言い値で慰謝料請求が行われます。
しかし、言い値だからといって高額に設定しすぎても相手から慰謝料請求を拒否されることや、減額交渉の提案をされることになります。
そのため、不倫慰謝料の金額の相場を知っておくことは非常に大切です。
過去の裁判の判例より不倫慰謝料の金額は、数十万円~300万円程度が相場だと言われています。
相場金額には大きな開きがありますが、これは不倫慰謝料の金額を決定する際にはさまざまな要素が考慮されるからです。
法律婚であることや事実婚であることが慰謝料の金額を決める要素になるわけではなく、同等の扱いになるため、法律婚と事実婚で慰謝料の相場金額が変わることはないと考えられます。
(2)慰謝料の増減を決める要素について
不倫慰謝料の金額の増減を決める要素は、大きく分けると
「パートナーとの関係性」
「不倫の悪質性」
の2種類があります。
それぞれどういった要素が考慮され、慰謝料の増減をどのように決めるのか見ていきましょう。
①パートナーとの関係性
「パートナーとの関係性」では、事実婚の長さや子供の有無、不倫前の夫婦関係の状態などが考慮されます。
事実婚の期間が長いほど不倫による精神的な苦痛は大きいと考えられるため、慰謝料金額が高額になる傾向にあります。
また、事実婚で子供がいる場合にも慰謝料は高額になります。
一方で、不倫前に事実婚の夫婦関係が悪くなっていた場合には慰謝料が減額される傾向にあり、関係が破綻していた場合には慰謝料請求が認められない場合もあります。
②不倫の悪質性
不倫の悪質性が高いと考えられる要素が多いほど、慰謝料金額は増額される傾向にあります。
不倫の期間や回数が多いほど不倫の悪質性が高いと判断され、慰謝料は増額されます。
また、不倫相手が妊娠や出産した場合には、精神的苦痛も大きいと考えられるため慰謝料が増額される要素になります。
その他にも、不倫の積極性や、不倫発覚後の反省の態度なども考慮されます。
4、不倫での事実婚解消や慰謝料を請求するためにすべきこと
パートナーが不倫をしたので事実婚の解消や慰謝料請求を行いたいと考えても、どんなことをすればいいのか分からないという方も多いと思います。
事実婚の解消や慰謝料請求では、事前にしっかりと準備を行うことが大切です。
事実婚の解消や慰謝料請求を行う場合には、事前に次のことを行いましょう。
(1)不貞行為の証拠を集める
不貞行為が理由で事実婚の解消や慰謝料請求を行うのであれば、不貞行為があったことを立証できる証拠が必要です。
証拠がなければ相手が不貞行為を否定する可能性がありますし、裁判になった場合には証拠がなければ請求が認められません。
不貞行為の証拠集めでは、客観的に見て不貞行為があったことが分かるような証拠を集めてください。
不貞行為は「配偶者以外の人と肉体関係を持つこと」を指すため、肉体関係があることが分かる証拠が望ましいです。
- 性行為の動画や画像、音声
- ホテルに出入りしている写真
- ホテルを利用したレシート
- 肉体関係があったことが分かるメッセージ内容
上記のようなものが証拠として有効であると言えます。
また、プレゼントや旅行のレシートや通話記録など小さな証拠も複数集めることで証拠として使える場合があるので、できる限り証拠はたくさん集めておくようにしましょう。
(2)事実婚を証明できる証拠を集める
事実婚は法律上の婚姻手続きを行っていないため、事実婚の解消や慰謝料請求するには事実婚関係であることを立証しなければなりません。
不倫の慰謝料請求をした場合、相手から「ただの同棲関係だから慰謝料は支払わない」と抗弁されるようなケースもあります。
恋人関係での同棲であれば夫婦の扱いを受けることはなく、浮気をしても慰謝料は発生しません。
そのため、単なる同棲関係ではなく、事実婚関係であることを証明する必要があるのです。
(3)不倫相手に慰謝料請求する場合は不倫相手の情報を集める
不倫慰謝料を不倫に相手に慰謝料請求する場合、不倫相手の情報を集めましょう。
慰謝料請求は内容証明という郵便で請求を行うことが多いため、相手の名前と送付先の情報が必要です。
送付先は自宅の住所もしくは勤務先になります。
相手の住所が分からないものの電話番号が分かっている場合には、弁護士に依頼することで弁護士照会によって電話番号から住所を割り出すことができます。
相手の情報が集められないという場合には、自分で尾行などは行わずにプロである探偵や興信所に依頼することをおすすめします。
5、事実婚での不倫特有の2つの注意点
事実婚における不倫の扱いや制裁方法に法律婚と大きな違いはありませんが、事実婚だからこそ注意しなければならない点が2つあります。
事実婚での不倫の注意点を理解した上で、不倫への制裁について検討するようにしましょう。
(1)法律婚よりも複雑化しやすい
事実婚の不倫は法律婚の場合よりも複雑化することが多くなっています。その理由は、事実婚関係の証明が難しいからです。
法律婚の場合は戸籍に婚姻についての記載があるため、婚姻関係の有無は明確になっています。
しかし、事実婚では証明できる手段がありません。そのため、パートナーに慰謝料請求をしても「恋人関係だと思っていた」と主張されてしまう可能性があるのです。
また、不倫相手に慰謝料請求をするには相手の故意や過失が必要になりますが、「同居している彼女がいることは知っていたが、事実婚関係にあることは知らなかった」と主張される可能性もあります。
事実婚では不貞行為があったことだけではなく、事実婚が成立していることを立証しなければならないことから法律婚よりも慰謝料請求のハードルが上がると言えます。
(2)事実婚の立証が重要になる
事実婚の不倫で慰謝料請求や事実婚解消を行うには、事実婚の立証が重要なポイントになります。
次のようなことがある場合には、事実婚は立証されやすいです。
- 住民票に「未届けの夫(妻)」と記載されている
- 健康保険で第三号被保険者になっている
- 生命保険の受取人欄に内縁関係が記載されている
- 結婚式を行った
- 男性側が認知した子供がいる
このように第三者が見ても明らかに事実婚であることが分かるような要素があれば事実婚を立証しやすいですが、こうした明確な証拠がないケースも少なくありません。
そのような場合には、家計が同一になっていることや、互いに婚姻の意思を持っていることを証明する必要があります。
6、事実婚での不倫トラブルは弁護士へ相談を
事実婚でパートナーが不倫した場合には法律婚と同様に慰謝料請求や離婚することが可能ですが、法律婚よりも複雑化しやすい傾向にあります。そのため、事実婚での不倫トラブルはご自身で解決しようとするのではなく、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、事実婚や不貞行為の立証のために必要な証拠集めを的確に行うことができ、交渉や手続きを全て任せることができます。
事実婚の不倫で慰謝料請求することは容易ではないため、専門家である弁護士に依頼すれば心強いものです。
また、事実婚を解消する場合には、財産分与や年金分割など離婚条件を決める際にもサポートを受けられます。
まとめ
事実婚の浮気は「不倫」として成立し、法律婚のように慰謝料請求を行うことができます。
しかし、事実婚で慰謝料請求するには不倫に加えて事実婚にあることも立証する必要があるため、ご自身で全てを準備して解決することは困難だと言えます。
事実婚の不倫は一人で悩みを抱え込まず、まずは弁護士に相談してみましょう。