信用毀損罪(しんようきそんざい)は、虚偽情報の拡散によって被害者の経済的信用力を
今回は、
- 信用毀損罪の構成要件や法定刑
- 具体的な書き込み例
- 関連する犯罪
- 被害に遭った場合の適切な対処法
などについて、専門の弁護士がわかりや
目次
1、信用毀損罪とは?
信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布したり、偽計を用いたりすることによって、人の信用を毀損したときに成立する犯罪です(刑法第233条前段)。
まずは、信用毀損罪の構成要件(罪が成立するための要件)・法定刑について具体的にみていきましょう。
(1)構成要件
信用毀損罪の構成要件は以下のとおりです。
- 虚偽の風説を流布したこと、または、偽計を用いたこと
- ①の行為によって人の信用を毀損したこと
- 故意
①虚偽の風説を流布したこと、または、偽計を用いたこと
「虚偽の風説の流布」とは、客観的真実に反する噂・情報を不特定または多数の人に伝播することを意味します。
不特定多数に伝播される噂・情報は全部が虚偽である必要はありません。
その一部であっても間違いが含まれている場合には、信用毀損罪が成立し得ます。
また、当初は直接的に少数の人に伝達されただけだとしても、その少数の人を介して不特定多数の人に伝播するおそれがある状況なら、「虚偽の風説の流布」に該当します(大判昭和12年3月17日)。
「偽計」とは、人を欺罔し、あるいは、人の錯誤や不知を利用することです。詐欺罪における欺罔行為よりも幅広い行為が捕捉され、偽計行為を働きかけられる対象者は被害者以外の第三者であっても差し支えありません。
また、虚偽の風説の流布または偽計という手段に人の信用を毀損する危険性が認められる必要があります。
② ①の行為によって人の信用を毀損したこと
「人の信用」については、後記2で詳しく解説します。
「毀損」とは、人の信用を低下させることです。
条文の文言を素直に読むと、実際に人の信用を毀損していなければ信用毀損罪は成立しないとも思えますが、そうではありません。
判例によれば、(人の信用を毀損するような)虚偽の風説の流布または偽計を用いた時点で信用毀損罪が成立すると考えられており、実際に信用毀損の結果が生じる必要はありません(大判大正2年1月27日)。
③故意
信用毀損罪における故意とは、①の手段を用いる認識と、その結果人の信用を低下させるおそれがある状態が生じることの認識を意味します。
たとえば、虚偽だと知らずにその風説を流布してしまったような場合、故意が認められず、信用毀損罪は成立しません。
(2)刑罰
信用毀損罪の法定刑は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
また、信用毀損罪は親告罪ではないので、被害者からの告訴等がなくても捜査機関が端緒を掴めば刑事事件化されます。
ただし、インターネット上の情報量は膨大なので、SNSなどに書き込まれた虚偽情報などを逐一警察が主体的に察知するのは不可能に近いでしょう。
虚偽の風説を流布されている状況なら、警察に被害申告・告訴をすることをおすすめします。
2、信用毀損罪にいう「人の信用」とは?判例で解説
続いて、「人の信用」の意味について解説します。
まず、「人」とは、自然人だけではなく、法人やその他の団体が幅広く含まれます(大判昭和7年10月10日)。個人だけでなく会社なども含まれるので要注意です。
「信用」とは、経済活動の基礎として保護されるべき経済的側面における人の評価のことで、名誉毀損罪(刑法第230条)における「名誉」よりも限定的なものです。
そのうえで、現在の判例実務では、「人の信用」は、「人の支払能力や支払意思に対する社会的・経済的な信頼」に加えて、「販売される商品の品質に対する社会的信頼」も含むと理解されています(最判平成15年3月11日)。
3、信用毀損罪が成立する具体的な事例
信用毀損罪の成否が問題となる具体例を紹介します。
(1)一般的なケース
信用毀損罪が成立し得る「虚偽の風説」について以下のようなケースが挙げられます。
- Aさんは借金を返済するつもりがないようだ(人の支払意思に対する社会的・経済的な信頼)
- 株式会社Bは近々倒産しそうなので投資が無駄になりそうだ(人の支払能力に対する社会的・経済的な信頼)
- コンビニCで購入した飲料Dに洗剤が混入していた(商品の品質に対する社会的信頼)
たとえば、コンビニCで販売されている飲料Dを購入した後、購入者の手で洗剤を注入した場合に「コンビニCで購入した飲料Dに洗剤が混入していた」という虚偽情報を流布したときには、「コンビニCは異物が混入している飲み物を売っている」「Dの飲料メーカーは異物を混入させるような杜撰な工程で商品を製造している」という形でCやDの社会的・経済的信頼は毀損されて、売上げや評判が落ちてしまうでしょう。したがって、この場合には、信用毀損罪が成立すると考えられます。
ただし、本当に洗剤が混入していた場合には、「コンビニCで購入した飲料Dに洗剤が混入していた」という情報は虚偽の風説ではないので、信用毀損罪には問われません。
(2)インターネット上のケース
SNSの普及によって、信用毀損罪に問われ得るインターネット上の書き込みが問題視されています。たとえば以下のようなケースが考えられます。
- 「飲食店Pは新型コロナウイルス感染症に罹患中の従業員を出勤させている」という書き込み
- 「飲食店Qは賞味期限切れの食材を調理して客に提供している」というレビュー
- 「転職サイトRに掲載されている株式会社Sの休日条件や福利厚生の内容は嘘だ」という口コミ
このような書き込み(ツイートなど)が虚偽の場合、対象者の社会的・経済的信頼を毀損していると言えるので、信用毀損罪が成立し得ます。
なお、このような書き込みにお店や会社の業務を妨害する危険性が認められるときは、偽計業務妨害罪も成立します(両罪が成立した場合どうなるかについては後述します)。
また、以下のように、インスタグラムの画像やユーチューブなどの動画投稿の場合にも、信用毀損罪が成立する可能性があるものが存在します。
- スーパーXで購入した惣菜パックに虫を入れて写真撮影後、当該画像を投稿した
- ECサイトYで購入した化粧水Zを使ったら肌がただれたような編集をした動画を投稿した
このように、画像・動画のみであっても信用毀損罪が成立し得ます。
4、信用毀損罪と似ている他の犯罪との違い
信用毀損罪と似ている犯罪として、偽計業務妨害罪(刑法第233条後段)・名誉毀損罪(刑法第230条)が挙げられます。
(1)偽計業務妨害罪との違い
偽計業務妨害罪は、信用毀損罪と同様刑法第233条に規定されており、その手段や法定刑において共通しています。他方で、両罪は何を保護法益としているかという点で異なります。
すなわち、偽計業務妨害罪は業務の円滑な遂行を、信用毀損罪は人の(経済的)信用を保護法益としています。
なお、人の信用を毀損すると同時に業務妨害の結果も生じうるケースも少なくはありませんが、この場合には、信用毀損罪と偽計業務妨害罪の両罪が成立し、観念的競合の関係になります(刑法第54条1項)。
両罪の法定刑は同じなので、3年以下の懲役または50万円以下の罰金の範囲内で判決が言い渡されます。
(2)名誉毀損罪との違い
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示して、人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法第230条)。
名誉毀損罪の法定刑は、「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」です。
信用毀損罪と名誉毀損罪の違いは以下3点です。
- 保護法益の範囲
- 該当情報が真実である場合の犯罪の成否
- 親告罪か否か
①名誉毀損罪は経済的評価以外の場面でも成立する
信用毀損罪における「信用」は人の経済的な信頼に限定されます。
これに対して、名誉毀損罪における「名誉」とは、人についての事実上の積極的な社会的評価のことです(「事実的名誉」と言います)。
つまり、信用よりも名誉の方が幅広い対象を含んでいるのです。
たとえば、「飲食店Aの経営者は前科者である」という虚偽の風説を流布した場合、経済的信用とは関係ないので信用毀損罪は成立しませんが、名誉毀損罪の処罰対象になる可能性が高いでしょう。
②名誉毀損罪は摘示した内容が真実でも成立する
前で述べたとおり、流布された情報が真実であれば信用毀損罪は成立しません。
これに対して、名誉毀損罪では提示内容が真実であれ虚偽であれ、その内容によって相手の社会的評価が下がった場合には名誉毀損罪が成立し得ます。
なお、真実である事実を摘示したときに常に名誉毀損罪が成立すると言論の自由が脅かされるため、当該事実が公共の利害に関するもので、かつ、専ら公益を図る目的で事実を適示したと認められれば、名誉毀損罪は免責されます(刑法第230条の2)。
③名誉毀損罪は親告罪
名誉毀損罪は親告罪なので(刑法第232条1項)、被害者本人や法定代理人による告訴がなければ公訴提起されません。
これに対して、信用毀損罪は非親告罪なので、被害者本人などからの刑事告訴がなくても捜査活動が行われ、起訴される可能性があります。
5、信用毀損罪の被害を受けたときの対処法
SNSや各種インターネットサービスが普及したことから、いつ誰が信用毀損罪の被害を受けるか分かりません。
そこで、信用毀損罪に該当するような虚偽情報などを掲載された場合には、できるだけ早期に以下3つの対処法を検討するべきだといえます。
- ネット上の書き込みについて削除申請をする
- 加害者に対して損害賠償請求をする
- 刑事告訴する
(1)ネットに書き込まれたときは削除を求める
インターネット上に虚偽の風説などが書き込まれたときには、投稿者やサイト管理人に対して該当箇所の削除を申請しましょう。
その時点で削除を受け入れてもらえれば、更なる被害の拡大や情報の拡散リスクを回避・軽減できます。
ただし、匿名掲示板などに虚偽情報が掲載されたときには、管理人に削除申請をしても対応してもらえないリスクがあります。
この場合には、IPアドレスから投稿者を割り出すなどの労力を割く必要があるので、警察に被害を申し出たうえでネット犯罪に強い弁護士に相談するのがおすすめです。
(2)損害賠償請求をする
虚偽の風説の流布や偽計によって信用が毀損された場合には、不法行為に基づく損害賠償請求をする余地があります(民法第709条)。
たとえば、SNSなどの書き込みによる風評被害が原因で売上げが落ちたときには、書き込みをした者に対し損害賠償請求をすることで、損害額の賠償を受けられる可能性があります。
ただし、店舗が被った被害額が高額な場合、投稿者個人の経済力では充分な賠償を期待できないリスクがついて回ります。
そのため、信用毀損罪に該当するような投稿を発見した場合には、まずは削除申請などの被害拡大防止策を優先するべきでしょう。
(3)刑事告訴をする
信用毀損罪に該当するような書き込み等を発見したときには、刑事告訴がおすすめです。
そもそも信用毀損罪は非親告罪ではありますが、前で述べたとおり捜査機関が主体的に該当の投稿内容を認知して捜査活動に着手してくれる可能性は高くありません。
一方で、被害者が警察に対して告訴をしてそれが受理されたときには捜査機関に捜査義務が発生するので、犯人検挙に向けて前向きな対応を期待できるでしょう(刑事訴訟法第242条など)。
また、信用毀損罪について刑事告訴すれば、犯人を検挙する以外にも以下のようなメリットが生じる点で大きな意義があると考えられます。
- 告訴した旨を投稿者に伝えることで自主的な削除を期待できる
- 捜査機関が犯人検挙に向けて対応してくれるので情報照会などの労力を節約できる
- 刑事告訴によって犯罪が明確になれば損害賠償請求訴訟を有利に展開できる
信用毀損罪だけではなく、何かしらの犯罪被害者になったときには、民事・刑事の両面から被害回復を目指すのが効果的な戦略です。
特に、民事上の責任追及のハードルが高い信用毀損罪のような犯罪類型では刑事手続が実質的な被害者救済に役立つと考えられるので、告訴を行うべきでしょう。
6、信用毀損罪の被害で困ったら弁護士に相談を
信用毀損罪に該当するような投稿でさまざまな被害を受けたときには、弁護士に相談するのがおすすめです。
なぜなら、弁護士に相談することによって以下のようなメリットが得られるからです。
- 刑事告訴段階で弁護士がつくことで警察が捜査に前向きに取り組んでくれる
- 弁護士の名前で削除申請をすれば投稿者・管理人に受け入れてもらいやすくなる
- 虚偽情報の拡散によって二次被害が発生したときにも臨機応変に適切な対策をとってくれる
- 風説の流布等によって生じた損害額を加害者に請求してくれる
インターネット社会の弊害として、人々の好奇心を煽るような内容であれば情報自体が不正確・虚偽であったとしても、あたかも真実であるように拡散されるという点が挙げられます。
虚偽の風説等による被害を最小限に抑えるには、早期の対策が不可欠なので、まずは弁護士に相談するのがお勧めです。
信用毀損罪に関するQ&A
Q1.信用毀損罪とは?
信用毀損罪とは、虚偽の風説を流布したり、偽計を用いたりすることによって、人の信用を毀損したときに成立する犯罪です(刑法第233条前段)。
信用毀損罪の構成要件は以下のとおりです。
- 虚偽の風説を流布したこと、または、偽計を用いたこと
- ①の行為によって人の信用を毀損したこと
- 故意
Q2.信用毀損罪の法定刑は
信用毀損罪の法定刑は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
また、信用毀損罪は親告罪ではないので、被害者からの告訴等がなくても捜査機関が端緒を掴めば刑事事件化されます。
ただし、インターネット上の情報量は膨大なので、SNSなどに書き込まれた虚偽情報などを逐一警察が主体的に察知するのは不可能に近いでしょう。
虚偽の風説を流布されている状況なら、警察に被害申告・告訴をすることをおすすめします。
Q3.信用毀損罪の被害を受けたときの対処法
SNSや各種インターネットサービスが普及したことから、いつ誰が信用毀損罪の被害を受けるか分かりません。
そこで、信用毀損罪に該当するような虚偽情報などを掲載された場合には、できるだけ早期に以下3つの対処法を検討するべきだといえます。
- ネット上の書き込みについて削除申請をする
- 加害者に対して損害賠償請求をする
- 刑事告訴する
信用毀損罪だけではなく、何かしらの犯罪被害者になったときには、民事・刑事の両面から被害回復を目指すのが効果的な戦略です。
特に、民事上の責任追及のハードルが高い信用毀損罪のような犯罪類型では刑事手続が実質的な被害者救済に役立つと考えられるので、告訴を行うべきでしょう。
まとめ
SNSなどの普及によって、信用毀損罪に該当するような書き込み・口コミなどの被害を受けるリスクが高まっています。
「誰でも被害を受け得るからたいしたことはない」というのは間違いで、簡単に虚偽情報が流布されてしまうからこそ、被害拡大の危険性が高く、また、被害回復が難しいというのが実情です。
したがって、ネットの書き込みなどによって経済的信用力などを毀損されたときには、すみやかに弁護士に相談して、警察への告訴などを含めて適切な対処法についてアドバイスをもらいましょう。