手紙や郵便物を無断で開封すると、『信書開封罪』と呼ばれ、刑法第133条に基づいて罰せられる可能性があります。
この記事では、信書開封罪の定義や成立要件、具体的なケースについて、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
1、信書開封罪とは
信書開封罪とは、封をしている信書を開けた場合に成立する犯罪です。
そもそも信書とはどのようなものが該当するのかというと、特定の差出人から特定の受取人に宛てられた文書です。
信書を正当な理由なく受取人以外の人が開封した場合、信書開封罪が成立し、1年以下の懲役または20万円以下の罰金に処せられます(刑法第133条)。
信書開封罪は刑法第134条の秘密漏示罪とともに、刑法の「秘密を侵す罪」として規定されており、個人の秘密を保護することが目的です。
日本国憲法では、表現の自由を確保しながらプライバシーを保護するために、次のような規定が設けられています。
第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保証する。
二 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
引用元:日本国憲法
このように、検閲の禁止とともに通信の秘密が憲法によって保障されており、信書開封罪の規定は憲法で保障された「通信の秘密」という基本的人権を守るものでもあります。
2、信書開封罪の成立要件
信書開封罪は刑法第133条に規定されているとおり、次の要件を満たした場合に成立します。
- 正当な理由がないのに
- 封をしてある
- 信書を
- 開けたこと
これらの成立要件について、1つ1つ具体的に解説していきます。
(1)「信書」とは
信書は法律上にて以下のように定められています。
信書とは、郵便法で「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書」と定義されています(同法第4条第2項)。
一般的な手紙が信書に該当しますが、それ以外にもクレジットカードなどの請求書や申し込み書、確定申告書、結婚式などの招待状などさまざまな文書が信書に該当します。
信書に該当する文書と該当しない文書に関しては、総務省が次のように振り分けているので参考にしてください。
信書に該当する文書
- 書状
- 請求書の類
【類例】納品書、領収書、見積書、願書、申込書、申請書、申告書、依頼書、契約書、照会書、回答書、承諾書、◇レセプト(診療報酬明細書等)、◇推薦書、◇注文書、◇年金に関する通知書・申告書、◇確定申告書、◇給与支払報告書
- 会議招集通知の類
【類例】 結婚式等の招待状、業務を報告する文書
- 許可書の類
【類例】 免許証、認定書、表彰状
※カード形状の資格の認定書などを含みます。
- 証明書の類
【類例】印鑑証明書、納税証明書、戸籍謄本、住民票の写し ◇健康保険証、◇登記簿謄本、◇車検証、◇履歴書、◇給与支払明細書、◇産業廃棄物管理票、◇保険証券、◇振込証明書、◇輸出証明書、◇健康診断結果通知書・消防設備点検表・調査報告書・検査成績票・商品の品質証明書その他の点検・調査・検査などの結果を通知する文書
- ダイレクトメール
文書自体に受取人が記載されている文書
商品の購入等利用関係、契約関係等特定の受取人に差し出す趣旨が明らかな文言が記載されている文書
信書に該当しない文書
- 書籍の類
【類例】新聞、雑誌、会報、会誌、手帳、カレンダー、ポスター、◇講習会配布資料、◇作文、◇研究論文、◇卒業論文、◇裁判記録、◇図面、◇設計図書
- カタログ
- 小切手の類
【類例】 手形、株券、◇為替証書
- プリペイドカードの類
【類例】 商品券、図書券、◇プリントアウトした電子チケット
- 乗車券の類
【類例】 航空券、定期券、入場券
- クレジットカードの類
【類例】 キャッシュカード、ローンカード
- 会員カードの類
【類例】 入会証、ポイントカード、マイレージカード
- ダイレクトメール
専ら街頭における配布や新聞折り込みを前提として作成されるチラシのようなもの
専ら店頭における配布を前提として作成されるパンフレットやリーフレットのようなもの
- その他
◇説明書の類(市販の食品・医薬品・家庭用又は事業用の機器・ソフトウェアなどの取扱説明書・解説書・仕様書、定款、約款、目論見書)、◇求人票、◇配送伝票、◇名刺、◇パスポート、◇振込用紙、◇出勤簿、◇ナンバープレート
引用元:総務省「信書のガイドライン」
(2)「封をしてある」とは
信書開封罪が成立するのは、信書に「封をしてある」ことが条件になります。
ステープラーやノリ、テープやシールなどで封をしてある状態が「封をしてある」ということになります。
一方で、すでに封が開封されている信書の場合には、この要件に該当しません。一度開封されてクリップなどで再度封をしている状態であったとしても、「封をしてある」ことには該当しないといえます。
また、ハガキのように封がされていなものを勝手に読んだ場合でも、封をしてある文書には該当しないことになります。ただし、剥離式になっているハガキは封をしてある信書に該当します。
(3)「開けた」とは
信書開封罪は、封をしてある文書を「開けた」ことで成立します。
「開けた」というのは、封をしてある封筒等を破ったり糊付けを剥がしたりして開封する行為を指します。
開封し、中の文書の内容を知りうる状態になれば信書開封罪が成立します。実際に文書を閲覧したかどうかは関係ありません。
(4)「正当な理由」とは
信書を開封する「正当な理由」とは、開封する行為に違法性がないような場合を指します。
正当な理由があると判断されるようなケースは、「推定的承諾がある場合」と「法令上の正当行為である場合」が挙げられます。
まず、「推定的承諾がある場合」とは、相手が事情を知れば開封に同意したことが推定できるような場合です。
例えば、夫宛に届いた請求書を妻が開封する行為については、推定的承諾があることが多いと考えられます。なぜならば、夫婦は生計を同一にすると考えられているからです。特別な事情がなければ、一般的に信書開封罪は成立しないと判断されるでしょう。
次に、「法令上の正当行為である場合」には、未成年者宛の信書を親権者が開封する行為が挙げられます。
親権者には子どもを監護する権限が法律で定められており(民法第820条)、信書を開封して内容を閲覧することは基本的に親権の行使に該当すると考えられます。
また、破産手続きにおいては、破産管財人は破産した人宛の信書を開封することが認められています。(破産法第82条第1項)
3、信書開封罪は親告罪
信書開封罪は、親告罪になっています(刑法第135条)。
親告罪とは、被害者からの告訴がなければ起訴されない犯罪のことです。つまり、信書の差出人もしくは受取人が告訴しなければ、検察官は起訴できないということです。告訴されなければ実務上は捜査も進められず、刑罰を科せられることもありません。
なぜ信書開封罪が親告罪になるのかというと、比較的軽微な犯罪であり、当事者同士で解決する方が適切な場合も多いからです。
信書開封罪は当事者間で話し合って謝罪や弁済などで解決する方が、警察が介入して刑事事件に発展させるよりも適切と考えられるため、親告罪とされています。
4、こんなケースでも信書開封罪が成立する?
信書開封罪について解説してきましたが、具体的にどのようなケースで信書開封罪が成立するのでしょうか?
信書開封罪が成立するのかどうか問題となりやすい事例についてご紹介します。
(1)家族宛の郵便物を勝手に開封した
家族宛に届いた郵便物を勝手に開封するようなケースはよくあることでしょう。
しかし、夫婦や親子など家族間でも個人の通信の秘密は保護されるべきだと考えられます。そのため、正当な理由なく家族間でも郵便物を勝手に開封すれば、信書開封罪が成立することはあります。
ただし、先ほどご説明したように、夫婦共同生活において正当と認められる場合や、親権の行使に該当する場合には「正当な理由」があるため、信書開封罪は成立しません。
(2)会社で他の人宛の郵便物を勝手に開封した
会社で同僚や部下の郵便物を勝手に開封するようなケースも身近に起こり得るでしょう。
取引先から届いた業務に関する内容の信書であれば、宛名が担当者だった場合でも他の社員が開封することに推定的承諾があると考えられ、信書開封罪は成立しない可能性が高いといえます。
しかし、会社に届いた信書でも、差出人が会社とは関連性のない相手だった場合は宛名の本人以外が開封することに推定的承諾があるとはいえません。
このような場合は、信書開封罪が成立する可能性が高いと考えられます。
(3)誤配された他人宛の郵便物をうっかり開封した
配達員も人間なので、配送先を誤って届けてしまうようなケースもあります。引っ越し直後に前の住人宛の郵便物が届くようなケースもあるでしょう。本来であれば、誤配された信書は郵便局や配送会社に連絡するなどして適切な措置をとるべきです。
しかし、自分宛てだと考えてうっかり開封してしまった場合は、故意がないため、信書開封罪は成立しません。
一方で、他人宛の信書だと気付いた上で開封した場合は、故意による開封になるため信書開封罪が成立します。
5、信書開封罪は成立しないが他の罰則が適用されるケース
他人の秘密をのぞき見る行為でも、信書開封罪の成立要件を満たさなければ同罪は成立しません。
しかし、場合によっては他の犯罪が成立して罰則が適用されることもあります。
ここでは、ありがちな3つのケースをご紹介します。
(1)他人のメールやLINEを勝手に見た場合
スマホやパソコンのメールやLINEは物理的に封をしてある文書ではないため信書には該当せず、信書開封罪は成立しません。
しかし、他人のメールやLINEなどの電子データを勝手に見る行為は「不正アクセス」に該当する可能性があります。
不正アクセス禁止法違反が成立する場合は、3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。
(2)他人宛の信書を隠匿した場合
他人宛の信書を開封して見るのではなく、隠したり破棄したりして発見できないようにした場合は「信書隠匿罪」が成立します。
刑罰は、6ヶ月以下の懲役もしくは禁錮、または10万円以下の罰金もしくは科料です(刑法第263条)。
信書を受け取った人が既に開封して読み、その目的(意思伝達機能)を完全に果たしたものは信書開封罪にいう「信書」には当たりません。
このような文書を隠したり破棄したりした場合は「器物損壊罪」が成立します。
刑罰は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料です(刑法第261条)。
なお、信書隠匿罪と器物損壊罪も親告罪とされています(刑法第264条)。
(3)遺言書を検認前に開封した場合
遺言書は特定の人に宛てて送られる文書ではないので信書には該当せず、信書開封罪は成立しません。
しかし、自筆証書遺言は開封前に家庭裁判所で検認を受けなければなりません(民法第1004条1項)。
検認前に開封すると遺言書を開封することは禁止されており、違反すると5万円以下の過料というペナルティーの対象となります。
過料とは刑罰ではなく行政罰ですが、遺言書を勝手に開封すると遺言書の偽造や変造を疑われ、相続トラブルを招くおそれもありますのでご注意ください。
6、信書開封罪で告訴されたら逮捕される?
信書開封罪は比較的軽微な犯罪なので、よほど悪質な事案でない限り、発覚しても逮捕されてしまう可能性は低いといえます。また、親告罪なので、刑事事件となる前に当事者間で解決出来る可能性も十分にあります。
しかし、逮捕される可能性が皆無とはいえませんし、逮捕されなくても有罪となれば刑罰が科せられることもあります。
信書開封罪で告訴されるような場合には、早急に弁護士へ相談することをおすすめします。
信書開封罪に関するQ&A
Q1.信書開封罪とは
信書開封罪とは、封をしている信書を開けた場合に成立する犯罪です。
そもそも信書とはどのようなものが該当するのかというと、特定の差出人から特定の受取人に宛てられた文書です。
信書を正当な理由なく受取人以外の人が開封した場合、信書開封罪が成立し、1年以下の懲役または20万円以下の罰金に処せられます(刑法第133条)。
Q2.信書開封罪の成立要件
信書開封罪は刑法第133条に規定されているとおり、次の要件を満たした場合に成立します。
・正当な理由がないのに
・封をしてある
・信書を
・開けたこと
Q3.具体的にどのようなケースで信書開封罪が成立する?
信書開封罪が成立するのかどうか問題となりやすい事例についてご紹介します。
①家族宛の郵便物を勝手に開封した
家族宛に届いた郵便物を勝手に開封するようなケースはよくあることでしょう。
しかし、夫婦や親子など家族間でも個人の通信の秘密は保護されるべきだと考えられます。
そのため、正当な理由なく家族間でも郵便物を勝手に開封すれば、信書開封罪が成立することはあります。
ただし、先ほどご説明したように、夫婦共同生活において正当と認められる場合や、親権の行使に該当する場合には「正当な理由」があるため、信書開封罪は成立しません。
②会社で他の人宛の郵便物を勝手に開封した
会社で同僚や部下の郵便物を勝手に開封するようなケースも身近に起こり得るでしょう。
取引先から届いた業務に関する内容の信書であれば、宛名が担当者だった場合でも他の社員が開封することに推定的承諾があると考えられ、信書開封罪は成立しない可能性が高いといえます。
しかし、会社に届いた信書でも、差出人が会社とは関連性のない相手だった場合は宛名の本人以外が開封することに推定的承諾があるとはいえません。
このような場合は、信書開封罪が成立する可能性が高いと考えられます。
③誤配された他人宛の郵便物をうっかり開封した
配達員も人間なので、配送先を誤って届けてしまうようなケースもあります。
本来であれば、誤配された信書は郵便局や配送会社に連絡するなどして適切な措置をとるべきです。
しかし、自分宛てだと考えてうっかり開封してしまった場合は、故意がないため、信書開封罪は成立しません。
一方で、他人宛の信書だと気付いた上で開封した場合は、故意による開封になるため信書開封罪が成立します。
まとめ
他人の信書を正当な理由なく開封すれば、信書開封罪が成立します。
家族間や職場など身近な場所でも起こり得る犯罪ですが、被害者が告訴すれば刑事事件に発展してしまう可能性もあるため、告訴される前に早急に対処することが大切です。
信書開封罪に該当するのではないかという不安があるのなら、一人で悩まずにまずは弁護士に相談することから始めてみてください。