身体的拘束を伴う懲役や禁錮と比べると、軽微な罰則なので前科扱いにはならないと思っていませんか?
今回は、罰金刑と前科の関係について説明し、前科がつくことでもたらす悪影響や回避する方法について、詳しく解説します。
目次
1、罰金刑とは~前科を心配する前に知っておきたいポイント
罰金刑の前科がつくことによって生じる悪影響について解説する前に、罰金刑がどのような性質の刑罰なのかを押さえましょう。
(1)罰金刑の意味
罰金刑とは、犯罪に対して科される刑罰のひとつです。刑法は以下の6つの主刑と、付加刑として没収を定めています(刑法第9条)。
- 死刑
- 懲役
- 禁錮
- 拘留
- 罰金
- 科料
死刑は生命を奪う究極の刑罰(生命刑)であり、懲役・禁錮・拘留は身体的拘束により身体の自由に制限が加えられる刑罰(自由刑)です。
そして、財産刑として科されるのが罰金・科料です。
(2)科料との違い
罰金・科料はいずれも刑法上規定される刑罰ですが、支払う必要がある金額で分類されます。
- 罰金:1万円以上
- 科料:1,000円以上1万円未満
このように、罰金刑では原則1万円以上支払う必要がありますが、情状などによって減刑される場合には1万円未満に引き下げられることもあります(刑法第15条)。
(3)過料との違い
罰金も過料も「金銭の支払義務が生じる」という点では同じです。
しかし、過料とは、行政上の義務に違反したときに課されるペナルティーのことです。
たとえば、転居日から14日以内に転居届を提出しないときや、路上喫煙禁止エリアで煙草をすったときなどに課されます。
行政罰である過料と刑事罰である罰金刑は、まったく別物です。行政罰である過料は、課されたとしても前科はつきません。
(4)反則金との違い
反則金とは、交通反則通告制度に基づいて比較的軽微な交通違反に対する行政処分として課される行政罰のことです。過料と同様、刑罰である罰金とは全くの別物です。
道路交通法に違反する軽微な事件(信号無視や一定範囲のスピード違反など)についてすべて原則的な刑事を要すると、検察官・裁判所の事務処理能力では対応しきれません。
そこで、交通違反の現場で警察官が交通反則告知書(青切符)・反則金仮納付書を交付し、指定期限内に反則金を納付することによって刑事手続に代えるという運用が採られています。
なお、行政処分6点以上となる重度の違反の場合には(飲酒運転・無免許運転などの赤切符事例)交通反則通告制度は適用されず除外となり、刑事処分としての罰金刑が科されます、交通反則通告制度は適用されず、刑事処分としての罰金刑が科されます。つまり、重大な交通違反は前科がつくということです。
(5)罰金刑となりやすい犯罪
一般的に、罰金刑を科されるリスクが高い犯罪として以下のものが挙げられます。
- 住居侵入罪(刑法第130条)
- 傷害罪(刑法204条)
- 暴行罪(刑法第208条)
- 過失傷害罪(刑法第209条1項)
- 窃盗罪(刑法第235条)
- 名誉棄損罪(刑法第230条1項)
- 器物損壊罪(刑法第261条)
- 各自治体の迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮など)
- 違反点数6点以上の交通違反
刑法及び特別法ではさまざまな犯罪の法定刑に罰金刑が掲げられているので、誰しもがふとしたはずみで罰金刑を科される行為をしてしまう可能性があります。
何かしらのトラブルに巻き込まれたり、事件を起こしてしまったりしたときには、すみやかに弁護士に相談をして、罰金刑が科される可能性や前科を回避する手段についてご相談ください。
2、罰金刑でも前科がつく?
それでは、罰金刑と前科との関係、罰金刑が科されるまでの流れについて具体的にみていきましょう。
(1)有罪が確定すれば前科となる
罰金刑は刑法上定められた刑罰の一種です。懲役や禁錮などとは重さが異なるだけで、刑罰である点は共通しています。
したがって、有罪となって罰金刑が確定すると、懲役刑・禁錮刑などと同様に「前科」として扱われます。
(2)略式手続でも前科がつく
刑事手続は公開の裁判を経るのが原則ですが、罰金刑が科されるケースでは略式起訴・略式命令という流れで刑罰が確定することも多いです。
略式手続(略式起訴・略式命令)とは、公判を経ずに行われる簡易的な刑事裁判手続のことです(刑事訴訟法第461条以下)。
簡易裁判所の管轄に属する事件であり、100万円以下の罰金・科料を科する場合で、かつ被疑者に異議がない場合には、書面にて刑を確定させられます。
これによって、公開裁判の場を設ける必要がない軽微な事件類型については書面のみによる迅速な処理が可能となります。
もちろん、正式な裁判の場で正当に主張を展開したいと希望するなら、略式手続に異議を申し出て通常の裁判手続を求めることも可能です。
当然、略式手続でも刑罰を受けることに変わりはないので、略式命令による罰金刑も前科として扱われることになります。
3、罰金刑でも前科がつくことによる悪影響
罰金刑に処されて前科がつくことによって、以下5つの場面への悪影響が懸念されます。
- 仕事への影響
- 結婚への影響
- 経済生活への影響
- 海外旅行への影響
- 再犯時への影響
(1)仕事への影響
まず、就職活動・転職活動時に、罰金刑による前科が影響することがあります。
たとえば、企業が指定する履歴書に賞罰の項目が掲げられている場合や、面接時に前科の有無を問われた場合、罰金刑に処された過去を隠蔽すると経歴詐称に当たります。
採用後に前科がバレると、就業規則違反を理由として解雇等の懲戒処分が下されかねないでしょう。
ただ、採用段階で前科の有無を問われなかったときには、自ら積極的に前科を伝える必要はありません。なぜなら、前科は個人のプライバシーに関する事情だからです。
なお、金融機関などのコンプライアンスに厳しい企業では、かなり厳しい身元調査が実施されるため、前科を秘匿してもバレる可能性があるので、現実問題として採用には至りにくいでしょう。
次に、罰金刑に処されて前科がつくと、現在の仕事に悪影響を生じるおそれもあります。
たとえば、公務員が罰金刑に処された場合、罰金刑は欠格事由ではないので当然のように失職するわけではありませんが、懲戒免職・停職・減給・戒告などの懲戒処分を受ける可能性があります。
また、医師・看護師・薬剤師の場合には免許保留・免許取消事由に該当するとして仕事を追われるリスクも否定できません。
さらに、警備員や保育士についても、罰金刑となった原因によっては、就業制限がかけられています。
民間企業であったとしても、場合によっては懲戒処分として何かしらの処分が下されることがあるでしょう。
さらに、罰金刑を処された原因となる犯罪事実次第では、職場に知られることによって社会的信用が失墜し、業務遂行しにくくなるというリスクも生じます(痴漢や万引きなど)。
前科・前歴は一般企業等が簡単に照会できるようなものではありませんが、インターネット記事・興信所による調査などを通じてバレたときには仕事への支障が生じてしまうことも十分に考えられますので、すみやかに記事の削除などの対処法に踏み出しましょう。
(2)結婚への影響
結論として、罰金刑の前科があっても結婚できます。なぜなら、前科があることは婚姻の成立を妨げる事情に挙げられていないからです(民法731条以降参照)。
ただし、罰金刑の前科を隠蔽していたことや罰金刑に処されたことは、民法上の離婚原因として考慮され得る点に注意が必要です(民法第770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に相当する可能性があります。)。つまり、罰金刑の前科があることを隠して結婚しても、婚姻期間中に何かしらの要因でパートナーに前科がバレたら、離婚に至り、また、慰謝料などの金銭負担も発生しかねません。
もちろん、パートナーとの関係性や相手のご家族の考えなど次第ですが、できれば結婚前に罰金刑の前科があることは伝えておいた方がリスクヘッジになるでしょう。
(3)経済生活への影響
罰金刑が科されると相当額の支払義務が発生するので、家計がひっ迫するリスクがあります。特に、有罪になって解雇処分を下されると収入源を奪われるので、罰金刑の金額次第では困窮状態に追い込まれかねません。
なお、罰金刑で前科がついても、クレジットカードや各種ローンの利用状況には影響はありません。なぜなら、金融機関がユーザーの情報を収集する信用情報機関には前科情報は登録されていないからです。
ただし、罰金の支払いによって家計がひっ迫し、その結果、クレジットカードやカードローン等の返済が滞ってブラックリストに登録されると、入会審査・更新審査などに通りにくくなるのが実情です。
(4)海外旅行への影響
罰金刑の前科があると海外旅行の渡航制限に悪影響が生じかねません。
まず、どのような人物を入国させるかは各国の自由なので、犯罪歴次第では入国を拒絶される可能性があります。たとえば、アメリカの入国審査は厳しく、前科があると事前のビザ発行が必要となる場合があります。
次に、前科があると海外旅行をするのに必要なパスポートの発給制限が加えられる可能性もあります(旅券法第13条1項1号・7号)。
(5)再び罪を犯した場合の影響
懲役に処された者がその執行が終わった日などから5年以内にさらに罪を犯した場合、その罪において定められた有期懲役の長期が2倍として扱われて、より厳しい刑罰が科される可能性があります。これを再犯加重と呼びます(刑法第56条、第57条)。
しかし、罰金刑の前科は再犯加重には該当しないので、罰金刑が科されてから5年以内に罪を犯しても再犯加重のルールが適用されることはありません。
ただし、罪の重さは諸般の事情が考慮された量刑判断によって決定されるため、前科・前歴があると、再犯のおそれがある・過去の罰金刑による更生が見込めないなどの理由で、検察官・裁判所によって厳しい処分が下される可能性があることに注意が必要です。
4、罰金刑の前科は消える?
罰金刑で前科がついた状態だと、その後の社会生活や仕事復帰などに不安が残るでしょう。「罰金刑を科された過去を誰にも知らずにいたい」と希望するのは当然です。
ここからは、罰金刑の前科が消えるのか、また、第三者に罰金刑の前科を知られるリスクはあるのかについて解説します。
(1)前科の記録は消えない
罰金刑の前科や警察による捜査履歴である前歴は、警察・検察が保有するデータベース(前科調書)に記録が残ります。
つまり、本人が死亡するまでの間、一度登録された前科の記録は消えないということです。
ただし、捜査機関が保管する前科の記録は、捜査機関外の人間ではアクセス不可能です。前科がある本人にも情報は教えてくれません。
したがって、再度何らかの罪で正式裁判となり、証拠として前科データに基づく前科調書が提出されるなどの特段の事情がない限り、警察・検察が保管する前科データが理由で第三者に前科を知られることはないと考えられます。
また、罰金刑の前科は、本籍地のある市区町村の「犯罪人名簿」に5年間記載されます。
犯罪人名簿に前科が掲載されるのは、前科による欠格事由がある職業資格や選挙権・被選挙権の有無を確認する趣旨に基づきます。
なお、捜査機関が保管する前科記録と同じように、一般の方では市区町村が管理する犯罪人名簿に照会できないので、情報が漏れる心配はないでしょう。
(2)インターネットへの書き込みが残ることもある
罰金刑が科される原因になった事件が報道されたり話題になったりすると、いつまでも氏名・事件の内容・逮捕された事実などがインターネット上に残る危険性があります(いわゆる「デジタルタトゥー」と呼ばれるものです)。
前科や逮捕歴のようなプライバシー性の高い情報が残り続けると社会復帰の妨げになるでしょう。なぜなら、友人や恋人、従業員の氏名でのWEB検索は当たり前のように行われているからです。
したがって、インターネット上に前科等の情報が残っている場合には、以下の方法で情報の削除を試みましょう。
- 情報発信者やウェブサイトの管理人などに対して、ウェブフォームなどから任意での削除を依頼する
- プロバイダ業者への情報開示請求によって情報発信者を特定する
- 情報発信者に対して法的措置をとる
任意での削除依頼はご本人だけでもできますが、相手方が応じてくれるとは限りません。弁護士経由で削除依頼した方がスムーズなので、デジタルタトゥーでお困りの場合には、弁護士へのご依頼をご検討ください。
5、罰金を支払えないとどうなる?
罰金の納付方法や、罰金を払えないときの対処法を紹介します。
(1)罰金の支払い方法
罰金刑で科されたお金の支払い方法は以下の2つです。
- 納付告知書を使って金融機関で納付する
- 検察庁の窓口で納付する
納付期限は判決確定から約2週間後が指定されるのが一般的です。
原則として一括払いしか認められませんが、怪我・病気・無職などの事情があれば、分割払いや納付期限の延長が認められる場合があります。検察庁の徴収担当者と相談しましょう。
(2)どうしても支払えない場合は労役場留置
納付期限までに罰金を納入できないと、財産に対する差し押さえが実行されます。
差し押さえによっても罰金総額を補填できない場合には、身柄拘束のうえ、罰金刑を完納するまで「労役場留置」とされ、労働を強いられます(刑法第18条)。
この場合、「労働1日当たり○○円」というように金銭に換算され、罰金額を完納するまで刑務所などの刑事施設に収容されるのです。1日当たりの金額は事案によって異なりますが、5,000円程度が相場です。
たとえば、罰金刑で科された10万円を納付できないと、20日間労務場で働かなければいけません。
(3)労役場留置を避けるための対処法
先ほど紹介したように、分割払い・納付期限の延長が認められるケースもありますが、刑罰として科されるものである以上、納付期限の遵守は絶対だと考えましょう。
したがって、労役場留置を避けるには、自分でお金を用意しなければいけません。手元にお金がないときには、以下の金策をご検討ください。
- 預貯金を崩す
- 家族や親族、友人に融資を依頼する
- 消費者金融やカードローンで借金する
なお、消費者金融などを利用するのは注意が必要です。
なぜなら、借入期間に応じて利息が発生するため元金以上の返済を強いられますし、滞納が生じると遅延損害金・残債の一括請求・ブラックリストへの登録・強制執行などのリスクに晒されるからです。
したがって、できるだけペナルティーやデメリットの少ない方法での資金調達を目指し、どうしても自力納付できないときには検察庁で分割払い・期限猶予についてご相談ください。
6、罰金刑の前科を回避するための対処法
罰金刑も前科になるため、状況が許すなら有罪判決そのものを回避するべきでしょう。
罰金刑を回避するのに役立つ方法は以下の3つです。
- 反省の態度を示す
- 被害者との示談をまとめる
- 刑事事件に強い弁護士に相談する
(1)反省の態度を示す
罪を犯したことが間違いないのであれば、逮捕・勾留後は反省の態度を示すことが重要です。
なぜなら、微罪処分や起訴、不起訴の判断の際には、被害の程度や犯行に至った経緯だけではなく、加害者側の反省の姿勢や更生の可能性なども総合的に考慮されるからです。
これにより、事案によっては、検察官送致を免れて微罪処分が下されたり、勾留請求前に不起訴処分を出されたりするなど、早期の終結を目指せるでしょう。
(2)被害者と示談する
罰金刑による前科を回避するには、被害者との示談交渉も重要です。
なぜなら、示談の内容によっては、被害者の処罰感情が薄いことの証明になる場合があったり、被害が事後的に回復していることの証明になる場合があったりするので、被疑者にとって有利な手続進行を目指せるからです。
ただし、逮捕後、警察での身柄拘束期間は最大48時間、検察官送致から起訴処分の確定までは最大24時間(逮捕から72時間)の時間制限が設けられています(勾留請求が認められたとしても、原則10日、最大20日の期間が加算されるだけです)。
したがって、逮捕される場合では、起訴処分が下されるまでの短期間で被害者との示談をまとめる必要があるので、できるだけ早いタイミングで弁護士に相談をして被害者との示談交渉を進めてもらいましょう。
(3)弁護士に相談する
罰金刑が科されて前科がつくことを回避するには、弁護士に相談するのがおすすめです。なぜなら、弁護士への相談によって以下のメリットが得られるからです。
- 処罰感情が強い被害者との間でも冷静に示談交渉を進めてくれる
- 逮捕・勾留後に実施される取り調べの対応方法を相談できる
- 不起訴となるために自分がどういったことをすればよいかを教えてくれる
起訴処分、有罪判決までは時間が限られているので、刑事事件の実績豊富な弁護士に相談してスムーズな解決を目指しましょう。
まとめ
罰金刑でも前科になります。日常生活への悪影響を軽減して社会復帰しやすい状況を作り出すには、罰金刑さえも下されないように対策を練るべきでしょう。
そのためには、不起訴処分獲得に向けてスピード感をもって示談交渉などを進める必要があります。事情聴取が要請されたり逮捕されたりしたときには、すみやかに刑事事件に強い弁護士までご相談ください。