交通事故で怪我をして、治療を受けても完治しなかった場合は、入通院中の慰謝料や休業損害などとは別に、後遺障害慰謝料や逸失利益などを請求することができます。
これらの後遺障害に関する損害賠償を請求するためには、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
そして、後遺障害等級認定の際の決め手となるのが、後遺障害診断書です。
このように、後遺障害診断書は交通事故の損害賠償において非常に重要な書類なのですが、一般の方にとってはほとんどなじみがないものだと思います。
そこで今回は、
- そもそも後遺障害診断書とは何か
- 後遺障害等級認定に有利な後遺障害診断書の記入例とは
- 後遺障害等級認定に有利な後遺障害診断書を書いてもらうにはどうすればよいのか
といった問題を中心に、後遺障害診断書について詳しく解説していきます。
後遺障害に関する損害賠償請求をお考えの方の参考になれば幸いです。
後遺障害等級申請については以下の関連記事もご覧ください。
ベリーベスト法律事務所で、
悩みを「解決」して「安心」を手に入れませんか?
- 保険会社との交渉が不安・負担
- 後遺障害について詳しく知りたい
- 示談金(慰謝料)の妥当な金額が知りたい
などどんな小さなことでもお気軽に!
交通事故専門チームの弁護士が、あなたに寄り添い、 有利な結果へ
と導くサポートを行います!
ベリーベスト法律事務所で、
悩みを「解決」して「安心」を手に入れませんか?
- 保険会社との交渉が不安・負担
- 後遺障害について詳しく知りたい
- 示談金(慰謝料)の妥当な金額が知りたい
などどんな小さなことでもお気軽に!
交通事故専門チームの弁護士が、あなたに寄り添い、 有利な結果へ
と導くサポートを行います!
目次
1、そもそも後遺障害診断書とは?
後遺障害診断書とは、自賠法上の後遺障害等級認定を申請するために必須となる書類です。
交通事故の治療中は、毎月、自賠責保険用の「診断書」が発行されます。
この段階での診断書には、発行される時点での症状や治療の内容が記載されます。
やがて、治療を続けても完治せず、症状が良くも悪くも変化しない状態になると、「症状固定」の診断を受けます。
この症状固定の後に、その時点で残っている後遺障害に関する診断結果を記載したものが後遺障害診断書です。
後遺障害診断書には、残存した症状の内容や、今後の症状の見通しなどが記載されます。
この後遺障害診断書に記載された内容に基づいて、後遺障害等級の認定を受けることになります。
以下、後遺障害診断書について、もう少し詳しく解説を続けます。
(1)記載する事項
後遺障害診断書には、患者の氏名・性別・生年月日・住所・治療開始日・受傷日・傷病名・入院期間又は通院期間及び既存障害などのほかに、以下のような情報が記載されます。
- 症状固定日
- 総通院期間及び総入院期間
- 実通院日数
- 自覚症状
- 各部位の後遺障害の内容
- 障害内容の増悪・緩解の見通し
(2)後遺障害診断書は誰が書く?
後遺障害診断書も診断書のひとつですので、これを書くことができるのは医師に限られます。
原則として、事故後ずっと診察してきた主治医が作成することになるでしょう。
なお、複数の障害が発生し、それらの障害が複数の診療科(整形外科と耳鼻咽喉科など)にまたがるような場合には、後遺障害診断書も診療科毎に作成してもらうことがあります。
ここで注意しなければならないのは、整骨院では作成してもらえない、ということです。
整骨院で施術をするのは柔道整復師であり医師ではないので後遺障害診断書を作成することはできません。
そのため、整骨院の方が通いやすい等の理由で、事故後から整骨院にのみ通院すると、いざ後遺障害診断書を作成してもらおうと病院に行っても、これまでの症状の経緯がわからないことを理由に、後遺障害診断書の作成を断られてしまうことがあるのです。
(3)後遺障害診断書の作成費用
後遺障害診断書を作成してもらうためにかかる費用は病院ごとに異なりますが、5千円~1万円程度のことが多いです。
後遺障害診断書料は相手方保険会社が払ってくれるケースもありますが、被害者が立て替えた上で、示談金で清算されることも多いでしょう。
なお、後遺障害等級に該当しない結果となると、後遺障害診断書料と交通事故との因果関係が認められないことを理由に立て替えた後遺障害診断書料の支払を拒否されるケースもあります。
(4)後遺障害診断書の作成にかかる期間
後遺障害診断書は通常の診断書よりも記載内容が複雑な上に、改めて検査が必要な場合もあります。
そのため、医師に後遺障害診断書の用紙を渡した当日に発行してもらえることは多くありません。
医師によって異なりますが、医師に後遺障害診断書の作成を依頼してから完成までに概ね2週間程度の時間がかかると思っておくのが良いでしょう。
(5)後遺障害診断書の用紙のダウンロード
病院によっては後遺障害診断書の用紙を備えているところもありますが、そうでない場合は用紙を医師に提供しなければなりません。
保険会社から用紙を受け取って医師に渡すこともできますが、今ではインターネット上で手軽に後遺障害診断書の用紙を入手することもできます。
下記から後遺障害診断書の用紙をダウンロードできるようにしましたのでご活用ください。
2、後遺障害診断書の重要性とは?
本記事の冒頭で、後遺障害診断書は後遺障害等級認定の決め手となる重要な書類であることを指摘しました。
実際のところ、後遺障害診断書の記載内容次第で、受け取ることができる損害賠償金が数百万円から場合によっては数千万円も異なってくる可能性があります。
以下のご説明をお読みいただければ、後遺障害診断書の記載内容がいかに重要であるかについて十分におわかりいただけることと思います。
(1)後遺障害等級認定の審査は書類でのみ行われる
後遺障害等級を認定するのは主治医でもなければ相手方保険会社でもありません。
「損害保険料率算出機構」という機関が認定を行います。
この機関では、申請者から提出された書類のみで中立公平に審査を行い、後遺障害等級を認定します。
申請する際には、後遺障害診断書の他にも、受傷直後から治療期間中に毎月作成される診断書、カルテ、レントゲンやCT、MRIなどの画像、検査結果など様々な資料も提出します。
これらの提出資料の中で、最も重要なのが後遺障害診断書です。
損害保険料率算出機構は、まず後遺障害診断書を見て、後遺障害等級を認定できるかどうか、認定できる場合は何級に該当するかを判断しているものと思われます。
したがって、たとえ本当に後遺障害が残っていても、その症状が後遺障害診断書に記載されていなければ、後遺障害はないものとして審査されてしまいます。
この場合、後遺障害等級は認定されません。
また、実際の症状よりも軽いように後遺障害診断書に記載されていると、本来の後遺障害等級よりも軽い等級に認定されてしまいます。
(2)後遺障害等級の認定結果による賠償額の違い
例えば、交通事故でむち打ち症となり、完治せずに後遺障害等級認定を申請すると、認定されうる等級は「12級」か「14級」であり、「非該当」となることも多いです。
後遺障害等級が認定された場合は、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。
ここに、年収500万円の30歳男性がむち打ち症で後遺障害等級認定の申請をした場合に、受け取ることができる損害賠償額を「12級」、「14級」、「非該当」で比較してみると以下のようになります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 | 逸失利益 | 合計 |
12級 | 290万円 | 597万1140円 | 887万1140円 |
14級 | 110万円 | 114万4925円 | 224万4925円 |
非該当 | 0円 | 0円 | 0円 |
※むち打ち症を想定しているので、労働能力喪失期間は12級で10年、14級で5年として計算しています。
このように、非該当と12級では賠償額に887万円以上の開きが生じます。
数ある傷病の中で比較的軽傷であるむち打ち症ですらこれほどの差が生じうるのですから、後遺障害診断書の記載内容ひとつで受け取ることができる賠償額に数千万円の開きが生じることも珍しくないのです。
後遺障害診断書がいかに重要な書類であるかについて、改めて意識しておきましょう。
3、後遺障害等級認定を獲得しやすい後遺障害診断書の記入例
後遺障害に関する損害賠償請求で非常に重要な意味を持つ後遺障害診断書ですが、記載するのは医師です。
ご自身で自由に記載できるわけではありません。
では、後遺障害診断書にどのような記載があれば、後遺障害等級認定を獲得しやすいのでしょうか。
わかりやすいように、記入例をご紹介します。
この記入例は、交通事故でむち打ち症となり、ベリーベスト法律事務所に損害賠償請求を依頼され、後遺障害等級第12級を獲得した方の後遺障害診断書です。(ただし、プライバシーに差し支えのある部分は修正してあります。)
以下、この記入例をもとにしてポイントをご説明します。
(1)後遺障害等級認定の決め手となる3つの記入欄
上記の記入例には様々な記載がありますが、後遺障害等級認定との関係で特に重要な意味を持つのは、次の3つの記入欄です。
- 自覚症状
- 各部位の後遺障害の内容
- 障害内容の憎悪・緩解の見通し
それぞれについて、具体的にご説明します。
(2)自覚症状
この欄には、被害者自身が感じる症状が記載されます。
実際に自覚症状があっても、この欄に記載されなければ、その症状はないものとして扱われてしまいます。
そのため、少しでも自覚症状があれば遠慮することなく、正確かつ具体的に医師に伝えることが必要です。
右手がしびれる、頭が痛い、頚部が痛い等、どの部位にどのような症状があるかを正確に医師に伝えるようにしましょう。
また、常に痛みがある場合でも、雨が続いたり、寒い時期になってくると「雨が降ると痛い」であったり「寒くなると痛い」などと訴えてしまう方が多いように思われます。
これでは、常に痛みがあることが分からなくなってしまうので、「常時痛いが、雨が降ると(寒くなると)特に痛みが増幅する」などと、痛みが出る「時」についても正確に伝えるように注意してください。
(3)各部位の後遺障害の内容
この欄には、レントゲンやMRI、CTなどの画像検査や、神経学的検査を踏まえた結果として医学的に判断される症状を記載されます。
自覚症状のみでは、極端にいうと患者の「気のせい」ということもあり得るので、この欄には医師からみた客観的な所見が記載されるのです。
自覚症状があっても、この欄にその症状の原因となる所見が記載されていなければ、後遺障害等級が非該当となったり、本来よりも低い等級に認定されてしまう可能性があります。
(4)障害内容の増悪・緩解の見通し
この欄には、残存した症状について、悪化傾向にあるかのか良化傾向にあるのか、時の経過に伴って改善する見込みがあるかなどについて、後遺障害診断書作成時点での医師の見解が記載されます。
自覚症状や他覚所見がきちんと記載されていても、この欄に「数年経てば緩解する見込みである」などと記載されると、後遺障害等級が非該当となる可能性が高くなりますので、「今後も症状は不変である」というニュアンスで書いてもらうのがベストということになります。
4、後遺障害等級認定を獲得しやすい後遺障害診断書を作成してもらうためのポイント
では、後遺障害等級認定を獲得しやすい後遺障害診断書を医師に作成してもらうためには、どうすればよいのでしょうか。
ここでは、後遺障害診断書作成の際に被害者自身が行える対処法をご紹介します。
(1)自覚症状を正確かつ具体的に伝える
前記「3(1)」でもお伝えしたように、自覚症状は正確かつ具体的に医師に伝える必要があります。
患者が話さなかったことを医師が診断書に書くことはありませんので、少しでも気になる症状があれば自分の方から医師に伝えなければなりません。
ただ、医師の中には患者の言葉にじっくりと耳を傾ける姿勢の乏しい人がいるかもしれません。
また、医師が忙しそうにしていると、口頭ではなかなか的確に自覚症状を説明しづらいという人もいるでしょう。
そんなときは、あらかじめ自覚症状を紙に書き出しておき、診察の際に医師に渡して確認してもらうのがおすすめです。
(2)必要な検査を受ける
前記「3(3)」で、「各部位の後遺障害の内容」の欄には、医師からみた客観的な所見が記載されるということを説明しました。
しかし、実際のところ、必要な検査が行われていないために適切な所見が記載されていないというケースが少なくありません。
記入例では、この欄に記載された「椎間板にヘルニア突出」などの所見の記載が決め手となって、後遺障害等級第12級が認定されていると思われます。
そのため、このケースで、そもそもMRI検査や神経学的検査が行われていなかったとしたら、後遺障害等級は非該当か、認定されても14級にとどまったことでしょう。
自覚症状の原因について医師から納得のいく説明がない場合は、「詳しく検査してください」と申し出ることが必要です。
(3)記入例を医師に渡す
後遺障害診断書を書いた経験が乏しい医師であれば、書き方の要領がわからないために、適切な後遺障害診断書を書けないという可能性があります。
医師であっても、すべての医師が後遺障害診断書の作成に慣れているわけではありません。
むしろ、これまでに後遺障害診断書など書いたことがないという医師も多いはずです。
主治医が後遺障害診断書の作成に慣れていないと思われる場合は、記入例を手渡すのもひとつの方法です。
ただし、「この通りに書いてください」と言って記載内容を指示することは避けてください。
あくまでも、「このように書いていただけるとありがたい」という態度で参考資料を提供するだけです。
(4)記入漏れがないか確認する
医師が後遺障害診断書を作成すると、被害者に直接手渡されます。
被害者はそれを保険会社の担当者に提出する(事前認定の場合)か、自分で直接自賠責保険会社に提出する(被害者請求の場合)ことによって、後遺障害等級認定の申請を行います。
ここで、申請をする前にご自身で後遺障害診断書の記載内容を見て、記入漏れがないかを確認することが重要です。
特に、前記「3」の(2)~(4)の欄にしっかりとした内容が記載されているかをご確認ください。
記入漏れがあったり、必要な検査が行われていないことに気付いた場合は、再度診察を受けて後遺障害診断書を書き直してもらう姿勢も大切です。
(5)弁護士のチェックを受ける
これまで、後遺障害診断書のチェックポイントについて触れてきましたが、作成された後遺障害診断書に記載された内容が適切かどうかを一般の方が判断するのは難しいものです。
そこで、後遺障害診断書を受け取ったら、弁護士にご相談の上、記載内容をチェックしてもらいましょう。
交通事故に詳しい弁護士なら、後遺障害診断書を見れば、後遺障害等級認定を獲得できるかどうか、何級に認定されそうかの見通しを判断することができます。
5、後遺障害診断書を作成するときは弁護士へ相談しよう
後遺障害診断書を受け取った後に弁護士のチェックを受けるのも良いのですが、できれば、後遺障害診断書が作成される前に弁護士へ相談することをおすすめします。
交通事故に詳しい弁護士であれば、被害者から治療状況や症状の経過を聞くことで、後遺障害等級認定の見通しをある程度は判断することができます。
弁護士から医師に対して被害者の自覚症状を的確に説明したり、必要な検査をするように求めたり、後遺障害診断書の書き方をレクチャーすることもできます。
弁護士のサポートを受けることで、有効な後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害等級認定を有利に獲得できる可能性が高まります。
まとめ
後遺障害診断書は、後遺障害に関する損害賠償額を左右する非常に重要な書類です。
医師に対してしっかり患者側の意見を伝え、適切な後遺障害診断書の依頼をすることは簡単ではないかもしれませんが、そんなときは一人で悩まず、交通事故に詳しい弁護士に相談してみましょう。