起訴状は、刑事裁判において極めて重要な書類です。起訴状が手元に届いた瞬間、当事者やその家族が注意すべき事柄は3つあります。
- 告発状が手元に届いた時点では、直ちに証拠を確認することは難しい
- 公訴の事実がどのように記載されているかを確認する
- 公判が始まる前に、証拠や弁護の戦略を検討する必要がある(できれば弁護士に相談)
これらのポイントを理解しておくことで、文書の役割や読むべき部分に焦点を当てることができます。
刑事事件と民事事件の違いについては以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、起訴状とは?
起訴状とは、検察官が、刑事裁判で有罪・無罪の判断及び刑の重さ(これを量刑といいます。)をどうすべきかの判断を求めるのが相当だと判断した事件について、その裁判手続きを開始するため裁判所に作成し提出する書類です。
起訴された人は「被告人」と呼ばれ、裁判所に提出された後、速やかに被告人の元へ写しが届けられます。
(1)刑事裁判を始めるための書類
犯罪の疑いをかけられて捜査された場合、不起訴・起訴の判断が下ります。
起訴された場合でも、略式命令という手続きを利用すると、被疑者が手続きに異議を唱えない限り(刑訴法461条の2第1項)、罰金または科料を支払えば終局を迎えます。
注意したいのは起訴されるケースで、この場合は公開の法廷で裁判を受けなくてはなりません。
(2)起訴状に書かれていること
起訴状の内容は、①訴えられたのが誰なのか、②検察官が主張する犯罪行為の具体的な内容、③どの罪名にあたるのかの3項目から成ります。
これらの記載事項は、刑訴法第256条第2項各号で以下のように定められています。
①被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
刑事裁判手続きでは、被告人を特定しなければなりません。起訴状では、氏名や住所の他に、生年月日・本籍地・職業等も記載されます。
②公訴事実
刑事裁判での審判の対象となる事実として、起訴状には「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのようにしたと疑われるのか」といった事項を物語形式でまとめた文章が記載されます。これを公訴事実といい、ニュースやテレビでは起訴事実や容疑とも表現されます。
③罪名
起訴状には、公訴事実について適用すべき罰の内容を明示しなければなりません。
具体的には「暴行罪 刑法第208条」のように記載され、2つ以上の罪名が記載されることもあります。
(3)起訴状はいつ届く?
起訴状が届く時期は、在宅事件なら起訴されてから1~2日です。
「遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない」(刑訴法第271条第1項)との定めに沿い、特別送達(刑訴法第54条が準用する民事訴訟法第98条から第109条)と呼ばれる方法で配達されています。
なお、身柄拘束されて刑事施設に収容されている状態であれば、起訴状は刑事施設の長(拘置所の所長など)に送達され(民事訴訟法第102条3項)、その後被告人の手元に渡ります。
(4)起訴されるまでにどのくらいかかるの?
検挙されてから起訴されるまでの期間はさまざまに異なります。
身柄拘束された場合には、最大20日以内の勾留期間中に起訴・不起訴が決まりますが、在宅事件の場合はこのような時間の縛りがありません。
また、起訴・不起訴が決まるまでには、数ヶ月かかることが多いですが、半年以上かかるケースも少なくありません。
2、起訴状一本主義とは?
刑事裁判を開始する段階では、起訴状以外に裁判所へ提出されるものはなく、公訴事実も必要以上に詳しく記されることはありません。
防犯カメラ映像等を添付したり、犯罪に該当する事実以外の内容を書いたり(=余事記載)するのは、刑訴法第271条第6項に違反します。
このルールを「起訴状一本主義」といいます。
起訴状一本主義の目的は、公平な裁判(憲法第37条第1項)の実現です。
裁判官の予断を排除するよう、審理の材料になるべきものは公判が始まってからでないと提示できません。
3、起訴状が届いたら確認すべきこと
起訴状が届いたら「裁判の結果に直結するもの」と意識し、その内容はくまなくチェックしましょう。特に下記2点が重要です。
- 訴因が特定されているか
- 記載の事実につき、自分の認識や記憶と相違がないか
(1)訴因が特定されているか
第1に確認したいのは、公訴事実の欄に記載された事実が、訴因として特定されているかどうか(刑訴法第256条第3項前段)です。
訴因とは、検察官が主張する具体的な犯罪の構成要件に該当する事実をいいます。裁判を進行できるか否かに関わる次の2つの機能を持ちます。
- 裁判所に対し、審判の対象をはっきりと定める(画定)する機能
- 被告人に対し、防御の範囲を示す機能
公訴事実の書き方によっては、必ずしも訴因特定の要件を満たしているとは限りません。
特定の犯罪の構成要件のうち、一部が欠けていたり、別の犯罪の構成要件に該当する事実が記載されていたりすることがあります。
何について裁判するのか(=訴因)がはっきり分かる内容かどうか、チェックしましょう。
(2)記載されている事実に間違いはないか
第2に確認したいのは、起訴状に書かれている内容に間違いがないかどうかです。
刑事裁判が開始されるにあたっては、まず、裁判官が住所や本籍などの情報から、被告人の身元を確認し、その後、検察官が起訴状を朗読した上で、裁判官から被告人に対して、公訴事実に間違いがないかどうかの確認が行われます。
起訴状の誤りを見逃すと、たとえ事件発生の時間が事実と数十分程度ずれているだけであったとしても、指摘や反論をしなかったために、大きく不利になることがあります。
送達された段階で細かい点までしっかりと目を通し、起訴状の内容と自分が認識している出来事との間に相違がないかチェックしましょう。
4、刑事裁判では弁護士が必要?
民事裁判においては、代理人としての弁護士を立てるかどうかは任意ですが、刑事裁判ではほとんどの場合で弁護人(弁護士)が必要です。
無罪や軽い刑の獲得のために必要なのはもちろんですが、法律上弁護人を付すことが求められる場合もあります。
弁護士の必要性や選び方については、次のことがいえます。
(1)国選弁護人制度とは?
刑事事件の中には、刑訴法の規定により弁護士が必須な場合があります。
該当するケースは「必要的弁護事件」と呼ばれ、殺人事件などのいわゆる重大事件(刑訴法第289条第1項)がその例として挙げられます。
この場合、被告人は、裁判所が選任する弁護人(刑訴法第38条第1項)を付けてもらうことができます。これを国選弁護人といいます。
また、弁護士が必須ではない場合でも、金銭的に余裕がない方等は、一定の要件を満たすことで国選弁護人を付してもらうことができます。
近年は、その対象が拡大しており、平成30年6月1日施行の改正法によって、勾留を請求された被疑者も請求ができるようになりました(刑訴法第37条の2第2項)。
(2)弁護士を選任する方法
起訴された時に弁護士を選任する方法は2つあります。
貧困等の理由により国の費用負担で裁判所に選任してもらう方法か、又は、自分で適任者を探して依頼する方法(私選弁護人の選任)です。
いずれの方法も一長一短があるので、自身の置かれている状況に応じて選びましょう。
両者に共通することは、被疑者・被告人のために職務を全うすべき任務を負っていることです。
他方で、国選弁護人は、被告人の側で自分に合う人を選ぶことはできず、別の人に変えてもらう(解任する)ことも容易ではありません。
そして、私選弁護人を選任するには、相当水準の報酬を自己負担する必要があります。
もっとも、安心感や穏当な終局処分を求めるなら、私選弁護人を選任することをおすすめします。
最適な頻度で接見・打ち合わせに対応してもらえる等、きめ細かい対応に期待できます。
▼私選弁護人と国選弁護人との違い(比較)
比較項目 | 私選弁護人 | 国選弁護人 |
選任方法 | 自力で依頼する | 裁判所が本人の請求により又は職権で付す |
人選 | 自由に選べる | 選べない |
費用・報酬 | 自分で払う(国選弁護士に比べて高額) | 国が払う |
弁護活動 | 親身な対応が期待できる (接見や打ち合わせ、資料作成にしっかりと時間を割ける) | 人による (弁護士自身が別に仕事を抱えている等の理由で、要望に応えてくれないことも) |
解任 | いつでも出来る | 私選弁護士を付けた時や、著しい職務違反・被告人との利益相反が見られた場合等限定的 |
5、起訴状を受け取ってから刑事裁判が始まるまでにやるべきこと
軽微な事件であれば、起訴状を受け取ってから1か月~2か月程度で第1回公判期日を迎え、刑事裁判が本格的に始まります。
それまでの間に、被告人として検察官側が把握している証拠を検討し、獲得したい処分の内容・程度と具体的な防御方法を練っておく必要があります。具体的には以下のとおりです。
(1)検察官が提出予定の証拠を読み込む
まずは、検察官が提出する予定の証拠をあらかじめ入手し、読み込んで検討する必要があります。
検察官がどんな証拠を提出するのか知らないままだと、防御方法の用意がないまま対応することになり、結果として事実ではない事柄まで判決に影響してしまうかもしれません。
証拠検討の最初の段階では、検討時間の確保のため、公訴事実を立証するために検察官が裁判所に提出した証拠(=検察官請求証拠/請求証拠とも呼ばれます。)が、速やかに開示されるよう気を付ける必要があります。
検察官に対して任意での開示を求め、手元に届いたら下記3点の検討を進めなくてはなりません。
全体を通して、弁護士でないと対応困難と言わざるを得ない部分です。
- 被告人の認識と異なる部分はないか
- 証拠集めの手続きに違法性はなかったか
- 起訴状に記載されている事実を立証できているか
(2)刑事裁判での方針を固める
証拠を検討した上で考えるべきなのが、被告人として刑事裁判にどう対応するかです。
起訴状の内容を全面的に認めず(これを否認といいます。)無罪の獲得を狙うのか、それとも、起訴状の内容を認めた上で、量刑判断の際に考慮されるべき事実(これを情状事実といいます。)を説明して刑罰の軽減を目指すのか、どちらかを選ばなくてはなりません。
ポイントは、必ずしも起訴状の内容全てを認めないか又は認めるかしかないわけではなく、一部の事実のみ否認することも視野に入る点です。
反省・後悔等の気持ちが大なり小なりある当事者にとっては、非常に考え辛い点ではないでしょうか。
やはりここでも、客観的・中立的に事件を分析できる弁護士の助言が重要となります。
(3)どのような事実を主張・立証するかを検討する
刑事裁判で目指す方針が固まれば、防御方法を検討します。
事件発生当時の有利な事実を主張したり、証人尋問を請求して事情を説明できる人(親族等)を呼んだりする等の対応です。
被害者と示談が成立していれば、積極的に主張すると良いでしょう。
これらの裁判での対応はいずれもケースバイケースであり、犯罪類型に応じた対応を取るべきことに加えて、最近の判例の傾向等にも精通していなくてはなりません。
被告人に有利な事実の主張・立証は、弁護士に委ねるべき最も大切な部分です。
6、起訴状が届いたら弁護士に相談を
刑事裁判の被告人となった場合、高度な専門知識が求められることに加え、実務の慣行も理解しておく必要があります。
起訴状が届いたら、すぐに弁護士に相談して今後の対応を話し合うのが吉です。
▼刑事裁判の対応を弁護士に任せるメリット(私選弁護人の場合)
- 証拠の早期開示の催促から証拠内容の検討を任せられる
- 質問対応や打ち合わせに適切なタイミングで応じてもらえる
- 被告人の認識や意向に寄り添ってもらえやすい
私選弁護人を検討する上で特に注意したいのは、逮捕などの身柄拘束をされない、いわゆる在宅事件になったケースです。
資力に余裕があると裁判所に判断されると、被疑者国選弁護人制度の対象外になるため、弁護士不在で何も準備がないまま公判開始を迎える恐れがあります。
勾留中に国選弁護人が選任されたケースでも、接見や家族との打ち合わせで不安を感じることがあれば、すぐに私選弁護人としてふさわしい人を探しましょう。
起訴状に関するQ&A
Q1.起訴状とは?
起訴状とは、検察官が、刑事裁判で有罪・無罪の判断及び刑の重さ(これを量刑といいます。)をどうすべきかの判断を求めるのが相当だと判断した事件について、その裁判手続きを開始するため裁判所に作成し提出する書類です。
起訴された人は「被告人」と呼ばれ、裁判所に提出された後、速やかに被告人の元へ写しが届けられます。
Q2.起訴されるまでにどのくらいかかる?
検挙されてから起訴されるまでの期間はさまざまに異なります。
身柄拘束された場合には、最大20日以内の勾留期間中に起訴・不起訴が決まりますが、在宅事件の場合はこのような時間の縛りがありません。
また、起訴・不起訴が決まるまでには、数ヶ月かかることが多いですが、半年以上かかるケースも少なくありません。
Q3.起訴状が届いたら確認すべきことは?
起訴状が届いたら「裁判の結果に直結するもの」と意識し、その内容はくまなくチェックしましょう。特に下記2点が重要です。
①訴因が特定されているか
第1に確認したいのは、公訴事実の欄に記載された事実が、訴因として特定されているかどうか(刑訴法第256条第3項前段)です。
訴因とは、検察官が主張する具体的な犯罪の構成要件に該当する事実をいいます。裁判を進行できるか否かに関わる次の2つの機能を持ちます。
- 裁判所に対し、審判の対象をはっきりと定める(画定)する機能
- 被告人に対し、防御の範囲を示す機能
公訴事実の書き方によっては、必ずしも訴因特定の要件を満たしているとは限りません。
特定の犯罪の構成要件のうち、一部が欠けていたり、別の犯罪の構成要件に該当する事実が記載されていたりすることがあります。
何について裁判するのか(=訴因)がはっきり分かる内容かどうか、チェックしましょう。
②記載されている事実に間違いはないか
第2に確認したいのは、起訴状に書かれている内容に間違いがないかどうかです。
刑事裁判が開始されるにあたっては、まず、裁判官が住所や本籍などの情報から、被告人の身元を確認し、その後、検察官が起訴状を朗読した上で、裁判官から被告人に対して、公訴事実に間違いがないかどうかの確認が行われます。
起訴状の誤りを見逃すと、たとえ事件発生の時間が事実と数十分程度ずれているだけであったとしても、指摘や反論をしなかったために、大きく不利になることがあります。
送達された段階で細かい点までしっかりと目を通し、起訴状の内容と自分が認識している出来事との間に相違がないかチェックしましょう。
まとめ
起訴状を受け取ることは、これから刑事裁判がスタートすることを意味します。
裁判は、起訴状の内容をベースにして進行するため、本人の認識・記憶と異なる部分がないかしっかりチェックしておきましょう。
その上で、検察官が提出する予定の証拠を検討し、求めたい処分の内容・程度に応じて対策を練る必要があります。
大半の事件では刑事裁判が始まるまでに国選弁護人が付きますが、本人や家族にとってより公正かつ穏当な結果を得るために、遅くとも起訴状を受け取った段階で私選弁護人に相談すると良いでしょう。