亡くなった親が家を所有していた場合、その家を相続しなければならないことがあります。
しかし、既に親元から独立している方の中には、実家の土地建物は必要なく、親の家を相続したくないという方も少なくないと思います。
誰も住まなくなった親の家を相続すると、相続税や維持費を負担しなければなりませんし、取り壊すとしても多額の費用がかかってしまいます。かといって空き家を放置していると、さまざまなトラブルを招くおそれもあります。
親の家が不要な場合は、相続放棄をしたり、いったん相続したうえで売却することによって手放すことができます。ただし、その場合にもさまざまなことに注意が必要です。
そこで今回は、
- 親の家を相続することによるデメリット
- 親の家を相続したくない場合にとりうる方法
- 相続放棄や相続後に処分をする場合の注意点
などについて解説していきます。
亡くなった親御様の持ち家の処分についてお困りの方のご参考になれば幸いです。
相続放棄について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
1、親の家を相続したくない5つの理由
亡くなった親の家を相続したくないという方は少なくありません。その理由は、誰も住まなくなった親の家を相続することには、以下の5つのデメリットがあるからです。
(1)相続税の支払い義務
まず、一定額以上の遺産を相続すると、相続人は相続税を支払わなければなりません。
相続税には基礎控除がありますが、課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を超える場合には、相続税の納税義務が生じます。
基礎控除額は、次の計算式で求められます。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が子ども2人の場合の基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)
親の家の相続税評価額が3,000万円だとすると、他に1,200万円を超える遺産があれば、子どもは相続税を支払わなければなりません。
また、国では現在、「相続登記の義務化」の検討が進められており、これが実現するとさらに子どもの負担が増大します。相続登記を行うには登録免許税と実費がかかりますし、専門家に手続きを依頼する場合はさらに報酬がかかります。
これらの費用は土地建物の固定資産評価額によって異なります。
現時点では(2020年7月時点)相続登記は義務ではなく、相続した親の家の名義をそのままにしておいても罰則はありません。
しかし、相続登記が義務化されると、登記手続きを怠った場合には罰則の適用も予定されています。
なお、相続登記の義務化は既に法務省の法制審議会で審議され、早ければ2020年秋の臨時国会で法案が提出され、その後に実現する可能性があります。
(2)維持費の負担
親の家を相続すると、その家を処分しない限り、維持費がかかり続けます。維持費には、主に以下のような費目があります。
- 固定資産税(市街化区域内であれば都市計画税もかかります)
- 水道光熱費
- 屋根や壁の修繕費用
- その他のメンテナンス費用
固定資産税は家の評価額の他、立地条件なども考慮して各市町村が算出し、納税義務者に通知されます。
水道光熱費のうち、家に誰も住んでいなくても電気代については注意が必要です。
なぜなら、まったく電気を使用していない場合でも多くの電力会社では基本料金の半額を支払う必要があるからです。電力会社によっては、基本料金の全額を請求してくるところもあります。
(3)取り壊し費用の負担
家屋の維持費の負担を避けるため、古くなった親の家を取り壊して更地にする方も多くいらっしゃいます。
ただ、家屋を取り壊すには専門の業者に依頼する必要があり、その費用がかかります。
金額は家の大きさや構造によって異なりますが、木造住宅の場合でも相当程度の費用が掛かります。大きな家や、鉄筋コンクリート造りの家であれば、さらに高額となります。
このような費用の負担を嫌って空き家を放置する方もいらっしゃいますが、長期間放置すると廃墟となってしまい、次の「(4)」でご説明する問題を引き起こしかねません。
(4)事件事故を誘発するおそれ
空き家を放置すると廃墟となってしまい、さまざまな事件や事故を誘発するおそれがあります。
例えば、空き巣が入ったり、そうでなくても不審者が侵入するなどして近隣の治安が悪化することがあります。
また、放火や家屋の倒壊などによって近隣の住宅に危険が及ぶようなケースもあります。
(5)近隣住民とのトラブルを招く
事件や事故が発生しなくても、空き家を長期間放置すると、近隣住民とのトラブルを招きやすくなります。
例えば、庭などに雑草が生い茂って空き家周辺の景観が悪くなったり、虫が発生するなどして近隣住民からクレームがくることが考えられます。
2、親の家を相続することによるデメリットを回避する方法
前項でご説明したように、不要な親の家を相続するとさまざまなデメリットを受けてしまいます。
このようなデメリットを回避するためには、次の2つの方法があります。
(1)相続放棄をする
まずひとつは、相続放棄をすることです。相続放棄をすれば、親の家の所有権を引き継ぐことはなくなります。
相続人の一部が相続放棄をした場合は、他の相続人が親の家を相続することになります。
しかし、相続人全員が相続放棄を行い、相続財産管理人の処分を経て、どうしても換価できない不動産は、最終的に国庫に帰属することになります。
こうすることで、親の家を相続することによるあらゆるデメリットを避けることができます。
(2)いったん相続した後に処分する
もうひとつの方法は、いったん相続した後に処分することです。
現状のままで売り出しても買い手がつかない場合は、住居や店舗に利用できるようリフォームして売却したり、更地にして不動産業者に売却することができます。
また、空き家の近隣の親族がその家を欲しがっている場合は、その人に贈与するのもよいでしょう。ただし、その場合は家をもらった側の人に贈与税がかかることに注意が必要です。
他には、親の家を国に売却したり、自治体に寄付するという方法もあります。
ただし、どんな不動産でも売却や寄付を受け付けてもらえるわけではありません。行政側に「公共施設を建設する」などのニーズがあることが必要です。
ニーズに合致する場合は、行政への売却や寄付を検討してみるとよいでしょう。
なお、どのような方法で解決すればよいのかで迷われるときは、相続問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。状況に応じて、最適なアドバイスが受けられることでしょう。こちらの記事も、併せてご参照ください。
3、「相続放棄」「相続後の処分」の注意点
相続放棄や相続後の処分をすることで、親の家を相続するデメリットは避けることができます。
しかし、これらの方法をとる場合にも、以下のような点に注意しておくことが必要です。
(1)相続放棄の注意点
相続放棄をすると、その相続に関して一切の権利がなくなります。不要な親の家の相続から免れることはできますが、他の遺産も一切相続できないことに注意が必要です。
亡くなった親に持ち家の他にも多額の遺産がある場合は、いったん相続したうえで家を処分した方が、手間はかかっても経済的なメリットは大きくなります。
また、相続放棄は相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続をしなければなりません。この期限を過ぎてしまうと、相続放棄はできなくなります。
また、ご自分が相続放棄をしても、他の相続人の方もそれぞれ相続放棄をしないと、責任を免れることはできません。1人だけ相続放棄の手続をすれば良いということはないのです。子どもたちが全員相続放棄しても、次の順位の相続人の祖父母や、その次の順位の相続人の兄弟姉妹が相続するということになってくることもあります。
相続放棄をする場合は他の相続人にも連絡して、必要であれば相続人全員で相続放棄をした方がよいでしょう。
(2)相続後の処分の注意点
相続後に処分する場合は、できれば贈与や寄付よりは売却した方が経済的なメリットを受けることができます。
ただし、売却した場合には売った側に譲渡所得税がかかることがあります。
購入価格がはっきり立証できる古い家の場合は、売却価格が購入価格よりも低くなるため、譲渡所得税がかかるケースはあまりありません。
しかし、比較的新しい家の場合や、地価の上昇などによって、購入した価格よりも高額で家が売れた場合には譲渡所得税がかかるケースもあります。
譲渡所得税がかかる場合は、所得税だけではなく翌年の住民税も高くなるので、注意が必要です。
4、「相続放棄」や「相続後の処分」以外でできる対策は?
相続放棄や相続後の処分にもデメリットがあるとすれば、他に対策はないのでしょうか。
今後に実現される可能性がある国の制度の活用も含めれば、次の2つの方法が考えられます。
(1)不動産放棄制度
現在の法律では、不動産の所有権を放棄することは認められていません。
しかし、国では前記「1(1)」でご紹介した「相続登記の義務化」に併せて「不動産放棄制度」の導入についても検討が進められています。
近年、空き地や空き家の増加が社会問題となっています。
そのために国でも、一定期間にわたって放置された不動産については所有権を放棄したものとみなしたり、不要な不動産の寄付を認める制度の構築を検討しているのです。
この制度が実現すれば、相続した親の家の所有権を放棄することによって固定資産税などの負担から免れることができます。
まだ検討中の制度であるため詳細は未定です。しかし、空き地や空き家の多くは、相続後に放置されているものであると言われています。
このことからすれば、親の家を相続した場合にも適用される制度が作られる可能性が高いと考えられます。
ただし、事前に相続登記を完了しておかなければ利用できなかったり、劣化した家や道路などのインフラが整っていない土地は放棄できないなど、利用条件は限定される可能性があります。
また、抵当権などの担保権が設定された不動産も利用の対象外になる可能性が高いと言われています。
(2)親が生きているうちに別の住まいへ引っ越してもらう
親の家の処分で子どもが困るのなら、あらかじめ親の家を処分しておくことも検討するとよいでしょう。
親に事情を説明してアパートなどに引っ越してもらい、空いた家を売却したり、賃貸して運用することが考えられます。
その際、家をリフォームして新耐震基準に適合させるなどして一定の条件を満たし、「安心R住宅」に登録できれば良い条件で売却や賃貸をすることも可能になります。
また、親の家を売却や賃貸に出すときは、「空き家・空き地バンク」に登録すると買い手や借り手が見つかりやすくなるでしょう。
以前は、各自治体において管轄地域内の空き家や空き地を検索できるシステムを提供していました。しかし、2018年から国土交通省の主導で全国版の空き家・空き地バンクが構築され、使い勝手がよくなっています。
なお、最近では空き家問題への対処として、家の解体に際する助成金制度を設けている自治体が多くなっています。
助成金制度の有無や、受給要件は自治体ごとに異なります。解体をお考えの場合は、親の家がある自治体で確認してみましょう。
まとめ
親の家を相続したくない場合に対策を考えるときには、相続に関する知識の他にも不動産に関する専門的な知識も必要になります。
そのため、一人で悩むよりも、相続や不動産の処分・管理方法に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士事務所での法律相談は無料の場合もあるので、積極的に活用するとよいでしょう。