個人事業主であっても、民事再生(個人再生)は選択肢となります。
この記事では、
- 個人事業主が民事再生(個人再生)を選ぶ利点
- 個人事業主が民事再生(個人再生)を利用するための条件
- 個人事業主が民事再生(個人再生)を選ぶ際の留意点
などについて分かりやすく解説します。
目次
1、個人事業主も民事再生(個人再生)を利用できる?
冒頭でも申し上げたように、個人事業主でも民事再生(個人再生)を利用することは可能です。
そもそも「民事再生」とは、裁判所の手続きを利用して借金を圧縮し、減額した借金を分割払いすることによって事業の継続や財産の維持を可能にする倒産手続のひとつです。
通常の民事再生手続きは会社などの法人を想定したものであり、非常に複雑で手間と費用がかかる手続きであるため、個人が利用するにはハードルが高いものです。
しかし、民事再生の特則として、個人でも利用できるように手続きが簡略化された「個人再生」という手続きが設けられています。
個人事業主の方も、条件を満たせば「個人再生」を利用できるのです。
なお、個人再生には、主に自営業者向けの「小規模個人再生」と、会社員や公務員など給与所得者向けの「給与所得者等再生」という2種類の手続きがあります。
小規模個人再生は、毎月の収入にある程度の幅があっても利用可能ですが、手続きの利用に反対する債権者が多い場合には利用できないというデメリットがあります。
もう一方の給与所得者等再生は、債権者の意向にかかわらず利用可能ですが、収入の幅が小さいこと(おおむね2割以内)が利用条件とされています。
個人事業主の場合、ほとんどは小規模個人再生を利用することになりますが、毎月の収入の幅が小さい場合には給与所得者等再生を利用することもできます。
2、個人事業主が民事再生(個人再生)を利用するメリット
次に、個人事業主が民事再生(個人再生)を利用することで得られるメリットを確認しておきましょう。
(1)負債の大幅な減額が可能
民事再生(個人再生)が成功すれば、借金総額が原則として5分の1(最大で10分の1)にまで減額されます。
減額後の借金は原則3年(最長5年)をかけて分割返済し、完済すれば残りの借金は免除されます。
たとえば、500万円の借金(住宅ローンを除く)がある場合でも、個人再生を利用すれば返済額は100万円にまで圧縮され、毎月約2万8000円ずつ(3年払いの場合)返済していけば、すべての借金がなくなります。
これほど大幅な借金の減額は、任意整理では期待できないものであり、民事再生(個人再生)の大きなメリットといえます。
(2)借金の使い途は原則として問われない
民事再生(個人再生)は、自己破産とは異なり、借金の使い途は原則として問題になりません。
自己破産の場合は「免責不許可事由」というものがあり、浪費やギャンブルなど借金の使い途に問題がある場合には手続きに失敗することがあります。
しかし、個人再生であれば、たとえ浪費ギャンブルで借金を作った場合であっても、基本的には手続きに支障はありません。
ただし、「小規模個人再生」の場合には、債権者の多数からの反対によって手続きに失敗する可能性があることには注意が必要です。
(3)事業を継続しつつ負債を整理できる
民事再生(個人再生)を利用すれば、今までどおりに事業を継続しつつ負債のみを整理できる可能性も十分にあります。
自己破産をした場合は財産を処分する必要があるため、個人事業主の方は事業用の財産も手放すことになり、事業の継続は難しいことが多いものです。
それに対して、個人再生では基本的に財産を処分する必要がないので、事業を継続できる可能性が高いのです。
(4)リース契約を継続できる可能性がある
個人事業主の方は事業用の設備や備品、自動車などをリースしていることも多いと思いますが、民事再生(個人再生)ではリース契約を継続できる可能性があります。
自己破産の場合は、リース契約は自動的に解約され、リース物件は債権者に引き揚げられてしまいます。
しかし、個人再生の場合は「別除権協定」という制度があり、リース会社との間でリース契約の継続を合意したうえで裁判所の許可を得れば、リース物件を使用し続けることが可能となります。
(5)マイホームを手放さずに済む
民事再生(個人再生)の大きなメリットとして、住宅ローン返済中のマイホームを残せるということがあります。
自己破産の場合は、マイホームは必ず処分されてしまいます。
一方、個人再生には「住宅ローン特則」(正式名称は「住宅資金特別条項」)という制度があります。
この制度の利用条件を満たす場合には、住宅ローンのみは通常どおりに返済し続けて、他の借金のみを整理することができます。
その結果、マイホームを競売にかけられることなく、住み続けることが可能になるのです。
3、個人事業主が民事再生(個人再生)を利用するための条件
個人事業主が民事再生(個人再生)を利用するための条件は、会社員や公務員などの方の利用条件とまったく同じです。
ただし、個人事業主の場合は以下の3つの条件が問題になることが多いので、事前に確認しておくことが重要です。
なお、個人再生の一般的な利用条件についてはこちらの記事をご参照ください。
(1)負債総額が5,000万円以下であること
民事再生(個人再生)は、負債総額が5,000万円以下の場合でなければ利用できません(民事再生法第221条1項)。
個人事業主の方で、事業性の融資を受けている方の中には5,000万円を超える負債を抱えている方もいるかもしれません。
その場合には、通常の「民事再生」の利用は可能ですが、非常に手続きが複雑で、多大な手間と費用がかかります。
個人事業でも事業規模が大きい場合は通常の民事再生が適しているケースもありますが、多くの場合は自己破産を検討する方が得策となるでしょう。
(2)継続的または反復した収入が見込まれること
民事再生(個人再生)は、借金が大幅に減額されるとはいえ継続的に返済していかなければならない手続きですので、「継続的または反復した収入が見込まれること」が利用条件とされています(民事再生法第221条1項)。
具体的には、再生計画案を遅滞なく履行していける程度の安定した収入が必要です。
先ほど例に挙げた借金総額500万円のケースでいうと、毎月約2万8000円を3年間、遅滞なく返済していくことが可能な安定収入が見込まれなければなりません。
なお、個人事業主の場合は毎月の収入に大きな変動があることも多いことでしょう。
個人再生による返済は「3か月に1度」とすることも可能ですので、3か月のスパンで安定した収入が見込まれる場合は、個人再生を利用できます。
しかし、1年のスパンで安定収入が見込まれる場合であっても、3か月に1度の返済に不安があるようであれば、再生計画案が不認可となり、手続きに失敗する可能性があります。
(3)債権者の多数からの反対意見がないこと(小規模個人再生の場合)
小規模個人再生の場合は、債権者の多数から反対意見が出ると再生計画案が否決され、手続きに失敗してしまいます。
小規模個人再生では、再生計画案について裁判所が認可・不認可の決定を行う前に、債権者による「書面決議」が行われます(民事再生法第230条1項)。
書面決議において、債権者総数の過半数または債権総額の過半数の債権を有する債権者から不同意の意見が出た場合は、再生計画案が否決されます。
銀行や消費者金融などの一般的な貸金業者が不同意の意見を出すことはほとんどありませんが、友人・知人や取引先などから個人的に借金をしている場合は注意が必要です。
これらの債権者から不同意の意見が予想される場合は、事前にその債権者と協議を行い、再生計画案について理解を得ておくことが重要になります。
4、個人事業主が民事再生(個人再生)を利用するときの注意点
個人事業主の場合は、民事再生(個人再生)の利用条件を満たす場合でも、実際に申し立てる際に注意しておくべき点がいくつかあります。
(1)事業を継続するかどうか
事業を継続するかどうかは、民事再生(個人再生)を申し立てる前に決めておく必要があります。
なぜなら、個人再生を利用するには安定収入が必要なので、その収入をどのようにして得ていくのかを決めなければならないからです。
もし、事業の経営が不振で今後の収入に不安がある場合には、廃業して給与所得者となることも検討した方がよいでしょう。
一般的には給与所得者の方が収入が安定している傾向にあるので、個人再生を利用しやすいといえるからです。
もっとも、借金総額が大きい場合には個人再生による返済額も大きくなるため、給与所得では足りないという可能性もあります。
個人再生を成功させるためには、今後の収入と返済の見込みをしっかりとシミュレーションしたうえで、事業を継続するかどうかを判断することが大切です。
(2)高額な資産を有していないか
個人再生では基本的に財産を処分する必要はありませんが、高額な資産を有している場合は返済額が増える可能性があることに注意が必要です。
個人再生には、「清算価値保障の原則」というものがあります。
この原則を簡単にいうと、債務者が保有している財産価値の総額以上は最低限支払う必要があるということになります。
先ほど例に挙げた借金500万円のケースでいうと、財産総額が100万円以下であれば、個人再生による返済額は100万円で済みます。
しかし、仮に総額200万円相当の財産を有している場合は、個人再生をしても最低200万円は支払わなければならないということになります。
個人事業主の方なら、自分名義の事業用資産をお持ちのケースも多いと思います。
資産の総額が高額であればあるほど、個人再生による返済額も高額になってしまいますので、事前に自分名義の財産の評価額をしっかりと確認しておきましょう。
5、借金の返済に困った個人事業主は弁護士に相談しよう
個人再生の手続きは、通常の民事再生よりは大幅に簡略化されていますが、それでも任意整理や自己破産に比べて複雑なものとなっています。
さらに個人事業主の場合は、会社員や公務員の場合よりも注意しなければならないポイントがたくさんあります。
そのため、自分のケースで個人再生の利用が可能なのか、どのように手続きをすればよいのかが分からないと悩んでしまう方も多いことでしょう。
そんなときは、弁護士に相談することをおすすめします。
債務整理に詳しい弁護士であれば、無料相談でも個人再生の利用可能性について的確に判断し、アドバイスしてくれます。
弁護士に依頼すれば、複雑な個人再生の手続きはすべて弁護士が代行してくれますので、あなたが苦労する必要はありません。
また、借金問題を解決するためには、どの債務整理方法を選択するかが第一に重要なことです。
選択を誤ってしまうと、借金問題を悪化させたり、解決できたとしても二度手間が発生するおそれがあります。
弁護士に相談すれば、あなたの状況に応じて最適な解決方法を提案してもらえます。
借金の返済に困ったら、弁護士に相談してみましょう。
まとめ
民事再生(個人再生)は個人事業主でも利用可能です。
しかし、個人再生は法律の構造も実際の手続きも自己破産よりも複雑で難解なため、一般の方には分かりづらいことが多いと考えられます。
お困りのときは、ひとりで悩まずに弁護士の無料相談を活用して、生活の再建に向けて第一歩を踏み出しましょう。