個人再生において住宅ローン問題を解決するための「住宅ローン特則」について、ご存知でしょうか?
住宅ローン特則を適用することで、自宅を保持しつつ、借金の大幅減額と住宅ローンの返済条件の軽減を実現できるかもしれません。
今回は、
- 住宅ローン特則を活用するための条件
- 住宅ローン特則による住宅ローン改善の仕組み
について、弁護士がわかりやすく解説します。
個人再生に関してはこちらの記事をご覧ください。
目次
1、個人再生には「住宅ローン特則」がある
債務整理の1つである「個人再生」には、「住宅ローン特則」というものがあります。
「住宅ローン特則」とは、住宅ローンを従来どおり(または返済方法を再調整して)支払を継続することによってマイホームを残すための条項のことです。正式名称は、「住宅資金特別条項」といいます。
個人再生手続きに住宅ローン特則を適用すれば(「住宅ローン特則付き個人再生を申し立てる」と表現することも多いです)、住宅ローンが残っている場合でも、マイホームを競売にかけられることなく、多額の借金を解決することが可能となります。
(1)個人再生手続きが作られた理由
多額の借金が返せなくなった場合の「債務整理」では、「自己破産」が有名です。
「自己破産」は借金全額の免除を受けるという特徴をもつ解決策となります。
自己破産では、すべての借金を対象に手続きを行わなければならないので、住宅ローンを抱えている人が住宅ローン以外の借金(消費者金融や銀行カードローン、クレジットカードによる借金)を解決するときに、
「消費者金融などのカードローンだけを自己破産して、住宅ローンはこれまで通り支払い続ける」
という対応をすることができません。
そうすると、住宅ローン債権者(銀行など)は担保権(自宅につけた抵当権など)を実行してローン残額の回収を図ります(別除権)。
こうなると、自宅を失うわけにはいかない債務者たちは、消費者金融の借金返済が行き詰まってしまったにもかかわらず、「住宅ローンが残っているために、債務整理に踏み切れない」という状況に陥ってしまうわけです。
このような問題を解消し、住宅ローンを抱えている人でもその他の借金を解決しやすくする、マイホームを手放さずに住宅ローンの返済条件を見直せる手続きを用意するという目的で特別に作られたのが、個人再生手続きです。
その意味で、住宅ローン特則は、個人再生の中核ともいえる仕組みといえます。
(2)住宅ローン特則を利用するための要件
住宅ローン特則付き個人再生を申し立てることができるのは、次の条件を満たしている場合のみです。
- ローンが住宅の購入代金やリフォーム代金を目的としていること
- 債務者本人が居住する住宅についてのローンであること
- 抵当権者が住宅ローンの債権者またはその保証会社であること
- 住宅ローン以外の抵当権が設定されていないこと
- 再生計画が遂行可能な支払い能力があること
ここで、マイホームを担保に入れたすべての借金に適用できるわけではないことに注意しましょう。
たとえば、「借金返済(借換え)」や、「生活費の補填」、「事業用の借入れ」のために不動産担保ローンを組んだという場合には、住宅ローン特則を適用することはできません。
また、別荘のような「日常生活の居住用」とはいえない物件の住宅ローンにも適用できませんし、住居兼事務所という場合にも、住宅ローン特則が適用できないこともあります(居住用スペースと事務所用スペースの面積比などで判断します)。
さらに、借金・住宅ローンの返済負担を軽減しても分割返済が続けられないと裁判所が判断する場合にも、住宅ローン特則は利用できません。
住宅ローン以外の借金が多額過ぎる場合や、清算価値が高くなり弁済額が高くなってしまうような場合には、注意が必要です。
(3)住宅ローン特則だけを使うために個人再生することも可能
個人再生は、多額の借金を抱えたときでも「元金と利息の免除」によって大幅に返済の負担を減らせる手続きです。
しかし、「住宅ローン以外に借金がない(免除を受ける借金がない)」という場合であっても、住宅ローン特則付き個人再生を申し立てることが可能です。
2、住宅ローン特則付き個人再生で住宅ローンの毎月の返済額を減らす
住宅ローン特則を利用すると、次の方法によって、「住宅ローンの返済負担を軽くしてもらう」、「過去の滞納をリセットしてもらう」ことが可能です。
- 支払期限の延長
- 一定期間の元金据え置き
- そのほか債権者が同意する条件に変更
なお、これらの方法は組み合わせて利用することも可能です。
(1)支払期限を延長することで毎月の返済額を圧縮
「支払期限の延長」は、住宅ローン特則における最も基本的な対応です。
契約当初の返済期間をさらに延長することができれば、毎月あたりの返済額を減らすことができるからです。
住宅ローン特則では、「最大で10年まで」返済期間を延長してもらうことができます。
ただし、返済期間の途中で70歳になる人の場合には、70歳になる年までしか延長できません。
(2)「元金据え置き」にすれば「利息のみ」の支払いでよくなる
返済期間を延ばしただけでは、住宅ローンの支払いや再生計画の遂行(他の借金の分割返済)が難しいというときには、住宅ローンについては、一定期間だけ「元金据え置き」とすることができます。
「元金据え置き」とは、毎月の支払い分は「利息だけで良い」とすることをいいます(据え置き期間は残元金額に変動がないということ)。
元金据え置きが認められれば、住宅ローンの毎月の返済額を大幅に減らすことができます。
再生計画の遂行期間(原則3年)の間は、元金据え置きにして、消費者金融やカード会社の借金を優先的に返済するという方法をとることで、多額の借金と住宅ローンの返済を両立させることも可能となります。
(3)債権者の同意が得られればボーナス払いの条件を変更できる場合もある
転職や職場都合の減収などが原因で、借金の返済が行き詰まったときには、ボーナス払いの負担がネックとなっているケースも多いでしょう。
債権者の同意を得ることができれば、住宅ローン特則の内容に、「ボーナス払いの条件変更」を盛り込むことも可能です。
3、住宅ローンを滞納していても住宅ローン特則付き個人再生で解決できる
住宅ローンを抱えている人が借金や住宅ローンの返済に行き詰まってしまったとき、債務整理への対応が遅れがちと言われています。
「マイホームだけは何とか失いたくない」という思いが「ギリギリまで自力で何とかしよう」と思わせてしまうことが多いからです。
そのため、住宅ローンを滞納してしまい、「債権者から一括返済を求められた」「差押えを申し立てられた」という段階になってはじめて債務整理を決断するということもよく見受けられます。
(1)住宅ローン特則を利用すれば期限の利益を回復できる
しかし、このような事態になっているケースでも、「マイホームが競売にかけられてしまう」とあきらめる必要はありません。
住宅ローン特則付き個人再生が認められれば、長期滞納によって失った「期限の利益」を回復させることができるからです。
(2)住宅ローン特則を利用すれば、すでに開始された競売も停止できる
また、すでに債権者から競売を申し立てられた場合でも、住宅ローン特則によって競売を停止させることができます。
このように、住宅ローン特則は、過去の返済の問題点(滞納など)を、それが起きる前の状態まで戻せるというとても強力な効果があります。
(3)住宅ローンの巻き戻しを認めてもらうための条件
住宅ローンの巻き戻しは、滞納が全くない場合の住宅ローン特則付き個人再生よりも遙かに大きな負担を抵当権者(住宅ローン債権者・保証会社)に強いるものです。
すでに権利実行に着手した場合ですら、「待った!」をかけられ「すべてを水に流してもう一度やり直させてあげる」ことを強要されるからです。
したがって、いつまでも「抵当権実行が巻き戻される(なかったことにされる)かもしれない」という状態を継続させることは、抵当権者にとってあまりにも酷といえます。
そのため、住宅ローンの巻き戻しは、「保証会社による代位弁済から6ヶ月以内」でなければ認められないことになっています。
また、すでに競売が開始されたケースでは、競売に参加した入札者(買受希望者)の保護も考えなければなりません。
買受希望者は、落札金額を納付するために、金融機関から融資を受けている場合も多く、お金を工面したところで、「競売がなかったこと」になれば、不測の損害を被ってしまいます。
そこで、すでに競売が開始されたケースでは、(代位弁済から6ヶ月が経っていなくても)入札日までに住宅ローン特則付き個人再生を申し立てなければなりません。
(4)すでに滞納している住宅ローンの支払いはどうなる?
個人再生申立て前に滞納している住宅ローンは、他の借金のように減額されることはありません。
再生計画認可後に滞納分を支払うことは不可能ではありませんが、住宅ローンの支払い額は金額も大きく、それが残っていることで、「再生計画の履行可能性」が疑われてしまうおそれもあります。
つまり、住宅ローンの滞納分がなければ、個人再生後の返済額は
- 再生計画での返済額
- 住宅ローン特則での返済額
で済むところが、住宅ローンの滞納分があれば、その分だけ支払い負担が増えてしまうわけです。
住宅ローンの返済月額は金額も大きいことが一般的なので、滞納期間が長いほど、再生計画の履行可能性が疑われる(再生計画不認可となる)可能性も高くなってしまいます。
そのため、実務では、住宅ローンの滞納分については、個人再生申立て前に解消してしまうことが一般的です。
弁護士に個人再生を依頼すれば、当面の間は他の借金の返済をストップさせられるので、この間に住宅ローンの滞納分を返済してしまうということです。
4、ペアローンで住宅ローンを組んでいる時でも住宅ローン特則付き個人再生は使える?
最近では、ペアローンで住宅ローンを組む共働き夫婦も増えています。
ペアローンを組めば、片方の配偶者のみでローンを組むよりもよい条件で融資を受けられることも多いからです。
ペアローンを組んだ住宅ローンに住宅ローン特則を適用するためには、基本的に「ペアローンを組んでいる夫婦2人ともが揃って個人再生を申し立てる」必要があります。
※申し立てる地方裁判所によっては、夫婦の片方の債務の支払いに全く問題がなく、返済条件の見直しも必要もないという場合には、もう一方だけの申請でも住宅ローン特則の適用を認めてもらえる可能性はありますが、あくまでも例外的な取扱いになります。
5、住宅ローン特則付き個人再生で住宅ローンを解決するときの注意点
住宅ローン特則は、とても強力な借金解決方法といえます。
しかし、住宅ローン特則や個人再生も万能な手続きではないので、一定の限界があります。
(1)住宅ローン特則を利用しても住宅ローンは減免されない
住宅ローン特則を適用しても、住宅ローンの返済総額を減らすことはできません。
本来、抵当権(をはじめとした担保権)は、他の債権者よりも優先して返済を受けることが認められているとても強力な権利です。
実は、住宅ローン特則は、「抵当権者の権利行使を制限できる」という意味では、「かなり特殊な手続き」といえるのです。
したがって、「契約上の支払総額を保障する」ことは、住宅ローン特則付き個人再生において、返済条件の見直しや、ローンの巻き戻しを認めるための最低限の条件として譲れないということになります。
個人再生では、他の借金は元金の免除を受けられるため、「住宅ローンも減額される」と勘違いしてしまいやすいことに注意が必要です。
(2)住宅ローンの残額が少ないときには、個人再生を利用できない場合もある
個人再生を利用するときには、「自己破産で借金を解決する場合よりも多い金額を債権者に返済する」ことが必要です。
自己破産した場合よりも回収できる金額が少なくなるのであれば、分割での一部返済を認める利益が債権者には全くない(債権者にとって一方的に不利になる)からです。
そこで、個人再生おいて借金が減額される金額は、「清算価値(自己破産した場合の配当見込額)」を基準に決められなければなりません(清算価値保障の原則)。
この点については、住宅ローンの残額があと僅かというタイミングで、返済に行き詰まってしまったときには、清算価値保障の原則との関係で、個人再生をしても借金が全く免除されない可能性があることに注意が必要です。
いわゆるアンダーローンの場合(ローン残額よりも不動産の評価額の方が高い場合)には、そのアンダー部分が資産として見なされてしまいますから、持ち家があることによって、清算価値が押し上げられてしまうからです。
「借金がたくさん残っている方が有利な手続きが使える(ローンを頑張って返した人は有利な手続きを使えない)」というのは不思議な話なのですが、「債権者の権利を保障しなければならない(平等・公平に債務整理をする)」という最も重要な手続き的要請との関係では、どうしてもそうなってしまうのです。
6、個人再生・借金返済・住宅ローン返済に不安を感じたら弁護士にご相談ください
住宅ローンを抱えている人の借金問題は、状況が悪化しきってから弁護士にされるというケースが少なくありません。
しかし、対応が遅くなりすぎれば、それだけ住宅ローンを滞納してしまうリスクも高くなります。
また、期限の利益の喪失を通知され、保証会社によって代位弁済が実行されてからも対応できなかったというケースでは、住宅ローンを巻き戻せない可能性も生じてしまいます。
個人再生は、債務整理の手続きのうちで最も複雑な手続きなので、申立て準備にも時間を要するケースが少なくないからです。
多額の借金を抱えてしまい返せなくなった、住宅ローンが残っているがマイホームを失いたくないというときには、できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。
ベリーベスト法律事務所では、債務整理に精通した弁護士が1件1件のご相談に親身になって対応させていただきます。相談料も初回は無料なので、お困りのこと、ご不安なことがあるときにはお気軽にお問い合わせください。
まとめ
借金が返せなくなった上に、せっかく手に入れたマイホームも失うとなれば、絶望してしまう人も多いと思います。
しかし、個人再生を利用すれば、住宅ローン特則によってマイホームを失わずに多額の借金を解決することが可能です。
「家を残せる可能性がある」ということは、借金問題と向き合う上で大きな支えとなる場合も多いでしょう。借金問題は、あきらめずに行動することがとても大切です。
借金の返済に行き詰まってしまったときには、勇気を出して弁護士事務所に問合せしてみましょう。