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学生証偽造の法的リスク:刑法での処罰と影響

学生証を正当な権利を持たない人が不正に入手し、その権益を享受することは、法的に厳罰を受ける可能性がある重大な犯罪行為です。

今回は、

  • 偽造学生証が不正利用された実際の事例
  • 学生証の偽造や不正使用によって引き起こされる法的問題
  • 偽造学生証の使用によって逮捕された場合の対処法

について解説します。

弁護士相談に不安がある方!こちらをご覧ください。

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1、学生証の偽造はまん延している?悪用された事例

偽造した学生証が悪用された事例をいくつか紹介します。

(1)学割などのサービスを不正に受けた事例

1つ目は、学生のみが対象となっている割引やサービス(いわゆる学割)を学生でない人が受けたというものです。

世間一般に、学生は就労しておらず、その本分が学業であることから、経済的に余裕はないとみられています。このため、学生は、学生証を見せることで、飲食店で無料で大盛にしてもらったり、映画館で鑑賞料の割引を受けられたりします。
このようなシステムを利用して、学生でない者が偽造した学生証を使用して学割を受けることは、偽造した学生証を悪用した典型的な事例といえます

(2)法律上の身分を偽る事例

2つ目は、年齢を偽って法律上受けられないサービス(飲酒等)を受けたというものです。
学生証は学生にとって身分証としての役割を有しており、所属している教育機関だけでなく、年齢についての記載もあります。

飲食店で変造学生証の提示 (hoseipress.com)

この記事にあるように、偽造又は変造(変造と偽造の違いは後述します)した学生証を使用することで、本来であれば法律上飲酒できない者が飲酒できる(店側が錯誤の上、酒類を提供してしまう)可能性があります
このような行為も、偽造した学生証を悪用した典型的な事例といえるでしょう。

(3)偽の学生証でイベントに参加する事例

3つ目は、偽造又は変造した学生証を使ってイベント等に参加したというものです。

アイドルの握手会では、イベント主催者が安全にイベントを開催するために身分証の提示を求める場合があります。
また、ライブのチケット販売では転売防止を目的として身分証の提示を求める場合があります。

AKB48の写真会で身分証偽造 48歳の男と19歳の少年を逮捕 – ライブドアニュース (livedoor.com)

この事件の詳細は不明ですが、偽造した学生証でイベントに参加しようとした事例といえるでしょう。

2、学生証の偽造で用いられる手口

学生証の偽造の主な手口としては以下のようなものがあります。
なお、一部は偽造ではなく変造に該当しますが、偽造、変造のいずれであっても刑法上の犯罪が成立することに違いはありません。

「偽造」とは、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽って文書を作成することであり、作成された文書が一般人から見て真正な文書であると誤信させ得る程度の外観を有することが必要、とされています。
「変造」とは、名義人でない者が、真正に成立した文書の非本質的部分に不法に変更を加え、新たな証明力を作出すること、とされています。
両者の線引きはかなり難しいですが、簡単に説明すると、既存文書の同一性が維持されている場合、すなわち変更した部分が非本質的部分である場合は、「変造」であり、変更した部分が本質的部分の場合は、「偽造」となります。

(1)他人の学生証の顔写真を貼り替えてカラーコピーする

まず、他人の学生証の顔写真を張り替えてカラーコピーするという手口です。
学生証を有している人そのものを偽る典型的な方法であり、一番簡単にできてしまう方法です。
コピーをすることで顔写真部分を張り替えたことがわかりづらくなり、コピーの提示を受けた人はそもそも存在しない人物(他人の名前・生年月日・所属等が記載され、顔写真だけ変わっているとすると、その人物は真実としては存在していません)の真正な学生証であると誤信してしまうため、偽造にあたります。

(2)自分の学生証を改ざんしてカラーコピーする

次に、自分の学生証の有効期限や生年月日を改ざんする手口です

この場合、非本質的部分の変更であるため、偽造ではなく、変造にあたる可能性が高いです。
生年月日を偽れば、本来禁止されているはずの飲酒ができてしまいますし、有効期限を偽れば、本来受けられないはずの学割を受けることができてしまいます。

(3)偽造サイトや業者を利用する

偽造サイトや偽造業者に依頼をして、学生証を偽造する手口もあります。
業者に作成を依頼したとしても、依頼した本人に犯罪が成立しないわけではありません。決してこのような行為はしないようにしましょう。

3、学生証の偽造や偽造学生証の行使で成立しうる犯罪と刑罰 

いわゆる文書偽造罪は、当該文書に対する公共の信用(これを保護法益といいます。)を守るために規定されています。

偽造罪については、偽造した文書の種類や署名・押印の有無で成立する犯罪が異なります。

偽造文書の行使により被害者を騙して、金銭の交付やサービスの提供を受けた場合には、詐欺罪が成立することもあります。

なお、偽造罪と行使罪は牽連犯といって科刑上は一罪となり、重い方の刑罰が科されます。

そして、偽造や行使で成立する以下の罪のうち、無印偽造罪(印章や署名が使用されていない場合に成立する偽造罪のことです)以外については罰金刑が規定されておらず懲役刑しか規定されていないため、略式起訴の対象とならないことにも注意が必要です。

(1)公文書偽造罪等

印章又は署名が使用されている公文書(公務所又は公務員の作成すべき文書を指します)を偽造した場合、有印公文書偽造罪が成立する可能性があります。国公立大学の学生証を偽造した場合、有印公文書偽造罪が成立します。有印公文書偽造罪は、刑法155条1項に規定されており、法定刑は1年以上10年以下の懲役です。

印章又は署名が使用されている公文書の変造については、刑法155条2項に規定されており、法定刑は偽造の場合と同様に1年以上10年以下の懲役です。

印章又は署名が使用されていない公文書の偽造・変造については、刑法155条3項に規定されており、法定刑は3年以下の懲役又は20万円以下の罰金です。

(2)私文書偽造罪等

印章又は署名が使用されている公文書以外の文書(私文書)を偽造した場合、有印私文書偽造罪が成立する可能性があります。私立大学の学生証を偽造した場合、有印私文書偽造罪が成立します。
有印私文書偽造罪は、刑法159条1項に規定されており、法定刑は3月以上5年以下の懲役です。

印章又は署名が使用されている私文書の変造については、刑法159条2項に規定されており、法定刑は偽造の場合と同様に3月以上5年以下の懲役です。

印章又は署名が使用されていない私文書の偽造・変造については、刑法159条3項に規定されており、法定刑は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。

(3)偽造文書行使罪

偽造文書の行使については、偽造と同じ刑罰を科すと規定されています(公文書につき刑法158条1項、私文書につき刑法161条1項)。

(4)詐欺罪

偽造した学生証を本物と偽って提示し、誤信した相手から財物の交付やサービスを受けた場合に成立する可能性があります。
学割サービスを受けた場合も対象となります。刑法246条に規定されており、法定刑は10年以下の懲役です。

4、学生証の偽造で逮捕されたらどうなる?

学生証の偽造で逮捕された場合、取調べ→起訴(または不起訴)→(起訴の場合)刑事裁判という流れになります。

(1)取り調べを受ける

逮捕されると、まずは警察官による取り調べを受け、逮捕時から48時間以内に検察官に送致(送検)されます。送検後は、検察官が被疑者(偽造した人、偽造した学生証を使用した人)を受け取った時から24時間以内に勾留請求するかどうかを判断します。

逮捕・勾留中は、職場・学校・家族といった外部との連絡が基本的にとれなくなり、無断欠勤・無断欠席となってしまう可能性があります。

当番弁護士または私選で呼んだ弁護士(弁護士には取調官を通じて連絡してもらうことが可能です)に、連絡をしてもらいたい人とその人の電話番号を伝え、連絡してもらうことはできますが、弁護士も連絡する際には身分を明かさないわけにはいかないので、事件の概要まで伝えなかったとしても、連絡した相手に不審なイメージを持たれる可能性があります。

(2)勾留されることもある

送検後、検察官は、取り調べを行った結果、継続して捜査を行う必要があり、かつ、釈放すると証拠を隠滅したり、被疑者が逃亡するおそれがあると判断した場合には、裁判官に対して被疑者の勾留を請求します。

裁判官がこの勾留請求について、被疑者の意見も聞いた上で勾留請求に理由があると判断した場合、被疑者は10日間勾留されることになり、身柄拘束が続きます。
10日間で捜査が終了しない場合には、さらに最大10日間、勾留期間が延長されることもあります。つまり、勾留期間は最大で20日間に及ぶことがあるのです。

勾留期間中、いつでも被疑者と留置施設で面会(接見といいます。)できるのは弁護士だけです。弁護士以外の方の接見も原則認められてはいますが(認められないケースもあります)、立ち会う警察官が横にいる状態での面会であることに加えて、1日当たり1回又は2回、1回あたり15分程度といった制限があります(警察署ごとに対応が異なるため確認が必要です)。
また、接見に行く場合は、事前に警察署に被疑者がいるかどうかの確認をしておかないと、現場検証や検察官の取調べ等で被疑者が不在で接見できない場合があるので注意が必要です。

(3)検察官が起訴・不起訴を決める

勾留期間の満了までに検察官は、当該事件について起訴・不起訴の判断をします。
罰金刑が規定されている犯罪の場合、略式起訴という正式な刑事裁判を経ずに罰金を支払って終わらせる方法となる可能性があります。
しかし、学生証の偽造で成立しうる犯罪では罰金刑が規定されていない犯罪が成立する可能性が高いため、起訴か不起訴のどちらかということになります。

不起訴の場合は、逮捕されたことが前歴にはなるものの、前科はつきません。また、勾留期間満了により釈放されます。

起訴された場合は、さらに起訴後勾留により身柄拘束が続くことも多く、その場合は原則として拘置所に移送されます。東京の場合、多くは東京拘置所(最寄り駅は東武伊勢崎線小菅駅です)に移送されることになります。

なお、起訴後は保釈の手続が可能になります。裁判所が保釈を認めた場合、保釈保証金を裁判所に納付することで、保釈されます。
保釈保証金は数百万円単位となることが多く、工面が難しい場合もあるかと思います。
工面が難しい場合には、手数料はかかりますが保釈支援協会のように保釈保証金を立て替えてくれる機関もあるので活用を検討するとよいでしょう。

(4)起訴されたら刑事裁判を受ける

起訴されると、刑事裁判を受けることになります(テレビドラマで見る裁判をイメージするとよいでしょう)。

刑事裁判は公開の法廷で、人定質問、起訴状の朗読、黙秘権告知、罪状認否、証人尋問、被告人質問、検察官による論告・求刑、最終弁論、最終陳述といったステップを踏んで判決に至ります。
これらの一連の流れは周防正行監督の「それでもボクはやってない」という映画が参考になります。

(5)退学処分や停学処分を受けることもある

刑事裁判で有罪判決を受けたり、あるいはその前段階の逮捕によって、偽造や行使の事実が明るみに出ると、学校から停学処分を下されたり、職場から懲戒処分を下される可能性もあります。

そのようなリスクがあるということも事前に認識しておく必要があります。

5、学生証の偽造・行使の罪に問われたときの対処法

実際に、学生証の偽造・行使の罪に問われた場合、どのような対処をすべきかについて説明していきます。

(1)反省し再犯しないことを誓う

偽造・行使の事実が間違いないのであれば、誓約書などを作成して、二度と同じ過ちを繰り返さないことを早い段階から警察官や検察官に伝えましょう。

(2)不利な調書には署名しない

警察官や検察官の取調べでは調書を作成します。調書には、偽造や行使の動機・目的、実際に行使したことによってどういった利益を得たのか等が記載されます。

調書は被疑者が話したことを警察官や検察官が整理して作成するものなので、ニュアンスが異なっていないか、話したことと違うことが記載されていないかについて確認が必要です。
調書は読み聞かされた後、署名することになりますので、その際、真実と異なる箇所がある場合は、署名を拒否するか、訂正を求めることが必要です。

ご自身の認識と異なる不利な調書に署名してしまうと、その調書が証拠として裁判所に提出され、必要以上に重い刑罰を科せられてしまう恐れがあります。
署名した調書を裁判が始まってからから撤回することは極めて困難ですので、注意しましょう。

(3)被害者がいる場合は示談する

単に学生証を偽造しただけでは、被害者と呼べる人は観念しにくいです。
もっとも、通常、行使する目的がなければ偽造・変造はしないでしょうし、偽造・変造しただけでは逮捕に至ることも少ないでしょう。何かしらに使用(行使)するからこそ逮捕に至っているはずです。
そうすると、被害者に対して謝罪をすること及び一定の金額をお支払いすることでの示談の成立を目指すことも重要です。

どのように被害者と接触すべきかどうかは、被害者の状況によってかわりますので、弁護士と相談しながら示談の成立を目指すのがよいでしょう

弁護士に相談することで適切な示談金額や内容を定めることができます。

示談成立が起訴前であれば、不起訴処分になる可能性が高くなりますし、起訴後であっても、執行猶予付き判決を得られる可能性が高くなります。

6、学生証の偽造で罪に問われたときは弁護士に相談を

今ご自身がどのような状況に置かれているか、今後どのような手続で裁かれることになるのか、今現在どのような対応をするのがベストなのか、というのは事案によって異なります。

弁護士に相談すれば、とるべき対応や示談の金額・内容などについて、全体を俯瞰した状況に応じた適切なアドバイスをうけることができ、不起訴や執行猶予付き判決を目指すことができます。

まとめ

学割を受けたいといった軽い気持ちで学生証を偽造し、これを使ってしまうことで様々な犯罪が成立する可能性があります。
そして、その影響は多方面に及びます。この記事を読んでまずは一歩踏みとどまることが大事です。
法を犯してしまった場合には、ご自身のベストな選択を誤らないためにも一度弁護士に相談するのがよいでしょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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