『取り込み詐欺』という言葉を知っていますか?
商品を後払いで購入して代金支払いを怠ると、詐欺の疑いをかけられることがあります。後払い自体は問題ありませんが、支払期限を守らないと刑事事件に発展し、詐欺罪で起訴される可能性も。
ただ、注文時に支払い意思があったけれども後で支払えなくなる場合は詐欺罪は成立しません。では、どのような場合に詐欺罪が成立し、取り込み詐欺として起訴される可能性があるのでしょうか。
今回は、
- 取り込み詐欺の定義とは?
- 個人による取り込み詐欺で注意が必要なケース
- 取り込み詐欺が刑事事件に発展した場合の対処法
などについて、弁護士がわかりやすく解説していきます。ご参考になれば幸いです。
詐欺罪で身内が逮捕されてしまった場合の手続き及び対処方法など詳しくは以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、取り込み詐欺とは
取り込み詐欺とは、商品を購入する際に後払いを選択し商品を受け取ったものの、購入代金を支払わず商品を騙し取るという手口の詐欺行為です。
個人が安価の商品を取り込み詐欺の手法で詐取することもあれば、企業が大口の取引で取り込み詐欺を行うこともあります。
よくある手口としては、最初に少額の取引を複数回行い、その際に代金を支払うことで相手の信頼を獲得した上で、大口の取引を持ちかけ代金を支払わないという手法が挙げられますが、一度の取引だったとしても、代金支払の意思なく注文を行えば詐欺行為に該当します。
少しでも売上を確保したい企業を狙い、意図的に商品の詐取を繰り返す人もいますが、この場合は複数の詐欺罪が成立する可能性があります。
詐取した商品はオークションサイトで転売したり、ディスカウントショップに流したりすることでお金に換える人が多いです。
そのため、家電製品、日用雑貨、食料品等換金性の高い商品を騙し取るケースが多くなっています。
2、取り込み詐欺は立派な犯罪!成立要件と刑罰は?
商品購入の際に後払いを選択し、意図的に代金を支払わず軽い気持ちで商品を詐取する人がいますが、取り込み詐欺は立派な犯罪であり、逮捕されることもあれば、起訴され有罪となることもあります。
ここからは取り込み詐欺で詐欺罪が成立する要件と詐欺罪の刑罰について解説します。
(1)取り込み詐欺で詐欺罪が成立する要件
論者によって、詐欺罪の構成要件(犯罪が成立する要件)の分類は一義的ではありませんが、一般的な詐欺罪の構成要件は、以下のとおりです(刑法第246条第1項)。
①欺罔行為
欺罔行為とは人を欺く行為、つまり騙す行為です。
また、当該騙す行為によって、被害者を錯誤に陥らせ、財産を処分させ、財産を受領することの認識や認容があるという詐欺の故意を有していることが必要です。
取り込み詐欺の事案では、代金を後払いする意思がないにもかかわらず、後払いする意思があると相手方を信じさせて商品を交付させようと考え、実際に商品購入を申し込む行為が欺罔行為になります。
他方で、注文当初は代金支払いの意思があったということであれば、詐欺の故意がないということになりますし、欺罔行為にも該当しないということになります。
②欺罔行為によって被害者が錯誤に陥る
欺罔行為によって被害者が錯誤に陥ること、すなわち事実と被害者の認識が一致しない状態になることが次の要件とされています。簡単にいえば、相手が実際に「騙された」ことが必要です。
取り込み詐欺では、通販サイトなどで後払いの注文を受けた売り手が、買い手が後払いしてくれると信用すれば、「欺罔行為によって被害者が錯誤に陥る」という要件を満たします。
③財産の交付(処分行為)および財産上の利益移転
欺罔行為によって被害者が錯誤に陥ることにより、被害者から加害者へ財産の交付(処分行為)および財産上の利益移転がなされることが構成要件とされています。
取り込み詐欺の場合は、通販サイトであれば商品の一連の発送行為が処分行為と考えられ、また、実際に商品が買い手の元に送付された時点で「財産の交付」が認められるものと思われます。
ただし、詐欺罪は未遂でも処罰される(刑法第250条)ので、欺罔行為後に、実際に財産が交付されなかった場合、例えば売り手が商品を送付する前に騙されたことに気付いた場合であっても、詐欺未遂罪として処罰される可能性があることに注意が必要です。
④因果関係
上記の3つの要件がそれぞれ因果関係でつながることも必要です。
つまり、欺罔行為により被害者が錯誤に陥り、錯誤に陥ったことで処分行為をし、財産上の利益が移転したというつながりが必要となります。
⑤不法領得の意思
窃盗罪や詐欺罪等の領得罪が成立するためには、詐欺の故意とは別に、不法領得の意思を有していることが必要となります。
不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い、これを利用し又は処分する意思をいいます。
取り込み詐欺の場合は、通販サイトであれば売主の商品に対する支配を排除し、自己の物のように商品を利用・処分する意思が必要となりますが、要は商品を自分で使ったり転売したりするつもりであれば、不法領得の意思を有するものと認められるでしょう。
以上の要件が詐欺罪の成立には必要です。
あなたが何らかの理由で代金を支払えず、取引相手から詐欺を疑われてしまった場合、特に問題となるのは、詐欺の故意に基づく欺罔行為があるか否かという点です。
取り込め詐欺は成立しないと主張するのであれば、注文時に代金支払いの意思があり、詐欺の故意も、それに基づく欺罔行為もないということを説明することが必要になります。
ただ、詐欺の故意を有して実際に欺罔行為を行った犯人の中には、商品を詐取したことが発覚してその旨追及されてしまったときに、刑事責任を免れようと、「最初は支払うつもりだったが借金の返済で支払うお金がなくなってしまった」「商品購入後に事業に失敗して支払いができなくなった」などと言い、罪を逃れようとする人がいますので、捜査機関に対し、故意や欺罔行為がないと説明しても、罪を逃れようとしているのではないかと疑いの目を向けてきます。
そのため、真実代金支払いの意思があったのだということを客観的な証拠に基づき説明する必要があります。
例えば、購入時には代金分の資力を有していたが、その後やむを得ない事情によってそれを失ってしまったことなどを証拠に基づき説明することになります。
他方、購入時に支払い能力がないにも関わらず商品購入をしている場合、そもそも支払うことができないことを認識して注文しているのですから、その後に資金を得られる予定があるなどの事情が無ければ、初めから支払い意思がなかったと考えるのが自然でしょう。
同様に、転売などで利益を得ているにもかかわらず、当該利益を代金支払いに充てていないのであれば、支払意思がないものと認められると思われます。
また、代金不払いを多数回繰り返しているのであれば、代金を支払う意思がないにもかかわらず意図的に後払いで商品を購入していると推測されるでしょう。
故意などの内面の事情をうまく捜査機関に説明するのは難しいですし、捜査機関としても客観的な証拠から内面を推測する操作を行うため、どのような客観的な証拠を準備するか検討することが必要となります。
証拠収集については、なかなか自身だけでは対応が難しいことも多いため、弁護士に相談することをお勧めします。
また、詐欺罪が成立しなくとも、代金支払いの義務が消えたわけではないですし、相手方に迷惑をかけていることは事実ですので、相手方にどのように対応するか検討する必要があります。
このような場合にも、弁護士が力になってくれるでしょう。
絶対に避けるべき対応としては、自身としては支払う意思が確実にあったにもかかわらず、捜査機関の威迫等により事実とは異なる供述、例えば支払う意思がなかったなどと供述してしまうことが挙げられます。
捜査機関としては、上記のような罪を逃れようとする犯人の刑事責任を追及しようと厳しい態度で取り調べを行うことがありますが、支払う意思が確実にあったのであれば、そう主張し続けなければなりません。
安易に認識と異なる供述をした場合、後でそれを訂正するのは困難ですし、それが原因で無実の罪で有罪判決を受けてしまう可能性もありますので、認識と異なる供述は絶対にしてはいけません。
あまりに捜査機関の態度が厳しい場合には、弁護士に入ってもらうことも検討する必要があります。
他方で、もし、支払意思なく注文してしまったとか、結果的に支払えないことが何となく予想できていたけれども注文してしまったなど、詐欺の故意(あるいは未必の故意)が認められる可能性が存在すると、罪の成立を争うことが難しい場合もあります。
この場合、後述するとおり、相手方への謝罪や賠償等をして許しを求めることが重要になりますが、このような被害者との話合いについても、自身のみで対応することが難しい場合が多く、弁護士に相談することをお勧めします。
(2)詐欺罪の刑罰
詐欺罪の刑罰は10年以下の懲役となっています(刑法246条)。
詐欺罪には罰金刑がないため、起訴されて有罪になれば、執行猶予が付かない限り懲役の実刑判決が下されます。
3、取り込み詐欺で起訴されやすいケース
(1)多数回、繰り返している
取り込み詐欺行為が多数回に及んでいる場合は悪質とみられ起訴される可能性が高まるでしょう。
(2)被害金額が大きい
安価なものを購入するのと高額のものを購入するのとでは、支払いをしなかったことによる被害者の被害の大きさが異なります。
被害が大きい場合には、犯行の態様が重大であるとして起訴される可能性が高まります。
4、取り込み詐欺で逮捕されたらどうなる?
取り込み詐欺でご自身やご家族が逮捕された場合、刑事事件の流れを確認しておくことが大切です。
逮捕されると48時間以内に検察官に送致され、送致から24時間以内に勾留の必要性について判断がなされます。
勾留が認められると10日間の身体拘束を受けることになり、勾留期間満了後、さらに最大で10日間勾留期間が延長されます。
検察官は、勾留期間内に起訴・不起訴あるいは処分保留で釈放する判断を行い、起訴された場合は被告人勾留として引き続き身体拘束を受けることもあります。
その場合、保釈が認められなければ刑事裁判を受けて無罪となるか、有罪の場合は執行有付き判決が言い渡されるまで身柄拘束が続きます。
そのため、まずは身柄を開放することが重要となります。
争うのか否かの方針を決める必要がありますが、争うのであれば、上記のように、注文当時に代金支払いの意思があったのだということを説明するための資料等を収集し、そもそも詐欺罪に該当しないため身柄解放しなければならないと主張することになるでしょう。
他方で、罪を認めるのであれば、被害者に対する謝罪や賠償等を行いまたはその予定を示すことで、逃げる意思や証拠を隠滅する意思はないのだから身柄解放すべきであると主張することになるでしょう。
5、取り込み詐欺で逮捕されたり、起訴されたりした場合にやるべきこと
詐欺罪の場合、罰金刑がありませんので、刑事裁判を受けて有罪となった場合は執行猶予が付かなければ懲役の実刑判決となります。
取り込み詐欺の態様が悪質だったり被害が大きかったりする場合、たとえ前科がなかったとしても実刑判決になる可能性があるので、取り込み詐欺で逮捕されたり起訴されたりした場合は早急に弁護士にアドバイスをもらいましょう。
この場合にも、方針によってとるべき手段は変わってきます。
争うのであれば、引き続き、注文当時に代金支払いの意思があったのだから詐欺罪が成立しないことを主張、説明して不起訴処分を求めていくことになります。
また詐欺罪が成立しないとしても、未払についてどう対応するか検討する必要があります。
他方で、詐欺行為を認めるのであれば、詐欺罪は初犯でも実刑判決が下される可能性があるため、まずは不起訴処分になるようにしっかりと対応していきましょう。
起訴されてしまった場合は、執行猶予付き判決を目指す等、少しでも処分を軽くするために活動する必要があります。
この場合、被害者との示談が成立していることが最重要となります。
被害者との間で示談が成立しているかどうかは、起訴・不起訴の判断や判決で下される刑罰の重さに影響しますので、少しでも処分が軽くなるよう、被害者との示談成立に向けて最善の策を取っていきましょう。
被害金額が大きい場合、交渉次第では分割払いでの示談に応じてもらえる可能性があります。
本来であれば、取り込み詐欺により詐取した商品の代金は相手に支払わなければならないのですから、誠意を持って被害金額の支払いをしていくことが大切です。
被害者の理解を得て、詐欺行為を行ってしまったことを宥恕して(許して)もらえれば、不起訴処分や執行猶予付き判決が得られる可能性が高まります。
6、取り込み詐欺が問題となってしまったら弁護士に相談を
取り込み詐欺が問題となってしまったら早急に弁護士に相談をしましょう。
特に、被害者から法的措置をとる旨の連絡がきている場合や逮捕されそうになっている場合は、早い段階で弁護士に相談し取るべき対策を検討していく必要があります。
逮捕されると身柄を拘束されてしまい自由に動くことができなくなるので、できる限り逮捕前に弁護士に相談をするようにしましょう。
弁護士に相談をすれば、方針の検討や、当該方針に基づき実際に取るべき対応についてのアドバイスをもらうことができます。
また、弁護士に依頼をすれば示談交渉をしてもらえたり身柄拘束後の保釈請求や弁護活動をしてもらったりすることもできます。
まずは一度弁護士にご相談ください。
取り込み詐欺に関してのQ&A
Q1.取り込み詐欺とは?
商品を購入する際に後払いを選択し商品を受け取ったものの、購入代金を支払わず商品を騙し取るという手口の詐欺行為です。
Q2.取り込み詐欺で詐欺罪が成立する要件は?
- 欺罔行為
- 欺罔行為によって被害者が錯誤に陥る
- 財産の交付(処分行為)および財産上の利益移転
- 因果関係
- 不法領得の意思
以上の要件が詐欺罪の成立には必要です。
Q3.取り込み詐欺で逮捕されたらどうなる?
逮捕されると48時間以内に検察官に送致され、送致から24時間以内に勾留の必要性について判断がなされます。
勾留が認められると10日間の身体拘束を受けることになり、勾留期間満了後、さらに最大で10日間勾留期間が延長されます。
検察官は、勾留期間内に起訴・不起訴あるいは処分保留で釈放する判断を行い、起訴された場合は被告人勾留として引き続き身体拘束を受けることもあります。
その場合、保釈が認められなければ刑事裁判を受けて無罪となるか、有罪の場合は執行有付き判決が言い渡されるまで身柄拘束が続きます。
まとめ
罪の成立を否認したり、認めて示談交渉をしたり、刑事手続きにおいて個人で的確に対応することは困難であるケースがほとんどです。
まずは弁護士にご相談いただき、解決方法を一緒に考えていきましょう。