刑事裁判における尋問とは、裁判所に証人として呼び出され、実際に法廷に出頭し、弁護人・検察官・裁判官の前で自分の証言を述べる手続きを指します。
この証言は犯罪事実の有無や量刑に関わります。もし被告人の親族や友人・知人として証言を求められる場合、以下の3つを押さえておくことが重要です。
- 尋問される意味を理解する
- 尋問の流れ(主尋問→反対尋問→再主尋問)を知る
- 反対尋問対策や当日の心構えをしっかり整理する
本記事では、これらのポイントを詳しく解説していきます。証人としての責任を理解し、落ち着いて証言するために必要な情報をお伝えします。
目次
1、尋問とは?
尋問とは、訴訟手続での「証拠調べ」で人に証言してもらう必要がある時に、その人に対して弁護人や検察官、裁判官等が質問し回答してもらう手続きを指します。刑事事件での尋問のイメージをはっきりとさせるため、概要をここで解説します。
(1)尋問が行われるタイミング
刑事裁判では、検察官が「証拠調べ」の最初に、冒頭陳述にて、証拠を調べることで証明しようとする事実(=犯罪)を述べ、その後に証拠請求をします。証拠調べでは「物証」「書証」「人証」の3つが調べられますが、このうちの人証が尋問によって取り調べられます。
ここで言う人証とは、事件の関係者や目撃者、それに被告人の家族等の証言を指しています。証人が証言するには、弁護人や検察官、裁判官から質問を行わなくてはなりません。このようにして質問し答え(=証言)を得る手続きを「尋問」といいます。
(2)尋問の意義
刑事事件での尋問の手続きは、刑事裁判の基本理念である「口頭主義」と「直接主義」に沿って定められています。上記用語の意味は以下の通りです。
①口頭主義
訴訟資料は口頭で提出し、これに基づいて裁判所は判断しなければならないとする主義です。
②直接主義
裁判所が判決する時は、自ら直接取り調べた証拠に基づかなくてはならないとする主義です。
つまり、法廷に証人を招いて証言してもらう手続きで「口頭主義」、これを裁判所が取り調べる手続きで「直接主義」が達成されます。このようにして、犯罪を取り巻く証拠が集められ、公正な裁判が実現するのです。
(3)証人尋問の目的
証人尋問の目的は、犯罪の事実だけでなく、その事実を取り巻く状況にあたる「犯情」を明らかにすることにあります。ここでいう犯情は、処分や量刑をどうすべきかを判断する時の大切な要素です。
犯情を構成する主だった要素は、犯行自体の経緯(動機や犯行態様、犯行前後の状況等)ですが、それ以外の被告人の事情も「一般情状」といわれ、量刑を決める際に考慮されます。被告人に対する寛大な処分を願う家族や友人・知人の立場としては、最も意識的に伝えたい事項ではないでしょうか。
★一般情状に含まれる要素(犯行自体の要素ではないもの)
- 被告人の生い立ち、性格
- 人間関係、職業関係、家族関係
- 被害者の状況、被害の回復状況、弁償状況、被害感情
- 被告人の後悔や反省の状況
- 被告人の身柄引受や監督の状況
2、刑事裁判における証人尋問の流れ
刑事裁判の証人尋問は、事前の手続きを終えてから主尋問→反対尋問→再主尋問の順で進みます。尋問のルールは刑事訴訟規則に定められており、そのルールに則って行われるので、度を越えて精神的負荷の大きい質問をされることはないでしょう。
弁護人の請求で被告人の家族が呼ばれ、法廷の証言台に立つケースを考えてみましょう。
▼刑事裁判における証人尋問の流れ(イメージ)
- 裁判所に到着したら、証言のための書類上の手続きをする
- 呼ばれるまで傍聴席や待合室で待機
- 法廷に入り証言台の前に立ち、宣誓してから弁護人の質問に答える(主尋問)
- 続いて、検察官の質問に答える(反対尋問)
- 続いて、再度弁護人の質問に答える(再主尋問)
- 最後に、裁判官からの質問に答える(補充尋問)
(1)尋問前の手続き
証人尋問が始まる前、裁判所に出頭した段階では書類上の手続きがあります。基本的には、証人呼び出状を提出するか証人出頭カードに必要事項を書き、続いて「宣誓書」に署名捺印します。
この宣誓書へのサインは刑事訴訟法第154条に定める必要な手続きで、証人や刑事裁判の行く末にとっても重要なものです。まずは一般的な宣誓書の文面を確認しましょう。
①宣誓書の文面(例)
良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。
この宣誓に反する証言をすると、偽証罪(刑法第169条)によって3か月以上10年以下の懲役に処せられることがあります。この意味を受け止め、証人として証言する手続きに入らなくてはなりません。
(2)主尋問
刑事裁判には決まった進行手順があります。証人は尋問前の手続きを終えた後、しばらくは傍聴席や証人待合室で待機した後、裁判長から呼ばれたら法廷の柵の中に入ります。証言台の前に立ち宣誓すると、証人の尋問を請求した人から質問されます。質問の内容は、立証すべき事項及びその関連事項、必要に応じて証人の供述の証明力を争うための事項です。これを「主尋問」と言います(規則第199条の3)。
請求者が弁護人なら、加害者(=被告人)の家族や友人・知人として、なるべく被告人が有利になる証言をするのが一般的です。
(3)反対尋問
主尋問が終われば、刑事裁判のもう一方の当事者から質問されます。内容は、主尋問に現れた事項およびこれに関連する事項、そして証人の供述の証明力を争うための必要事項です。これを「反対尋問」と言います(規則第199条の4)。
弁護人の請求により証言台に立った被告人の家族や友人知人なら、検察官から反対尋問を受けることになります。ここで被告人の普段の暮らしぶり等について、厳しい質問が飛び交ったり、必要な範囲で誘導尋問(規則第199条の4第3項)されたりする可能性があります。しっかりした準備がないと精神的にきつい場面となるでしょう。
(4)再主尋問
反対尋問が終わると、再び証人尋問を請求した人から質問があります。これを「再主尋問」と言います(規則第199条の7)。質問の内容は、反対尋問に現れた事項とその関連事項となり、ルールは主尋問のそれと同じです。
弁護人側の証言者として、反対尋問で検察官の質問にたじろいで不利になりそうなことを言ってしまった場合、ここでフォローが入るでしょう。
(5)補充尋問・追加の質問
以上のように再主尋問までの流れが終わると、裁判長の許可を得て、弁護人や検察官から更に尋問される場合があります(第199条の2第2項)。最後に、裁判長や陪席の裁判官より、情報を補充する形で質問する「補充尋問」が行われます(規則第199条の8)。
3、証人尋問について知っておくべき3つの注意点
証人尋問の規則上、いざ法廷に立ってみると予想以上に厳しい状況に立たされるかもしれません。
証言や尋問手続きで許されることのうち、注意点として理解しておきたい部分を3つ挙げます。
(1)主尋問・再主尋問は誘導尋問が禁止される
主尋問や再主尋問では、誘導尋問と呼ばれる「質問者の求める答えを引き出すための質問」が行えません(規則第199条の3第3項)。わかりやすくいうと、「はい」か「いいえ」で答えられるような質問は規則で禁じられているのです。例えば、「(弁護人)被告人は優しい性格をしているのですね?」「(証人)はい」といった問答は誘導尋問に当たります。
弁護側証人としては弁護人の質問に答えるしかないのですが、有益な証言をするためには事前に弁護人と十分に打ち合わせを行うことが重要となります。
例外は以下の場合で、書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼす恐れさえなければ、誘導尋問が認められます(同第3項・第4項)。
★例外的に誘導尋問が認められる
- 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先だって明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき
- 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき
- 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき
- 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき
- 証人が証言を避けようとする事項に関するとき
- 証人が前の供述と相反するか又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき
- その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき
(2)証言拒否は原則として不可
証人として呼ばれた人は、正当な理由なく証言を拒否すると10万円以下の過料に処された上でその拒絶により生じた費用の賠償を命ぜられます(刑訴法第160条)。「黙秘権」は被告人に認められた権利であり、証人には認められていないことに注意が必要です。
例外的に証言を拒めることもありますが、同第146条及び第147条にある下記のケースだけです。
★拒否できる証言の種類
- 自己が刑事訴追を受け、または有罪判決を受ける不安のある証言
- 一定の親族※が刑事訴追を受け、または有罪判決を受ける不安のある証言
※一定の親族とは
- 自己の配偶者
- 自己の三親等以内の血族
- 自己の二親等以内の姻族
- かつて上記①~③の親族関係があった人
- 自己の後見人、後見監督人、保佐人
- 自己が後見人または後見監督人、あるいは保佐人を務めている人
(3)こちらの証言の信用性を弾劾するための尋問で、答えに窮することも
尋問では「証人の供述の証明力を争うために必要な事項」を質問できると解説しましたが、このように、相手の供述の証明力を争うことを「弾劾」といいます。記憶は本当に確かか、偏見や利害関係に基づく擁護がないか……等といったことを確かめる質問が行われる可能性があるのです。弁護人の請求で証言台に立つ場合、検察官が準備している資料に基づいて質問され、答えに窮することがあるかもしれません。
★弾劾尋問の内容(規則第199条の6)
- 証人の観察、記憶または表現の正確性等、証言の信用性に関する事項
- 証人の利害関係・偏見・余談等、証人の信用性に関する事項
4、証人尋問で望む効果を上げるための5つのコツ
証人尋問は基本的にフォローの入らない孤独な場面になるため、その場の雰囲気にのまれて、下手なことを言ってしまい、「被告人のために寛大な処分を」と願う気持ちに反する結果となるかもしれません。望む効果を上げるために、次の心構えで当日を迎えましょう。
(1)質問には簡潔・明快に答える
裁判所で飛び交う質問には、どれに対しても簡潔・明快に答えましょう。基本的には①言いたいことの結論(反対尋問ならYESかNO)→②理由の順にすると良いでしょう。
長々と前置きしてから話し出すと、質問者が混乱して伝えたいことが伝わらなかったり、曲解されたりする可能性があります。
(2)素直に「知らない・分からない」と言う
真面目な人はどんな質問にも答えようとしますが、証人尋問では「知らない・分からない」とはっきり言ってしまっても構いません。本当に知らなかったり分からなかったりすることに対して、想像や偏見、あるいは推測で答える方が、かえって不利になります。
(3)決して嘘をつかない
偽証罪に問われる可能性を踏まえると当然ですが、決して嘘はつかないことが大切です。見聞きした事実、思ったことはそのまま伝えるようにしましょう。
嘘まで行かずとも、下手に答えをオブラートに包んだりすると、後から弾劾されて、かえって不利になってしまいます。
(4)感情的にならない
反対尋問では、しばしば証人の考えとは違うことを指摘され、挑発されます。大切なのは、感情的にならないこと、そして挑発に乗らないことです。ムッとした気持ちに駆られて話した内容は、事実を無意識に誇張した内容等になりがちで、たいていは不利に働きやすいものです。
(5)事前に弁護人と十分に打ち合わせる
刑事裁判で弁護人の請求による証人となる場合、事前の反対尋問対策が非常に重要です。検察官が何を言ってきそうか、犯情を有利にするためにどんな考えや体験を伝えればいいのか、あらゆる可能性を想定しなければなりません。
これらの対応は、刑事事件の弁護活動が豊富な弁護士でないとできません。被告人に寛大な処分を期待する側として証言台に立つ場合、弁護人を交えて十分な打ち合わせをしておきましょう。
5、検察側証人として呼ばれた場合も弁護士に相談を
事案によっては、被告人を支援する立場にいる人も、検察官側の証人として呼ばれることがあります。この場合に検察官が期待しているのは、犯罪事実の証拠となったり、求刑どおりの判決が下ったりしそうな証言です。したがって、弁護人の請求で証言台に立つ時と同じく、慎重に事前対策しておかなくてはなりません。
結論として、弁護人と検察官のどちらが尋問を請求したケースでも、証人として裁判所に行くなら弁護士との十分な打ち合わせ・話し合いをするようおすすめします。
尋問に関するQ&A
Q1.尋問とは?とは?
尋問とは、訴訟手続での「証拠調べ」で人に証言してもらう必要がある時に、その人に対して弁護人や検察官、裁判官等が質問し回答してもらう手続きを指します。
Q2.尋問が行われるタイミングとは?
刑事裁判では、検察官が「証拠調べ」の最初に、冒頭陳述にて、証拠を調べることで証明しようとする事実(=犯罪)を述べ、その後に証拠請求をします。証拠調べでは「物証」「書証」「人証」の3つが調べられますが、このうちの人証が尋問によって取り調べられます。
Q3.刑事裁判における証人尋問の流れとは?
- 尋問前の手続き
- 主尋問
- 反対尋問
- 再主尋問
- 補充尋問・追加の質問
まとめ
刑事事件の尋問(=証人尋問)は、被告人にとって有利・不利に関わらず、犯罪事実や犯情や一般情状に関する事実を集めて裁判所が判決を下すための材料にしようとするものです。弁護側の証人として寛大な処分を期待する親族等向けに、証人としての注意点や当日のコツを要約すると、次のようになります。
いずれも私選弁護人であれば、懇切丁寧に支援してくれます。被告人とその周囲の人の今後を決めてしまう一場面であるため、自力で何とかしようとせず、弁護士の力を借りるようにしましょう。
- 弁護人に証言を誘導してもらうのは不可
- 質問に対する答えは簡潔明快に、結論→理由の順がベスト
- 知らないこと・分からないことを想像で答えない
- 嘘をつかない、感情的にならない
- 事前の打ち合わせ(反対尋問対策や心の準備)をしっかりやる