300日問題とは、離婚後300日以内に出生した子どもが、実際には母親の元夫の子ではなくても、戸籍上は元夫の子であるとされてしまうという問題のことです。
我が子を元夫の子にしたくないと考える母親が出生届を提出せず、無戸籍児が発生しているという問題もあります。
離婚後300日以内に元夫とは異なる別の男性との子どもを出産した女性にとって、300日問題は非常に由々しき問題です。
民法に「嫡出推定」という規定があるためにこのような問題が起こっているのですが、実は、現行民法のもとでも、離婚後300日以内に出産した子の父親を正しく届け出ることは可能です。
今回は、
- 離婚後300日問題とは
- 離婚後300日問題の解決策
- 離婚後300日問題で無料相談を利用できる窓口
などを中心に、ベリーベスト法律事務所の弁護士が300日問題について詳しく解説していきます。
この記事が、300日問題に直面して頭を抱えている方の手助けとなれば幸いです。
1、離婚後300日問題とは?
離婚後300日問題とは、冒頭でもお伝えしたとおり、離婚後300日以内に出生した子どもについて、実の父親とは違う男性が戸籍上の父親となってしまうという問題のことです。
この問題について、民法の規定を紹介しながら分かりやすく解説します。
(1)離婚後300日以内に生まれた子は元夫との子と推定される
出生した子どもの母親が誰であるのかは、出産した事実によって明らかとなります。しかし、父親が誰であるのかは判明しません。
そこで、民法第772条で以下のように定められています。
- 婚姻中に妻が妊娠した子どもは夫の子どもでもあると推定する
- 婚姻後200日以降、または離婚後300日以内に生まれた子は、婚姻中に妊娠したものと推定する
この2つの規定により、離婚後300日以内に生まれた子は元夫の子であると推定され、戸籍には元夫が父親として記載されるのです。
このことを「嫡出推定」といいます。
「推定する」とは、明確ではない事実であっても、それに反する事実が証明されない限り真実として取り扱うといった意味です。したがって、元夫との子ではないという事実を証明できる場合は、推定を覆して実の父親を戸籍に記載してもらうことが可能です。
(2)「離婚後300日」の計算方法
「離婚後300日」は、法律上の離婚が成立した日から計算して300日後までの期間となります。
例えば、4月1日に離婚が成立したとすれば、その日から300日後の12月6日まで、嫡出推定が及びます。
300日と定められたのは、妊娠してから出産するまでには10ヶ月(300日)程度かかると考えられていたことによります。
しかし、実際には280日(40週)程度で出産に至ることが平均的となっています。そのため、離婚成立後に別の男性との子を妊娠し、300日以内に出産する可能性もあります。
また、離婚成立前に夫婦が別居して妻が別の男性との子を妊娠し、離婚後300日以内に出産するケースも数多くあります。
これらのケースでは、離婚後300日問題に直面することになります。
(3)子どもを無戸籍とする場合のリスク
離婚後300日以内に生まれた子どもを元夫との子にしない母親が出生届を提出しない場合、子どもは無戸籍となり、重大な問題が生じます。
無戸籍の子は健康保険証を取得できず、医療費が全額自己負担になり、学校に通わせるのも難しくなります。
さらに、行政サービスの利用や銀行口座、携帯電話の契約、運転免許、結婚、就職、選挙権など多くの面で制約が生じます。子どものまっとうな人生を確保するために、離婚後300日問題を解決する必要があります。
2、離婚後300日問題の解決策~子の父親を正しく届け出る方法
離婚後300日問題に直面しても、以下の方法によって解決できます。
子どもを元夫との子にしないだけでなく、実の父親を戸籍に記載してもらうことも可能です。
(1)医師の証明書を提出する
最も容易にできる解決策は、出生届を提出する際に、医師が発行した「懐胎時期に関する証明書」を添付することです。
「懐胎時期に関する証明書」とは、推定される懐胎の時期や、その時期を算出した根拠などを医師が診断し、記載した書面のことです。
この証明書の記載により、離婚成立よりも後に妊娠したことが証明されると、「嫡出の推定」が及ばなくなるので、実の父親を戸籍上の父親とする出生届が可能となります。
ただし、子の身分事項の欄には「民法第772条の推定が及ばない」との旨が記載されることにはご注意ください。
なお、夫婦が別居を開始した後でも、離婚成立前に妊娠した可能性がある場合には、この方法で解決することはできません。
また、いったん元夫との子として記載された戸籍を訂正する場合も、(2)以降でご説明する裁判所の手続きが必要となります。
(2)元夫から嫡出否認調停を申し立ててもらう
「嫡出推定」を覆して離婚後300日問題を解決する方法は、他にもあります。
父親として推定される元夫に嫡出否認をしてもらい、実の父親が子どもを認知すれば、実の父親を戸籍上の父親として記載してもらえます。
元夫は、子どもが嫡出であること(自分の子であること)を否認することができます(民法第774条)。そこで、元夫から嫡出否認の訴え(同法第775条)を起こしてもらいます。
具体的には、まずは家庭裁判所に「嫡出否認調停」を申し立ててもらうことになります。
なお、嫡出否認の訴えは、元夫が子どもの出生を知ったときから1年以内に起こしてもらう必要があることに注意が必要です(同法第777条)。
この期間内に元夫の協力が得られない場合は、(3)以降の方法による必要があります。
家庭裁判所の手続きで嫡出が否認された後は、実の父親に子どもを認知してもらいましょう。
任意に認知してもらえる場合は、認知届を役所に提出するだけで足ります。実の父親の協力が得られない場合は、「認知調停」または「認知の訴え」という裁判所の手続きを行う必要があります。
(3)元夫に対して親子関係不存在確認調停を申し立てる
嫡出と推定されない場合には、こちらから家庭裁判所に「親子関係不存在確認調停」を申し立てることができます。
子どもが元夫の子ではないことについて、当事者同士が合意できれば、DNA鑑定などの調査を経た上で、合意に従った審判によって親子関係が存在しないことが認められます。
つまり、嫡出が否認されることになります。
ただし、たとえ当事者同士が合意した場合でも、原則としてDNA鑑定は必要とされているので、原則として元夫が調停に出頭しない場合には手続きを進めることができません。
3、離婚後300日問題を無料で相談できる窓口
離婚後300日問題を解決する方法は前記「2」でご紹介しましたが、実際に問題に直面すると戸惑ってしまうこともあるでしょう。
そんなときは、一人で抱え込まず、しかるべき機関に相談することをおすすめします。
ここでは、離婚後300日問題について無料で相談できる窓口をご紹介します。
(1)法務局
全国の法務局・地方法務局、その支局では、無戸籍の人に関する戸籍の手続きや、戸籍の訂正手続きなどについての相談を受け付けています。
最寄りの法務局に出向くか、以下の番号に電話してみるとよいでしょう。
電話番号:0570-003-110(みんなの人権110番)
受付時間:平日午前8時30分~午後5時15分
(2)弁護士会
全国の弁護士会に設置されている「法律相談センター」では、随時、法律相談を受け付けています。
もちろん、離婚後300日問題についても相談できます。
相談は原則として有料ですが、定期的に無料相談会も開催しているので、最寄りの弁護士会でご確認の上、予約を取るようにしましょう。
(3)法テラス
全国の法テラスでも、弁護士の法律相談を利用することができます。
法テラスでは「民事法律扶助制度」を実施しており、収入や資産が一定の基準以下の方は無料で弁護士に相談できます。
原則として予約制となっているので、最寄りの法テラスでご確認の上、予約を取りましょう。
(4)法律事務所
弁護士の法律相談は、個別の法律事務所に直接申し込むこともできます。
弁護士会や法テラスでは、原則として弁護士を選ぶことはできません。
その点、離婚問題や女性の問題の解決実績が豊富な弁護士が所属している法律事務所を探して相談すれば、より有益なアドバイスが得られることでしょう。
弁護士の実績については、インターネットで「弁護士」「法律事務所」などを検索して調べてみることをおすすめします。
相談は原則として有料ですが、無料相談を受け付けている事務所もあるので、検索して探してみるとよいでしょう。
4、離婚後300日問題で弁護士に相談・依頼するメリット
離婚後300日問題に直面して困ったときは、弁護士に相談・依頼することが解決への早道となります。具体的には、以下のメリットが得られます。
(1)最適な解決方法をアドバイスしてもらえる
離婚後300日問題の解決方法は、前記「2」でご説明したように4種類あります。
しかし、実際に問題に直面した方にとっては、どの方法がよいのか、手続きをどのように進めればよいのかなど、分からないことも多いことでしょう。
そんなときは、弁護士に相談するだけでも、状況に応じて最適な解決方法をアドバイスしてもらえます。
一人で悩んでいるだけでは、子どもの無戸籍問題などで悩み続けることにもなりかねません。弁護士の知恵を借りることで、具体的な解決策をとりやすくなります。
(2)元夫への対応を代わりに行ってもらえる
離婚後300日問題を解決するために裁判所の手続きを利用する際には、元夫の協力を要する場合もあります。
しかし、元夫の協力を得ることが難しい場合もあるでしょうし、そもそも元夫と連絡を取りたくないという場合も多いことでしょう。
弁護士は、依頼を受ければ代理人として元夫への対応を代行してくれます。
あなた自身は元夫と直接のやりとりをすることなく、裁判所の手続きを進めることが可能となります。
元夫が協力を渋る場合も、弁護士を相手にすれば、説得に応じて協力してくれる可能性が高まります。
(3)複雑な法的手続きを任せることができる
前記「2」では、「嫡出否認の訴え」、「親子関係不存在確認調停」、「認知調停」などの法的手続きをご紹介しましたが、いずれも、少し複雑な手続きとなっています。
一般の方が自分で手続きを進めるためには、多大な労力と時間を要することが多いですし、手続きに失敗してしまうおそれもあります。
弁護士は複雑な法的手続きもすべて代行してくれますので、一度の手続きでスムーズに問題を解決することが期待できます。
まとめ
現行民法のもとでは、離婚後300日以内に生まれた子どもは、元夫の子であると推定されてしまいます。
この推定を覆し、実の父親を戸籍上の父親とするためには、何らかの特別な手続きが必要となります。
安心して子どもを育てていくためには、スムーズに戸籍上の問題を解消したいところでしょう。
そのためには、弁護士の力を活用することをおすすめします。
離婚後300日問題に直面した方は、まずは弁護士の無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。