離婚後の収入に不安を感じる方々にとって、年金分割は心強い制度です。
今回は、年金分割について詳しく解説し、手続きに必要な書類やステップについて明確に説明します。
目次
1、離婚時に行う年金分割とは
年金分割とは、婚姻中に納めた年金保険を分け合って、それぞれ自分の年金とすることができるという制度です。年金分割ができるのは、いわゆる「法律婚」の場合に限られず、事実婚関係にあった期間の年金を分割することもできます。
ここで注意しなければならないのは、年金分割は、将来受給する年金の額を分け合うのではないということです。
例えば、婚姻中に夫だけが働いて給与を得て、妻が専業主婦として夫を支えていたという場合、年金分割の手続きを行うことで、妻は夫が納めていた年金保険料の記録のうち分割分を含めて年金額を計算することになります。
年金分割には、当事者の合意が必要な「合意分割」と、合意が不要の「3号分割」の2種類があります。
(1)合意分割
合意分割とは、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する制度です。合意分割では、当事者の合意により分割割合を決めることができます。
合意分割は、次の条件すべてを満たす場合に可能です。
- 当事者2人の合意(または裁判手続き)により年金分割の割合を定めている
- 離婚した日の翌日から2年を経過していない
(2)3号分割
3号分割とは、2008年(平成20年)4月1日以後の3号被保険者期間の厚生年金記録を2分の1ずつ分割する制度です。3号被保険者とは、厚生年金加入者に扶養されている配偶者(年収130万円未満)のことです。
3号分割は、次の条件すべてを満たす場合に可能です。
- 2008年(平成20年)4月1日以後に、一方に第3号被保険者期間がある
- 離婚した日の翌日から2年を経過していない
3号分割は、当事者同士の合意は不要で、3号被保険者であった人が単独で手続きをすることができます。3号分割をすることを相手に言っておく必要もありません。分割する割合は2分の1ずつと決まっていて、当事者が割合を決めることはできません。なお、2008年3月31日以前の分については、3号分割することはできず、合意分割の対象になります。
2、年金分割できる年金とできない年金について
年金といってもさまざまな種類がありますが、年金分割できない年金も多いことに注意が必要です。
(1)年金分割できる年金
年金分割の対象にできるのは、厚生年金と旧共済年金(平成27年10月に共済年金は厚生年金に一元化されています)のみです。
(2)年金分割できない年金
次の年金は、いずれも年金分割できないことに注意が必要です。
①国民年金
②国民年金基金
③厚生年金基金の上乗せ給付部分(付加部分・加算部分)
④確定給付企業年金
⑤401k、企業型DCなどの確定拠出年金(企業型)
⑥iDeCoなどの確定拠出年金(個人型)
⑦民間の年金保険
(3)【事例】夫が自営業で国民年金のみ支払っていた場合
婚姻中に夫婦で自営業を営んでいた場合は、夫婦ともに1号被保険者として国民年金のみを払っていたことになります。この場合は、厚生年金の加入期間がないため、離婚に際して年金分割をすることはできません。
3、年金分割手続きに必要な書類について
年金分割をするには、まず必要な書類を集める必要があります。ここでは、年金分割手続きに必要な書類について説明します。
(1)合意分割に必要な書類
合意分割に必要な書類には、以下の7つがあります。
①標準報酬改定請求書
標準報酬改定請求書(以下、「請求書」と言います)を入手して、「請求する年金分割の種類」の欄の「合意分割」に○をつけて、必要事項を記入します。
標準報酬改定請求書は、日本年金機構のホームページから書式をダウンロードできます。また、同サイトで記入例も見ることができます。
②マイナンバーカード等(請求書にマイナンバーを記入したとき)
請求書にマイナンバーを記入したときは、マイナンバーカード等のマイナンバーがわかる書類が必要です。
③年金手帳または基礎年金番号通知書(請求書に基礎年金番号を記入したとき)
請求書に基礎年金番号を記入したときは、年金手帳または基礎年金番号通知書等の基礎年金番号がわかる書類が必要です。
④婚姻期間を明らかにできる戸籍謄本等
婚姻期間を明らかにできる書類が必要になります。具体的には、戸籍謄本・戸籍抄本・戸籍の全部事項証明書・戸籍の個人事項証明書などのいずれかが必要です。事実婚関係にある期間の合意分割を請求する場合には、住民票等の事実婚関係にある期間を明らかにできる書類が必要になります。
戸籍謄本等は本籍地の役所等で、住民票はお住まいの自治体の役所等で取得できます。郵送で取り寄せることもできます(詳細は各自治体のホームページ等でご確認ください)。
⑤請求日から1ヶ月以内に作成された戸籍謄本等
年金分割手続きをする2人の生存を証明する書類として、請求日から1ヶ月以内に作成された戸籍謄本・戸籍の全部事項証明書・戸籍の個人事項証明書などを提出する必要があります。この書類は請求書にマイナンバーを記入することで省略できます。
⑥年金分割を明らかにできる書類
話し合いにより按分割合を定めた場合には、次のいずれか1つの書類が必要になります。
- 年金分割の合意書(署名した合意書を2人で直接持参または2人の代理人が直接持参する)
- 公正証書の謄本・抄録謄本
- 公証人の認証を受けた私署証書
裁判所の手続きで按分割合を定めた場合は、次のいずれか1つの書類が必要になります。この書類がある場合は、合意分割であっても例外的に2人のうちの一方だけで手続きをすることもできます。
- 審判書・判決書の謄本または抄本と、その確定証明書(審判または判決の場合)
- 調停調書・和解調書(調停または和解の場合)
なお、「年金分割の合意書」は、日本年金機構のホームページから書式をダウンロードできます。
⑦年金分割を請求する人の本人確認ができる書類
年金分割を請求する人の本人確認ができる書類が必要です。具体的には、運転免許証・パスポート・マイナンバーカード・印鑑登録証明書などのいずれかが必要です。また、代理人が請求する場合は、代理人の本人確認ができる書類と委任状(年金分割の合意書請求用)に押された印鑑の印鑑登録証明書が必要です。
(2)3号分割に必要な書類
上記(1)の合意分割に必要な書類のうち⑥を除くものは、3号分割の場合にも必要です。なお、①の標準報酬改定請求書は、「請求する年金分割の種類」の欄の「3号分割」に○をつけます。
3号分割は、3号被保険者であった人が1人で手続きをすることができます。
4、【合意・3号】年金分割手続きを簡単に3ステップで解説!
ここでは、年金分割の手続きを3ステップに分けて解説します。
(1)合意分割の手続き方法
ここでは、話し合いによって合意できた場合の手続きについて解説しています。話し合いで合意できない場合には、家庭裁判所の手続手続きを経て合意分割をすることができます。この場合、手続きが複雑になったり、手続き完了までに時間がかかったりするため、弁護士に手続きを依頼することをおすすめします。
①情報通知書を請求する
まず、「情報通知書」を請求して、年金分割のために必要な情報を入手します。情報通知書は、離婚の前でも後でも請求でき、2人ででも1人ででも請求できます。
「年金分割のための情報提供請求書」に必要事項を記入して、以下の書類を添えて年金事務所に提出します。「年金分割のための情報提供請求書」は、日本年金機構のホームページから書式をダウンロードできます。
- 請求者の年金手帳または基礎年金番号通知書
- 婚姻期間がわかる戸籍謄本等
合意分割であっても、年金分割の割合(按分割合)は法律で定める範囲内になるように決めなければいけません。情報通知書を請求することで、年金分割の範囲・分割の対象となる期間等を知ることができます。また、次の方は、情報通知書を請求することで、年金分割時の年金見込額の試算がわかります。
- 50歳以上の方で老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている方は、老齢厚生年金の見込額
- 障害厚生年金を受けている方は、障害厚生年金の見込額
②年金分割の請求手続き
年金事務所に対して「標準報酬改定請求書」に上記(1)の書類を添付して請求します。
合意分割は、次の2点についての合意が必要です。
- 年金分割の請求をすること
- 年金分割の割合(按分割合)
話し合いによって合意ができなかった場合には、一方が家庭裁判所に審判・調停の手続きを申し立てて按分割合を定めることができます。また、離婚訴訟の附帯処分として按分割合を定めることもできます。
年金分割の請求は、離婚後に行うことができます。年金分割を請求できるのは、離婚をした日の翌日から2年以内です。
③標準報酬改定通知書を受け取る
年金分割が請求されると、日本年金機構は按分割合に基づいて厚生年金の標準報酬を改定して、改正後の標準報酬を通知します。婚姻期間中に共済加入期間がある場合は、共済組合等からも改訂後の通知が届きます。
(2)3号分割の手続き方法
3号分割の場合も、手続きの流れは合意分割と変わりません。大きな違いは、2人で手続きをする必要がないことと、按分割合が2分の1ずつと定められていることの2点です。
①情報通知書を請求する
このステップは、合意分割の場合と同じです。
②年金分割の請求手続き
年金事務所に対して「標準報酬改定請求書」に前章(2)の書類を添付して請求します。3号分割のみを請求する場合は、第3号被保険者であった方が単独で手続きできます。
③標準報酬改定通知書を受け取る
このステップも、合意分割の場合と同じです。
(2)3号分割の手続き方法
3号分割の場合も、手続きの流れは合意分割と変わりません。大きな違いは、2人で手続きをする必要がないことと、按分割合が2分の1ずつと定められていることの2点です。
①情報通知書を請求する
このステップは、合意分割の場合と同じです。
②年金分割の請求手続き
年金事務所に対して「標準報酬改定請求書」に前章(2)の書類を添付して請求します。3号分割のみを請求する場合は、第3号被保険者であった方が単独で手続きできます。
③標準報酬改定通知書を受け取る
このステップも、合意分割の場合と同じです。
5、年金分割の手続きができる場所
年金分割の手続きは、以下の厚生年金の手続きを取り扱う役所・機関ならどこでも行うことができます。平成27年10月に厚生年金と共済年金が一元化されたので、厚生年金加入期間分と旧共済年金加入期間分は一括して分割できます。
- 年金事務所・年金相談センター
- 各国家公務員共済組合・国家公務員共済組合連合会年金部
- 各地方公務員共済組合・全国市町村職員共済組合連合会・地方公務員共済組合連合会
- 日本私立学校振興・共済事業団共済事業本部
なお、年金分割のための情報通知書請求については、夫婦のいずれかが婚姻期間中に加入していた年金の役所・機関がとりまとめることになります。違う役所・機関に情報提供請求が提出された場合は、書類がとりまとめ機関に回されて年金分割のための情報通知書が発行されます。
6、年金分割と合わせて行いたい離婚前の行動について
ここまでは、年金分割について解説してきました。婚姻期間の長さや配偶者の年金加入状況によっては、年金分割を行っても期待したほど自分の年金受給額が増えないということもあります。ここでは、離婚に際して年金分割以外に配偶者に財産を請求できるケースを紹介します。
(1)離婚事由が夫側有責なら慰謝料請求をする
離婚に至る原因を作ったのが夫である場合には、慰謝料を請求することができます。例えば、夫の不倫(不貞行為)やDVが原因で離婚するなどがこれにあたります。慰謝料の金額はさまざまな事情を総合的に判断されますが、婚姻期間の長さや、受けた精神的苦痛の大きさなどにより多い場合には300万円程度になるケースもあります。
慰謝料を請求する場合には、証拠が重要なポイントになります。できるだけ早い段階で弁護士に相談し、指示に従って手続きを進めましょう。
(2)財産分与の請求をきちんと行う
財産分与とは、婚姻中に夫婦で協力して築いた財産を、離婚時に分け合うことを言います。これは当事者同士の話し合いだけでは、なかなか公正にはできないものです。
きちんと財産分与を行うためには、まずは夫婦の財産を正しく評価する必要があります。
不動産などの分けることの難しい財産がある場合でも、弁護士に依頼することで、きちんと財産分与を行い、それまでの貢献度に応じた財産を得ることができます。相手との話し合いが難しい場合でも、諦めてしまわずに弁護士に相談してみましょう。
年金分割の必要書類に関するQ&A
Q1.合意分割に必要な書類とは?
- 標準報酬改定請求書
- マイナンバーカード等(請求書にマイナンバーを記入したとき)
- 年金手帳または基礎年金番号通知書(請求書に基礎年金番号を記入したとき)
- 婚姻期間を明らかにできる戸籍謄本等
- 請求日から1ヶ月以内に作成された戸籍謄本等
- 年金分割を明らかにできる書類
- 年金分割を請求する人の本人確認ができる書類
Q2.年金分割できる年金とは?
年金分割の対象にできるのは、厚生年金と旧共済年金(平成27年10月に共済年金は厚生年金に一元化されています)のみです。
Q3.年金分割できない年金とは?
- 国民年金
- 国民年金基金
- 厚生年金基金の上乗せ給付部分(付加部分・加算部分)
- 確定給付企業年金
- 401k、企業型DCなどの確定拠出年金(企業型)
- iDeCoなどの確定拠出年金(個人型)
- 民間の年金保険
まとめ
配偶者が婚姻中に厚生年金に加入していた場合には、離婚時に年金分割手続きを行うことで、年金を分け合うことができます。年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。手続きは必要な書類を揃えて「標準報酬改定請求書」とともに年金事務所に提出して行います。
年金分割が可能なのか、年金分割によって自分の年金受給額はどう変わるのかについては、専門家に相談することをおすすめします。話し合いでは年金分割の合意が難しい場合や、離婚そのものの話し合いも難しいようなケースは、多くの離婚事件を扱った経験豊富な弁護士へ相談しましょう。