突然夫から、セックスレスを理由に離婚したいと言い渡されたら、妻は離婚を受け入れるべきなのでしょうか?
この記事では、夫からのセックスレスを理由とした離婚提案に対する妻の対処法に焦点を当てて紹介します。
目次
1、そもそもセックスレスとは?
不倫や価値観の違いなど離婚原因にはさまざまなものがありますが、セックスレスが原因で離婚まで発展するようなことがあるのか疑問に思う方も多いかもしれません。
実際にセックスレスが原因で離婚する夫婦は存在するのでしょうか?
(1)セックスレスの意味
セックスレスとは、日本性科学会によると「病気など特別な事情がないのに、1ヶ月以上性交渉がないカップル」と定義されています。
ただ、夫婦の双方が性交渉を望んでいない場合には何の問題もありませんので、離婚問題になり得るセックスレスの定義としては、「病気など特別な事情がなく、夫婦のどちらかが性交渉をしたいと望んでいるのに、長期間それができない状態」と考えるべきです。
性交渉は夫婦の愛情を確かめ合うことや、精神的な繋がりを感じることができる大切なものです。
夫婦の一方が性交渉を望んでいるにもかかわらず、相手が性交渉を拒否している状態がセックスレスです。
一方で、病気や加齢が原因で性交渉がなくなってしまっている状態はセックスレスとは言えません。
セックスレスは性交渉が長期間行われていない状態ですが、性交渉の頻度に関する考え方には個人差があります。
一般的には1ヵ月以上性交渉がない状態をセックスレスと考えますが、具体的にセックスレスだと認定される期間が決まっているわけではありません。
そのため、一方が性交渉を望んでいて、一方が性交渉を拒否している状態がある程度続けば、セックスレスであると考えてよいでしょう。
(2)セックスレスで離婚を求める人の割合
セックスレスが離婚原因になるのか疑問に思う方もいると思いますが、実際にセックスレスは離婚理由の中でも比較的に上位を占めています。
令和2年度の裁判所の司法統計データにおいて、「性的不調和」は離婚の申立て理由の上位にあります。
こちらのデータによると、妻側が2808件、夫側が1749件、性的不調和を理由に離婚を申し立てています。
申立件数だけ見れば女性側の方が性的不調和を原因に挙げていることが多いように思われます。
しかし、全体の申立て件数からの割合で考えると、男性側は11.2%で女性側は6.4%であることから、男性側が性的不調和で離婚を求めることが多いことが分かります。
参考:司法統計(令和2年度)「第19表婚姻関係事件数―申立ての動機別」
2、性交渉を拒否していた場合の離婚請求は拒めない?
夫が性交渉をしたいと考えていても妻が性交渉を拒否していれば、妻側がセックスレスの原因を作っていることになります。
この場合、夫からの離婚請求を拒むことはできないのでしょうか?
離婚方法には「協議」「調停」「訴訟」の3種類があるので、ケース別に解説していきます。
(1)離婚協議では拒める
夫婦が離婚をする場合、当事者が話し合いで離婚を決める「離婚協議」から始めることが一般的です。
離婚協議の場合、離婚原因は関係なく、夫婦が合意すれば離婚が成立します。
裏を返して言えば、一方が離婚に合意しなければ離婚は成立しないということになります。
あくまでも当事者同士の話し合いで離婚を進める方法になるため、セックスレスで離婚請求されたとしても、一方が離婚を拒否していれば協議では離婚することができません。
(2)離婚調停でも拒める
離婚協議で離婚が成立しない場合、離婚調停へ進みます。
離婚調停とは裁判手続きのひとつで、裁判所が選任した調停委員が間に入り問題解決を目指す方法です。
調停委員は夫婦それぞれの意見を聞いた上で話をまとめますが、訴訟のように強制的な判決が出るわけではありません。
そのため、離婚調停でも離婚したくない旨を伝えて主張をすれば、離婚が成立することはありません。
(3)離婚訴訟では法定離婚事由に要注意
離婚調停でも離婚が成立しない場合、相手が離婚訴訟を提起することがあります。
訴訟になれば、最終的に判決や和解として何らかの結論が出ることになり、その結論に従わなければなりません。
つまり、離婚したくないと考えていても、裁判所が離婚を認めれば法律上で離婚が成立することになります。
裁判で離婚する場合、法律で定められている離婚理由(法定離婚事由)が必要です。
そして、セックスレスは民法第770条1項5号に定められている「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
セックスレスの原因やセックスレスの期間、性交渉を拒む理由など総合的に判断をして、セックスレスが夫婦関係の破綻を招いたと判断されれば離婚が認められると考えられます。
3、夫が離婚したい理由はセックスレス以外にもあるかも?
夫は離婚原因をセックスレスだと説明していたとしても、実はセックスレス以外の離婚原因が隠れていることがあります。
夫が離婚したい理由がセックスレス以外にも他にないかどうか探ってみましょう。
(1)夫が不倫している可能性がある
男性には何歳になっても性欲を持ち続け、性欲を解消しなければ生きていくことが難しい人もいます。
もしそのような夫が家で性欲を解消している気配もないのであれば、どこか外の違う場所で性欲を解消している可能性があります。
つまり、不倫です。
妻が性交渉に応じてくれない以上、妻以外で性欲を解消しようと不倫を始めてしまっているパターンが考えられます。
そして、不倫の始まりは遊びや気軽なものであったとしても、回数を重ねていく内に相手への情が湧いてしまい、不倫の深みにハマってしまっているようなケースもあります。
(2)夫の不倫を確認する方法
夫の不倫を確認するために、まずは夫の行動で怪しい部分がないか思い返してみてください。
ある時から仕事を理由に帰りが遅くなるようになったり、外見に気を遣うようになったりしていれば、不倫をしている可能性があります。
そして、不倫の確認では物証を探すことも大切です。
不倫の証拠は夫の鞄や衣類のポケット、スマホなどから出てくることが多いです。
不倫の証拠を自分で見つけることができない場合には、探偵に依頼するという選択肢もあります。
いずれにしても、証拠がない状態で不倫を問い詰めても相手は否定する可能性が高く、証拠を隠しながら慎重に不倫を続けてしまいます。
そのため、証拠を集めるまでは夫に問い詰めることを避けるべきです。
(3)夫が不倫していた場合の対処法
夫の不倫が発覚した場合、まずは夫婦関係を今後どうしたいのか検討する必要があります。
不倫が発覚しても夫とやり直したいと思えるのであれば、夫婦関係を修復するために夫と話し合うべきでしょう。
そして、夫に不倫関係を清算するように約束してもらいます。
一方で、不倫の発覚で夫と婚姻生活を続けることは難しいと考えた場合、離婚をすることができます。
ただし、この場合はどちらが先に離婚原因を作ったのかという点が重要になります。
夫が不倫していたとしても、あなたが先にセックスレスなど離婚原因を作ったのであれば、慰謝料をもらうことができるとは限りません。
必ずしも有利な条件で離婚できるわけではないということを、知っておく必要があります。
4、セックスレスを理由に離婚を迫る夫と夫婦関係を修復したい
性交渉を拒否されてきた夫は、深く傷ついて離婚を決意したと考えられます。
そのため、夫の許しを得ることは容易ではないかもしれません。
時間をかけて粘り強く対処し、夫婦関係の修復を目指すことが大切です。
夫婦関係の修復に向けてできる対処法には、次のようなことが挙げられます。
(1)今までのセックスレスについて謝罪する
女性は子どもを産んだり家事が忙しくなったりすれば性欲が減退しますが、男性は必ずしも性欲が減退するわけではありません。
妻に性交渉しようと誘っても断られてしまえば、夫は傷ついてしまいます。それだけでなく、孤独感に苛まれたり、性欲を解消できないことによるストレスに長期間苦しんできた可能性が高いです。
そのため、まずはご自身が性交渉を拒んでセックスレスになってしまったことに対しての謝罪を行いましょう。
謝罪により、妻が今後は変わろうと努力していることを感じて夫も協力してくれる可能性があります。
また、謝罪を受けることで幾分か気持ちが落ち着き、離婚について再度検討し直してくれるかもしれません。
もちろん、ただ謝罪するだけではなく心からの謝罪でなければ相手には伝わらないため、誠意を持って謝罪をすることが大切です。
(2)積極的にセックスレス解消に努める
セックスレスが原因で離婚したいと夫が考えるのであれば、根本の原因であるセックスレスを解消する必要があります。
セックスレスを解消するためにできることを積極的に行えば、問題解決に繋がる可能性があります。
ただ性交渉に誘うだけではなく、身だしなみなど外見に気を遣うといった努力をしてみてもよいでしょう。
外見が綺麗になるだけでも男性は急に意識をするようになるものです。
また、家庭内でも日常的にスキンシップやコミュニケーションを取るなど振る舞いを改善すれば、性交渉を誘いやすい雰囲気になるでしょう。
(3)夫婦カウンセリングを利用する
夫婦だけで関係修復することが難しい場合には、夫婦カウンセリングを利用するという手段もあります。
専門家に相談することで、夫婦関係の修復に向けたさまざまなアドバイスを得られることでしょう。
また、第三者が介入することで、当事者同士では話しにくいことも話せるようになると考えられます。
夫婦の一方だけがカウンセリングを受けることもできますし、夫婦で一緒にカウンセリングを受けることも可能です。
(4)夫婦円満調停を申し立てる
夫婦円満調停とは裁判手続きのひとつで、家庭裁判所に申立てを行うことで利用できます。
裁判手続きというと離婚調停や訴訟を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、夫婦円満調停は夫婦関係の修復を目的としています。
裁判所に選任された調停委員が夫婦それぞれの意見を聞き、アドバイスや提案をしてくれます。
双方が納得すれば調停成立となり、夫婦関係を修復するために調停で取り決めたことが「調停調書」書面化されます。
5、離婚が避けられない場合、離婚条件はどうなる?
夫の意思が強ければ、離婚を避けられない状況になってしまいます。
妻側がセックスレスという離婚原因を作ってしまっている場合、離婚条件はどのようになるのでしょうか?
(1)財産分与は請求できる
夫婦が離婚する際には、婚姻期間中に協力して築き上げた財産の分配を請求できます。
財産分与は離婚の有責性などは関係なく請求できるものなので、あなたが離婚原因を作った有責配偶者であったとしても財産分与の請求は可能です。
そして、財産分与は貢献度に応じて分配するため、離婚原因が財産分与の分配に影響することもありません。
夫婦の共有財産は原則的に2分の1ずつで分けられます。
夫が働いて妻が専業主婦の場合でも、妻は子育てや家事で夫を支えたと考えられます。
(2)慰謝料は請求される可能性がある
セックスレスが原因で離婚する場合、性交渉を拒否されてきたことで夫は精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求される可能性があります。
慰謝料の支払い義務に関してはケースバイケースだと言えますが、セックスレスの慰謝料金額の相場は数十万円~100万円程度です。
ただし、セックスレスの原因に不倫が関係している場合は、300万円など高額な慰謝料を請求される恐れがあります。
(3)子どもの親権は主張できる
離婚をする場合には、一方の親が子どもの親権を持つことになります。
基本的に離婚原因には関係なく子どもの親権を主張することができ、性交渉を拒否していたからといって親権争いで不利になるわけではありません。
そして、親権争いにおいては母親が有利であると考えられています。
なぜならば、子どもが幼いほど母性が必要だという考えがあるからです。
しかし、育児放棄をしたり、子どもを放置して家出してしまったりしていた場合には、母親でも親権獲得は不利になります。
(4)養育費も請求できる
離婚して親権を持つ場合、親権を持たない方の親に養育費を請求することができます。
離婚をしても子どもが成年するまでは子どもを監護・養育する義務があるため、親権を持たない方の親は養育費を拒否することはできません。
そういった理由から、たとえ親権を持つ親が離婚原因を作ったとしても、養育費の請求は可能です。
養育費の具体的な金額は子どもの年齢や人数、収入を基準にして算出されます。
6、セックスレスで夫から離婚を切り出されたら弁護士に相談を
セックスレスで夫から離婚を切り出された場合には、まずは弁護士に相談してみてください。
セックスレスはデリケートな問題なので第三者に相談しにくいかもしれませんが、離婚をしたくない場合は早期に対処する必要があります。
弁護士のサポート受けて夫との交渉や夫婦円満調停の申し立てを行うことなどにより、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。
また、離婚に合意する場合には、離婚条件や慰謝料に関する取り決めを行う必要があります。
弁護士に依頼すれば有利な条件で離婚できるように交渉をしてもらうことができ、相手が不倫をしていた場合など問題が複雑化しているケースでも解決に向けてサポートしてもらうことができます。
セックスレスで夫から離婚に関するQ&A
Q1.そもそもセックスレスとは?
セックスレスとは、日本性科学会によると「病気など特別な事情がないのに、1ヶ月以上性交渉がないカップル」と定義されています。
夫婦の一方が性交渉を望んでいるにもかかわらず、相手が性交渉を拒否している状態がセックスレスです。
Q2.セックスレスで離婚を求める人の割合?
令和2年度の裁判所の司法統計データによると、妻側が2808件、夫側が1749件、性的不調和を理由に離婚を申し立てています。
全体の申立て件数からの割合で考えると、男性側は11.2%で女性側は6.4%であることから、男性側が性的不調和で離婚を求めることが多いことが分かります。
Q3.妻が性交渉を拒否していた場合、夫からの離婚請求は拒めない?
- 離婚協議では拒める
- 離婚調停でも拒める
- 離婚訴訟では法定離婚事由に要注意
まとめ
妻側はセックスレスを大きな問題だと考えていなくても、夫側は離婚を決意するほど大きな問題だと考えているケースも少なくありません。
夫からセックスレスが原因で離婚を切り出された場合には、弁護士に相談して問題解決を目指しましょう。
早期に対処すれば離婚を回避できる可能性もあります。
デリケートな問題なので他人に相談しにくいとは思いますが、一人で抱え込まずに弁護士へ相談してみてください。