「親権と監護権はどっちが強い?」配偶者との離婚話を進めているものの、子どもの親権で意見が対立している場合、親権と監護権の2つについて調べ始めている方も多いかと思います。
離婚の際には親権者争いになることも多く、日本では離婚後の夫婦の共同親権が認められていませんので、子どもの親権は夫婦のどちらか一方に決めなければなりません。
ですが、親権だけでなく実は監護権という権利もあり、この2つは別の権利として区別して考える必要があります。
そこで今回は、
- 親権と監護権はどっちが強いのか
- 離婚時の親権者争いを有利に進めるためのコツ
- 親権や監護権を取り戻す方法
等について解説します。本記事が、親権と監護権のどっちが強いのかについてお悩みの方にお役に立てば幸いです。
監護権について詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、親権と監護権はどっちが強いのか~まずは両者の違いを知ろう
「親権」「監護権」という言葉自体は聞いたことがあっても、それぞれどのような権利なのか、どう違うのかを知っている人は少数ではないでしょうか?離婚するにあたり子どもの親権や監護権を取り決めることは、子どもにとっても親にとっても今後の人生を大きく左右する重要な事項ですから、ここでは両者の違いをしっかり確認していきましょう。
(1)親権とは
親権とは、未成年の子どもを育てていくにあたり親に認められた権利及び義務のことをいいます。親権の内容は大きく分けて、身上監護権と財産管理権に分かれます。
身上監護権とは、子どもを健全に育てるために認められた権利義務のことです。身上監護権には、監護教育権(民法820条)、居所指定権(民法821条)、職業許可権(民法823条)が含まれます。
財産管理権とは、子どもの財産を管理する権利義務のことです(民法824条)。親権の中で特に重要な権利となる財産管理権があることにより、親権を持つ親は子の財産を管理し、子の財産に関する法律行為を子に代理して行うことができます。
たとえば、子ども名義の預貯金は幼い子どもでは適切に管理することができませんので、親権を有する親が子どもの代わりに財産を管理します。
以下では、財産管理権のことを「親権」として解説していきます。
(2)監護権とは
これに対し、親権に関連する場面で語られる監護権とは、通常、身上監護権のことであり、子どもと生活を共にし、子どもの世話や教育の付与を行う権利を意味します。監護権があることにより、親は子どもと一緒に生活をすることができますし、子どもの世話や教育を行う義務があります。
監護権の詳細については以下の記事もご参照ください。
(3)親権と監護権の違い
親権と監護権は同じように子どもに関する権利ではありますが、権利の内容が異なります。たとえば、離婚する際に「親権を父親が有し、監護権を母親が有する」旨の取り決めがなされた際、親権を持っているのは父親です。
しかしながら、父親が当然に子どもと一緒に生活できるわけではなく、子どもと一緒に生活し子どもの身の回りの世話をするのは母親になります。
両者の違いを把握しておかないと、離婚の取り決めの際にご自身の希望とずれてしまうことがありますので注意しましょう。
2、親権と監護権ではどっちが強い?
上記のように、親権と監護権は似ているようで異なる権利です。では、親権と監護権は実際のところ、どっちが強いのでしょうか?
(1)子どもを引き取れるという意味では監護権が強い
先にも述べた「親権を父親が有し、監護権を母親が有する」旨の取り決めをした場合、親権を有しているのは父親ですから、父親が子どもに関する権利全般を有するように勘違いしている方がいます。
しかしながら、親権を有していても監護権を有していない場合、子どもを引き取ることはできません。
子どもを引き取り日常的に育てていくのはあくまでも監護権を有する親です。そのため、子どもを引き取れるという観点では、親権よりも監護権の方が強いと言えるでしょう。
(2)法律上の権限が強いのは親権
子どもを引き取ることができるのは監護権を有する親ですが、法律上の権限が強いのは親権を有する親です。
たとえば、子ども名義の貯金口座を作成する等、子どもの財産に関する行為を親が代理で行う場合、親権がなければ子どもの財産に関する法律行為を代理で行うことができません。
子どもと一緒に暮らせていても親権がないと、いざというときに困るという意味では、法律上の権限が強い親権を持っている親の方が強いと言えるでしょう。
3、離婚時に親権と監護権を分けることは実際にある?
離婚することに夫婦で合意できていても、子どもの親権を巡って夫婦で揉めることは決して珍しいことではありません。
両者とも子どもの親権を欲しがっている場合、離婚時に親権と監護権を分けることは実際にありうるのでしょうか?子どもの親権に関してなかなか夫婦で合意に至らない場合の妥協案として、親権と監護権を分けるという選択肢の可能性を確認していきましょう。
(1)法律上は分けることが可能
法律上、親権と監護権は一人の親が両方有しなければならないという決まりはありません。そのため、離婚することになる場合、一方の親が親権を有し、もう一方の親が監護権を有するという取り決めをすることは可能です。
(2)実務上、分けることはほとんどない
法律上は親権と監護権を分けることが可能であっても、実務上、分けることはほとんど行われていないので実情です。
親権と監護権をそれぞれの親が1つずつ有すると、子どもを育てていく上で不便さを感じることが多々発生するでしょう。
親権を有し監護権を持たない親は、子どもと一緒に暮らすことができません。
子どもと会えるのは面会交流の時のみになってしまう可能性が高いです。
逆に、監護権を有し親権を持たない親は、子どもと一緒に暮らすことはできますが、子どもの財産に関する行為を行う際、いちいち親権を有する元配偶者に同意を得なければならないのはかなりの不便さを感じるでしょう。
このように、親権と監護権を有する親がバラバラになっていると、子どもに不利益が生じる可能性もあります。
(3)やむを得ず親権と監護権を分けるケース
ただし、やむを得ず親権と監護権を分けるケースもないわけではありません。
たとえば、親権を得る予定の親が病気や怪我でしばらく身動きが取れない、海外などに転勤・長期出張するような場合など、実際に子どもの面倒をみることが極めて難しいというようなケースです。
このような場合には、子どもの福祉の観点から親権と監護権を分ける方が望ましいと判断されるのです。
親権の獲得は難しいものの、現実に相手が子どもの面倒をみることが難しい状況では、監護権の取得を主張してみる余地はあります。
4、離婚時の親権者争いを有利に進めるためのコツ
上記のように、離婚自体は夫婦双方で合意できていても、お互いが子どもの親権を主張し、話し合いが難航することは決して珍しいことではありません。
「親権が獲得できなくても監護権を獲得したい」「子どもと離れるのは仕方ないとしても、せめて親権(財産管理権)は持っておきたい」と考える人は多いですが、可能性も実益も乏しいため、子どもと離れたくないなら離婚時の親権争いに全力を傾けることが重要となります。つまり、財産管理権と身上監護権の両方の獲得を目指すべきだということです。
夫婦だけの話し合いで解決できない場合には、調停や裁判に進みます。
調停や裁判に進んだ場合、親権をしっかりと獲得できるよう、今のうちから以下の点を準備しておくようにしてください。
(1)子どもに十分な愛情を注いでおく
親権は大人だけの問題ではなく、一番大切なのはどちらの親が親権を有することが子の利益につながるのかという観点です。
生まれたときから母親が子どもに愛情を注いできたにも関わらず、離婚することになった段階でいきなり父親が親権を主張しても、子どもの利益にならないと考えるのが自然でしょう。
親権を主張する場合は、子どもに「母親(父親)と一緒に居たい」と思ってもらえるように、十分な愛情を注いでおくことが大切です。
(2)養育実績を重ねておく
子どもに愛情を注ぐだけでなく、現実的に養育実績を積み重ねておくことも大切です。愛情があるだけで子どもを育てていない親が親権を主張しても説得力に欠けますよね。親権を有するからには権利だけでなく子どもを養育する義務も伴うのですから、離婚前から子どもの養育実績を積み重ね、問題なく子どもを養育できることを示す必要があります。
たとえば、母親が実家に帰る等して不在にしている間にも父親が子どもを長期にわたり育てていた実績や、普段から食事作り・洗濯・子どもの習い事の送迎等を父親が行っていたことを実績として示していきます。
(3)離婚後の養育環境を整えておく
離婚後、今まで家族で住んでいた家から出ていき、新たな環境で子どもを育てていく人が多いですよね。この際、今までの家を離れても問題なく子どもを養育できる環境があるのかどうかも、親権を獲得する上では重要なポイントになります。特に女性の場合は、収入が少なかったりなかなか新しい部屋を借りられなかったりする場合がありますので、離婚後に子どもをどこで育てていくのかは早めに考えておきましょう。
また、親権争いでは一般に男性が不利となるのが実情です。そのため、養育環境についても、仕事を時短勤務に変えて家に居られる時間を増やす、子どもと一緒に実家に引っ越す、祖父母に応援してもらえる体制を作っておく等の準備をしていくことが大切です。
5、親権や監護権を取り戻す方法
それでは、一度元配偶者に渡ってしまった親権や監護権は、離婚後に取り戻すことができるのでしょうか?離婚の話し合いの時は冷静な判断ができなかった人や、元配偶者が離婚後に子どもをしっかりと養育していない人は、以下の方法で親権や監護権の取り戻しを検討してみてください。
(1)相手方と話し合う
親権や監護権の取り戻しを検討する際、まずは元配偶者との話し合いからスタートしましょう。場合によっては、親権や監護権を取得した元配偶者も「子どもを自分一人で育てるのは難しい」「子どもを育てながら仕事をする生活に限界がきている」などと感じている可能性もあります。
(2)調停を申し立てる
相手方との話し合いが進まない場合はもちろんのこと、話し合いで合意できた場合でも、親権者を変更するには家庭裁判所に「親権者変更調停」を申し立てることが必要です。離婚後の親権者の変更は、家庭裁判所の調停・審判により行うことが必要になっているため、たとえ合意できていたとしても調停を申し立てなければ親権者変更の手続きをすることができません。
ただし、一度決めた親権者を変更することは子どもの人生に大きく関わる重大な事項ですから、安易に親権者の変更が認められているわけではありません。たとえ夫婦が親権者の変更に合意している場合でも、親権者変更調停が申し立てられた際は、調査官が親権変更の必要性、子どもへの影響、変更後の子どもの養育環境等について調査をすることになります。
親権の変更を主張する側は、親権者が現在子どもに与えている養育環境が適切ではないこと、親権者の子どもに対する愛情がないこと、親権者の監護が十分になされていないことによる子どもの心身への影響、親権者自身の心身の健康不全等、親権を変更すべき必要性を様々な角度から主張していく必要があります。
調停が成立した場合、調停成立から10日以内に、親権者変更の届出を市区町村役場にしておかなければなりません。届出をする際は、調停調書謄本、戸籍謄本などが必要となる場合がありますので、届出をする前に市町村役場に確認をしておきましょう。
(3)審判で争う
親権者変更、監護権者変更について、調停前置主義が採用されているわけではありませんが、実務上は審判を申し立てても調停に付されることになります。そのため、まずは調停を申し立てる流れを取るのが一般的です。
調停で話し合いがまとまらない場合は自動的に審判手続きに移行します。調停から審判へは自動的に移行するので、調停手続きで行われた調査内容が審判手続きにそのまま引き継がれます。この調査内容や調停内での双方の主張をもとに、裁判官が一切の事情を考慮して審判をすることとなります。
審判により親権者変更が決定した場合は、調停成立の場合と同様、親権者変更の届出をしていきます。他方、親権者変更の決定がなされず審判の決定に不服がある場合は、2週間以内に即時抗告をすることが可能です(家事事件手続法156条第4号)。
6、離婚時に親権や監護権でもめたときは弁護士に相談を
子どもがいる夫婦の場合、離婚時に親権や監護権でもめることは少なくありません。
夫婦で共同親権を採用することが日本では認められていませんから、親権を獲得できなかった親は必然的に子どもに会える時間が激減します。親権や監護権でもめたときは早めに弁護士にご相談ください。
親権や監護権は離婚後に変更の申立をすることはできますが、しっかりとした必要性がなければ変更は難しいのが実情です。弁護士にご相談・ご依頼いただくことで、親権を獲得するために何をしなければならないのか具体的にアドバイスを受け取ることができ、親権獲得の可能性を高めることができます。
親権と監護権に関するQ&A
Q1.親権とは
親権とは、未成年の子どもを育てていくにあたり親に認められた権利及び義務のことをいいます。親権の内容は大きく分けて、身上監護権と財産管理権に分かれます。
身上監護権とは、子どもを健全に育てるために認められた権利義務のことです。身上監護権には、監護教育権(民法820条)、居所指定権(民法821条)、職業許可権(民法823条)が含まれます。
財産管理権とは、子どもの財産を管理する権利義務のことです(民法824条)。親権の中で特に重要な権利となる財産管理権があることにより、親権を持つ親は子の財産を管理し、子の財産に関する法律行為を子に代理して行うことができます。
たとえば、子ども名義の預貯金は幼い子どもでは適切に管理することができませんので、親権を有する親が子どもの代わりに財産を管理します。
Q2.監護権とは
親権に関連する場面で語られる監護権とは、通常、身上監護権のことであり、子どもと生活を共にし、子どもの世話や教育の付与を行う権利を意味します。監護権があることにより、親は子どもと一緒に生活をすることができますし、子どもの世話や教育を行う義務があります。
Q3.親権と監護権ではどっちが強い?
親権と監護権は似ているようで異なる権利です。では、親権と監護権は実際のところ、どっちが強いのでしょうか?
①子どもを引き取れるという意味では監護権が強い
先にも述べた「親権を父親が有し、監護権を母親が有する」旨の取り決めをした場合、親権を有しているのは父親ですから、父親が子どもに関する権利全般を有するように勘違いしている方がいます。
しかしながら、親権を有していても監護権を有していない場合、子どもを引き取ることはできません。
子どもを引き取り日常的に育てていくのはあくまでも監護権を有する親です。そのため、子どもを引き取れるという観点では、親権よりも監護権の方が強いと言えるでしょう。
②法律上の権限が強いのは親権
子どもを引き取ることができるのは監護権を有する親ですが、法律上の権限が強いのは親権を有する親です。
たとえば、子ども名義の貯金口座を作成する等、子どもの財産に関する行為を親が代理で行う場合、親権がなければ子どもの財産に関する法律行為を代理で行うことができません。
子どもと一緒に暮らせていても親権がないと、いざというときに困るという意味では、法律上の権限が強い親権を持っている親の方が強いと言えるでしょう。
まとめ
離婚には納得できていても、子どもの親権を失うことには耐えられないと感じている親御さんは多いでしょう。
子どもの親権を獲得するには、子どもに十分な愛情を注いだ上で、しっかりとした主張立証をしていかなければなりません。
母親だから100%親権を獲得できるわけではありませんし、父親であっても親権を獲得している事例は過去にも存在します。親権や監護権でお悩みの方は、一度弁護士にご相談ください。