配偶者がアスペルガーかどうかチェックしたい…配偶者の言動や行動に疑問を持った方は、こんな風に感じたことがあるかもしれません。アスペルガー症候群は脳機能の障害ですが、本人がアスペルガーであることを自覚していなかったり、大人になってからアスペルガーであることが発覚したりするケースもあります。
本人に悪気がないとしても、夫婦間のコミュニケーションがうまくとれなかったり、配偶者が空気を読まずに対人的なトラブルをたびたび起こすようであれば、夫婦生活の継続が難しくなることもあるでしょう。
そこで今回は、
- そもそもアスペルガーとは
- アスペルガーのチェックリスト
- 配偶者がアスペルガーかも?と思ったときの対処法
などについて弁護士がわかりやすく解説します。
その他にも、配偶者のアスペルガーを理由に離婚できるかどうかや、離婚を決意したときにやるべきことなどもご説明します。
この記事が、配偶者の自分本位な言動に悩み「アスペルガーではないか?」とお考えの方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、チェックリストを試す前に~そもそもアスペルガーとは?
パートナーから傷つくことを平気で言われると「この人はもしかしてアスペルガーなのかな?」と思い始める人がいるかもしれません。「アスペルガー」という言葉を見かけたことがあっても、実際にアスペルガーとは何なのかを正確に理解できている人は少ないです。まずはアスペルガーの定義やアスペルガー患者の特徴を確認していきましょう。
(1)アスペルガー症候群の定義
アスペルガー症候群は「自閉スペクトラム症」に含まれる障害の一種です。「自閉スペクトラム症(ASD)」にはアスペルガー症候群以外に、自閉症・特定不能の広汎性発達障害も含まれます。DSM-5改訂後、アスペルガー症候群は「レット障害」「小児期崩壊性障害」は「自閉スペクトラム症(ASD)」には含まれず区別して考えることとなっています。
(2)アスペルガー患者の特徴
アスペルガー患者の特徴としては、大きく分けて以下の3つが挙げられます。
- 社会性・対人関係の障害
- 言葉・コミュニケーションの障害
- 想像力・柔軟性の障害
以下で、それぞれについて具体的にみていきましょう。
①社会性・対人関係の障害
社会性・対人関係に問題があるといっても、アスペルガー患者は「公共の場所で大声で騒ぎ出す」「人に暴力を加えてしまう」等のわかりやすい問題を抱えているわけではありません。アスペルガー患者は知能が高く学校の成績では上位をとる人も少なくないので、誰にでも明らかにわかるような問題が発生するわけではないのです。
しかしながら、その場の空気を読むことや曖昧な説明・指示を理解することを苦手としていたり、人への興味を示せず他人の話に共感できなかったりする側面が強いです。
たとえば、実際に感じていることがあっても空気を読んで言わない、行きたくない親戚の集まりがあっても参加するのがマナーだから参加する等の対応がアスペルガー症候群の人には難しいのです。
②言葉・コミュニケーションの障害
アスペルガー症候群の場合、「言葉を話せない」「言葉を文章に組み立てられない」等の基本的な言葉の使い方で問題が発生することはほとんどありません。しかしながら、いざ会話をしてみると、質問に対して的外れな回答をしてしまったり、相手の気持ちを汲み取ることができず相手が傷つくことを平気で発言してしまったりします。
コミュニケーションをとる際は、言葉の表面的な意味だけでなく、言葉の裏に隠されている気持ちや身振り・表情等の非言語的コミュニケーションにも配慮する必要がありますが、アスペルガー症候群の人はそのような背景を汲み取ることを苦手とします。
そのため、冗談が通じなかったり、気持ちを察するべき部分で全く察することができなかったりして、コミュニケーションがうまくいかないことが少なくありません。
③想像力・柔軟性の障害
アスペルガー症候群の人は、自分で決めたルールを守ることや一度決めたルーティーンを毎日反復することに強いこだわりを持つ人が多いです。そのため、急な予定変更や想定外の出来事が起きたときに柔軟性を持って対応することができず、パニックになってしまう人もいます。
自分のルールへのこだわりが強いことから、ルールを超えた物事の流れを把握したり、これからどうなるかを想像したりすることを苦手とします。
(3)医学上の診断基準
アスペルガー症候群は「自閉スペクトラム症(ASD)」の一種であり、精神医学上は「DSM-5」という診断基準を用いて該当性が判断されます。
DSMとは「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」の略称であり、この頭文字をとっています。DSM-5は米国精神医学会が発行した精神疾患の診断・統計マニュアルであり、現在日本でも広く使われている診断基準です。
DSM-5「神経発達症群 / 神経発達障害群」の中には、以下の7つの診断名があり、アスペルガー症候群は「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)」の中に含まれます。
1.知的能力障害群(知的障害)
2.コミュニケーション障害群
3.自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)
4.多動症/注意欠如(ADHD)
5.限局性学習症/限局性学習障害(LD)
6.運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)
7.他の神経発達症群/他の神経発達障害群
DSM-5の中での「自閉症スペクトラム障害(ASD)」の認定基準は以下のとおりとなっています。
①複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
②行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること(常同的、反復的な身体の運動や会話、強いこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚過敏または鈍感など)
③発達早期から①,②の症状が存在していること
④発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
⑤これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されないこと
2、あなたの配偶者はアスペルガー?チェックリストで確認しよう!
アスペルガー症候群に該当するかどうかは、上記のDSM-5の診断基準を元に医学上は判断されますが、個人でアスペルガー症候群の該当性をチェックするには抽象的でわかりにくいと感じる人もいるでしょう。
そこで、より簡単に確認できるアスペルガー症候群のチェックリストをご紹介します。配偶者がアスペルガー症候群なのではないか?と感じている方は、以下のチェックリストをもとに確認してみてください。
- 言葉を表面的にしか解釈できず、場の空気や相手の表情を読むことができない
- 自分のルーティーンを崩さなければいけなくなると動揺してしまう
- 人と会話をしているときに、自分が話す番か聞く番かわからなくなる
- 他の人がどのように感じるかを想像することが苦手である
- 相手の気持ちに共感したり寄り添ったりすることが苦手である
- 最低限の挨拶や社会的なマナーを守ることができない
- 一人の時間を好み、自分の時間を邪魔されるとイライラする
- 音や匂いなど、ある感覚刺激に対して過剰に反応してしまう
- 人と継続的な関係を築くことが困難である
- 物事の優先順位を決められない
3、配偶者がアスペルガーかも?と思ったときの対処法
上記のチェックリストで当てはまる項目が多かった方は、配偶者がアスペルガー症候群である可能性があります。医学上、アスペルガー症候群に該当するかどうかは医師の判断によらなければ断言できませんが、配偶者のアスペルガー症候群が疑われる場合は以下の対処法を検討していきましょう。
(1)特に生活上の支障がない場合は様子を見る
アスペルガー症候群のチェックリストを確認した際、「自分はアスペルガーではないだろうけど、多少当てはまる部分があるかも?」と感じた方もいるのではないでしょうか?アスペルガー症候群は一つの病名となってはいますが、アスペルガー症候群をはじめとする発達障害は0(健常)か100(有病)かではなく傾向の強弱が問題であり、グレーゾーンも大きいのが実情です。
アスペルガー症候群をはじめとする発達障害は脳機能の先天的な障害ですが、幼少期に発達障害だとわかるケースもあれば、大人になってから発達障害に気づくケースもあります。生活上、特に支障がないのであれば、チェックリストに当てはまる項目があったとしても特段問題はありません。
ただ、本人が他人とトラブルを起こしやすい傾向にある場合などには、注意深く見守る必要性はあるかもしれません。
(2)本人が苦しんでいる場合は受診を勧める
アスペルガー症候群の患者は、コミュニケーションや対人関係が上手くいかないことなどからストレスを抱え、二次障害としてうつ病や引きこもりを初めとする精神疾患を引き起こすことがあります。コミュニケーションがうまくいかないことで他人を不愉快な気持ちにさせてしまうことがありますが、アスペルガー症候群の人は悪気があるわけではないので、本人としてもコミュニケーションがうまくいかないことがとてももどかしいのです。
このような二次障害を引き起こしている場合や、そこまでいかなかったとしても本人が苦しんでいる場合は専門医への受診を勧めましょう。
(3)自分が苦しい場合は別居や離婚も視野に入れる
アスペルガー症候群を抱えている本人が、コミュニケーションの不便さ等で苦しい気持ちになるのはもちろんですが、その配偶者の方は本人以上に苦しんでいる場合があります。アスペルガー症候群の配偶者に振り回されてあなた自身が疲れている場合は、早期に適切な対応をしないと心身に重大なダメージを受けるおそれがあります。
アスペルガー症候群の配偶者がカサンドラ症候群になってしまうケースも少なくありません。カサンドラ症候群とは正式な疾患名ではありませんが、発達障害の配偶者にストレスを感じ、睡眠障害やうつなどの不調が生じる状態をいいます。カサンドラ症候群の症状は人によって違いますが、うつ状態、不安感が強まる、無力感や自己否定に襲われる等の精神的症状以外に、頭痛、胃痛、疲れやすい、眠れない、食欲がわかない、突然涙が出る等の身体的症状が出ることもあります。
アスペルガー症候群の配偶者をサポートすることも大切ですが、一番大切なのはあなた自身の心身の健康です。苦しい場合は無理をしないように注意しましょう。
どうしても結婚生活が苦しい場合は、アスペルガー症候群の配偶者本人に気持ちを話し、本人に専門医への受診を勧めましょう。それでも事態が改善しない場合は別居や離婚を視野に入れることも一つの選択肢です。
4、配偶者のアスペルガーを理由として離婚できる?
アスペルガー症候群の配偶者に専門医への受診を勧めたり話し合ったりしても事態が改善されない場合、離婚を検討する人もいるでしょう。では、アスペルガーを理由として離婚することはできるのでしょうか?離婚できる具体的なケースについて確認していきましょう。
(1)アスペルガーだけを理由とする離婚は難しい
アスペルガー症候群の配偶者と離婚することを検討する際、双方が離婚に合意すれば協議離婚として離婚をすることができます。
これに対し、配偶者が離婚に合意しない場合、離婚を成立させるには法定離婚事由が必要となります。
法定離婚事由とは、裁判で強制的に離婚が認められる原因として民法第770条1項に定められている事由のことで、その中に「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(同項4号)というものがあります。
しかし、配偶者がアスペルガー患者の場合は医学的な対処によって通常の社会生活を営むことが可能であるため、「強度の精神病」や「回復の見込みがない」という要件に該当しないと考えられています。
そのため、配偶者がアスペルガーであるというだけの理由では強制的に離婚を求めることは困難であると言わざるを得ません。
(2)離婚できるケース
配偶者がアスペルガーであるというだけなく、DVやモラハラ行為をしている場合や、そこまでいかなくとも問題発言や問題行動をしており「婚姻を継続しがたい重大な事由」(同項5号)が生じている場合には強制的な離婚が可能となります。
たとえば、極度の浪費癖・ギャンブルに伴い多額の借金を作り家庭生活に重大な悪影響が生じている場合、宗教活動による過度な没頭により家庭の安息が損なわれている場合、家庭内で日常的な侮辱発言が行われている場合等は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する可能性があります。
(3)慰謝料も請求できるケース
前項の事情が不法行為に該当する場合、民法709条の不法行為に基づく慰謝料請求が可能となるケースがあります。
ただ、夫婦の問題は基本的には家庭内で起きていますので、実際に慰謝料を請求するためには、配偶者の侮辱発言をボイスレコーダーで録音するなどして、不法行為を立証できる証拠を準備していくことが必要となります。
5、アスペルガーの配偶者との離婚手続きの進め方
アスペルガーの配偶者と離婚することを決断した場合、離婚手続きの進め方を事前に確認しておきましょう。配偶者がアスペルガーの場合、話し合いが難航したり、一度は離婚に合意したもののコロコロと主張が変わったりする等、スムーズに進まない面もあります。このようなアスペルガーの特性を踏まえた上で慎重に手続きを進めていきましょう。
(1)まずは協議離婚を目指す
双方の合意により離婚できるのであればこれが最も負担の少ない方法ですので、まずは協議離婚を目指しましょう。特に、アスペルガーであるということ以外に「婚姻を継続しがたい重大な事由」が見当たらない場合は、調停や訴訟に進んでも離婚できない可能性があります。相手とよく話し合い、できる限り協議離婚できるように手続きを進めていきましょう。
(2)話し合いがまとまらなければ離婚調停
双方の話し合いがまとまらなければ離婚調停に進むことになります。離婚調停とは、離婚について家庭裁判所(調停委員会)の仲介により、当事者が互いに譲歩し合い合意による解決(離婚)を目指す手続です。
当事者の間に調停委員会が入り、調停委員が双方の言い分を聞き仲介役を担います。当事者のみでは感情的になってしまう場合でも、第三者が間に入ることで離婚成立に向けて話を進めやすくなります。
離婚調停を有利に進めるための最大のポイントは、調停委員を味方に付けることです。アスペルガーの配偶者による言動のためにどのような苦しみを被っているのかや、離婚する他に解決方法を見出しがたいことなどを調停委員に対して具体的に説明し、理解を求めるようにしましょう。
(3)最終的には離婚訴訟
調停で話し合いがまとまらない場合、調停委員が離婚の成立・不成立に関して法的決定を下すことはできません。そのため、話し合いがまとまらなければ調停は不成立となり、それでも離婚を求める場合は改めて離婚訴訟を提起する必要があります。
離婚訴訟では裁判官が手続きの進行を進め、当事者双方が合意に至らない場合でも裁判官が判決という形で最終的な判断を示します。
有利な判決を獲得するためには、配偶者の言動が「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当することを証明できる証拠を提出することが最も重要です。
6、離婚したい方もしたくない方も…困ったときは弁護士にご相談ください
離婚したい方も離婚までは考えていない方も、アスペルガーの配偶者との結婚生活に関してお困りの際は、お気軽に弁護士にご相談ください。
弁護士に相談することで、アスペルガーの配偶者への対応や今後の結婚生活に関して客観的な目線からアドバイスをもらうことができます。また、「夫婦円満調停」という法的手続きを依頼して夫婦関係の修復を図ることも可能です。
離婚したい場合には、弁護士に依頼をすれば、配偶者との離婚の話し合いや訴訟に関して弁護士が代理人として手続きを進めてくれます。そのため、配偶者と顔を合わせることや煩雑な手続きの労力から解放されます。
どちらの場合も、一人で抱え込まず弁護士の力を借りて解決を目指すことをおすすめします。
アスペルガーチェックに関するQ&A
Q1.アスペルガー患者の特徴とは?
- 社会性・対人関係の障害
- 言葉・コミュニケーションの障害
- 想像力・柔軟性の障害
Q2.配偶者がアスペルガーかも?と思ったときの対処法とは?
- 特に生活上の支障がない場合は様子を見る
- 本人が苦しんでいる場合は受診を勧める
- 自分が苦しい場合は別居や離婚も視野に入れる
Q3.配偶者のアスペルガーを理由として離婚できる?
配偶者がアスペルガー患者の場合は医学的な対処によって通常の社会生活を営むことが可能であるため、「強度の精神病」や「回復の見込みがない」という要件に該当しないと考えられています。
そのため、配偶者がアスペルガーであるというだけの理由では強制的に離婚を求めることは困難であると言わざるを得ません。
まとめ
アスペルガーの配偶者との結婚生活は、一緒に暮らしている人にしかわからない苦労がたくさんあります。結婚生活を続けていきたい気持ちが強い方も、ご自身の心身の健康を大切にすることを第一に考えてください。離婚したいのか自分ではわからない、何が幸せなのかわからない等、アスペルガーの配偶者との結婚生活や今後の方針についてお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談ください。