事実婚において子供が誕生した場合、子供の姓や親権の問題について疑問がわくことでしょう。
最近では、法律上の結婚ではなく「事実婚」という選択をするカップルが増えています。
通常の法律婚と異なり、事実婚ではどちらかの姓を選ぶ必要がありません。姓の変更を避ける場合、事実婚が選ばれることがあります。しかし、子供が誕生した場合、子供の姓や親権に関する問題が浮上します。
この記事では、事実婚に関する基本情報を説明し、
事実婚のカップルが子供を持つ場合の選択肢
事実婚の子供の姓や親権に関わる法的な側面
ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
さらに、
事実婚の子供の「相続権」や「児童手当」に関する考え方
事実婚で子供が生まれた際の潜在的な問題について
も取り上げます。
この情報が、実際に事実婚を選んだカップルや、将来のことを考えているカップルのお役に立てれば幸いです。
事実婚(内縁)について詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、事実婚で子供ができた場合について知る前に~事実婚とは?
事実婚の夫婦に子供ができた場合について知る前に、そもそも事実婚とは何かを確認しておきましょう。
(1)事実婚とは
日本の法制度では、戸籍上夫婦となるには、婚姻届を提出して夫婦のどちらか一方に苗字を統一する必要があります。苗字を1つにそろえたくない場合は、籍を入れずに「事実婚」という形を取ることとなります。
結婚するとなると、どちらか一方が苗字の変更を強いられるため、苗字を変更することを受け入れられない場合もあるでしょう。自分の苗字がアイデンティティとなっている方や、珍しい苗字であることから苗字が途絶えることを望まない方もいます。
他にも、さまざまな理由から事実婚を選択する夫婦が増えています。
(2)事実婚と同棲カップルとの違い
事実婚は、同棲しているカップルと何が異なるのでしょうか。
事実婚は、婚姻届を提出していないだけで、実態は夫婦であることに変わりはありません。事実婚関係にある夫婦にも、法律婚関係にある夫婦と同様に、貞操義務や婚姻費用の分担等の責任が生じ得ます。何の責任もない恋人時代とは、大きな違いがあるのです。
戸籍上夫婦になっていなくても、2人を同一の住民票に表記してもらうことも可能です。お互いの続柄について、「妻(未届)」「夫(未届)」などと住民票に記載している事実婚の夫婦もいます。
以上のように考えると、同棲カップルと事実婚の夫婦は、責任や社会的立場に違いがあるといえるでしょう。
2、事実婚の夫婦に子供ができたらどのように対応すべき?
事実婚の夫婦に子供が生まれた場合、子供にとっては、自分の父親と母親は法律上婚姻関係がないことになります。
大人だけであれば、お互いが納得した事情のもと事実婚の形をとることに問題はありません。ですが、子供が生まれるとなると、子供の権利や子供の気持ちについて考える必要があり、大人の事情だけでは片付けられない問題もあります。
本章では、事実婚の夫婦が子供を授かった場合に可能な対応についてみていきましょう。
(1)まずは今後について夫婦でしっかり話し合う
事実婚の状態で子供を授かった場合、
- 法律上の夫婦として籍を入れるのか
- 子供をどのように育てるか
など、夫婦でしっかり話し合うことが必要です。
夫婦だけであれば、事実婚の状態でも特に不都合はなかったかもしれません。しかし、子供が生まれたら子供のためにどうしたらいいのかも考える必要があります。
事実婚の状態で子供を生み、後から子供に寂しい思いをさせることがないよう、出産前に夫婦でしっかり話し合いましょう。
(2)事実婚を解消し法律婚をする
事実婚の状態を続けていても、妊娠が発覚した後に婚姻届を提出し、法律婚を決意する事実婚夫婦は少なくありません。
すでに述べているように、法律婚をするには、夫婦のどちらかが苗字を変更する必要があります。しかし、苗字変更というデメリットを踏まえてでも、家族全員で戸籍上も家族になることを選択も可能です。
(3)事実婚を継続する
子供を授かっても、事実婚を継続するカップルもいます。
夫婦のどちらか一方が苗字を変更することを避けたい場合などは、事実婚を継続する選択をすることになります。
子供を授かっても事実婚を継続する場合は、
- 認知
- 親権
- 苗字
など、大切なことを夫婦でしっかりと話し合いましょう。
3、事実婚の夫婦に子供ができたときの親権
子供を授かっても事実婚を継続する場合、子供の親権はどのような扱いになるのでしょうか。本章で詳しくみていきましょう。
(1)戸籍上の夫婦にならないと「共同親権」にならない
日本の法制度では、戸籍上の夫婦にならなければ、夫婦それぞれが共同親権を持つことができません。事実婚状態で家族として一緒に生活をしていても、片方の親は子供に対して親権を持っていないということになります。
「親なのに親権を持てないのはおかしい!」という気持ちを抱えるのも無理はありません。しかし、現在の法制度ではこのような取り扱いとなっているのです。
(2)事実婚夫婦の親権は「原則母親」が持つ
事実婚夫婦の場合の親権は、原則として生まれてくる子供の母親が持ちます。
本項では、事実婚夫婦における親権に関する以下の事項について解説します。
- 親権がない親の扱い
- 「認知」について
①親権がない親の扱い
事実婚夫婦において、親権がない親は、子供の代理人として法律行為をすることができません。例えば、子供の銀行口座を開設したいと考えても、親権がない親は、子供の代理人として口座開設をすることができません。病院での面会についても、親権がない親は子供と面会できないという対応をしている病院もありますので、注意が必要です。
以上のように、子供の親であるにもかかわらず、親として当たり前にできるはずのことができないケースが出てきます。
「親権」という存在が重要になる場面もありますので、事実婚を貫く場合には、しっかり認識しておくようにしましょう。
②「認知」とは
事実婚夫婦の子供の親権が、原則母親となるなら、父親は法制度上何もできないのかというと、そうではありません。日本の制度では、戸籍上夫婦でない男女に子供が生まれた場合、父親にあたる人に「認知」という制度が認められています。
認知とは、事実婚夫婦のように、戸籍上婚姻関係にない男女に子供が生まれた場合、生まれた子供を自分の子供であると認める制度です。
婚姻関係にない男女に子供が生まれた場合、子供は女性から生まれるため母親が誰なのかはわかります。しかし、戸籍上は、父親が誰になるのかはわかりません。
「認知」という制度を利用して、父親に当たる人が認知の手続をとると、生まれた子供の父親が誰なのかが明らかになります。
具体的には、認知をすると、父親にあたる人の戸籍に下記項目が記載されることになるのです。
- 認知日
- 認知した子の氏名
- 認知した子の戸籍
母親と子供の戸籍にも、子供の父親の欄には認知をした父親の名前が記載されるため、子供の父親の存在が明らかになります。
4、事実婚の夫婦の子供の苗字
事実婚夫婦の子供の苗字は、どのような扱いとなるのかについて、詳しくみていきましょう。
(1)「原則母の苗字」を名乗る
事実婚の夫婦の子供は、原則として「母の苗字」を名乗ることになります。
戸籍上夫婦になっていない場合、子供から見れば、自分と母親の苗字は同じですが、父親とは苗字が異なるという状態になります。
(2)例外的に父の苗字を名乗ることも可能
子供の苗字は原則として母の苗字になりますが、例外的に父の苗字を子供が後から名乗ることも可能です。
事実婚の未成年の子供の苗字を両親のいずれか一方の苗字に変更する場合は、特別の事情の存在と家庭裁判所の許可が必要となります。
子供が成人に達している場合は、特別の事情がなくても、家庭裁判所の許可があれば子供の意思で苗字を変更することができるとされています。
5、事実婚夫婦の子供の相続や児童手当などに関する疑問
本章では、事実婚夫婦の子供の「相続」や「児童手当」などについて、解説します。お金が発生する問題ですので、しっかりと確認しておきましょう。
(1)事実婚夫婦の子供の「相続」
事実婚夫婦の間の子供は、相続関係がどうなるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
事実婚夫婦に子供が生まれた場合、父親が子供を「認知」していれば、子供は法律婚夫婦の子供と同じように、母親および父親の相続権が認められます。
つまり、父親と苗字が違っていても、認知されていれば、父親の財産を相続することができるのです。
(2)児童扶養手当
シングルマザーやシングルファザーなどのひとり親世帯には、児童扶養手当が支給されています。
事実婚夫婦の場合、法律婚ではないためひとり親と同様に児童扶養手当を受給できると勘違いしている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、事実婚であっても父母が生計を同じくしているため、基本的には児童扶養手当の支給対象になりません。
6、事実婚で子供ができた場合に考えられるトラブル
事実婚は、大人同士で納得できていれば問題ありません。
しかし、事実婚夫婦に子供ができた場合には、次のようなトラブルが発生する可能性があります。
- 事実婚夫婦と子供の間でのすれ違いが生じる
- 子供ができてから内縁解消されてしまった
(1)事実婚夫婦と子供の間でのすれ違いが生じたらどうすればよい?
事実婚夫婦と子供の間で、以下のような理由ですれ違いが生じる可能性があります。
- なぜ片方の親と苗字が違うのかわからない
- 他の家庭と自分の家庭の違いがわからない
①なぜ片方の親と苗字が違うのかわからない
子供は、なぜ自分の苗字と片方の親の苗字が異なるのかを疑問に思います。
同じ家で生活しており、「父親」「母親」として家族であるにもかかわらず、親と苗字が違うという現実を子供はなかなか理解できないということがあるでしょう。
②他の家庭と自分の家庭の違いがわからない
子供は、社会で普通とされていることを当たり前のように普通だと感じる傾向にあります。
学校の友達は、両親ともに苗字が同じなのに、自分の家庭だけ特殊なのはなぜなのかを理解できません。
③対処法:親が子供にきちんとした説明をする
子供は、戸籍や事実婚の意味を最初からわかっていません。親がしっかりとした説明をすることが必要でしょう。
苗字は違っていても、家族であることに変わりはないことをしっかりと伝え、子供への愛情が伝わるように日々心がけましょう。
(2)子供ができてから内縁解消されたらどうすればよい?
今の社会の男女は、一度戸籍上の夫婦になっていても、後に離婚することが珍しくありません。事実婚夫婦でも、内縁関係を解消される可能性はあるでしょう。
内縁関係を解消されて自分1人で子供を育てることになった場合は、養育費などについて、相手としっかり取り決めをしましょう。
事実婚の子供に関するQ&A
Q1.事実婚と同棲カップルとの違いとは?
事実婚は、婚姻届を提出していないだけで、実態は夫婦であることに変わりはありません。事実婚関係にある夫婦にも、法律婚関係にある夫婦と同様に、貞操義務や婚姻費用の分担等の責任が生じ得ます。何の責任もない恋人時代とは、大きな違いがあるのです。
Q2.事実婚の夫婦に子供ができたらどのように対応すべき?
- まずは今後について夫婦でしっかり話し合う
- 事実婚を解消し法律婚をする
- 事実婚を継続する
Q3.事実婚の夫婦に子供ができたときの親権とは?
- 戸籍上の夫婦にならないと「共同親権」にならない
- 事実婚夫婦の親権は「原則母親」が持つ
まとめ
事実婚の夫婦が子供を授かった場合、子供のことまで含めて、事実婚を貫くかどうかを考える必要があります。子供の気持ちや親子の絆を考え、夫婦でどのような選択をしていくべきかしっかり話し合いましょう。
事実婚の状態で子供を授かったものの、パートナーから内縁関係の解消を持ちかけられることがあるかもしれません。このような場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
自分1人で子供を育てていくのは大変なことですから、養育費などを含めて、弁護士のアドバイスを聞くことが大切です。