虚偽告訴罪とは、他者に刑事罰を受けさせるために事実とは異なる主張をした場合に問われる法的責任のことです。
この記事では、虚偽告訴をされた場合の適切な対処方法について詳しく解説します。
目次
1、虚偽告訴罪の具体的行為
虚偽告訴罪とは、例えば、
『〜さんがコンビニで強盗をしていました』
『痴漢をされたのでこの人を逮捕してください』
などと、特定の人を処罰させる目的で、わざと客観的真実に反する、つまり嘘の被害届を提出するような場合に成立します。
刑法172条 虚偽告訴等
人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
2、虚偽告訴罪はどのような場合に成立する?
それではここ で、虚偽告訴罪が適用される構成要件について、ご紹介します。
(1)客観的真実に反する告訴・告発その他の申告をすること
「虚偽の告訴、告発その他の申告をすること」が処罰対象となっていますが、この「虚偽」とは客観的真実に反することをいいます。
虚偽だと思って申告したけれど、実際は本当に犯人であった、という場合は虚偽告訴罪は成立しません。
なお、「偽証罪」は自分の「記憶」に反する証言を行う犯罪であるため、ウソの証言をしたつもりが、たまたま真実であった場合も処罰されます。
- 告訴罪の故意
- 虚偽であると認識していることが必要
まず、虚偽であることを認識していることが必要です(真実と信じて告訴したら、実際には真犯人ではなかった、という場合には虚偽告訴になりません)が、事実に反しているかもしれないけど構わない、という未必の故意でも虚偽告訴罪が成立する可能性があります。
(2)刑事処分・懲戒処分を受けさせる目的があることが必要
その人に刑事処分・懲戒処分を受けさせる目的があることが必要です。
そのため、ネット上でありもしない情報を書き込んだり、ネット上で批判をしたり、誤った内容をスキャンダルとして発信し中傷することは、中傷された相手に刑事処分・懲戒処分を受けさせる目的がないため虚偽告訴罪には該当しません。
3、虚偽告訴罪に科される刑罰とは?
虚偽告訴罪について有罪になると、3ヶ月以上10年以下の懲役刑が科せられます。
一方、虚偽告訴罪の刑罰に対しては、このようなことも法律に定められています。
虚偽告訴罪を犯したものが、その申告をした事件についてその裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる
引用元:刑法173条
虚偽告訴罪を処罰する理由の一つとして、刑事捜査の適正を守るため、という目的がありますが、刑事捜査の適正を守ることにいち早く加勢したとして、裁判確定前、懲戒処分前に自白することで、刑が減免されるのです。
4、虚偽告訴罪等をもし受けてしまったら
身におぼえのない罪で告訴等をされてしまったら、一体どのように対応すればいいのでしょうか?
捜査機関が虚偽の告訴を信じてあなたを疑っている場合、無罪を主張して闘っていかなければなりません。
その場合には、長く辛い闘いを強いられることになるかもしれず、初期の自分の供述が後々不利に使われてしまうこともありますから、必ず早期に弁護士へ相談してください。
弁護士に依頼すれば、逮捕され勾留に移る前から自由に接見することができ、取調べにどのように対応すればいいか、的確なアドバイスをしてもらえるでしょう。
事件の解決はもちろん、突然の逮捕によって連絡の途絶える家族や会社に対しても、弁護士が間に入ることで、その後の影響を最小限に抑えることも可能となるでしょう。
虚偽の告訴によって身柄を拘束される可能性もありますが、自分の無実を証明するために、また、虚偽の告訴をした相手から慰謝料や損害賠償を請求するためにも、必ず弁護士の助言のもと、対策を立てていくようにしてください。
5、虚偽告訴罪で処罰された実例
虚偽告訴罪で実際に犯人が処罰された事例としては、大阪市で起きた、男女ふたり組の犯人らによる痴漢でっち上げ事件が有名です。
この事件は、犯人らが示談金目的であらかじめ犯行計画を立て、犯人(女性)が突然、近くに居た男に痴漢されたと訴え、そこに目撃者として犯人(男性)が登場し「尻を触っているのを見た」と供述する、という流れで発生しました。
もっとも、供述の食い違いなどから加害者に仕立て上げられた男性が一方的に処罰される結果とはならず、最終的に犯人(女性)が犯人(男性)から持ちかけられた話であることを打ち明け、自首し、完全なるでっち上げ事件であったことが明らかになりました。
6、虚偽告訴罪が起こりやすいケース
ここからは、虚偽告訴罪が起こ りやすいケースについてご紹介します。
(1)痴漢トラブル
既にご紹介した大阪市での事件のように、女性がある特定の男性に対し、『触られた!』と主張をすることで、実際には痴漢をしていないその男性の刑事処分を要求するケースです。
(2)嫉妬や怒りからの報復
誰しも、会社内での人間関係のトラブルや、友人知人関係での仲違いなどにより、その相手に報復したいと思うこともあるでしょう。
しかしながら、報復として虚偽の内容で被害届を提出すれば、虚偽の告訴等に該当します。
7、虚偽告訴罪と類似する犯罪
最後に、虚偽告訴罪に類似する犯罪についてご紹介します。
(1)名誉毀損罪
インターネット上でありもしない情報を流したり、名指しで批判したりすることは、犯罪行為についての書き込みであっても捜査機関等への告訴等ではないため、虚偽告訴罪ではありません。
しかしながら、事実を示して人の名誉を傷つける行為ですから、「名誉毀損罪」に該当する可能性が高いでしょう。
(2)虚偽申告の罪(軽犯罪法)
また、「人」を特定することなく虚偽の事実を訴えた場合には、軽犯罪法上の虚偽申告の罪に該当します。
まとめ
最近では痴漢冤罪など、虚偽告訴罪に該当すると思われる事例も多く発生しており、けっして他人事ではありません。
もしも身におぼえのないことについて容疑をかけられてしまった場合、必ず弁護士に相談し、その後の手続きや周囲への対応など、適切な方法で行うようにしてください。