
労働基準監督署で、職場での扱いや悩みを相談したいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし「労働基準監督署は、具体的に何ができるのか」が分からないとお困りのこともあるかと思います。
そこで今回は、
- 労基署こと「労働基準監督署」とは?
- 労基署で相談できること
- 労基署に申請する方法
- 労基署を活用する方法
等について、ご説明したいと思います。ご参考になれば幸いです。
ご注意下さい。
本ページはベリーベスト法律事務所のコラム記事です。
労働基準監督署(労働局、労働基準局)のWEBサイトではございません。
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目次
1、労基署(労働基準監督署)とは?
労働基準監督署は、略して「労基署」と呼ばれることも多い機関で、名前だけは知っている方が多いでしょう。
勤務先会社も、労基署の顔色を窺っていることが多いのではないでしょうか?
そもそも、労基署とはどのような機関なのか、見てみましょう。
労基署は、国の厚生労働省の出先機関です。
日本では、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法のいわゆる「労働三法」や、最低賃金法、労働安全などの労働に関する法律にもとづいて、雇用条件を整えなければなりません。
そこで、労働基準監督署は、各企業が労働基準関係法令(労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法など)に基づいて適切に雇用を実施しているかどうかを監督しています。
労働基準監督署は全国にあり、それぞれが管内の企業を監督しています。
労働者は、労働基準関係法令に違反がある場合には、労働基準監督署に権利救済を求めることができます(これを「申告」といいます。)。申告を契機として対象企業を調査し、法律違反が認められた場合には、是正をするよう行政指導を行います。
また、労働者からの申告がなくても、定期的に自主的に事業場に立ち入って調査を行うこともあります。
労基署による調査がきっかけで企業の労働基準法違反の罪が発覚し、刑事事件に発展するケースなども時々あります。
たとえば、労働者が労基署に、勤務先の残業代不払いを申告したことがきっかけで、企業が刑事罰を受けることもありますし、過労死したことをきっかけとして、企業の法令違反が発覚するケースもあります。
労災についても労基署の管轄であり、労災保険の加入や保険料の徴収、労災保険の支給決定などを行っています。
未払賃金の立替払いに関する事業などにも労基署が関わります。
労働基準監督官は、労働基準法違反の罪については司法警察員の職務を行うことができるので、警察官のように捜査権限も有しています。
このように、労基署は、労働者が安心安全に労働を継続していくための環境を守るための、労働者にとって重要な機関と言えます。
2、労基署(労働基準監督署)で相談・申請できることとは?
労基署は、各企業の労働基準関係法令違反を取り締まるための機関なので、違法行為の取り締まりをとおして、ひいては労働者の権利を守るための機能を持っているともいえます。
その1つとして、労働者からの各種の相談を受け付けています。
具体的には、以下のようなトラブルについて相談することができます。
ただし、全ての労働トラブルにおいて「相談できる=労基署が対応してくれる」ということではありません。労基署が積極的に介入できる分野とそうでない分野があることは認識しておきましょう。
(1)解雇問題
ある日突然解雇されたり、あるいは半強制的な「退職勧奨」を受けたり、リストラと称して恣意的に解雇されたりすると、労働者には多大な影響が及びます。
傷病を理由とする解雇や解雇予告手当の不払については、労働基準法上の問題なので、労基署では丁寧なアドバイスをしてくれることが多いです。
また、企業が労働者を解雇するのに必要な条件について聞いたり、解雇を争う方法などについての一般論を確認したりすることはできる場合があります。
(2)残業代不払い
残業代不払いも、よくある雇用トラブルです。
残業代が支払われていないと考えられる場合、労基署に相談すると、企業の実態が明らかになって労基署から是正勧告してもらえるケースなどがあります。
残業代の相談の際は、働いた時間の証拠となる記録などの資料があると良いでしょう。
(3)各種のハラスメント
企業内では、
- パワーハラスメント(パワハラ)
- セクシャルハラスメント(セクハラ)
- マタニティハラスメント(マタハラ)
など、さまざまなハラスメントが行われるケースがあます。
企業は、このようなハラスメントが起こらないように労働者の労働環境を整える義務があります。そのうち、産休・育休の付与違反や告発への報復人事等、労働基準法上のトラブルについては、労基署の対応を期待することができます。
ただ、上記以外のハラスメントに関する相談については、労基署の対応を期待することは難しいでしょう。そのため、上記以外のセクハラ、マタハラに関する相談は、後述の都道府県労働局にご相談されることをおすすめします。また、パワハラについては、後述の総合労働相談センターへ相談されると良いでしょう。
3、労基署(労働基準監督署)を利用するメリット・デメリットは?
残業代不払いに遭っている場合などには、労基署以外にもいくつか相談先があるものですが、その中でも、労基署を利用するメリットは、どのようなところにあるのでしょうか?デメリットともに、押さえておきましょう。
(1)利用するメリット
まずは利用するメリットを紹介していきます。
①是正勧告が行われて、状況が改善される
労基署労働基準監督署に残業代不払いなどの相談をしたとき、問題がある可能性があると考えられると、労働基準監督署は対象企業に対する調査を行います。
具体的には、事業者に対して帳簿の提出を求めたり、雇用環境や法令の遵守状況について質問をしたりして、具体的な状況を確認します。
その結果、実際に違反があることが確認できたら、労基署から使用者に対し、不払いの残業代を支払うように促したり、是正勧告したりすることがあります。
この場合、放っておくと企業には刑事罰が科される可能性も出てくるので、多くの企業は勧告に従うことが多いです。
実際に、残業代不払いトラブルは、労働基準監督署の関与により、最終的に解決されることがあります。
②無料で相談できる
労働トラブルを相談しようとすると、費用がかかることもあります。
これに対し、労基署は国の機関であり、相談はすべて無料です。
勤務先とトラブルになっている労働者は金銭的に余裕がないことが多いでしょうから、無料で相談できることも大きなメリットとなるでしょう。
③和解あっせんの窓口になってくれる
労働基準監督署に行くと、「労働局での和解あっせん」を勧めてくれることがあります。
労働局の和解あっせんとは、都道府県の労働局が間に入って労働者と事業者の間のトラブルを解決してくれる手続きです。
和解あっせんでは、労働局から解決案を提示してもらえたりもするので、自分たちだけで話し合うより解決しやすいです。
(2)利用するデメリット
労基署での相談には、限界があります。
それは、労基署が対応できる分野には限りがあることと、企業に対し何かを強制する権限がないことです。
労基署は、企業がきちんと労働基準関係法令を守るよう監督する機関であり、問題があったら送検して刑事事件にする権限は持っていますが、未払い賃金や残業代を支払わせるなどの、民事的な対応をさせたり命令したりすることはできません。
つまり、企業が労基署による是正勧告を無視して支払いをしなくても、強制的に支払わせることは不可能なのです。
また、労基署が実際に企業に対して、刑事罰を適用させるケースは、そう多くはありません。
そこで、特に、中小企業の場合、「どうせ、無視していても問題ないだろう」と考えて、労基署の勧告を無視するケースが多いです。
未払残業代の請求をするとき、勤務先が労基署の勧告に従わなかったなら、最終的に裁判所の手続きを利用することになります。
このように、労基署に相談をしても、最終的な解決につながらない可能性があることは、労基署への相談のデメリットと言えます。
そもそも、労基署は、労基法違反を監督する役所であり、個人の代理人として行動してくれるものではないことは押さえておいてください。
労基署で相談をするときには、「解決できる」という高い期待を持ちすぎると、落胆することになります。
4、近くの労基署(労働基準監督署)を探す方法
そうはいっても、無料で近隣の労働基準監督署に相談できるメリットは大きいものです。
ただ、自分の会社の管轄の労基署がどこにあるのか、よくわからないということもあるでしょう。
その場合、こちらの厚生労働省のページから、管轄の労基署を探すことができます。
まずは都道府県を選択しましょう。
すると、労働局や労働基準監督署、公共職業安定所などの各種の出先機関が出てくるので、職場の近くの労基署に連絡をすると良いでしょう。
5、労基署以外の労働問題の相談先
最後に、労基署以外にも労働問題を相談出来る場所を、ご紹介します。
(1)厚生労働省
まずは、国の厚生労働省において、相談をすることができます。
「総合労働相談コーナー」というサービスです。
全国各地の労働局や労働基準監督署内に設置されており、労働問題に関するあらゆる分野についての労働者、事業主からの相談を受け付けており、労基署とも連携しているので、介入可能な分野については労基署が動いてくれることもあります。
(2)労働局
都道府県の労働局は、労働者と事業者の間に入って和解をあっせんしたり必要な助言・指導などをしてくれたりする機関です。
労基署と同じ、厚生労働省の出先機関なので、労基署に相談をすると、労働局の和解あっせんを勧められることも多いです。
和解あっせんで解決できるケースもあるので、困ったときには相談してみましょう。
(3)労働委員会
労働委員会は、各都道府県の機関です。
公平中立な立場で労働者と使用者のトラブル解決にあたったり、不当労働行為の審査に当たったりしています。
労働局の和解あっせんよりも厳格な雰囲気で、あっせん委員の数も多く(労働局は1人、労働委員会は3人)、事業者に与えるプレッシャーも大きくなります。
労働局と労働委員会の和解あっせんを比較するとき、どちらが良いのかはケースに応じた検討が必要です。
(4)法テラス
資力がない労働者の場合には、法テラスで弁護士による無料相談を受けることができます。
交渉や訴訟等の対応が必要な場合には、相談を担当してくれた弁護士に、そのまま対応を依頼することも可能です。
その際、弁護士費用は法テラスから立て替え払いしてもらえます。
(5)弁護士
一般の弁護士事務所でも、各種の労働相談を受け付けています。
弁護士にはさまざまな得意分野があるので、特に労働問題に強い弁護士を探して相談の申込みをすると良いでしょう。
まとめ
未払賃金(残業代)がある場合、労働基準監督署に相談をすることで解決につながるケースもあります。
費用も無料なので、一度相談してみると良いでしょう。
ただし、それでは解決につながらないケースでは、労働審判や訴訟を起こさないと、残業代の回収ができません。
これらの裁判手続きを行うならば、労働問題に積極的に取り組んでいる弁護士の助けを借りましょう。