「毎日 毎日、遅くまで働いているけど、残業代が出ない。本当はもらえるんじゃないの。違法じゃないの?」
あなたは今、そうお考えではないですか?
昔に比べると減ってきましたが(最近ではヤマト運輸がきちんと残業代を支払うと宣言したことがニュースになりました)、未だ「本当は残業代を支払うべきなのに支払っていない」という会社は少なくありません。もしかしたらあなたの会社もそうかもしれません。
今回の記事はベリーベスト法律事務所の労働チームの弁護士がお伝えしていきます。読めば、「残業代が出ないけど本当はもらえるのではないか?」という疑問が解決します。また、必要な証拠や具体的な残業代請求の方法も知ることができます。
今回の記事が、残業代が出ないとお悩みの方のご参考になれば幸いです。
未払いの残業代や請求したい残業代がある方は以下の関連記事もご覧ください。
1、残業代出ないけど法律的に違法?残業代をもらえるケースとは?
(1)原則として1分でも残業したら残業代をもらえる!
詳しくは「2、残業代をもらえることは法律で決まっている」でお伝えしますが、原則として契約上の労働時間より1分でも多く働いたら残業代をもらうことができます。
よく、残業代を5分刻みで支払う(つまり、残業時間が5分を超えたら初めて残業代を支払う)という会社があったりしますが、あれは厳密には違法です。
(2)「うちの会社は『みなし残業』制度を導入しているからいま支払っている以上の残業代は出ない」は違法
残業代が出ないケースで会社が主張していることの一つが「うちの会社は『みなし残業』制度を導入しているからいま支払っている以上の残業代は出ない」という主張です。
①「みなし残業」 とは
あのトヨタ自動車も「みなし残業(固定残業代、定額残業代とも言う)」制度を採用するとのニュースがありました。
この「みなし残業」制度、適法に運用されれば従業員にも会社にもメリットがある制度なのですが、この制度を悪用して残業代を誤魔化す事例が少なくありません。
もし、あなたの会社が「みなし残業」制度ならば、誤魔化されていないか、確認してみて下さい。
②「みなし残業」制度の仕組み
「みなし残業」とは、残業時間を固定して計算して月給を支払う制度です。
もし、ある月の残業時間が固定時間よりも少ない場合は、働いていなくても残業代を貰えることになります。
一方、ある月の残業時間が固定時間よりも長い場合は、実際に働いた残業時間と、固定残業時間の差分を、残業割増賃金で支払ってもらうことができます。
「みなし残業」制度を悪質に運用する会社は、勤務時間を正確に記録せず、実際は固定時間を超えていても残業代を支払わないのです。
③「みなし残業」制度が違法に運用されていないかチェックするポイント
もし、あなたの会社が「みなし残業」制度だった場合は、就業規則で下記の3ポイントを確認しましょう。
- 固定時間で計算された残業代が、それ以外の賃金と明確に区分されていること
- 残業代計算に使われている固定時間は、何時間であるか明確に定められていること
- 残業時間が、固定時間を越えた場合は、別途割増し賃金を支払うこと
この3点は、就業規則等の文書で明確に定められてなければなりません。
もし明確に定められてなければ、「みなし残業」制度として認められない可能性があります。
(3)他にもこんな場合は残業代をもらえる!よくある未払い事例は?
会社が従業員に対して残業代を支払わない際の会社からの主張として主なものは以下の通りです。
①「自宅持ち帰りの仕事には残業代は出ない」という主張は違法の可能性がある
仕事が終わらないので、自宅で作業する場合ですが、会社の業務であれば、残業と認められる場合があります。もっとも、会社の指揮命令によるものであること、実際の残業時間を把握することが困難なことから、ハードルは低いとはいえません。
後ほど詳しくお話しますが、残業代を請求するには証拠が必要です。
この場合、自宅で会社の業務を行った証拠がまず必要となります。そしてこの場合、自筆勤務簿と「勝手に業務報告メール」を試してみてもよいでしょう。
この場合、上司に指示された業務を行うために、自宅で作業した旨を明確に「勝手に業務報告メール」に記述しましょう。
自宅での作業の最後に「勝手に業務報告メール」を送信し、作業が終わった時刻を自筆勤務簿に記入しましょう。
この自筆勤務簿に記載された時刻と「勝手に業務報告メール」を送信記録の時間が整合していれば、一定程度の証拠となり得ます。パソコン画面の時刻の写真もお忘れ無く。
②「管理職だから残業代は出ない」という主張は違法の可能性がある
「管理職だから残業代が出ない」と言われたときは、「名ばかり管理職」でないか疑ってみましょう。
労働基準法では「管理監督者」には、原則として残業代を支払わなくてもいいことになっています。
問題は、「あなたの会社での管理職」が、労働基準法の「管理監督者」なのかどうか?です。
この問題は四つのポイントで判断されます。
以下の1〜4を踏まえて管理監督者ではない「名ばかり管理職」と判断される場合、残業代は支払われます(具体的に判断するにあたっては弁護士に相談しましょう)。
- 各部署・部門を統括する立場にある→部署内において、採用・解雇に関する人事権や決済権があるかどうか?
- 企業の経営に関与している→社長が出席しているレベルの経営会議等に参加しているかどうか?
- 自身の業務量・労働時間を裁量的にコントロールしている→会社から勤怠管理をされているかどうか?
- 賃金面で十分な待遇がされている→管理職になって、残業代が出なくなったため手取りが減っていないか?
③「5分未満は残業としてカウントされないからその分の残業代は出ない」は違法の可能性
残業代の端数処理について、明確なルールがあります。
先ほどもお伝えしましたが、残業代は1分単位で発生します。
つまり、毎日の勤務時間の記録を5分とか10分の端数切り捨てすることは、労働基準法違反です。
国の解釈基準は下記のとおりです。
- 時間計算→1ヶ月の残業時間の「合計」で、1時間未満の端数を30分未満切り捨て、以上を1時間に切り上げる。この処理は「合計」時間に対する処理です。毎日の記録には端数処理はNG
- 賃金計算→賃金計算において、1円未満の端数が生じた場合は、50銭未満を切り捨て、以上を1円に切り上げとする
④「うちの会社はフレックスタイム制だから残業代は出ない」は違法の可能性
フレックスタイム制とは、定められた労働時間の中であれば、労働者自身が出社時間と退社時間を決めることができる制度です。
フレックスタイム制であっても、少なくとも,精算期間での総労働時間が、「1週間40時間」相当を越えた場合は、割増し残業代を支払う必要があります。
法定外残業時間 = 総時間– (精算期間日数 × 40時間÷7日)
⑤「うちは歩合制だから残業代が出ない」は違法
労働基準法では、歩合制について「労働時間に応じて一定額の賃金の保障をしなければならない。」と定めています。
この一定額については、平均賃金の6割程度を保障することが妥当とされています。
また、歩合制でも、残業代の割増しは必要であるとのタクシードライバーの裁判例があります。
⑥「早出、朝礼の間は残業代は出ない」は違法
始業時間前に行わなければならない開店準備、着替えなど「定刻までに完了していなければならない。」指示や黙示の指揮命令が有る場合は、始業前残業とみなされます。
⑦「住み込み、仮眠の間は残業代は出ない」は違法の可能性
連絡があれば業務として対応しなければならない、住み込み、仮眠は、労働時間として賃金に含まれていなければ、残業とみなされる可能性があります。
⑧「君は裁量労働制だから残業代は出ない」は違法の可能性
裁量労働制とは、実際に働いた時間に関わらず、特定の成果を生み出すことを前提にあらかじめ決められた時間を働いたと「みなす」制度です。
「裁量労働制だから残業代は出ない」もよくある企業からの主張です。
しかし、裁量労働制として認められるには厳格な要件があるため、本当に裁量労働制が適用されるのかは慎重に吟味しなくてはなりません。
2、残業代をもらえることは労働基準法という法律で決まっている
ここまで残業代を支払わない企業の主張をまとめました。
次は、そもそも労働時間や残業代について法律がどのような定めをしているのかを具体的に説明していきます。
(1)残業に関するルールは、法律で決まっている
日本では、働くこと(=労働)に関する最低限のルールが労働基準法で決まっています。
つまり、このルール(労働基準法)を守らなければ、会社は、国(労働基準監督署)から指導を受けることになります。
(2)会社の規則よりも、労働基準法の方が強い
仕事に関するルールや取り決めとして、労働基準法以外にも、労働協約、就業規則、労働契約があります。これらのルールに、何が優先されるかの順列が決まっています。
つまり、もし会社が、あなたとの契約条件や、就業規則を理由に残業代の支払いを拒んでも、労働基準法に違反していた場合は、労働基準法に則った残業代を支払わなければなりません。
ですから、残業代について、労働基準法に則ったルールで考えて判断、行動すれば良いのです。この記事では、労働基準法に則ったルールについて説明してます。
(3)法律で決められた残業のルール
残業には2種類あります。労働基準法で決まっている残業と、会社独自のルール(就業規則、労働契約)で決めた残業です。
あなたの会社の就業規則や労働契約がどうなっていようと、労働基準法で決まっている残業については、会社は残業代を支払わなければなりません。
① 残業代をもらえる残業は、1日8時間超、週40時間超
基本的に、1日8時間、1週間に40時間を超える労働は残業となります。そしてこの1日8時間、1週間に40時間を法定労働時間と言います。
これを超えた労働を法定時間外労働と呼び、割増しされた残業代が支払われます。
なお、この8時間には、休息時間は含まれません。
法定時間外労働に対して、会社の就業規則で決まっている定時(所定労働時間)を越えての労働も「あなたの会社にとっての残業」ですが、法定労働時間内であれば、1時間分の残業代がきちんと支払われていれば割増しが無くても法的には問題ありません。
②残業代は賃金が割増し
労働基準法により、法定時間外労働は賃金を割増することが定められています。
表 残業の種類による賃金割増率 一覧
(4)残業代が、もらえる条件、違法かどうか判定ルール
あなたが、残業代をもらえるかどうかは、簡単なルールで判断することができます。
もしあなたが、下記のどちらかに該当すれば、原則として残業代がもらえます(なお、ここでは多くの企業が正社員に適用している「1日8時間労働で週5日勤務」という雇用契約を前提とします)。
- l 日8時間以上働いた
- l 週間で40時間以上働いた
このルールは、労働基準法という国のルールです。
あなたの会社がどのような就業規則であろうが、このいずれかの条件を満たせば、あなたの雇用契約が正社員契約でなくとも(アルバイトや契約社員でも)、原則として残業代をもらうことができます。
3、未払いの残業代を会社に請求する方法
(1)残業代を請求する手順の一例
残業代を請求するための大枠の流れを説明します。以下はご自身で働きかける場合の一例です。
- 最初に、あなたが、どんな条件で働いているか、残業代が正しく支払われているかを確認
- もし、残業代が正しく支払われていないならば、残業をした証拠(=勤務時間の証拠)を揃える
- 勤務時間の証拠が揃ったら、その証拠に基づいて残業代を計算
- まずは自力で会社と交渉
- もし、会社との合意ができない場合は、労働基準監督署や弁護士に相談
(2)雇用条件、就業規則、給与明細を確認
最初に、あなたが、どんな条件で働いているか、残業代が正しく支払われているかを確認します。
①雇用契約書
あなたが会社に働き始めるときに、雇用契約書、労働契約書など、労働条件が記載された書面(雇用条件通知書等)を受け取っているはずです。書面による労働条件の提示は、労働基準法で定められたルールです。
②就業規則
就業規則とは、会社で働く際のルールです。10人以上が働く会社では、就業規則の作成・周知しなければなりません。これも労働基準法で定められたルールです。
雇用契約書が無かったり10人以上働いているのに就業規則が無い場合は、労働基準法に違反しています。
③給与明細
給与明細には、通常、基本給、各種手当ての明細が記載されています。残業代支払い交渉では、大変重要な証拠となります。もし、給与明細が無い場合は、銀行振込の記録だけでも準備しましょう。
(3)残業がもらえるかどうかは証拠が非常に重要
①勤務時間の記録
- A)タイムカード、勤務簿、勤務報告書
あなたの会社が、タイムカード、勤務簿、勤務報告書等、勤務時間を記録する書類があるようでしたら、その書類のコピーや、写真を撮っておきましょう。大変重要な証拠となります。
- B)その他の勤務時間の証拠
タイムカード等の勤務時間を正確に記録した証拠が無い場合は、その他の勤務時間の証拠を揃える必要があります。
もし、有効な証拠を揃えることができない場合は、泣き寝入りとなる可能性もありますので、なんとか有効な証拠を準備しましょう。
- B−1) 毎日の退社時間を記録した自筆勤務簿
会社に勤務簿が無い場合は、自分で個人的に勤務簿をつけましょう。
パソコン等に打ち込んだものでなく、毎日自筆で記入することがポイントです。
パソコンでは、後からデータを打ち込むことも可能であり、記録を捏造したと反論されると弱いからです。
- B−2) 退社時にパソコンの時刻を撮影した写真
自筆勤務簿を補足する資料として、自筆勤務簿と一緒に、会社のパソコン画面の時計を毎日撮影するようにしましょう。あるいは、オフィスの時計、会社の車の時計でもかまいません。
自筆勤務簿だけですと後から捏造したと反論されますが、その自筆勤務簿と仕事場にあるパソコン時刻や、時計を一緒に撮影した写真があれば、強い証拠となります。
写真を撮影する際に、同時にオフィスの風景や、日時が分かる様な周囲の風景も一緒に撮影しておくと、あなたが遅くまで働いていたことの証拠となります。
②働いていた証拠
この前の項目で、「勤務時間の記録」について説明しました。これだけでは充分ではありません。さらに「働いていた証拠」が必要となります。
あなたが準備した「勤務時間の記録」に対して、もし会社が、「ダラダラと会社に残っていただけで、働いていなかった。」と反論されたらどうしますか?
この様な会社からの反論に対して、あなたが「働いていた証拠」が必要となるのです。
- A)業務日報
もし、あなたの会社に業務日報があれば、強力な証拠となりますので、コピー、写真撮影をしましょう。
会社の「オフィシャルな業務日報」には、残業で作業したことを記述しておきましょう。
- B)勝手に業務日報メール
もし、あなたの会社に業務日報が無い場合は、「勝手に業務日報メール」を、毎日上司に送信しましょう。
「勝手に業務日報メール」には、業務内容と退勤時間を記述しましょう。ポイントは、上司から指示された業務をして残業をしましたと記述することです。
「勝手に業務日報メール」は、残業代交渉において強力な証拠となります。プリントアウトしてファイリングしておきましょう。
なお、残業代請求において証拠は非常に重要ですが、必要不可欠というわけではありません。当事務所には、証拠が乏しくても残業代を獲得した事例があります。
なお、残業代請求の証拠について詳しくは「未払い残業代請求のために必要な証拠について知っておくべき7つのこと」をご参照下さい。
(4)残業代の計算
残業時間の記録から、受け取ることのできる残業代を計算しましょう。
残業代は極めて単純化すると(あくまで参考まで)、以下の計算式で算出することができます。
残業代=「1時間当たりの賃金」×「残業時間数」×「割増率」
ただ、労働時間により割増率が異なるので実際の計算は複雑になります。厳密な計算を希望されるのであれば弁護士への相談をおすすめします。
なお、ベリーベスト法律事務所のサイトでは簡易ではありますがサイト上で残業代の計算ができるようになっています。
なお、残業代の計算についてより詳しくは「残業代が未払いになったら! 残業代請求の全手順」の記事をご参照下さい。
(5)会社と交渉
まずは、会社に対して、残業代を正しく支払うように相談してみましょう。
労働基準法は、全ての会社が守らなければならない法律です。
あなたの会社の就業規則、あなたの雇用契約条件に関係無く、労働基準法で定められた残業代をあなたは受け取ることができます。
勤務時間の記録と、残業代の計算結果、給与明細、就業規則、雇用契約等の資料を準備して交渉しましょう。
その際に、全ての資料は、コピーを提出して、オリジナルは必ずあなたの手元に保管しておきましょう。
なお、残業代の計算についてより詳しくは「残業代が未払いになったら! 残業代請求の全手順」の記事をご参照下さい。
(6)労働基準監督署に相談
もし、あなたが証拠のコピーを提出したにも係わらず、会社は残業代を支払わない場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
労働基準監督署とは、労働基準法違反を監督している国の機関です。
労働基準監督官には、労働基準法違反の罪について、警察と同じく捜査権、逮捕権があります。
あなたの準備した証拠により、会社が労働基準法違反をしていることが明確な場合、労働基準監督署から是正勧告(警告書)等で会社に行政指導してもらうことができます。
もしも会社が、労働基準監督署からの行政指導に従わない場合は、最悪、会社は労働基準法違反の罪に問われるリスクもあります。
なぜならば、残業代の未払いは、法律違反であり、罰則の規定もあるからです。
労働基準監督署に、証拠を揃えて相談にいきましょう。労働基準監督署には、多くの相談がもちこまれています。
あなたの案件を優先的に取り上げてもらうためには、「証拠の揃った残業代未払いの申告」であることを、はっきりと伝えましょう。
もっとも,労働基準監督署は,会社の法律違反を取り締まるのが目的であり,あなたの代理人として活動するわけではないことに注意が必要です。法的に権利を確定させたり時効の進行を止めたりするには,別の手続きを採る必要があります。
会社を所管している労働基準監督署(会社の所在地の監督署)にいきましょう。あなたの住所でなく、会社の住所です。
(7)所管労働基準監督署の探し方
厚生労働省の全国労働基準監督署の所在案内から、各都道府県をクリックしてください。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/location.html
各都道府県の労働局、労働基準監督署、公共職業安定所 の一覧が表示されます。
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労働基準監督署と所管区域の一覧表が表示されます。
(8)弁護士に相談することも可能
残業代請求は弁護士も対応可能です。ですので、労働基準監督署だけでなく弁護士に相談するという選択肢も有効です。
まとめ
今回は残業代が出ないケースで本当は残業代をもらうことができるのかや、具体的な請求方法を説明してきました。
この記事が残業代を請求するためのご参考になれば幸いです。