産後クライシスは、誰にでも起こりうるものですが、特になりやすい人となりにくい人がいます。
今回は、
- 産後クライシスになりやすい人の特徴
- 産後クライシスを回避するための対策
- 産後クライシスが発生した場合の対処法
について、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説していきます。
産後クライシスかもしれないと思われる辛い状況に陥ったときは以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、産後クライシスになりやすい人が知っておくべき基礎知識
産後のことについて事前の対策を考えるために、まずは産後クライシスについて基本的なことを確認しておきましょう。
(1)産後クライシスとは
産後クライシスとは、医学上の明確な定義はありませんが、出産後数年のうちに夫婦仲が急に悪くなる現象のことを指します。具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 些細なことで夫に対してイライラする
- 夫に対して不満ばかりを感じる
- 夫に対する感情のコントロールが難しくなり、攻撃的になる
- 夫婦間の会話が減る
- 夫との触れ合いが苦痛となる
- そもそも夫に対する愛情を感じなくなる
- 夫からの愛情も感じなくなる
なお、産後クライシスは妻だけの問題ではありません。夫にも以下のような症状が出ることが多くあります。
- 妻が子どもにばかり目を向けるため自分は放置されているという不満を感じる
- 自分はいなくてもいいのではないかという孤独感を感じる
- 妻がイライラして攻撃的なので家ではくつろげない
このように、夫婦がお互いに苦痛を感じて愛情が失われていく現象が産後クライシスというものです。
(2)主な原因
産後クライシスの最も大きな原因は、出産後のホルモンバランスの変化にあるといわれています。
女性の体は、妊娠してから出産後数年が経過するまでの間にホルモンバランスが大きく変化し、その影響で精神的にも不安定となることがあります。
妊娠前は気にならなかったような些細なことでもイライラしたり、不安感、憂鬱感などを感じたりして、ストレスがたまってしまうのです。
この状況に以下のような要因が加わることによって、産後クライシスが生じやすくなるといわれています。
- 子育てによる生活状況の変化
- 子育てに対する不安
- 子育てからくる肉体的・精神的疲労
- 家事や育児に対する夫の協力が不十分
- 育児に対する気持ちの温度差
- 夫婦間のコミュニケーション不足
出産した以上は避けられない要因もありますが、妻が苦しんでいるのに夫は妊娠前と同じように振る舞おうとする、夫としても悪気はないが妻の変化に対応しきれない、といった夫婦間のズレによって悪循環に陥ることがあります。
(3)いつまで続く?
産後クライシスは、妻のホルモンバランスが妊娠前の状態に戻っていくにつれて影を潜めていきます。
早ければ2~3年以内に終了することもありますが、夫が子育てに順応するまでに時間がかかることもあるので、一般的には4~5年ほど続くことが多いといわれています。
ただ、産後クライシスの危機を乗り越えたとしても、「産後の大変なときに夫が何もしてくれなかった」ということを根に持つようなケースでは、その後も長期間、夫婦仲が改善しないこともあります。
(4)産後うつとの違い
産後うつとは、文字どおり、出産後の女性がうつ状態となることです。
産後うつもホルモンバランスの変化が大きく影響して発症するものですが、気分の落ち込みや意欲の低下といった内向きの症状が中心的であるという特徴があります。産後クライシスの場合とは異なり、夫に対する攻撃性は通常、見受けられません。
また、「うつ病」は医学上の病気であるのに対して、産後クライシスという概念は病気ではなく夫婦の問題であるという違いもあります。
産後うつから産後クライシスに発展するケースもありますが、産後うつに陥っても夫婦仲が悪化していなければ産後クライシスではありません。
2、産後クライシスになりやすい人の特徴
出産後の夫婦でなら誰でも産後クライシスに陥る可能性がありますが、特になりやすい人(女性)の特徴は以下のとおりです。
(1)真面目な性格の人
真面目で几帳面、完璧主義で責任感が強いといった性格の人は、産後クライシスになりやすい傾向にあるといえます。
産後はただでさえホルモンバランスが乱れ、心身の調子が思わしくないにもかかわらず、育児に家事とやるべきことが増えてしまいます。慣れない育児をはじめとする大量のタスクを完璧にこなそうとするとストレスや疲労がたまってしまうのも当然のことです。 赤ちゃんの身の安全は絶対に守らなければなりませんが、それ以外のことについては程々でOKと考える姿勢も大切になってきます。人に気軽に頼みごとができるような、ある程度の「図太さ」も必要となるでしょう。
(2)家族との関係がうまくいっていない
育児・家事のストレスに加えて家族との関係でストレスを抱えていると、産後クライシスになりやすいといえます。
例えば、夫と赤ちゃんとの3人暮らしで、夫が何も手伝ってくれないどころか話も聞いてくれないという状況であれば、閉塞感を感じてストレスがたまってしまうでしょう。
夫の両親と同居している場合でも、物理的な負担は軽減されても姑との関係で強いストレスを感じていれば、やはり産後クライシスに陥る危険性が高まります。
(3)相談相手がいない
誰でも最初は未経験の状態で育児に取り組みます。分からないことや不安なことが多々あるものです。 そんなとき、両親(特に母親)やママ友など育児経験者にすぐ相談できる状況であれば、ストレスも軽減されます。
しかし、誰にも相談できず一人で本やネットの情報を調べるだけというように孤立した状況だと、ストレスから産後クライシスを招くおそれがあります。
(4)長期間の里帰り(別居)をする
出産のために里帰りなどで夫と別居する人も多いことでしょう。里帰り出産には多くのメリットもありますので、悪いことではありません。
しかし、妊娠中から産後まで長期間にわたって里帰り(別居)をすると、夫との間で育児に対する温度差が大きく広がってしまい、それが産後クライシスの原因となる可能性があります。
妻はどこにいても妊娠中はお腹に赤ちゃんがいて、出産後も常に赤ちゃんと一緒にいます。
それに対して夫は、別居中は独身に近い状態となり、ある意味で解放感を感じて過ごすことになります。
夫としては、妻と赤ちゃんが自宅に戻ってきても、なかなか父親としての自覚を持てないということもあるでしょう。
そんなとき、夫に対して自分と同等の熱量を求めても満足できる反応が得られませんので、ストレスがたまり産後クライシスに発展する可能性があるのです。
(5)高齢出産をした
高齢出産とは一般的に初産が35歳以上のケースを指しますが、ここでは「何歳以上」ということが問題ではありません。
出産時の年齢が高ければ高いほど、出産・育児に対する心身の負担が大きいので、産後クライシスに陥る傾向が強まるということです。
もちろん、高齢出産が悪いということではありません。ただ、心身の負担が大きいほど産後クライシスのリスクが高まるということは知っておいた方がよいでしょう。
3、産後クライシスにならないためにできること
産後クライシスを完全に予防することは難しいかもしれませんが、原因と傾向を踏まえて対策を考えておけば、リスクを大きく軽減されることができます。
具体的には、以下のことを検討してみましょう。
(1)出産前から夫とのコミュニケーションを大切にする
夫にとって出産は自分が直接経験することではないので、どうしても自分のこととして捉えきれない側面があります。そのため、出産後しばらくは育児に対する熱量が低いということになりがちです。
しかし、出産前から夫とのコミュニケーションを密にしていれば、ある程度の熱量を移すことはできます。
妻の方から夫に対して、今はどのような状況で、何に注意しなければならないのかを教えるつもりで話しかけるとよいでしょう。
里帰り中も毎日の電話やメールは欠かさず、可能な範囲で夫にも実家に顔を出すように誘ってみましょう。
コミュニケーションが良好に保たれていれば、出産後に家事・育児への協力も頼みやすくなりますし、精神的負担も軽減されるはずです。
(2)産婦人科の勉強会等でホルモンバランスについて学ぶ
女性なら誰でもホルモンバランスが心身に大きな影響を及ぼすことは知っているものですが、それでも妊娠中から出産後のホルモンバランスの変化は初めて経験することですので、対応しきれないことがあるはずです。
ですので、ホルモンバランスに関する知識を学んでおくことも大切です。
本やネットで学ぶのもよいことですが、おすすめは産婦人科が主催する勉強会等に参加することです。
専門的で正確な知識が得られますし、他の参加者と親しくなれば心強くもなることでしょう。
(3)育児に関する知識を深めておく
初めての出産後は、当然ながら育児も初めて経験することばかりです。知識が乏しければ、多大なストレスを受けてしまいます。
そこで、妊娠中からできる範囲で構いませんので、育児についても学んでいきましょう。
産後のことをシミュレーションすることで必要な準備を進めることができ、育児を効率よくできるようになるでしょうし、精神的負担の軽減にもつながるはずです。
(4)出産後の役割分担を夫と取り決めておく
育児に関する知識をつけたら、出産後に夫にやってほしい事柄をピックアップし、話し合って役割分担を決めておきましょう。
男性の多くは家事・育児は不得手ですので、出産後にいきなり頼まれても上手にこなすことができず、自信を失って協力できないということにもなりがちです。
妻が夫も父親として育てるつもりで、妊娠中から時間をかけて家事・育児に関する知識を共有し、「一緒に育てていく」という体制を整えていきましょう。
(5)夫以外にも育児に協力してくれる人を見つけておく
とはいえ、夫に完璧を求めることは禁物です。
女性から見ると男性が行う家事・育児には手抜かりがあるでしょうし、仕事を持っている夫には時間的・労力的な限界もあります。
そもそも、育児は夫婦2人で取り組んでも大変な作業です。 ですので、夫以外にも育児に協力してくれる人を確保しておくことも大切です。お互いの両親や親戚の他、気軽に相談できる友人で育児を経験している人などとコミュニケーションをとっておきましょう。
(6)自分なりのストレス解消法を見つけておく
万全な準備を整えたとしても、育児のストレスを完全に回避することはできません。
出産後は、ストレスを上手に解消しながら育児に取り組んでいくことも大切になってきます。 音楽や読書、映画やドラマの鑑賞、SNSなどなど、育児をしながらでも行えるストレス解消法を見つけて、可能なことであれば妊娠中から実践していくとよいでしょう。
ストレスを解消することはホルモンバランスを整えることにもつながりますので、産後クライシスのリスクを減らすことができます。
4、産後クライシスになってしまったときの対処法
事前の対策に力を入れても、実際に育児が始まると産後クライシスに陥ることもあり得ます。そのときは、自分を責めて落ち込んだり、逆に夫を攻撃的に責めたりせず、上手に対処していくことを考えるべきです。
具体的には、以下のような対処法があります。
(1)託児所やベビーシッターを利用して自分の時間を作る
赤ちゃんからは常に目が離せないので、育児中は自分の時間を作れないことで大きなストレスを受けることになります。
そこで、託児所やベビーシッターの利用を検討してみましょう。ときどきは自分の時間を確保して、ゆっくり寝る、美味しいものをゆったり食べる、趣味を楽しむ、友人と会うなどしてストレスを解消するとよいでしょう。
(2)一時的に里帰り(別居)をする
育児による物理的負担・精神的負担に耐えがたいような場合は、無理をせず落ち着くまで里帰りをして夫と別居することも考えましょう。
前記「2」(4)で里帰り出産をする人は産後クライシスになりやすいとご説明しましたが、里帰りには大きな負担軽減の効果があります。
育児は母親という心強い経験者が手伝ってくれますし、ご自身も慣れ親しんだ実家でくつろぐことができるでしょう。夫も過度なストレスから解放され、平常心を取り戻すはずです。
夫とのコミュニケーションを保ちつつ、里帰りで心身を休めるとよいでしょう。
(3)カウンセリングを受ける
里帰りが難しい場合は、カウンセリングを受けてみるのもよいことです。
産後クライシスが治るような薬を処方してもらえるわけではありませんが、有益なアドバイスが得られますし、悩みを聞いてもらえるだけでもストレスが軽くなるはずです。
できれば、夫と一緒に「夫婦カウンセリング」を受ければお互いのことを理解し合える可能性が高まります。
(4)夫を父親教室に連れて行く
夫が育児や女性のホルモンバランスについて無知であることも、産後クライシスの大きな原因となります。
夫の無理解に困っている場合には、産婦人科や自治体などが主催する父親教室に参加してもらいましょう。参加を勧めるだけでは行ってくれないことも多いので、夫を連れて行くのがおすすめです。 夫としても、知らないことはできないけれど、知識を学べばできるようになることがたくさんあるはずです。
(5)夫への愛情表現も忘れない
夫の立場から見ると、「妻が育児にかかりきりで自分に構ってくれない」「赤ちゃんも母親にしか懐かないので孤独」といったことが産後クライシスの原因となっていることが多いものです。
寂しさから浮気に走ってしまう夫もいます。 そんな夫の立場も理解してあげて、愛情表現を忘れないようにしたいところです。
(6)産後うつの場合は医師の治療を受ける
産後うつは立派な病気です。産後うつから産後クライシスに発展した場合は、精神科や心療内科でうつの治療を受けましょう。
抗うつ薬の服用などで気持ちが落ち着けば、産後クライシスがおさまることもあります。
(7)一時的な問題として割り切る
産後クライシスはホルモンバランスの変化による一時的な現象ですので、究極的には「気にしない」「受け流す」といった割り切りも大切です。
民間企業による調査によれば、母親の6割以上は産後クライシスを経験しているとのことです。「自分だけが苦しんでいるのではない」ということが分かれば、気持ちが楽になるのではないでしょうか。
また、夫が非協力的だったとしても根に持つことはやめましょう。「育児とはこういうものだ」と考えて受け流した方が、ご自身も楽になるはずです。
5、産後クライシスで離婚が頭をよぎったら弁護士に相談を
産後クライシスから離婚に発展することも珍しくはありません。
何割の人が離婚しているのかは不明ですが、出産後10年以内に離婚した夫婦の中には、産後クライシスがベースとなっているケースも少なくないと推測されます。
産後クライシスの最中にはお互いに愛情が冷めていると感じるものですが、そこで離婚してしまうと、ホルモンバランスが元に戻った後に悔やむことにもなりかねません。
離婚が頭をよぎったら弁護士に相談することをおすすめします。
(1)離婚を回避する方法
離婚を回避するためにとりうる具体的な方法としては、
- 話し合う
- カウンセリングを受ける
- 別居する
などが挙げられます。経験豊富な弁護士に相談すれば、状況に応じて最善の解決方法をアドバイスしてもらえます。
夫婦だけでは冷静に話し合えないという場合は、弁護士が間に入って話し合うことも可能ですし、家庭裁判所の「夫婦関係調整調停(円満)」を利用するという方法もあります。
また、弁護士が実績のある夫婦カウンセラーを紹介してくれることもあります。
(2)離婚する方法
産後クライシスだけが理由では、夫の同意がない限り離婚することは難しいのが実情です。
どうしても離婚したい場合は話し合いで決着をつけるしかありません。
弁護士に依頼して夫と話し合ってもらうか、離婚調停を申し立てることになるでしょう。
夫が不倫(浮気)をしていたり、DVをしているような場合は、夫の同意がなくても離婚可能です。
慰謝料や養育費などを適切に獲得するためには、弁護士に依頼して離婚協議や離婚調停を進めていくことをおすすめします。
まとめ
産後クライシスは一時的な現象であり、多くの夫婦が乗り越えています。
とはいえ、産後クライシスの最中には非常に辛い思いをするものです。
「なりやすい人」の特徴に当てはまる人は、事前にしっかりと対策する方がよいでしょう。
万が一、産後クライシスで夫婦関係が危機に陥った場合は、今後のことを冷静に考えることが大切です。
一人で解決することが難しい場合は、冷静になるためにも、弁護士や夫婦カウンセラーに相談して専門的なアドバイスを受けるようにしましょう。