買春が罪になるのかどうかご存知ですか?
ネット上で出会った少女との売春事件がメディアで報じられることがしばしばあります。
そこで今回は、
- 売春行為の違法性
- 買春で逮捕されるのはどんな場合か
- 逮捕時の対処法
について、詳しく解説していきます。
目次
1、買春とは
買春は、法律上明確な定義があるわけではありません。買春に関連する用語として「売春」があり、これは売春防止法に定義がありますが、買春については規定はありません。
第二条 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。
引用元:売春防止法
一般に、買春は金品で性的関係を買うことと言われていますので、この売春防止法上の「売春」を買う側から評価した用語ともいえるでしょう。
2、買春は原則として罪にならない
買春そのものは法律上罪には問われません。
普通の恋愛とは異なり、お金で繋がる関係は倫理的に良くないという印象があるため、買春した方も後ろめたさを感じていることでしょう。
しかし、18歳未満に対する買春、つまり「児童買春」については、児童買春・児童ポルノ禁止法に定義があり、児童等に対して対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等をすることされています。
つまり、相手が18歳未満の場合は罪になります。
以下、詳しくみていきましょう。
(1)相手が18歳以上の場合は逮捕されない
売買春は、売春防止法という法律で以下のように禁止されています。
第三条 何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。
引用元:売春防止法
「相手方」というのが買春する人のことを指します。
このように、売春も買春も法律で禁止されています。
しかし、売買春行為自体については、売春した人にも買春した人にも罰則は定められていません。
売春防止法で処罰されるのは、売春を勧誘した人や売春をあっせんした人、売春の場所を提供した人などに限られています。
したがって、出会い系サイトなどで知り合った女性と買春をしても、売春防止法上は罪にはなりません。
(2)相手が18歳未満の場合は罪になることがある
しかし、買春の相手が18歳未満の場合は全く別の話になります。
なぜなら、18歳未満の児童は売春防止法以外のさまざまな法律によって保護されているからです。
18歳未満の相手と買春した場合に適用されるさまざまな法律は次の項で詳しくご説明しますが、代表的なものに「児童買春・児童ポルノ禁止法」があります。
この法律の正式名称は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」といいます。
児童買春・児童ポルノ禁止法では、以下のように、18歳に満たない者のことを「児童」と定義した上で、児童との買春について定めています。
なお、「18歳に満たない者」ですから、買春の相手が同性でも異性でも「児童買春」になり得ます。
第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
第三条の二 何人も、児童買春をし、又はみだりに児童ポルノを所持し、若しくは第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管することその他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならない。
この禁止規定に違反すると罰則があります。
したがって、18歳未満の児童と買春することは犯罪になり得ます。
しかも、相手が18歳未満だと、買春について相手の同意があっても、相手から働きかけてきたような場合でも犯罪になり得るので注意が必要です。
ここまで、「買春」で罪になる場合があるとしたら、それは児童買春にあたる時だということを解説しました。
次項からは、児童買春に絞って解説します。
3、児童買春で逮捕される場合の罪名とその罰則
児童買春は犯罪行為ですから、窃盗や覚せい剤取締法違反等、他の犯罪と同様に、逮捕される可能性があります。
殺人罪や窃盗罪のような刑法犯とは違い、児童買春・児童ポルノ禁止法は特別刑法ですので、逮捕される際の罪名は「〇〇罪」ではなく、単に児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反)とされることになります。
では、18歳未満の児童と買春をしてしまった場合にどのような罪になるのかについて、罰則もあわせてみていきましょう。
(1)援助交際をした場合
出会い系サイトなどで児童と知り合い、金品を提供して性交する援助交際をした場合は、児童買春罪となります。
なお、売春防止法とは異なり、児童ポルノ禁止法には、「性交等」と書かれています。
したがって、性交類似行為(挿入に至らない行為)でも「児童買春」となり得ますので注意が必要です。
罰則は、5年以下の懲役または300万円以下の罰金です。
(2)相手の裸等の写真や動画を撮影した場合
児童の裸などのみだらな姿を写真や動画に撮影した場合は、児童ポルノ製造罪となります。
罰則は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金です。
児童のみだらな姿を撮影した写真を所持したり、画像や動画をパソコンやスマホなどに保存すると児童ポルノ所持罪となります。
罰則は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
これらの写真、画像、動画をインターネット上の掲示板などに投稿するなどして不特定多数の人が見ることができる状態にすることも、処罰の対象です。
罰則は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれの併科です。
(3)出会い系サイトなどで援助交際を持ちかけた場合
出会い系サイトや、マッチングサービスアプリなどで、児童に対して援助交際を持ち掛けること自体、出会い系サイト規制法で禁止されています。
出会い系サイト規制法の正式名称は、「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」といいます。
第六条 何人も、インターネット異性紹介事業を利用して、次に掲げる行為(以下「禁止誘引行為」という。)をしてはならない。
一 児童を性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、他人の性器等(性器、肛こう門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは他人に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)の相手方となるように誘引すること。
二 人(児童を除く。第五号において同じ。)を児童との性交等の相手方となるように誘引すること。
三 対償を供与することを示して、児童を異性交際(性交等を除く。次号において同じ。)の相手方となるように誘引すること。
四 対償を受けることを示して、人を児童との異性交際の相手方となるように誘引すること。
五 前各号に掲げるもののほか、児童を異性交際の相手方となるように誘引し、又は人を児童との異性交際の相手方となるように誘引すること。
法律の名称から分かるとおり、いわゆる出会い系サイトに限らずインターネットを利用した異性交際マッチングサービス全般に上記の罰則が適用されます。
禁止に違反したときの罰則は、100万円以下の罰金です。
(4)出会い系サイト以外で知り合った児童と援助交際をした場合
知り合ったきっかけを問わず、児童と援助交際をした場合は児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春罪)となり得ます。
援助交際が立証されなくても、18歳未満の児童と性的な行為をした場合、各都道府県の青少年保護育成条例違反となる可能性があります。
罰則は都道府県によって異なる場合もありますが、おおむね2年以下の懲役または100万円以下の罰金とされているところが多いといえます。
4、こんな場合も児童買春で逮捕されることがある
児童と援助交際をした場合は、通常児童買春をしたという自覚があるものですが、場合によっては、児童買春をしたつもりがなくても突然逮捕されることがあります。
以下のような場合は要注意です。
(1)相手が18歳未満だと知らなかった場合
児童買春罪は故意がなければ成立しません。
つまり、本当に相手が18歳未満であることを知らなかった場合は、理論的には無罪となります。
ただし、実際に逮捕された場合はこの言い訳はなかなか通用しないこともあります。
「もしかしたら18歳未満かもしれない」という認識があれば「未必の故意」が認定され、故意があることになるからです。
たとえ相手が「18歳以上だ」と嘘をついた場合でも、疑わしいと思う客観的な状況がある場合には、未必の故意が認定されてしまう可能性があります。
(2)食事をおごって性交した場合
児童買春とは、対償を供与して児童と性交等を行うことです。
ここにいう「対償」はお金に限らず、その他の利益も含まれます。
食事をおごることも利益の提供に該当するので、児童買春罪が成立する可能性はあります。
ただし、利益を与える見返りに性交等をするという対価関係がなければ児童買春罪は成立しません。
したがって、最初は食事をおごって会話をするだけの目的で会ったところ、意気投合して性交等に至ったような場合は児童買春罪にはあたらないのです。
もっとも、当初は会話するだけの目的であったという主張が認められるかどうかは、それ以前のやりとりや当日の行動状況などから判断されることになりますので、このように言っておけば児童買春罪にはあたらないということではありません。
なお、逮捕されたときの対処法は、後で詳しくご説明します。
(3)真剣に交際しているつもりだった場合
出会い系サイトの援助交際がきっかけで知り合った相手であっても、何度か会っているうちに恋愛感情が芽生えて真剣な交際に発展することもあるでしょう。
しかし、相手が18歳未満であれば援助交際を行った時点で児童買春が成立しているため現在真剣な交際をしているからといって、過去の児童買春がなくなるわけではありません。
たしかに真剣な交際であれば青少年保護育成条例違反にはなりませんが、真剣な交際と認められるのはお互いに結婚を意識するほど本格的に交際しているような場合です。
既に相手のご両親にも紹介済みといった事情などがあれば真剣な交際と認められやすいでしょうが、そのような事情がある方はごく稀でしょう。
5、児童買春してしまったときは自首すべきか?
明らかに18歳未満の児童と買春してしまった場合でも、捜査機関に発覚するのは氷山の一角だとも言われています。
そのため自首すべきかどうかは悩ましいところです。
前科や余罪がなければ、児童買春1回でいきなり実刑になることはなかなか考えがたいので、しばらく様子を見るという選択肢も間違いとは言えません。
ただ、自首をすると刑事裁判で刑が法律上減軽される可能性が生じます。
検察官からも反省の色が深く、再犯のおそれがないと判断してもらえて、起訴されずに刑事裁判を回避できる可能性も出てくるかもしれません。したがって、悩むくらいなら自首するという判断もあり得ます。
6、児童買春で逮捕されたときの対処法
では、児童買春で逮捕されてしまったときにはどう対処すればいいのかをご説明します。
(1)否認は貫く
まず、否認する事実がある場合は否認を貫くことが非常に重要です。
「18歳未満だとは知らなかった」
「食事する約束で会っただけで、援助交際などしていない」
など、さまざまな否認したい事実があると思います。
否認していると取調官も厳しく追及してきますが、屈してはいけません。
日本では、いったん起訴されると有罪率は99.9%と言われています。
取調官はこちらの言い分を聞いてくれないから裁判で本当のことを話そうと思っても、自白調書があるとその自白を覆すことは非常に難しいのです。
(2)被害者側と示談する
事実を認めている場合は、被害者側と示談することが重要です。
児童ポルノ禁止法は被害児童個人を保護するためだけの法律ではないため、正確には傷害事件や詐欺事件でいう「被害者」と異なりますが、「当該児童に悪いことをさせたことを相手の親など保護者に謝罪して、示談することです。
示談することで反省の態度を捜査機関や裁判所に示すことができます。
これらの事情によって、刑罰を軽くしたり起訴を避けることができる可能性が高まります。
(3)少しでも早く弁護士を呼ぶ
否認を貫くにしても、示談するにしても、逮捕されてしまうと一人で対応するのは大変です。
逮捕されると、すぐには家族とは面会することができず、連日取り調べを受けることになることが多いといえます。
この間に孤独感や不安感にさいなまれる上に、取調官からの圧力に屈して自白してしまうケースがとても多いのです。
しかし、逮捕中でも弁護士を呼ぶことはできます。
少しでも早く弁護士を呼んで、取り調べに対するアドバイスを受けることが大切です。
また、弁護士に依頼すれば示談交渉も弁護士が代わりに進めてくれます。
早期に示談することによって釈放される可能性も高まります。
まとめ
近年はパソコンに加えてスマホも普及し、出会い系サイトだけでなくSNSやマッチングアプリなどを利用して、異性と出会う機会が増えています。
それだけに、児童を買春してしまうリスクも増しています。
児童買春をしてしまったときは、逮捕やその後の刑事手続きもさることながら、会社や学校はどうなるのかなど、さまざまなことが心配になることでしょう。
児童買春をしてしまい、心配であるという方や、もしかしたら児童買春をしてしまったのではないかと不安になっている方は、弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。